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【借金返済への道】ホイップ奉仕中!

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【借金返済への道】ホイップ奉仕中!
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 1005号室のビジネスルームに宿泊しているのはアルツールだ。
 部屋に備え付けてあるパソコンで学校の書類仕事をこなしている。
「ふぅ……」
 1つ区切りがつくと、部屋にあったサイフォン式のコーヒーメーカーでコーヒーを淹れる。
 ビジネスマン向けとあって、パソコン、ネット、マッサージチェア、プリンター(用紙・インク完備)、筆記用具、コーヒーメーカー(サイフォン式)、紅茶のティーポット(高級茶葉、ティーコージー)が備え付けてある。
 食事以外は自分の空間を邪魔されることがないように配慮されているようだ。
 これ以外にも申しつければ色々と手配してくれるらしい。
 一息ついたところで、受話器を取り、ルームサービスを注文する。
 しばらくすると、ホイップがサンドウィッチとフルーツの盛り合わせを持ってきた。
「なんだ、ボーイ姿はやめたのか?」
「あ、はい。友人から余計に目立つからと……」
「そうか」
 アルツールはホイップの姿を見ると開口一番そう言ったのだった。
 部屋のテーブルへとホイップが持ってきた軽食を並べていく。
「ああ、そうだ。ここでは夜間に書きあげた書類を朝一で発送とかいうサービスはあるのか?」
「はい! あります! 電話で呼んで下されば係の者が参りますので」
「そうか」
 ホイップが丁寧に接客するのを見て、少し上機嫌だ。
「それでは私は仕事をやっているから、何かあったらまた頼む。……バイトも結構だが、学校の勉強も疎かにしてはいかんぞ」
「あ、う……うん」
 学校の調子に戻ると、ついホイップも口調が戻ってしまっている。
「あと、出席日数にはできるだけ気を配るように。留年したら一年分学費が多くかかる、と言う事なのだからな」
「う、うん。ありがとうございます」
 アルツールの助言を素直に聞き、ホイップは退室した。
「心配だったが……大丈夫そうだな。さて、ここまでのサービスが整った環境で出来る仕事だ、気合いを入れて終わらせるか」
 そう言うと、ホイップが運んできたサンドウィッチに手を伸ばした。

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 ここ、普通の部屋の中では男性2人がいちゃいちゃしていた。
「なんだ、スイートルームではないのか?」
「だって普通の部屋でも十分豪華だし、スイートとかは気後れしそうだろ」
 フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)の言葉に和原 樹(なぎはら・いつき)が答える。
「ホテルの壁は割と薄いだろう。お前は意外と甘えた声を聞かせてくれそうだからな……」
「……いや、何の心配してるんだフォルクス。少しくらい壁が薄くても防音とかちゃんとしてると思うし、そもそもそんな声出さないよ! っていうか、変なことしようとしたら殴るからなっ!」
 フォルクスが言うと、樹はグーパンチを構えた。
「……違うのか。豪華ホテルでバカンスなどと言うから、期待してしまったではないか」
 明らかにしょんぼりとしてしまった。
「……そんなにがっかりされると罪悪感が……。あー、ええと……じゃあ少しだけ……あんたのやりたいこと言ってみろよ」
 語尾を荒くはしているが、樹は顔が赤い。
(ふむ。そうだな……まず奥手すぎる樹は、そういう雰囲気に慣れるところからはじめさせた方が良いか……)
「では今日一日、我と同じ椅子に座って過ごす……ということでどうだ?」
「うぅーー……今日だけだからな!」
 やはり顔が赤い。
 フォルクスは了承が得られると、すぐにフカフカの椅子へと腰掛け、膝を軽く叩いて準備が出来た事を知らせた。
「ほ、本当に今日だけだからなっ!」
 かなりの葛藤があったが、樹は大人しくフォルクスの膝の上に収まった。
「失礼します。……えっと……」
 部屋の中に入ってきたのはホイップだ。
 受付の段階で頼んでいたノンアルコールのカクテルを持ってきたのだ。
 しかし、樹の真っ赤な顔とフォルクスの満足そうな顔、そしてその体勢に固まってしまった。
「……あ、この体勢は気にしないでくれ」
 気がついた樹はそう言うが、ホイップと目を合わせようとしない。
「えっと、ではお飲み物はこちらに置いておきますので」
 ホイップはカクテルをテーブルの上に置くと、そそくさと立ち去った。
「同じ椅子にっていうかフォルクスの膝の上に座りっぱなしとか軽くいじめだ……」
「ん? そうか?」
 フォルクスは樹の腰に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。
「我に触れられるのは好きだろう?」
 ちょっとだけ意地悪そうに耳元で囁く。
「……嫌いじゃないけど、なんかこう……恥ずかしいんだ!!」
「やはりお前は可愛いな」
「なっ!!」
 こうして、2人の甘い甘い時間は過ぎていく。

