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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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【学校紹介】超能力体験イベント「でるた1」の謎

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第7章 果てしなき行列

「うおおー! 海だ、海がみえたー!」
「Xの声を確かに聞いたぜ! 何いってんのかわかんなかったけど、奴はただ者じゃないぜ!」
 強化人間Xとの精神感応を体験した参加者たちから、口々に驚嘆の声があがっていた。
 体験者たちのほとんどが、Xを賞賛しながらも、彼の「意向」については全く理解できていなかったが、その「わからない」ということがかえって神秘的な魅力につながるのか、精神感応体験は大反響を呼び、Xの前にはずらっと行列ができた。
 運営委員たちは、事前に想定した以上の反響にやや驚きながらも、行列の誘導や警備の強化を手配するなど、対応に追われ始めた。
 待ち時間の長さに苦情も多く聞かれるようになったが、苦情に対応して待ち時間が短くなるということはなく、むしろ行列の長さに比例して待ち時間は長くばかりだった。
 そのような状況で、誰しも、「早くしろ」と苦情はいうものの、並ぶのをやめてほかに行くようなことはしない。そんなことは論外だからだ。
 人気が本物なので、運営委員も汗を流してがんばるしかなかった。
「みなさま。待ち時間が非常に長くなってしまい、大変申し訳ありません。迅速な誘導には努めますが、それでもかなりの拘束時間となりますので、その間、私のいれたお茶でもお飲み下さいませ」
 本郷翔(ほんごう・かける)は行列待ちの参加者たちに、お茶やお茶菓子を配り始めた。
「おーい、俺にもくれー! おい、早く!」
 待ちくたびれてイライラしたという口調で、中年の参加者が本郷に怒鳴りつける。
「ああ、少々お待ち下さい。えいっ」
 本郷は、ただの執事ではなく、超能力の技能も多少持っていたため、サイコキネシスで急須と湯のみを飛ばして、中年の参加者の目前でお茶を入れてみせる。
「おお。こいつはすまねえ。せかしてしまったな」
 ぽかんとした顔で礼をいう参加者。
「わー! すごい! 超感覚増幅器を使わなくても念動ができるなんて! さすが運営委員!」
 無人の給仕を目撃した周囲の参加者から、歓声があがる。
「いえいえ、それほどでは。みなさんも、このイベントで、眠れる『力』に是非目覚めて下さい」
 本郷は手を振って歓声に答える。
「本郷! 頼みがあるんだ」
 Xの側にいた、山田桃太郎が本郷に声をかける。
「はい。何でしょうか?」
「実は、Xの関係で委員のほとんどが動いてる状態になって、超能力講義をやる人がいなくなっちゃったんだ。誰か手の空いている人が突発でやる予定だったんだけど、みんな余裕がなくなっちゃった。よかったら、君が講義をやってくれないか。それも、Xのすぐ隣で。こっちに寄ってくる客を吸収して欲しいんだ」
「講義、ですか? 確かに『力』は多少ありますが、私はただの執事ですし、そのようなことは」
 本郷は辞退しようとしたが、山田以外の運営委員も頼みこんでくる。
「頼むわ。Xの人気が過熱して、何か騒ぎが起きたら、世話役である私たちも困るのよ。何かあっても人的被害は最小に抑えたいと思ってるんだけど、行列が伸び過ぎると、将棋倒しが起きたりして、人的被害につながると思うのよね」
 真里亜・ドレイクも本郷に頼んだ。
「もちろん、講義といったって、本格的な内容じゃなくてもいいんだ。あくまで代役ということで、『超能力トーク』みたいなのをしてくれればいい。他の委員はいろいろ抜けられない仕事があって、講義をするの、君がちょうどいいと思うんだよね」
 山田の説得に、力が入り始めた。
 山田も、世話役の一人として、人気が過熱したXの側を離れるわけにいかず、そうかといって、行列を緩和させる努力を何もしないわけにはいかないのだ。
「わかりました。あくまでも執事のお手伝いということで、余興的なトークをやらせて頂きます。ですが、少しお時間を頂いてもいいですか。あともう少しで行列の全員にお茶を入れ終わるんです」
 委員たちに頼みこまれれば、サポートを生業とする執事としては断りきれず、本郷は依頼にこたえることになった。
「悪いね。お茶を入れ終わったらすぐ、で頼むよ。君のことは学院の教官たちにもよくいっておくからね」
 山田たちは本郷に礼をいう。
「教官たちに? それは名誉なことですね。そうだ、X様にもお茶を入れましょう」
 本郷は肝心の人に給仕していなかったことを思い出し、精神感応中だったXの側のテーブルに、そっと湯のみを置いた。
 すると。
「……あ、ありが、とう」
 体験中だったにも関わらず、Xは本郷に礼を述べたのだった。

