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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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第14章 「でるた2」に向けて

 イベントは終了した。
 運営委員たちは、崩壊した会場の後片づけを行っている。
 委員も、一般参加者たちも、海人のつくりだした「光の壁」に守られていたため、無傷の状態であった。
「ああ、いろいろあったけど、とてもスリリングな体験をできました。委員のみなさん、お疲れさまです!」
 一般参加者たちは、無傷だったためか、イベントで味わった危険を「いい思い出」と感じることができ、また、超能力体験によって自分の「力」が呼び起こされたことにも満足して、意気揚々と帰っていく。
「はあ。全く。あともうちょっとで死ぬと思ったよ。さんざんだったな」
 委員たちは、ブツブツいいながら瓦礫を片付けている。
 ランディたちの仕掛けた爆薬によって、会場は完膚なきまでに破壊されていたのである。
 人的損害が出なかったのは、まさに奇跡であった。
 そして、奇跡を呼び起こした張本人は、車椅子の中で、ぐったりとしていた。
「大変! すごい汗です」
 火村加夜はうめき声をあげる海人の額に浮かぶ大粒の汗を、急いで拭きとっていた。
「熱があるね。相当強い『力』を使ったようだよ」
 山田桃太郎は、水を汲んできて、タオルを絞り、海人の身体にあてがおうとする。
 と、そこに。
 学院上層部から派遣されたとおぼしき、装甲車が走り寄ってきた。
 ゴゴゴゴゴ
 装甲車の後部の扉が開き、学院上層部派遣の世話役たちが現れる。
「あなたたちは! 海人さんをどうするつもりですか?」
 火村は、本能的に海人をかばうような姿勢になった。
「どうするって、急いで救急処置をとるのだ。今回のイベントで、上層部は彼の価値を確認することができたからな」
 上層部派遣の世話役たちは、火村を押しのけて、海人の車椅子を押し始める。
「やめて下さい!」
 抗議する火村を、山田が止めた。
「大丈夫だよ。少なくとも、学院は海人を治療することができるんだ。僕たちがここでいくら応急処置をやったって、しょうがないよ」
 山田の言葉に、火村も同意せざるをえない。
「わかればよろしい。今回はいろいろ大変だったと思うが、ご苦労だった」
 上から目線でしゃべりながら、学院上層部からの世話役たちは、海人を装甲車の内部に収容する。
 装甲車の中には、最新の医療設備のほか、強化人間の調整に使われる機材もみえた。
「海人さんは、どうなるんですか?」
 火村は尋ねた。
「どうなるって、Xは、機密中の機密なんだ。今回のイベントでは特別に公開されたが、彼の価値を再確認できたからには、今後は、研究スタッフに引き渡して、厳重な管理下に置かれることになる。君たち一般の生徒と接触する機会は、ほとんどないだろうな。まあ、彼の扱いについては、新しく赴任する校長が正式な決定を出すが、いまいったのとたいして変わらない内容だろう」
 上層部の世話役たちは、どこか嘲るような口調だった。
「海人さんから、完全に自由を奪うというんですか? それに、海人さんはもうXではありません! 本当の名前を思い出したんです!」
 火村は、ムキになっている自分を抑えることができない。
「だから、機密中の機密だし、この身体だから、しょうがないだろう。あと、彼の本当の名前については、おそらく上層部は知っていたはずだ。それを承知でXと呼んでいたんだから、今後も学院は彼をXと呼ぶだろう。まあ、サンプルらしくていいんじゃないか」
「……!」
 あまりの言い方に、火村は言葉を失った。
「そう、怒るな。実は上層部は、今回のイベントで、扱いにくい彼の『真価』を見極めて、使えないと判断したときは、『処分』も考えていたのだ。それが、あのサイコ粒子の使い方をみて、変わったのだ。正直、我々も、とっさに粒子のあのような使い方を考案し、実行に移した彼の能力を認めないわけにはいかない。何といっても、粒子の運用にあらたな道を切り開いたのだからな! 彼を少々みくびっていた点は、素直に反省するよ」
「そんな……処分って……そんな扱い方をするんですか」
 上層部の世話役たちから恐るべき真実を聞かされ、火村のショックは深まるばかりだった。
 そんな火村の肩を、山田が叩く。
 山田のいうとおり、いまは、海人の身体を回復させることが先決なはず。
 そう考え、火村は海人を見送る決心をした。
「海人さん、身体に気をつけて。お元気で」
 火村は、装甲車の内部の海人に手を振る。
「待って。海人さんのおかげで、人的被害は最小に抑えられたわ。そのことを学院上層部によくいっておいて欲しいわ」
 真里亜・ドレイクがいった。
「もちろんだ。上層部は、あえて救援を遅らせ、彼の『力』の発現を待った甲斐があったと考えている。察するに、彼の『力』は防御向きだな」
 上層部の世話役たちは笑って、海人を収容した装甲車の後部の扉を閉じた。
「おい、いま、とんでもないこといわなかったか?」
 運営委員の誰かがいった。
 いよいよ、装甲車が出発するというとき。
(……けろ)
(え?)
 火村の脳裏に、海人の言葉が途切れ途切れに届いた。
(疲れた身体で、精神感応を行っているんですか? 何をいいたいんです?)
 火村は、感応で伝わってくる海人の言葉を、慎重に読み取る。
(新しい、校長に、気を、つけろ。みんなに……伝えて……)
(新しい校長に気をつける? どうしてですか?)
 だが、海人の言葉はもう聞こえてこない。
「みんな、海人さんがいま、新しい校長に気をつけろって!」
 火村は、他の委員たちに伝える。
「うん? どうして? それより、海人をちゃんと見送ろうぜ!」
 他の委員たちは、火村の言葉を流して、装甲車に手を振る。
「海人ー! がんばれー! しっかり身体を回復させて、また元気な姿をみせてくれよ!」
 火村も、慌てて手を振った。
「海人さん! あなたに呼び起こされた『力』! 大事に使います!」
 火村たちは、走り去って行く装甲車をいつまでも見送っていた。

