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【借金返済への道】ホイップ奉仕中!

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第1章


 空京に出来た豪華ホテル『タノベホテル空京』。
 名前が微妙にダサイのは置いといて、このホテルではホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)がスタッフとして働くことが昨日決まったばかり。
 プレオープンは明日からだ。
 それまでは、ホイップも空京にある宿屋の自分の部屋で体を休めているようだ。
「明日は久しぶりのお仕事……頑張んなくちゃ!」
 気合いも入っている。
 その様子を部屋の外でたまたま聞いていた宿屋の青年主人グラン・リージュ。
「ホイップちゃんがお仕事……ですか……」
 何かを考えて、1階へと降りて行ったのだった。

■□■□■□■□■

 そんな昼下がりのタノベホテル空京の社長室には何人かが入れ換わり入って来ていた。
 タノベさんは社長室の執務机ではなく、部屋の中にある応接用のセットの前でずっと対応することになっていた。


 一番最初に部屋に入って来たのはルディ・バークレオ(るでぃ・ばーくれお)だ。
「臨時の経理ですか……?」
「ええ、そうです。ホイップさんも臨時のバイトなのでしょう? それなら……ホイップさんが引き起こす――」
 ルディは少し咳払いをする。
「もとい、ホイップさんの周りで発生するかもしれない騒動で出る損害額の計算をする要員が必要だと思いますわ」
 タノベさんは顎に手をやり、考える。
 その間、ルディは出されたアイスアールグレイティに口を付け、待った。
「確かに……聞いた限りだと、いつも何かしらが起こっているようですね……借金がなかなか返済出来ないのもそのせいなのでしょうか?」
「ええ。勿論、ホイップさんは真面目にやっていますわ。ただ……周りで何か起こると何故かホイップさんの方へと借金が増えていくのですわ。私達はなんとか借金を減らそうと動いているのですけれど……」
 ルディは今までの事を想い、溜息を1つ吐く。
「それで、具体的にはどうしようとお考えですか?」
 顎にやっていた手を戻し、ルディの考えを促した。
「まず、このホテルの全ての内装外装備品の価値や費用を教えていただけますか? それをお伺いした上で保険に入ろうと思います。豪華ホテルなのですから、盗難の心配もありますでしょう?」
「なるほど……それは確かに必要ですね。良いでしょう。あとで、リストをお渡しします」
「ええ、お願いします。プレオープン中は事務所の中で帳簿の整理でもやらせていただきますわ」
「わかりました。では、すぐに契約書の手配をしましょう」
 こうして、ルディは経理として無事に雇ってもらえることとなった。


「このホテルの取材ですか?」
「はい!」
 次にタノベさんの前に現れたのは六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)だ。
 勧められたソファがあまりにもフカフカで、少し体勢を崩しそうになる。
 真っ直ぐにタノベさんを見つめる瞳は真剣そのもの。
 最近、眼鏡からコンタクトに変えたせいもあってか、その瞳は力強く、やる気に満ちているように見える。
「是非、お願いします」
「あ、はいっ!」
 タノベさんは取材を快く許可したのだった。
「ところで、どういったところに取材の記事を載せるのでしょうか?」
「はい。私が設立した六本木通信社のホームページのトップ記事にさせていただこうと思っています」
「そうですか、わかりました。記事が出来たら読ませて下さいね」
「はい! 記事をアップする前に一度、タノベさんに送らせて頂きますね」
 優希とタノベさんは握手と微笑みで終わることが出来た。


 次に部屋の扉を叩いたのはカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)だ。
「ボク、こういうバイトは始めてだし……割と大雑把だからコンシェルジュにして!」
 バイトの契約に来ただけかと思っていたタノベさんはカレンの申し出に少しびっくりしていた。
「えーと……そこまでしてバイトをしようと思ったきっかけはなんですか?」
「だって……ホイップがここでバイトするって言ってたからボクも力になりたくて……」
 カレンは真剣だ。
「わかりました。では、お客様のご要望には決して首を横に降らないで対処して下さいね」
「うん!」
「ジュレールさんも同じですか?」
「ああ、カレンにだけ任せているのも心配なのでな……何かあったら我がフォローする」
 後半の言葉は浮かれているカレンの耳に入らないよう、小声になっていた。
 それを聞いて、タノベさんは頷いた。
「では、お二人で頑張って下さい。期待しています」
 タノベさんがそう声を掛け、2人の仕事内容は確定した。