 そして。
 本郷の「超能力トーク」が始まった!
「さて、お集まりのみなさん、今日は、超能力体験イベント『でるた1』における運営委員の自主企画ということで、超能力について自由に語りたいと思います」
 本郷は、超能力についてこれまで見聞きしたこと、考えてきたことを語り始めた。これまで実際に出会った超能力者や、天御柱学院の生徒たちから聞いたこともまじえて話す。
 実演として、精神感応の行列の生徒にみせたように、サイコキネシスを使って、手を使わずに急須から湯のみにお茶を入れてみせると、観衆からおーっという声があがった。
 本郷のトークは、あくまで余興だったが、それなりに順調に進んでいく。
 そして。
「私の話は、こんなところです。どなたか質問はありませんか?」
 本郷が観衆に向かって尋ねたとき。
「ハ〜イ、質問!」
 立川るる(たちかわ・るる)が手を挙げた。
「どうぞ」
「えーと、超能力と魔法って、どう違うの? いくら考えてもわからないので、教えて下さい!」
 立川は問うた。
(むう。なかなか深い質問ですね)
 本郷は内心頭を抱えた。
 超能力と魔法の違いを説明するのは、なかなか難しいのだ。
 両者の違いがわかりにくいからではない。
 両者の原理には決定的に違いがあると思われるのだが、魔法の原理はわりとうまく説明できても、超能力の原理を説明するのは非常に難しいのだ。
 そもそも、超能力の「原理」というのはまだわかっていない。だからこそ、学院が研究している。
 だが、経験則として、超能力と魔法が「違う」ということははっきりいえるはずなのである。
 そして、さらに経験則から考えると、超能力の場合、「原理」があると考えること自体に問題があるように思われるのだ。
 以上のことを、イメージではわかっていても、なかなかうまく説明できるものではない。
 もしかしたら、強化人間Xならうまく説明できるかもしれない。
 だが、本郷には無理な課題だった。
 が、全く答えられないわけではないし、執事として、相手の要求に誠意をもってこたえる必要があった。
 そこで。
 本郷は答えた。
「難しい問題ですね。魔法も超能力も、原理は違うようですが、極限まで極めれば、両者の見分けはつかなくなります。そのため、両者は『似ている』と考える人が多いようですね。ですが、両者はやはり根本的な部分が違うように思われます。現段階では、超能力の原理についての研究はまだ始まったばかりで、詳しいことはわからない状態です。天御柱学院では、超能力のデータ収集に努めていると聞いています。ですが、いくらデータを分析しても、超能力が作用するうえでの法則性というものははっきりしないそうです。そもそも超能力に『法則』や『原理』というものはないのではないか、という意見も出ています」
 嘘はいっていないが、まさに知っている範囲での一般論的な説明に過ぎず、辺り障りのない内容だが、説明らしい説明にはなっていない回答だった。
 本郷としては、これが精一杯の回答であった。
「回答は以上です。よろしいですか?」
「うーん、わかったようなわからないような?」
 立川は目を白黒させている。
 本郷としては、自分の回答が、かえって立川を混乱させないよう祈るばかりであった。
「んーと、超能力は『精神によって物質を操作する』とか? それなら、魔法とたいして変わらないような気がするんだけどな〜?」
 立川は、やはり理解が進んでいなかった。
「確かに、外観は変わらないですね。ですが、魔法な得意な人、超能力が得意な人がいて、両方うまく使える人は少ないことを考えると、両者には何らかの違いがあると考えた方がよさそうです」
 本郷は、どうしようかと思いながらいう。
「そうか。うん。わかった、わかったー!」
 突然、立川は全てわかったような声を出す。
(えっ? いきなりわかったんですか? 本当に?)
 本郷は突っ込みたいのをこらえた。
「十分理解できたのですね。お役にたてて幸いです」
「うん。何だか、わかったという気がしたよ! ありがとう!」
 立川は礼をいった。
 そして。
 本郷がトークを終了して去った後、立川は首をかしげていた。
「あれ。さっきは何となくわかったような気がしたけど、よく考えたら、ちっともわからないや!」
 しかし、立川はめげない。
「考えれば考えるほど興味深いな! 超能力のこと、イベントで詳しく勉強して、るるも講義をできるようになってみたいな!」
 どこかはしゃいだ気分で、立川は会場内部の見学を続けるのであった。

