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ネコミミ師匠とお弟子さん(第3回/全3回)

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ネコミミ師匠とお弟子さん(第3回/全3回)

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9章 ネコミミ師匠とお弟子さん


 9回表、1−2で肉球側が有利。
「がんばれ! 朔ッチにスカサハ! フレフレ♪ ぐ・れ・ん隊!」
 ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)の明るい声はもちろんマウンドにも届いている。ただ、朔の表情は重い。ベンチに座っている並木の方をじっと見つめ、並木の方もその視線に気づいて顔を向ける。
「……力を持たぬ信念など、私は認めはしない。貴方が私に勝たない限り……私はあなたを否定します」
 その小さなつぶやきが聞こえたのか、レキはわざと明るく冷やしたおしぼりを朔に渡した。レキの場合、ゴビニャーの傍にいたかったための参加であるが真面目にマネージャー業をこなしている。
「……ありがとう」
「他に必要な物とか、何かして欲しい事があったら言ってね?」
 少し心配になったレキは朔の様子がおかしなことを、念のためゴビニャーに報告にいった。
「監督、ちょっといいアル?」
 チムチムは尼崎 里也(あまがさき・りや)に写真を撮られながらも、ゴビニャーに攻守切り替え時にデータを見せて最後の作戦を練っていた。しかしレキの姿が見えるといったんその作業を止め、彼女の話を聞いてもらう。
「朔君ですにゃ?」
「うん、少し心配……」
 ある程度見当がついていたためゴビニャーから言うことは何もなかった。自分が言っても仕方のないことだろうし、好きにすればいい。
「ところでゴビニャーさん、肉球マッサージとかいらない?」
「い、いや。遠慮しておきますにゃ。……それより、選手の皆を応援してほしいですにゃ。チムチム君もありがとうにゃ。あとはみんなの頑張りにお任せですにゃ」
「最後まで付き合うアルよ。あっちで朔さん達を応援するアル」
 チムチムはずんぐりとした体をベンチから浮かせると、大きな肉球でレキ腰のあたりをぽんと叩いた。傍にいたチムチムはゴビニャーが並木を気にしていることも、ちゃんと知っていたのだ。
 どちらが勝っても、難しいアルか……?
「さ〜て、皆、元気に楽しくやっていこ〜!」
「加速ブースターでどんな球でも絶対キャッチであります!」
 応援係兼肉球愚連隊専属の回復役を買って出たブラッドクロスの声はスカサハにも届いていた。応援してくれる人々に、太陽のような笑顔を向けて大きく手を振っている。里也は試合よりも可愛いものをとるのに夢中だが、ブラッドクロスに腕をひかれてマウンドの光景をカメラにおさめはじめた。

 並木は、朔が向けてくる敵意、感情がいまいち理解できなかった。彼女が弟子入りを希望する理由もゴビニャーからは聞いていないし、アクションスターを目指す彼女には格闘技が勝敗を決める手段ではないからだ。超感覚でかろうじて聞き取れたのは『勝ち』という言葉だから、前回同様勝負を申し込まれたのだろう。
「なんか普通の野球と違うみたいだけど、楽しめたら勝ちよね」
 救護テントから往診にきたフォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)は大胆な胸元を見せつけるようにして、けが人の治療をしていた。水色の半そでのブラウス、タイトスカートで体のラインを惜しげもなく披露している。
「この暑い時によくやるよな〜。それももう終わりかと思うと、名残惜しい気がするから不思議だよな」
「夏の風物詩ですからねえ、野球」
 灰色の半そでシャツに黒のジーンズをはいた神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は、白のTシャツに紺のジーンズを合せたレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)に熱中症対策のドリンクを手渡している。この暑さ、立っているだけでも辛いというのに。
「皆燃え尽きて、屍累々だ」
 レイスが言ったとおり両陣営とも体力が限界に近づいていた。自身をうちわであおぎながら、タオルを首にかけて涼をとる。冷やしたタオルが気持ちいい。汗の上を風が通り抜けた。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 9回表、1−2。1アウト、出塁なし。
「あの時、私に勝てなかった貴方に……貫けるか、見せてもらいますよ、姉弟子……」
 並木は指をぺろりとなめ、風がどこから来るかを確認していた。打席に立った時にかけられたピッチャーからの言葉が耳に届くと怪訝な顔をする。
「自分は、そうやって勝負にこだわる考え方は嫌いです。負けても勝っても自分に酔うから」
「あなたの持っている信念には敬意を表しますが……だからといって、私は認めません」
「タイタンズの1人として、勝負は受けます……が、その前に」
「?」
 朔の本気がこれ以上ないくらい伝わると、並木は踵を返して自陣に戻って行った。……忘れものか? と首を傾げた佐久だが、並木が何かを伝えるとチームのメンバーは次々と補助魔法をかけた。
「なっ……! 姉弟子!?」
「だって、ずるいじゃないですか!! 自分が魔法を使えないことは鬼崎さんも知っているでしょう。便利アイテムだって持ってませんし、あなたが考えているほど自分は強くありません!!」
 パラミタに来たばかりの並木なら、むきになって素の実力で挑んだだろう。だが、パラ実に入学して彼女は変わったのだ。良くも悪くも。
「野望を胸に抱いて生きるか、夢を捨て堅実に生きるか。それがパラ実生にとっての大きな問題、だそうです。今日の自分の野望はチームを勝利に導くことで、あなたに勝つことではない!」
「〜〜〜〜!!!!」
 補助魔法の効果か、スキルの効きが悪い。
 そうして並木は無難にセンター前ヒットを飛ばして出塁していった。


