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リアクション
第12章 「死楽ガノン」を止めろ!
「きーっ! 死ね、死ね、コロス、コロスぞ! そして、逝ったら、楽にナル! 世界全体がワタシの敵なのダ! ワタシという存在を生み出したこの世界は、滅びるべきなのダ! 苦しいのはワタシだけではナイ? そうか、ならば、殺して楽にしてヤルことが、せめてもの慈悲でアル!」
設楽カノン、いや、死楽ガノンは、ガガ山の山頂を目指す山道を、猛スピードで登り始めた。
その思考は、完全に狂っていた。
ガノンの向かうその先には、バトルロイヤル真っ最中の、他の参加者たちの姿があった。
「これでも、くらえー!」
六連すばる(むづら・すばる)は、ショットガンをぶっ放した。
超能力で弾丸の力が強化されており、くらえば一撃で死に至る。
「もー。危ないなー!」
弾丸を避けて、リディア・カンター(りでぃあ・かんたー)は膨れ面になった。
「動きをよめるかな? スーパーボールで、ぴょんぴょん跳ねるアタック!」
リディアは、スーパーボールを六連に投げつけた。
ばうん、ばうん
ゴツゴツした岩肌が剥き出しになっている山道のあちこちにボールがぶつかり、複雑怪奇にバウンドして、六連を襲う。
ただでさえ動きがよめないのに、リディアの超能力がボールの弾道を操作するので、まさに予測不可能の動きとなっていた。
当然、六連は、ボールをくらう。
「いたっ! うわっ! やめろ!」
ぶつかったかと思うと、また違う角度からぶつかってくるボールの変幻自在な攻撃ぶりに、六連は辟易した。
しかし、ボールに殺傷力はない。
「いいぞ、リディア! おまえのスーパーボールには誰もかなわねえ! このまま1位を目指すぜ!」
大羽薫(おおば・かおる)が、リディアを激励する。
「うん! 一緒にがんばろー!」
大羽に誉められて、リディアはとても嬉しい気持ちになった。
「すばる。ボールに苦戦ですか。細かい技には弱いようですね」
アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は、すっかり調子が狂っている六連の様子を、遠くから傍観していた。
「あのボールをくらったからといって、どうってことはないだぎゃ。そのことに気づけば、逆転のチャンスはあるだぎゃ」
親不孝通夜鷹(おやふこうどおり・よたか)もまた、アルテッツァとともに六連を傍観し、うんうんとうなずいている。
そして。
「お、おのれ、遊んでいるのか!?」
アルテッツァたちの見守る中、スーパーボールの攻撃を受け続けていた六連は、ショットガンを構えて、リディアに迫る。
「よく考えたら、この攻撃のダメージはほとんどない! わたくしも舐められたものだ!」
六連は、ショットガンを再びリディアに向ける。
「やっと気づきましたね。すばる。それが成長です」
アルテッツァは、六連が戦士として成長していくことを喜んだ。
「あれ? わー、怒ってるよ! 怖いー!」
リディアは、怒りに目をギラギラさせた六連の形相に驚いて、キャッキャと笑いながら山道を駆けていく。
「待てー!」
六連は走った。
「はあはあ。覚悟しろ!」
やっとリディアを追い詰めた六連が、ショットガンの引き金を引こうとしたとき。
「きあああああああ!」
叫び声をあげて山道を突き進む死楽ガノンが、六連たちに襲いかかってきた。
「な、何だ!」
六連はショットガンをガノンに向けて撃つ。
ズキューン!
ばしっ
だがガノンは、強化された弾丸を手で弾いてしまった。
「死んだら、楽になるワヨ! きええええ!」
ガノンのサイコキネシスが、リディアに襲いかかる。
「う、うわー!」
リディアは身体を吹っ飛ばされて、失神。
「リ、リディアー! うわー!」
リディアを助けようとした大羽も、ガノンのサイコキネシスをくらって吹っ飛び、リディアの身体の上に多いかぶさるように落下して、失神する。
「精神崩壊したカノンが相手ですか。まずいですね」
アルテッツァは、六連がいまのキャパシティを越える相手に遭遇したのをみて、大変なことになったと感じた。
「みろ。スバは、真の戦士に覚醒するだぎゃ」
夜鷹は、ガノンに立ち向かおうとする六連の姿に、はじめて感心させられた。
「くっ! 相手が誰だろうと関係ない! わたくしは生きる! 生きて、『勝利者』になって、マスターに近づく!」
アルテッツァの姿を脳裏に想い浮かべながら、六連はショットガンを連射して、ガノンに特攻をしかけた。
「きあああああああ!」
ガノンが吠え声をあげなら、六連にタックルを仕掛けていく。
ちゅどーん!
