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『オープン・ザ・セサミ』
 
 
「いろいろな魔道書さんがいらっしゃるのですね。こんなにたくさんの仲間がいると思うと、楽しくて心強いです」
 ブラブラといろいろな魔道書を眺めて回りながら、シャーロット・スターリング(しゃーろっと・すたーりんぐ)が言った。彼女自身魔道書であるが、また契約を結んでから日が浅い。書架を離れて見る風景は、すべてが斬新ですべてが刺激的でもあった。
「むっ、あそこで読まれている本はジュブナイルか? 魔術以外の内容は、私にとっては魔道書とは呼べないな」
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は、ルシェイメア・フローズンの読んでいる『オープン・ザ・セサミ』の装丁を確認すると、他の本を探しに行ってしまった。
「まあ、あれは新しい形の魔道書でしょうか。すごいです」
 対照的に、シャーロット・スターリングは、『オープン・ザ・セサミ』を読もうと順番待ちに加わっていった。
「いったい、どんな魔道書なのでしょうか」
「あら、あらすじを聞きたいの。よろしい、特別に説明してあげるわ」
 ふとシャーロット・スターリングが疑問をつぶやくと、そばにいたオープン・ザ・セサミがニコニコしながら近づいてきた。
「ねえ、椿もあらすじぐらい聞いてよ」
「はいはい、聞いてるよ」
 オープン・ザ・セサミに言われて、泉椿がプリンをつつきながら返事をした。
「自称美少女探偵セサミは、オンラインゲームのキャラクター。一方、プレイヤーのあかねは平凡な主婦。オンラインゲームの中で突然消滅した依頼人を追うセサミと、怪しい健康食品の店の陰謀に巻き込まれた主婦あかねの物語。本来なら無関係なはずの二つの事件が、いつの間にか交錯を始める。はたして、その結末は……。あ、助手のガーリーとジンジャーは結構イケメンなのよ? どう、面白そうでしょ」
「何それ。とりあえず読ませるのだ」
 そばでその解説を聞きつけた毒島大佐がやってくる。
「最新の魔道書って、すごいんですね。世界を一つ創ってしまうなんて……」
 微妙な勘違いをして、シャーロット・スターリングが言った。
 
 
『アカシャ・クロニカ』
 
 
「これこれ。このような魔道書然とした魔道書こそを私は求めていたのだ」
 『アカシャ・クロニカ』を手に取った本郷涼介は、満足そうに言った。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
 やっと手に持ってもらえたアカシャ・クロニカが、本当に嬉しそうに本郷涼介に言った。これで、なんとかアポクリファ・ヴェンディダードにも面目が保てるというものだ。
「この魔道書は、知りたいと強く願うことを検索することで文字として浮かびあがらせます。もし、引き出せるのでしたら、歴史に埋もれた真実から気になるあの人の下着の色まで、さまざまなことを可能なら詳細な挿し絵つきで引き出すことができます。さあ、あなたの力をお試しくださいませ」
 自信をもって、アカシャ・クロニカが言った。
「どれどれ」
 言われるままに、本郷涼介が意識を集中する。すると、その顔がみるみるうちに真っ赤になっていった。
「す、素晴らしい魔道書だ。では、これで失礼する」
「あ、あの、もっと読んでいただいても……」
 あわてて去っていく本郷涼介をアカシャ・クロニカは引き止めようとしたが、すでにその姿はなかった。
「あの反応は……。やはり、あれ関係を想像したのだろうな。いったい誰のを見たのだ?」
 ついさっきの自分を思い出して、夜薙綾香がつぶやいた。
「いったい何を見たのかねえ。興味あるぜ」
 伊吹藤乃が面白そうに言った。
「とりあえず、『アポクリファ・ヴェンディダード』さんとも比べてみたいので、後で私にも読ませてくださいな」
 ナナ・ノルデンの言葉に、アポクリファ・ヴェンディダードとアカシャ・クロニカが顔を見合わせてライバル心を再び燃えあがらせた。
「はい、そこまで。あまり話をややこしくさせないように」
 近づいた二人の顔をコチンとぶつけさせて夜薙綾香が言った。
 
 
『屍食教 典儀』
 
 
「はう、さすがに一気にたくさんの本を読むとちょっとくらくらしますわ」
 大きく深呼吸を一つして、讃岐赫映はぶよぶよとした不気味な表紙の『屍食教 典儀』をパタンと閉じた。
「我を読むときは、なるべく気をつけていただきたい。くれぐれも深入りしない程度にな」
 次に『屍食教 典儀』を手に取った神代明日香に、屍食教 典儀(ししょくきょう・てんぎ)が注意した。
 これも、クトゥルーに連なる教典で、あまり集中して読むことは精神上よろしくない。
「ふっ。この程度であれば、コーヒーを飲みながらでも、我なら読破できるがな」
「なんだと、貴公!」
 見下すような毒島大佐の言葉に、屍食教典儀が牙をむく。
「静かにおし。他人の読書は邪魔しない!」
 伊吹藤乃が、鉄拳一発屍食教典儀を黙らせた。