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読後感想会
 
 
「はーい、みなさんお疲れ様でしたあ。図書館の開館時間の都合もありますのでー、そろそろ読後感想会に移りたいと思いまーす。それぞれの御本は、ちゃんと持ち主の方々が回収してくださーい。お帰りになる方は、その前に三笠のぞみさんの前にある投票箱に投票をお願いします。その他の方は、感想会終了直後までに御投票くださーい」
 大谷文美が、時計を見ながら読書会の参加者に呼びかけた。思い思いに散らばっていた者たちが集まってテーブルに着く。占卜大全風水から珈琲占いまでが、席に着いた者たちにコーヒーをサービスしていった。
「では、時間もありませんので、座っている順番に一言ずつ感想をお願いしまーす」
 大谷文美が、順に残っている者たちを指名していった。
「すみません、『今川仮名目録』連れて帰っていいですか? もっと詳しく知りたいんですけど」
「だめよ」
 宇都宮祥子の言葉に、ローザマリア・クライツァールが即座に答えた。宇都宮祥子がチェッという顔になる。
「『グラン・グリモア』には、懐かしい物を見せてもらったよ」
 まだ懐かしげに、湖の騎士ランスロットが言った。
「成人指定な身としては、『七つの大罪「色欲」の書』さんが勉強になりましたわ」
 同人誌静かな秘め事が、満足気に言った。
「『童話スノーマン』はいいお話でした。スノーマニズム、というのはよく分かりませんが、お正月に里帰りしたら雪だるまを作りたくなりましたよ」
 高務野々が多少やつれた顔で感想を述べた。
「俺の番かな」
 緋桜ケイが、飲んでいたコーヒーカップを下においた。
「『王の書』はいろいろと面白い本だったぜ。『空中庭園』はミファと似たような内容かと思っていたが、読んでみれば案外違ったな。後半部は少し読んだだけでも気が滅入ったけどな」
「わらわか? 『同人誌 静かな秘め事』の感想だが、わらわは純愛よりも、もっとハードな内容が好みだったのだが……」
 堂々と悠久ノカナタが言った。その答えに、緋桜ケイの方がちょっと顔を赤らめる。
「私は、姉様の中身にドキドキしましたぁ……」
 『地底迷宮』ミファが、『空中庭園』の感想を述べた。
「俺も、『空中庭園』はよかったな。後半は何かいろいろと憎悪とか憎しみがすっげぇ垂れ流れてたが、最初から半ばにかけての魔法の技術はなかなか見ごたえがあった。こういう独自のテーマにのっとった研究ってのは、他の分野の研究者から見ても面白いと思うぜ」
 ラルク・クローディスが、『地底迷宮』ミファに同意した。
「そうですね。『空中庭園』はいろいろとためになりました。この本の教えを胸に、私も一流の魔法使いになるために日々の精進をしてゆきたい。あらためてそう思わさせていただく、良い本でした」
 ナナ・ノルデンも『空中庭園』に感銘を受けたらしい。
「『王の書』は、文字がなくて絵のみというのが個性的ですねー」
 ソア・ウェンボリスが感想を述べたが、その絵が文字の一種であるというツッコミは誰もしなかった。
「俺様はいろいろ読んだからな。『ニーナ・フェアリーテイルズ』は御主人の好きそうな童話だったし、『闘神の書』の鍛錬法は参考になりそうだったな。どこぞの肥満招き猫にも見せてやりたいぜ! 『占卜大全 風水から珈琲占いまで』はコーヒーを飲んで占いができるとは面白いよな!」
 雪国ベアが矢継ぎ早にまくしたてた。
「拙者は、『レメゲトン』でクロセル殿の過去がしれてよかったでござる」
 童話スノーマンが、まだ勘違いしたまま満足気に言った。
「『占卜大全 風水から珈琲占いまで』さんかな。ほんとは、コーヒー占い以外もぜひ充実させてほしいなっ」
「いや、タイトル通り、風水もやってるじゃん」
 もっとちゃんと読んでくれと、占卜大全風水から珈琲占いまでが立川るるに突っ込んだ。
「『空中庭園』は、ただただ恐ろしく、悲しかったです」
 水橋エリスが短く言った。
「私としては、『アポクリファ・ヴェンディダード』が比較的読みやすかったように思う」
 ぶっ飛んだ内容の多い魔道書たちの中から、エリオット・グライアスが『アポクリファ・ヴェンディダード』を選んで言った。
「なんというか、【同人誌 静かな秘め事】には同じ匂いを感じました……」
 ヴァレリア・ミスティアーノがぽそりと言う。
「『童話スノーマン』は装丁がかわいかったよね」
 三笠のぞみが、見た目の感想中心で発言した。その後は、すぐに集計のお手伝いに行く。
「うん、『童話スノーマン』は内容が素晴らしかったよね」
 秋月葵も、こちらは中身の方で『童話スノーマン』を推した。
「『エイボンの書』、後で写本させてください!」
「ええっと、それは……」
 いきなりフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』に御指名されて、エイボン著『エイボンの書』が口籠もった。
「『数学 2−C 高務○○』さんには、なぜか親しみを覚えました。どこかでこの本の書き手を知っている気がします」