超能力と超能力が衝突し、大爆発が起こった。
「安らかに眠るがイイ!」
失神した六連を後にして、ガノンは先へ進む。
「うん、あれは、設楽カノンさん! 精神が崩壊しているようですね」
月詠司(つくよみ・つかさ)は、超能力者たちの戦闘を分析して自分の能力向上に応用しようとする作業をやめて、山道を飛ぶように登っていくガノンの姿に注目した。
「私はまだ、超能力研究にとりかかったばかりですが、これは興味深い研究対象です!」
月詠は、「危険だ」とは思いながらも、ガノンの様子を観察したくて、ガノンの進む先へと移動を始めた。
「きああああああ!」
ガノンは叫び声をあげながら、進路上の参加者たちを次々に薙ぎ倒していく。
「こ、これはすごい! 別人格の現れ? 記憶を操作した影響でしょうか? 強化人間は、不安定そのもの。人工的に超能力者を生み出すと、このような悲劇を招くことになるのですね。だからこそ、人は、もともとある力を自分で引き出していかなければならない! では、既に強化人間となった者はどう生きていけばいいのか?」
ガノンをものかげから観察していた月詠は、興奮のあまり、ガノンに呼びかけるように身をさらけだしていた。
「カノンさん、あなたはなぜ、海人くんと違って、凶暴化傾向が著しいのですか?」
しかし、答えは聞くことはできなかった。
「邪魔ダ!」
ガノンのサイコキネシスが月詠を襲い、その身体を塵のように舞い上げる。
「す、すごい力です! 強化人間とは、このように凶暴化するのが一般的なのでしょうか? むしろ、海人くんが例外なんですね。がっ!」
月詠は、空中から落下の際に岩に頭をぶつけて、失神する。
(いま、感じました……。どこかで見守っている海人くんの力が私に作用して、致命傷から救ってくれた! 海人くんと、カノンさん。この2人は対照的です。なぜ……)
消え行く意識の中で、月詠は考え続けるのだった。
「カノンちゃん、だいぶイケてるじゃないの。たまらないね。そろそろ、景勝ちゃんと勝負しようぜ」
桐生景勝(きりゅう・かげかつ)は、暴走するガノンの前に、敢然と立ちふさがった。
かなり勇気がないとできない行為だが、桐生は平気そうだった。
「闘うために、生きているのかよ」
桐生は、迫りくるカノンに呟く。
「ただ運命に踊らされて? それで本当にいいのか。かかってこい、俺が全力で受け止めてやる!」
桐生はミラージュとフォースフィールドを使って、ガノンの攻撃のダメージを抑えようと準備する。
「うがああああああ! ごちゃごちゃわめくナ! 死ね、死ね、死ね!」
ガノンは、桐生のミラージュもフォースフィールドも何でもないかのように突破して、桐生に組みついてきた。
「うがっ! いいねえ。柔らかい肌だよ。景勝ちゃん、モテるのかも」
桐生はガノンの身体を抱きしめるようにして、ニヤッと笑う。
「景勝さん、セクハラみたいなことしてる状況じゃないですよ。だいぶやばいです!」
リンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)が警告する。
「わかってるって。負けるかよ!」
桐生は、リンドセイに片目をつむる。
「きい!」
そんな桐生の肩に、ガノンは大きな口を開けて、力いっぱい噛みついてきた。
がぶり!
「うわあ! まいったな。そういうプレイ? 趣味じゃないぜ!」
桐生は悲鳴をあげる自分を抑えて、片手で、銀のナイフを抜き、自分の足に突き立てた。
「気合を入れるぜ!」
激痛が走るが、桐生は耐える。
耐えて、底力を発揮した。
「うおりゃあああああ!」
桐生はガノンの頭をつかんで、肩から引き剥がすと、思いきり突き飛ばす。
「しゃあああああ!」
四つん這いになって着地したガノンが、獣のように唸って桐生を睨む。
「さぁ、ここからが本番だ。楽しんでいこうぜぇ!」
桐生は、サイコキネシスをガノンに仕掛ける。
ガノンもまた、桐生を睨んで、サイコキネシスを仕掛けてきた。
サイコキネシスによる力比べが始まった。
「うひゃあああ! 心が震えるぜ! たまんねえ」
ガノンの力にモロに対抗する桐生は、自分を揺さぶる激しいプレッシャーに耐えようと歯をくい縛った。
「カノンちゃん! 強化人間の前に人間だろうが! 普通の人間でも迷いながら、みんな生きてんだよ! 俺も悩んでるぜ! ネトゲの世界で生きるか現実の世界で生きるかをな! 誰だって悩んでんだよ! わからないか? なら、倒す!」
桐生はサイコキネシスで、四つん這いのガノンの背中を押し下げて、地面に腹這いにさせようとした。
四つん這いの態勢の相手なので、ぺちゃんと潰しやすい。
桐生の試みは、成功するかに思えた。
(ほう。実に面白い。極限状況の中で、各自の超能力スキルが明らかな向上をみせている! この男、妄想のようなものに力を得ているのか?)