 そして。
 海人が搬送された後も、学院上層部の装甲車が次々にやってきた。
「何だ、何だ?」
 運営委員たちは怪訝な顔をしている。
「ああ、今回はご苦労だった。瓦礫の片付けは我々が行うので、君たちは帰ってもいい」
「えっ? そうなの?」
 委員たちは、ぽかんとしている。
「実をいうと、我々の手で、瓦礫の中に散らばるサイコ粒子を大至急回収したいのだ。さあ、早くどいてくれたまえ」
 上層部からの兵たちは、手で追い払うような仕草をする。
「何だよ、邪魔だってのかよ!?」
 ブツブツいいながら撤退する委員たち。
「さて、KAORIも回収するとしよう。だいぶ傷ついたようだからな」
 会場の外に運び出されていた黒焦げのKAORIも、上層部の兵たちによって搬送されていく。
「待ってくれ!」
 月夜見望が駆け寄ってきた。
「頼む! 俺たちにKAORIを修復させてくれないか?」
「ダメだ。今回の件で、上層部はKAORIに関心を持っている。持ち帰って、万全の態勢で修復を行うから、心配する必要はない」
「そうか。KAORIが直るなら、文句はない」
 月夜見は、どこか落胆していう。
「今回の件で、上層部は、性欲が『力』を強く引き出すきっかけになりうるという事実を確認した。今後、美少女型の機体も開発されることになる。KAORI、正確にはKAORIの優れたプログラムが、その開発で重要な役割を果たすだろう」
 兵たちは、月夜見を励ますつもりでいったようだ。
 だが、月夜見はどこかに不安を感じた。
「美少女型の機体? そんなのをどう運用するつもりだ? 性欲だって? 何をいってるんだ?」
 月夜見たちは、KAORIを仲間というよりモノとして扱う学院上層部の扱いには、苛立ちを隠せなかった。