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 従業員用の通路にあるトイレで笑顔を作る練習をしている者がいた。
「こういう仕事なら出来そうだから……頑張る、よ。働くにはやっぱり笑顔、笑顔……」
 セルシア・フォートゥナ(せるしあ・ふぉーとぅな)だ。
 少し笑顔が硬い。
「やっぱり……接客は自信ない、な……そうだ、タノベさんがベッドメイキングとか部屋の掃除でも構わないって言ってたよね」
 セルシアは、よしと決意を固めるとトイレから出て、従業員用休憩室で待ってくれていたアリステア・レグナス(ありすてあ・れぐなす)ウィンディア・サダルファス(うぃんでぃあ・さだるふぁす)の元へと歩いて行った。
「……お待たせ」
 セルシアが近づくとウィンディアは子犬のような可愛らしい笑顔を向けた。
 この2人、全く会話をしていなかったようだ。
「えっと、ね……ベッドメイキングとか掃除に行こうと思うの。それで、ホイップの役に立てたら……」
「そうだな、オレもホイップの役に立ちたい」
 セルシアの言葉にウィンディアが賛同した。
「僕はそのホイップという人は知りませんが、マスターが言うのならきちんと仕事をこなしますよ。ああ、でもウィンディア。あなたは下がっていなさい。不器用なあなたでは、逆に調度品を破壊しかねませんからね」
 アリステアは笑顔で告げた。
「はぁ!? どういうことだよ!?」
「事実を述べたまでですよ。あなた、以前受けた別の仕事でも機材を壊して、マスターの足を引っ張ったそうじゃないですか」
「ふぐっ……なんでアリスがその事知ってるんだよ!」
「ふぅ……学習能力のないあなたが、また同じことを繰り返さないとも限りませんから」
 ウィンディアが食ってかかると、アリステアは涼しげな顔でそう返した。
「2人とも……仕事中だから、ね?」
 セルシアは言うが、2人とも聞く耳を持っていない。
「大丈夫? どうかしたの?」
 声を聞きつけて、通路を通っていたホイップがセルシアに話しかけた。
「うん……えっと……また喧嘩をはじめちゃって……」
 どうやらこの2人の喧嘩は日常茶飯事のようだ。
 ホイップも2人を見遣るが、ヒートアップしていて止められそうにない。
「一回険悪モードになると暫く終わりそうにないし……」
 セルシアは頭が痛そうにしている。
「アリスが引っ込めよな! 俺がルシアと一緒に働くから!」
「何言ってるんですか? ウィンディア、あなたの足りない脳味噌ではマスターと一緒に働くなんて無理です。引っ込みなさい」
「……引っ込むの、どっちもだから」
 2人の元へと近付くと、セルシアは2人の耳元で静かに悲しみの歌を歌った。
「……ごめん、迷惑かかる前に、あいつらは引っ込めておくから」
「う、うん……手伝う?」
「ううん、大丈夫」
 セルシアは意気消沈してしまったウィンディアをまず更衣室まで引っ張っていくと、次にアリステアを引っ張っていったのだった。
「心配してくれるのは……嬉しいんだけど、ね」
 そう呟いた言葉は2人の耳に届いているようだ。

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