 運営委員たちが、行列を解消し、あるいは緩和しようと努力するのと並行して、Xと一般参加者たちとの精神感応は次々に行われていく。
 こんなに大量に感応をこなして疲れひとつみせないのも、一面からみれば、Xが強い『力』を持っているからである。
 また、技量ばかりではなく、多種多様な人物と接しながら嫌な顔ひとつしないXには、もともとの人間性がかなり懐の深いものだったのではないかと思わせるものがあった。
「次は、僕の番です。よろしくお願いします」
 菅野葉月(すがの・はづき)は、何となく緊張しながらXの前に座った。
 Xは、車椅子に座り、虚ろな瞳を宙に向けている状態だったが、どこか、心の何もかもを見透かされるのではないかという不安を人に覚えさせるところがあった。
 強化人間たちの多くは、Xの近くにいると心が落ち着くと話すが、一般の人にとって、Xはどこか得体の知れないものを感じさせるのである。
 Xの瞳を覗き込んだ菅野は、たちまちのうちに深い海の底の光景の中に自分がいるのを感じた。
(ちょっと待ったー!)
 ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)の意識が、菅野とXとの感応に割り込んでくる。
(ミーナ、どうしたんですか?)
(精神感応だか何だかしらないけど、葉月がワタシ以外の誰かと深い心の交流をするなんて、見過ごせないよ!)
(何をいってるんですか。君は誰かれ構わず嫉妬するんですね)
 菅野は呆れた。
(念のためだよ。ワタシも感応体験する予定だったからね!)
(そうですか。では、ともに感じましょう)
 菅野とミーナは、ともにXの「声」に耳を澄ませようとした。
 だが、何も聞こえてこない。
(おや? 僕の持つ『力』では表面的な感応しかできないのでしょうか?)
 菅野が落胆しかかったとき。
(未来に潜む危険には、常に敏感でなければならない。人が人を傷つけるようなことには、特に警戒をするべきだ)
 Xの「声」が、菅野とミーナの意識に響き渡る。
(X! 危険とは、何ですか? 何に警戒すべきなのですか?)
 菅野は尋ねた。
(君たちの目の前にあるはずだ)
 それだけいって、Xの声は聞こえなくなった。
(もう、反応はないみたいです。目の前にあるはず、とは? ずいぶん謎めいてますね)
 菅野は戸惑った。
(いいよ。もう、感応は終わったということで、出よう! 心配していたようなことが起きなくてよかった!)
 ミーナは、ホッとしていた。
(ミーナ、いったいどんな事態を心配していたんですか?)
 菅野はミーナに問いながらも、内心はXの言葉の真意を考えていた。

「さて、次は自分が行かせて頂きます!」
 菅野とミーナがXの伝えようとした「警告」について話しながら去っていった後、比島真紀(ひしま・まき)がXの前に立った。
「よろしくお願いいたします!」
 敬礼して、比島は座った。
 比島がまっすぐな瞳をXにすえると同時に、感応が始まった。
 深い海の底を、比島は泳ぐように移動している。
(ここは? 潜水艦での実習で、このような光景をみたことはあるが)
 圧倒的な広がりを持った光景に衝撃を覚えながら、比島は進んでいく。
(戦争が避けられないものだとしても、戦場には最低限の規範をもうけていいはずだ。でなければ、戦争と呼ぶのもおこがましい、最低の行為がはびこることになる)
 Xの「声」が、深い波のように響き渡ってくる。
(Xよ。貴殿は、私のことを知っているのでありますか? いま貴殿のおっしゃったことには、自分も大筋において同意であります)
 比島は、素直に了承の意を伝えた。
(この学院で進められていることのいくつかは、やめさせなければならない。できれば、「奴」が来る前に)
 Xの言葉は続いている。
(いくつか、とは、具体的に何を指すのでありましょうか? 何が問題かはっきりしなければ、自分としても行動は起こせません。それと、「奴」とは、誰のことでありますか?)
 比島は尋ねるが、Xの言葉はもう終わってしまったようだ。
(答えて頂けないのですか? 自分で考えろと?)
(真紀。釈然としない様子だな)
 少し遅れて感応世界に入ってきたサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が、戸惑っている比島に語りかける。
(当然。雲をつかむように謎めかした口調でいわれても、正直、戸惑う。戦場における命令のように、至極具体的な言葉で話してもらいたいものだ)
(あくまでも体験実習なんだ。真面目に考えすぎるのはよくない。それに、このXって人は、みるからに文民だ。軍人の流儀では話せないだろうさ)
 サイモンは、諭すようにいう。
(しかし、サイモン。貴殿も彼のいうことはわからないのであろう? なら、何をいいたいか知りたいと思わないか?)
(ああ。わからないさ。だが、肝心なのは感応することだ。こうして感応の世界に入り、意味がわからなくても彼の言葉を聞けたなら、それだけでも俺たちの「力」が目覚めるきっかけになる)
 比島はサイモンのいうことはわかるものの、Xの真意を知りたいという気持ちはやむことがない。
(もちろん、感応を体験するだけで十分と考えていたが、彼の言葉の内容が、自分にとって気になる領域の問題を扱っているように思えたのだ)
(いまはわからなくても、おいおいわかるだろうさ。Xという奴の「真意」がな。奴の恐れていることは、残念ながら、現実になるだろうという気がする。いや、これは勘だがな)
 そういって、サイモンは比島に考察をいったん打ちきるよう促した。