 装甲車は、イベントから帰ろうとする一般参加者たちの脇にも停車していく。
「よし、今回、マークしといた者たちを何人か連れていこう」
 上層部からの兵たちが、装甲部から降り、一般参加者の中で、特に注目すべき素材と考えられた者に近寄っていく。
「ちょっと待ってくれ! 他校生にまで何をするつもりだ!」
 アンナ・ドローニン(あんな・どろーにん)が、兵たちに絡む。
「大丈夫だ。ただ、スカウトについて説明するだけだ」
 兵たちはいうが、アンナは納得しない。
「そういうのは、この学院の生徒だけにしとけよ! ただイベントを楽しみにきた他校生にまで手を出す必要はない! どうしてもというなら、力ずくでも止めてみせるぜ!」
 アンナは、激しい怒りを燃え上がらせていた。
「アンナ、ここにいたんだね。なるほど。僕も加勢するよ!」
 アンナをみて駆け寄ってきた山田桃太郎も、兵たちを睨みつける。
「やれやれ。学院所属の強化人間を傷つけるわけにはいかないな。そんなことをすれば、上層部をかえって怒らせてしまう。わかった。他校生はやめておこう」
 兵たちは、他校生の「スカウト」をやめて、撤退していく。

「ああ、全く、KAORIや海人に出会えたのはよかったけど、このイベント、俺たち運営委員は学院上層部に利用されちゃってるよ」
 イベント会場から撤収しながら、運営委員は口々に不平を述べる。
「KAORIも海人も、大丈夫かな? 上層部の扱い方ときたら、モノとしかいいようがないよな」
 イベントの運営を通じて「仲間」という認識を持った、KAORIと海人の行く末を、委員たちは案じないわけにはいかなかった。
「やあ、よくやってくれたな」
 学院の教官たちが、帰ろうとする委員たちをねぎらう。
「先生! 上層部には不満しか感じませんでしたよ!」
 委員たちは、教官たちに詰め寄った。
「そう怒るな。いい知らせもある。今回、思ったよりいいデータがとれたので、近いうちに『でるた2』も開催されるそうだ」
 教官たちは、笑顔でいった。
「はあ!?」
 委員たちは、顔を見合わせた。
「1が終わったばかりなのに、2をやるっていわれても、そういう気持ちじゃないよ」
 委員たちは戸惑っていたが、やがて、誰かがいった。
「でも、2があるってことは、もしかしたら、またKAORIや海人に会えるのかもしれないな」
「そうか、そうだな! 急に希望がわいてきたぞ!」
 委員たちは、少し元気になった。
「よし、2があるなら、完全に上層部を排除して、俺たちだけでやっていきたいぜ!」
 そんなことは無理なのだが、生徒たちは互いに肩を組んで、夜空に向かってエイエイオーと、気合をあげる。
 まさに、青春の一幕であった。

 そして。
 後日判明することだが、「でるた1」に参加した運営委員、あるいは一般参加者の全員が、その日、程度の差はあれ、「力」に覚醒していたのである!
 既に覚醒していた者もいたのは事実だが、大半は当時未覚醒だったのだから、これは大きな成果であった。
 一部では、この一斉覚醒現象と、強化人間「海人」がつくりだして、生徒たちに密着させた「光の壁」との関係が議論されたが、一般の人が知ることはなかったということである。

担当マスターより

▼担当マスター

いたちゆうじ

▼マスターコメント

 みなさん、ようやく書き上がりましたが、いかがでしょうか? 今回は、私事でいろいろありましたが、根性で間に合わせようとがんばりました。

 今回は、強化人間Xとの精神感応体験を希望する人が多く、予想以上の反響にリアクションの内容も当初想定していたものとだいぶ変わったように思います。

 また、サンプルアクションで例として紹介するのを忘れたにも関わらず、「Xの名前を考える」アクションが非常に多く、名前の案を全て紹介することはできませんでしたが、結果として「海人」という名前が採用されることになりました。
 リアクションをお読みになればわかるとおり、新しく名前をつけられたのではなく、Xの本来の名前が「海人」だったということになっています。
 まだ名字がありませんが、海人が再登場する機会があれば、本来の名字を思い出せるかもしれません。

 KAORIについては、パンツを巡る攻防がだいぶ熱かったように思います(笑)。

 なお、今回参加者にプレゼントされます、サイオニック(超能力者)クラスチェンジアイテムについては、リアクション公開後、2週間程度で配布されます。楽しみにお待ち下さい。

 今後も、天御柱学院関係のシナリオをやりたいと思っていますが、パラ実も好きなので、天御柱学院とパラ実の熱い絡みを実現できたらいいなと思っています。

 それでは、参加して頂いたみなさん、どうもありがとうございました。