校長室のコリマでさえ、桐生に感心したとき。
「パンツセンサーに、反応ありだ! この近くに、激レアの下着があるぜ!」
懐中時計のような機械を手にした国頭武尊(くにがみ・たける)が、サイコキネシス勝負の現場に乱入してきた。
ぴこーん、ぴこーん!
国頭のパンツセンターが、激しい反応を示している。
「なるほど。設楽カノン。君がレア装着者か」
国頭は笑って、ガノンに歩み寄っていく。
「おい、邪魔すんなよ! いまいいとこなんだ」
桐生が怒鳴る。
「ああ? 君こそ、邪魔をするな。それは、俺の獲物だぜ!」
国頭も怒鳴り返して、四つん這いになっているガノンの下半身に手をかけた。
「どんな下着だ? 確認させてもらうぜ」
国頭は、ガノンの下半身に巻きついている細長い布をビリビリと引き裂いた。
ガノンが着用している、黒の貞操帯が露になる。
だが、そのとき。
「う、うわあああああああ! いやらしい男たち! 触るナ!」
ガノンは悲鳴をあげると、国頭から飛びすさった。
設楽カノンでいたときに、心に刻みこまれたトラウマ、パラ実生たちに乱暴された記憶がよみがえってくる。
「ゆ、許せない、コロス、コロス!」
ガノンの怒りが燃えあがった。
「似たようなことをされたトラウマがあるようだな。だが、俺は、どんな障害も乗り越えて必ずそれを手に入れてみせるぜ!」
カノンの貞操帯を目にした国頭は、欲しくてたまらない気持ちを抑えることができなかった。
「武尊、気をつけろ。こいつの強さはパねえぜ!」
猫井又吉(ねこい・またきち)が叫ぶ。
「わかってるって。いくぜ!」
国頭は、とりあえず特攻した。
「うがああああああああ!」
ガノンはすさまじい声をあげ、力を解放させる。
ちゅどーん!
大爆発が巻き起こった。
「あーあ。だから、邪魔すんなって。あともう少しだったのに、んの野郎」
真っ黒焦げになった桐生が、隣に倒れている国頭を恨めしそうにみやってから、失神する。
「景勝さん!」
リンドセイが、桐生の身体を安全な場所に運んでいく。
「ワタシは、セクハラする男は絶対許さない! 何があろうとコロス!」
ガノンは、天を仰いで勝利の雄叫びをあげる。
だが。
「へっ、やってくれるじゃねえか。だが、まだ終わっちゃいないぜ」
国頭は、ボロボロになりながらも起き上がってきた。
彼の「下着」にかける執念は、すさまじいものであった。
「又吉! まじめに仕掛けるとしようぜ」
「わ、わかった!」
国頭の声に、やはり黒こげになって倒れていた猫井も起き上がってくる。
「いくぜ、オラァ!」
国頭と猫井が、連携してガノンに攻撃を仕掛ける。
囮になった猫井が音波銃を構えて牽制し、ガノンが気をとられた隙に、国頭が攻撃する。
ガノンは、攻めることで頭がいっぱいなのか、囮作戦は効果的で、国頭は攻撃を何度も決めることができた。
だが、ガノンは、国頭の攻撃を何度くらっても倒れることがない。
国頭も同様に、ガノンの攻撃を何度くらっても立ち上がってきた。
闘いは、長期戦の様相を呈し始めていた。
(ほう。性欲は、確かに人間の底力を高めるはたらきがあるようだ。プリンセス計画を本格始動させてもよいかもしれんな)
コリマ校長も、国頭の超人的なエネルギーに驚きを隠せない。
長い歴史の中で、シャンバラ大荒野の蛮族たちは、真の変態に覚醒していったかに思えた。
……って、アホか!
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