 メイベル・ポーターの言葉に、高務野々が隅っこでガタブルしていた。
「『グラナート・アーベントロート』さんが読みたかったけど、ほとんど読めなかったの」
「『グラナート・アーベントロート』たんは誤字だらけでパズルみたいで、友達と正解を推理しながら読むとか、そういった遊び方をお勧めします」
 朝野未羅と朝野未沙が、同じ本の感想を述べた。
「わたしも、『無名』さんをぜひ読んでみたかったですぅ」
 玉砕した朝野未那が残念そうに言った。
「占いまでできるなんて、やっぱりコーヒーは最高だよね」
 浅葱翡翠が、コーヒーをサービスしている占卜大全風水から珈琲占いまでにウインクを送る。
「実に興味深い一冊でした」
 おでこに絆創膏を貼ったミヒャエル・ゲルデラー博士が、実に当たり障りのない言葉で『聖書』大全集の感想を述べた。
「当然である。これは素晴らしい魔道書である! なにしろ、今日では失われた各種の外典、偽典を網羅しており、キリスト者、教学研究者、文献学者を志す者には必須の逸品である!」
 ロドリーゴ・ボルジアが力強くうなずいた。
「ええと、だごーん様からは、『異世界探訪物の良作。丁寧に描かれた主人公の心情とファンタジックな世界描写が物語を紡いでいる。数学部分は昨今の読み易すぎるファンタジーへの批判か?』という『数学 2−C 高務○○』の感想メモをいただいております」
 中には入れない巨獣だごーん様に代わって、大谷文美が感想のメモを代読した。とたんに、部屋の角で奇妙な呻き声が聞こえる。
「もなかさんの『月夜の晩のカルテット』がなかなか面白かったよ。まつりくんも読めばいいのに」
 オープン・ザ・セサミが、ちょっと残念そうに言った。
「今川仮名目録さんの解説が面白かったかな」
 神和綺人が、人間体の今川仮名目録込みでの感想を言った。
「『数学 2−C 高務○○』かなあ、でも、人の黒歴史は暴くものではないね」
 多くの本を読破した毒島大佐が、極一部の人に追い打ちをかけた。
「『魔術の真理』だけど、結局、必要としている情報は得られなかったけど、それでも面白い魔道書だったぜ。ぜひ、うちのおバカと交換してほしいんだぜ! 一生とはいわない。せめて一年だけでも!」
「まつりんのばかばかばかばかー!」
 言ったとたん、春夏秋冬真都里が、小豆沢もなかにぼかぼかと袋叩きにされる。
「俺はその膨大な情報量から『聖書』大全集を推すぜ。ここには、神話という壮大な話から、それを崇める人の姿、何気ない日常まですべて詰まっている。願わくば、近代も網羅されていれば言うことなしだったな」
「しくしくしく……。ちゃんと追記で書いてあるもん……」
 ヴァル・ゴライオンの感想を聞いたベリート・エロヒム・ザ・テスタメントがちょっぴりべそをかきながらちっちゃな声でつぶやいた。
「新しいジャンルを突き進む珈琲占いかな。早くメジャーデビューすることを祈るのだよ」
 神拳ゼミナーが、飲み終えたコーヒーカップを逆さにひっくり返して言った。
「『ゼファー・ラジエル』の日記が、なんかこうかわいかったです」
 アンジェラ・アーベントロートが、思い出し笑いで口許をほころばせながら言った。
「『童話スノーマン』です。ボク、こういうお話大好きです!」
 グラナート・アーベントロートがちょっと身を乗り出して力説した。
「えっと、『魔術の真理』さんなんですがぁ、……ためになりました、後で試してみたい……です」
 かなり自信なさそうに高峰結和が言った。どうも間違いなくダミーページに欺されたという気がしてならない。
「『手記 第三巻』なのです。続きが気になってしかたないのです! お願いです! オルフェに続きを! 誰か、続きを読ませてくださーい!!」
「へっ!?」
 オルフェリア・クインレイナーの言葉に、ラムズ・シュリュズベリィが一瞬きょとんとした顔になった。
「まさかね……」
「本もそうなんですが、私としては、シュリュズベリィ著『手記』さんのローブの下も気になりますねえ」
「おっ!?」
 エッツェル・アザトースの言葉で、ラムズ・シュリュズベリィは今さらながらにここにシュリュズベリィ著『手記』がいることに気づいた。同時に、しっかりとエントリーしてみんなに読んでもらっていたことも。
「まっ、いいか……」
 いろいろ疑問は残るが、ラムズ・シュリュズベリィはあまり気にしないことに決めた。
「か、感想は、なかったことに……」
 うつむいて真っ赤になりながら、『ブラックボックス』アンノーンがささやくように言った。『同人誌 静かなる秘め事』を読んだのが相当にショックだったらしい。
「皆、分野が違うので一概にどれが一番とも言えんのじゃが、今回読んだ中でワシが一番興味深かったのは『魔術の真理』かの。本人には悪いのじゃが、本編よりもおまけ機能のダミーページが面白くての。中でも『バカを治す薬の作り方』はとても興味深く読ませてもらった。帰ったら早速作らせてもらうつもりじゃ」
 ルシェイメア・フローズンが楽しそうに言った。
「『数学 2−C 高務○○』こと『黒歴史帳・第参巻』の一巻と二巻が読みたい!」
 単刀直入に棗絃弥が叫んだ。誰かにとっては、止めとも言える一言であった。