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ネコミミ師匠とお弟子さん(第3回/全3回)

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ネコミミ師匠とお弟子さん(第3回/全3回)

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5章 「運の要素」


 3回裏が終わり、点差は1−0で変わらず。
 ゴビニャーはアルメリアからスポーツドリンクをもらい、礼を言って一口もらっていた。彼はタイタンズ側のSPは控えが少ない分後半厳しいだろうと予想している。
「……なんだか勉強してきたルールとずいぶん違う気がするけれど、パラ実の野球ってこんな感じなのね」
「しかし、血の気が多いのはこちらのようですにゃ」
 戻ってきた選手にタオルを渡しつつ、アルメリアは隙があればゴビニャーをモフモフしていた。ゴビニャーは自分のチームが乱闘をしかけても止めない。元々そういうルールだし、数で勝っているからと情けをかけるのは武人として許せないからだ。
「危なくなったら守ってくれるわよね、ゴビニャーちゃん?」
「勿論ですにゃ。でも、私が出なくても十分でしょうにゃ」
 上目遣いで目を潤ませるアルメリアに微笑みかけると、選手のスコアを見せてくれるよう頼む。アルメリアが用意している間、野球見物をしている道明寺 玲(どうみょうじ・れい)イルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)に試合の感想を聞いた。
「えらい、激しい試合どすなぁ。折角のクロムツのひらきが残念ですわ」
 イルマは口では残念がっているが、そのうちの1枚をいそいそと焼いて美味しそうに食べながら観戦していた。反対に玲は嫌なことでもあったのか、むっすりとして緑茶をすすっている。
「道明寺君、スポーツで汗を流すのもいいものですにゃ。よければ……」
「いえ、乱闘があれば調停に……その位にしておきますかな」
 本当はチャンスがあればモフりたいと考えているが、思っていたより真面目な成り行きになってしまったため衛生兵に落ち着くことにした。今のところはすりむいた人の手当が中心である。
「体力自信ないどすしなぁ。……ジャジャーン! はぁ、この一時がたまりませんわぁ」
「あっ、おいしそう」
「チアガールさんどすな。おひとつ、いかがでっしゃろ」
 アンスコを家に忘れてしまったらしく、際どいチアガール衣装の沙幸がイルマのお弁当をひょいっとのぞきこんだ。プリーツスカートからは、時々ちらりと水色のしましまパンツがのぞいている。
「じゃ、ミートボールもらおっかな。……はあ、今日アンスコ家に忘れてきちゃった。でも、華麗なアクロバティックでみんなを魅了しちゃうんだもん!!」
「それは素敵どすなぁ」
 沙幸はアルメリアに手を振りつつ、ゴビニャーにするすると近づいて行った。な、何か嫌な気がするですにゃ……。もらったクロムツを食べながら、冷汗がぽたり。
「ゴビニャー師匠に着てもらうために、チア服2つ持ってきたんだよ! 本当は並木を応援してるんでしょ?」
「わ、私が着るのはおかしいですにゃ!」
「最近は男の人だってチアリーディングに参加してるから大丈夫だよっ。ゴビニャー師匠が自ら着てくれないんだったら、もふもふついでに無理やり着させちゃうんだもん」
 玲の眉がぴくりと反応した。
 ……モフるチャンスか!?
「それがしも、助太刀させてもらいますかな」
「チア服姿のゴビニャー師匠もきっとかわいいんだろうなぁ……」
 正悟から渡されたネコミミを、ワンポイントアイテムとして自分の頭につけてみる。うん、雰囲気でてるかも! 玲とイルマの頭にも付けてみた。この娘、ノリノリである。

「監督、スコアの準備ができましたわ……って」
 そこでアルメリアが見たのは、面白がってチア服を着せようとして追い回す沙幸、玲、イルマと、必死で逃げる監督の姿だった。試合中に木の上に逃げるわけにもいかず、追い詰められそうになったゴビニャーは退路を得るため威嚇で秘儀・肉球パンチの構えをした。
「ゴビニャーちゃん! 落ち着いて、話せばきっとわかりあえるわ!!」
「アルメリア君の頼みでも聞けないことがありますにゃーっ」
 アルメリアが止めたのはパニックになっているゴビニャーが肉球パンチを出そうとした方向がグラウンドだからだ。このまま打てば、ライト・レフトを直撃してしまう……。
「さー、観念してもらいまひょか」
「モフモフしちゃうんだもん♪」
 イルマと沙幸に追い詰められ、目を渦巻き状にさせたゴビニャーはテヤァーと特大の肉球パンチをグラウンドめがけてはなってしまった。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 4回表、得点は変わらず1−0。
 状況はストライク無し、1ボール、1アウト。2塁にガイウスが出ている。バッターは百合園で野球部のキャプテンをやっているミューレリアで、ピッチャーは白百合会所属の葵だ。2人とも超感覚でネコミミを出している。夢のネコミミお嬢様対決である。
「んー、なんだかルール違う気がするけど……みんな何も言わないから正しいのかな?」
「パーティのはじまりだぜ!」
 両者ともにサイコキネシスが使用可能なため、相殺されて実力勝負になっている。葵がちらりとイングリットを見ると、サードにいる彼女はメロンパンをかじりながら球の動きを観察していた。
「球飛んでこないにゃー、イングリット退屈〜☆」
 チョウチョを追いかけまわし始め、自由にふるまっている。ユニフォームにはなぜか水着を着用し、お腹がすいたら帰る気満々である。