 そうして、試合が終わった。
 結果は1−2で肉球軍の勝利、土壇場での逆転劇はなかった。
「朔さん、ゴビニャーさんが呼んでたよ」
 レキの声に無言でうなずくと、朔はグローブを持ったままややふてくされた表情で向う。監督の近くでは千歳、ジーナ、チムチムたちがわっしょいわっしょいと胴上げをしている。朔に気づくとゴビニャーは席をはずし、少し離れた所で話を始めた。
「並木君が、弟子入り試験を合格したにゃ」
「……そう、そうですか」
 なんだ、その事か。と目線を反らす。つまらない話題だった。
「でも、辞退したにゃ」
「え」
 並木は球場にいる人々のおかげで弟子入り試験に合格し、自分がいつでも弟子になれる状態になって考えたのだ。弟子になって何が変わるのかなぁと。
 別に変わらなかった。
 通えば技は教えてくれるし、逆に自分が弟子になると弟子入り希望者が増え過ぎてあまりよくないかもしれない。だから、未練がないといえば嘘になるが辞退することにしたのだ。


「あーだーだーだーだー!!!」
 フォルトゥーナに消毒してもらっていた並木は、涙目になっている。擦り傷に絆創膏を貼ってもらい、翡翠にもらったレモンの蜂蜜漬けを美味しそうに食べていた。
「皆さん、よく頑張りましたね。……並木さん、良かったのですか」
 翡翠の問いに、申し訳なさそうな笑顔を浮かべてこくりと頷く。
「お騒がせしてばかりで申し訳ないんですが、手段と目的がごっちゃになってたかなぁ……って、試合をしてたら思いはじめて」
「ほう」
 後片付けをしながら相槌を打ってくれたので、並木はもう少し喋った。
「師匠は、弟子入りしなくてもパラミタにいて良いと言ってくれました。パラミタの勉強をして種族の知識も付いたし、学校にも通うならいいんじゃないかと」
「おーい、集合写真撮るらしいぞ。さっさと集まれー。あ、遠慮したがる奴とか無しなー!!」
 レイスに呼ばれてマウンドを見ると、たくさんの人々がすでに集まっている。並木は自分もその中に入ろうと、師匠からもらったバットを持って慌てて走った。


おしまい

担当マスターより

▼担当マスター

相馬 円

▼マスターコメント

ご参加ありがとうございます、相馬円(そうま・えん)です。
最後なので思いっきり書かせていただきました。

ほのぼのと言われやすい自分がパラ実を扱っていいものかと考えた時もありましたが、本当に楽しかったです。
肉球愚連隊、などチームに称号を出すことも考えましたがやめました。
出さない方が気持ちのいいラストだと判断し、今回は称号0です。

試合時にスキル使用例をたくさん書いてくださった方が多かったのですが、
SPには限りがあるため1つの目的をスキルで達成可能にした方が相馬はいいのではと思いました。
(パワー重視・ドラゴンアーツで怪力キャラ など)
たくさんスキルがあると一見無敵のように見えますが、
スキルの数で判断すると後半はレベル・SPが高いキャラの方がアクションでぶつかった際に有利になりやすいのです。
アクション執筆時の参考にして頂ければと思います。

シリーズに最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!!!

【追記】
ご指摘いただいた部分を修正させていただきました。

◆次回予告
8月13日(金)
【空京百貨店】書籍・家具フロア

8月29日(日)
どきどきっ、サマーパーティー(仮)