 しっかりとお辞儀をしながら入ってきたのは武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)武神 雅(たけがみ・みやび)だ。
 雅の手にはプラスチックで出来た黒いA4サイズのケースがある。
 タノベさんは2人にどうぞとソファを勧め、2人が座ってから自分も座る。
 時間が惜しいとばかりに、さっそく雅がケースを開け、手作りの資料を机の上に広げ、牙竜が説明を始める。
「タノベ社長。初めまして、本日はホテルの売りを増やす企画を発案したいと思う」
「ほほう……それは素敵ですね。是非、お聞かせ願いたいです」
 資料を開くと、そこには幸せそうなカップルが純白の衣装に身を包んでいる様子が描かれている。
「これは……」
「そう、ブライダル……つまり結婚式。ブライダルフェアだ。将来の顧客確保を目指し、カップルを対象に結婚式を疑似体験して貰うイベントだ。このサービスを利用して貰うことで、将来結婚を予定してるカップルへホテルのサービスや施設をアピール出来と思う」
「ふむ……」
 牙竜の言葉に真剣に耳を傾けるタノベさん。
「タノベ社長、私は武神 雅。牙竜の補足をさせてもらおう。ブライダルフェアを現在の所、行ってるホテル限られており、先行投資をして顧客を確保するチャンスであると考える」
 雅が押す。
「そうですね……では……ただ、これはどこかでもうやられているとのこと……それならば……こういうのはどうでしょう?」
 聞いているだけだったタノベさんから2人に提案がなされた。
「なるほど……それなら、ホテルを改造する必要もなさそうだな」
「ええ、では、企画の変更をしたものを契約書として用意しましょう。それと、空京で待機している者に必要な物を買って来てもらう予定なのだが、良いだろうか?」
 予算の事もあって、雅はそう聞いた。
「わかりました。それで、お願いします。あ、そうそう経費として落とすなら領収書を持って事務所の中にいるルディさん……ルディ・バークレオさんにに渡して下さい。彼女に経費の事任せようと思いますので」
 互いに握手をして、部屋を出る。
 そのままホテルの外まで出ると雅が携帯を取り出し、電話を掛ける。
「企画が通ったので、必要な物の買出しをお願い」
「了解」
 電話の相手閃崎 静麻(せんざき・しずま)の声が聞こえる。
「領収書はしっかり貰ってきて、事務所の中にいるルディに渡して」
「あいよ、それじゃ動くか」
 2人は同時に携帯を切った。
「さて、頑張りますか」
 連絡を待つ間、琥珀亭で待っていた静麻は、グラスに入っていた抹茶フロートを飲み干すと立ち上がったのだった。


 タノベさんの元を訪れたのは、部屋の中ではサングラスを付けたままのテスラ・マグメル(てすら・まぐめる)だ。
 タノベさんの手にはテスラの地球での経歴が書かれた紙があった。
 入ってすぐに手渡したものだ。
「地球では欧州での芸能活動経歴……と」
「はい」
 テスラがタノベさんの元を訪れた理由は自分の売り込みだ。
 バーやラウンジで歌を歌わせてほしいという事らしい。
「実力を見せていただいても良いですか? 経歴など、興味ありませんので」
 このタノベさんの言葉には少し驚いていた。
 普段、雇ってもらう時は経歴や年齢の事などを言われてきていただけに嬉しくもあるのだろう。
「はいっ」
 テスラは、その深みのあるボイスを披露する。
 目をつぶってじっと聞き入るタノベさん。
「……どうでしょうか?」
 歌が歌い終っても、しばらくじっとしていたタノベさんにテスラが聞く。
「ああ、すみません。素敵な声ですね。これなら満足です。いくらでもお好きな歌をどうぞ。あなたなら信頼出来そうです」
「ありがとうございます!」
 テスラはお辞儀をした。
 こうして無事に契約を交わす事が出来た。


 あとは、普通にバイトに来た人達と契約をし、この日のタノベさんの仕事は完了した。