 一方、肉球側の観客席にいた皆川 陽(みなかわ・よう)はファーストにいるテディを応援しつつ、視線はライトに行きがちだ。巽がかぶっている地球のマスコット怒荒の存在がとても気になる。
「蒼い空から――じゃなかった、危ない危ない喋っちゃダメなんだった」
 動物の頭を模した頭部にふざけた表情、見ていると殴りたくなってくるその様子は愛くるしいとはほど遠い。実際に乱闘に巻き込まれて格好の餌食にされているのを多くの観客が見ていた。
「自分もあんなふうに、楽しく過ごせるようになれるのかなぁ……」
 並木はパラミタに来たことを後悔していないどころか、説明を受けた上でパラ実に入学してしまった。彼女に限らず、地球人の多くは楽しく試合をしているようだ。
「あのライトの人、よくあんなに殴られて立っていられるなぁ」
 亜細亜王の異名を持つマスコットの頭部をかぶりつつ、巽は試合前にアクロバティックなファンサービスを忘れなかった。視界が悪いためまったく試合では役に立っていなかったが、バッティング前にわきの下をかく、無意味に体育座りをするなどの意味不明な行動をしていた。存在自体が「先の先」の怒荒、顔で笑って心で泣くのがヒーローってもんよ。


「もう、いい加減にするですにゃー!!!」


 突然近くから大きな声がしたため陽が振り向くと、追いかけまわされパニックになったゴビニャーが肉球パンチをグラウンドに放とうとしている! レフトの音子、ライトの巽が危ないと判断した陽は、必死に身振り手振りで危険を知らせようとした。
「あ、危ないですよー!! 避けてくださいー!」
 だぼだぼとユニフォームを着ていた音子は師匠の異変に気付いたようだ。慌てて避難の態勢に入っている。対して巽は陽を自分のファンだと勘違いし、愛想良く両手を振っておしりのしっぽをプリプリさせていた。

 ミューレリアは奈落の鉄鎖でボールをもぎとり、葵はヒプノシスでガイウスを眠らせアウトを1つとっていた。ストライク無し、2ボール、2アウト。
 イングリットは葵から投げられたボールを素早くキャッチした後、ボールをかじってそのまずさに機嫌を損ねてしまったらしい。
「ぺっぺっ、まずいにゃ! イングリット、あきたにゃ〜」
「ねぇ、グリちゃん。ルール知ってる……?」
 そういって現在は観客席に戻り、ジェラートを食べている。サードにはにゃんくまが入り、のんびりしている。
「姫やんが見てる……ぜったーいに、ヒットを打つんだぜ!!」
「ここからはどんどん三振にしちゃうんだから!!」
 お互いに威圧しあい、火花が散りそうな勢いで視線を絡ませる。
 えぐるような変化球はアルティマ・トゥーレの効果で氷の粒をまとい、キャッチャーミットに吸い込まれるように向かっている。対してミューレリアは轟雷閃を混ぜて迎え撃ち、ライトめがけてヒットを飛ばした。
「足には自信があるぜ!」
 バーストダッシュでファーストに向かって走り出そうとすると、肉球側のスタンドからものすごい風が吹いてきた。ゴビニャーがはなった肉球パンチだ。ライトゴロの処理をしていた巽は肉球パンチに運悪くぶつかり、頭部を抑えつつショートの向かってギャグ漫画のように飛んでいく。
「ヨメに格好良いとこを見せるし!」
 ミューレリアはあっけにとられて動けない。
「オーライオーライ!!! 女王よ、我に力をー!!!」
 騎士として、もてる守護の力をすべて駆使して一塁を守り抜く。それがテディの意気込みだった。元々ラフプレー狙いを想定して志願したポジション、ファランクスで防御体制を整え、ボールをミットにおさめた巽を捕獲する態勢に入る。
「あのボール持ってる人、彗星みたいだ……」
 アルティマ・トゥーレ、轟雷閃、肉球パンチの威力を受けた白球はパチパチと火花をまといそれ自体が魔法効果の塊になっている。当然それをにぎっている怒荒も無事である理由がなく、ボールとともに火の玉状態になりファーストに向かって流星の如く光の尾を引いている。
「テディー!!!」
「ヨメー!! 結婚してくれー!!」
 怒荒の顔は……微笑んでいる! 微笑んでらっしゃる!!!
 危険を感じたミューレリアは衝突時の爆発に飲み込まれないよう、仲間たちの声で正気を取り戻し慌てて避難を始める……。


 3


 2


 1




 そして、赤い流星が1塁に届く瞬間、世界は暴力的な白に包まれた。




 思わず目をつぶった葵が恐る恐る目を開けると、そこにはボールを1塁に当てているテディの姿があった。ユニフォームは焼け焦げ、左腕は衝突の余波により完全に骨折。ありえない方向を向いていた。
「と、取ったし!!」
 生きているのが不思議なほどのこの惨状で、テディは陽に向けておれていない右手でブイサインを作る。
「僕はこんなふうにオマエもしっかり守るぞー! パラミタ生活は楽しいだろ? 結婚してくれー!」
 古王国時代に戦死した人の魂が自分との契約で現代に甦ったという存在のテディを、陽は常日頃から変わった考え方の持ち主だと認識している。しかし、彼の勇気が肉球愚連隊の危機を救ったのことに違いはないだろう。
 3アウト、チェンジ。1−0。