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ぼくらの実験記録。

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ぼくらの実験記録。

リアクション

「さてと、じゃあこれから巣穴でお湯沸いてるって話だから、そこに行ってみない?」
 葵の提案にエレンディラが快諾する。
「いいですねぇ……葵ちゃんと一緒に足湯…素敵です〜…ってちょっとイングリットちゃん! 何を食べてるのですか!」」
 イングリットが口をもごもご動かしている。
 とてつもなく嫌な予感。
 手に持っているのは黒い固まり。
 嘘だと思いたいが嘘ではない。あの佃煮だ! ポケットに忍ばせていた、あの佃煮だ!!
「吐き出しなさい!」
「え〜だって美味しいよ〜? 今、南国風味とタネ子エキスの二つ食べちゃった〜」
「な……」
「だ、大丈夫? イングリットちゃん!?」
「大丈夫って何が? 全然普通……あれ? あれれ? 見て見てイングリット羽生えたにゃー」
「あぁ……」
「ん? でも飛べないにゃー、なんで?」
「厄介事が増えました…」
 がっくりと肩を落とすエレンディラの横で苦笑する葵だった。

清良川エリスが記します


15時15分

ケルベロス君のお嫁さんになる事考えすぎてうっかり失敗しかけました

ですけど、皮のカリカリ揚げは意外なぐらい美味しゅうでけはりましたんえ?


「……エリスさんは、ケルベロス君のお嫁さんになりたいのかぁ。そっかぁ」
 あさってな事を書いているエリス(代筆?:ティア)を気にせず、素朴に思いを馳せるネージュ。
 よく分からない人型が、首の沢山付いた化け物を思ってハートマーク散らしてる図が描かれている。
「あっ、いけない。前の人のを読んでる場合じゃなかった!」

15:30 記録者 ネージュ


驚いたよ!

素朴佃煮を食べた人は凶暴化するし……って、蚊になったのかな?

南国風味を食べた人の背中には羽が生えてハエになるし!

なんだかよく分からないけど、手をしゃかしゃかこすり合わせて、顔を小刻みに傾げるの。

タネ子さん風味は触手が生えて……

あたしの目の前で、数人の生徒が歓喜の声を上げながら、触手に向かって飛び込んでいったんだよね。

いくら何でも、もうちょっと空気は読むべきだと思ったよ。

それから〜それから〜…赤ん坊になってばぶばぶ言って人もいたし!

怖い、はっきり言ってホラーだよ。

目がいっちゃってる!


「だけど、どうしてあんな事に……」
 ネージュは天井を見上げ呟いた。
 張り付いている何体かのハエ……いやあれは……氷雨ちゃん? 夏菜ちゃん、勿希ちゃん??
「あんな高い場所に行っちゃったら、捕まえるに捕まえられないよ」
「捕まえなくていい!」
 禰子が横から叫んだ。
「うわっ、びっくりした。いたの!?」
「間違っても夏菜を虫取り網なんかじゃ取らせない。捕まえようとするヤツがいたら、網を光条兵器でぶった切ってやんぜ」
「で、でもあんなに高い所じゃ……助けてあげないと」
「大丈夫! あたしが素手で保護する!」
「……そっかぁ。早く降りてくるといいねぇ」
 大きく言いはしたが、天井を見上げて心配そうな目をする禰子だった。

(触手が生えてる! 面白い〜!)
 イシュタンは心の中で狂喜乱舞していた。
 最初は様子を伺っていたイシュタンだったが、触手を生やした面々が羨ましくなり、自分も同じように佃煮を食してみた。
 何これ超楽しい。
 指の先が触手になって蠢いている。自分の思い通りの場所へと伸びていく。
(あ、ミルディ!)
 ミルディアは自分の変化についていくことが出来ず、呆然としているようだった。
 顔には出なくてもあたしには分かる。
(こんな時こそ楽しまなきゃなのに。……そうだ!)
 イシュタンは自分の触手をミルディアへと向かわせた。
(くらえっ!)
(──きゃっ! 何これ!)
 さわさわとミルディアの身体に巻きつくイシュタンの触手。
 直に感じるわけではないけど、なんだかくすぐったくてたまらない。
(いしゅたん、やったね〜)
 ミルディアも負けじと触手を伸ばす。さわさわさわさわ、おかしな光景が繰り広げられた。

「だ〜! 逃げ足速くねえか? 傷つけずに捕獲なんて難しいだろ」
 レイスは息を切らしながら飛び回るハエ達を追いかける。
「難しいのは百も承知ですよ、あの人達は昆虫ではなく生徒ですから! 元に戻れば普通の人間です……」
 天井に張り付いている姿を見やりながら、翡翠は語る。
「石でもぶつけりゃ正気に戻るんじゃねえか?」
「さすがにそれは……」
 頭をかきながら翡翠が苦笑する。
「それにしても、一体どうすれば元に戻るのでしょうか」
 翡翠はノートに記録を始めた。

16:00 記録者 翡翠・レイス


南国風味を食べた者は、ハエと化して飛び回り捕まえることが困難です。


えらい迷惑だぜ!


「レイス……そんな事を書いてはいけませんよ」
「あっ、悪い。つい本音が」
「凍らせて動きでも止めましょうか。効果無いかもしれませんが」
「お、いいねぇ。やってみる価値はあると思うぞ?」
「それでは──」
「………」
「………………」
「呪文が効かない?」
「はい…さすが温室で巣食っていた虫の佃煮。……恐るべき威力です」

「──オルフェリア様〜」
 情けない声を出しながら、ミリオンは檻に張り付いていた。
「なんて痛ましいお姿に……」
「ぶ〜んぶ〜んぶ〜ん」
「あぁ〜〜…!」
 その隣で、一緒になってハエと化している郁乃と桃花がいた。
 凶暴化……いや、蚊化している優梨子は、どうも同じ佃煮仲間は襲わないらしい。
(しゃかしゃかしゃか)
 郁乃が手をこすると、それに合わせて桃花が。
(しゃかしゃかしゃか)
 続いてオルフェリアも。
(しゃかしゃかしゃか)
 ハエと化した人には、自我は存在しないようだ。
(しゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃかしゃか)
「うわ〜! 皆が便に群がるハエになってしまいました〜〜〜!」
 ミリオンの叫びが、温室に悲しく響き渡った。

 つかさは獲物を求めて触手を伸ばしていた。
 中々人が現れない。
 犠牲になった人達は疲れきっていて、もう役に立たない。
(誰か来てくれないかしら)
 その時。
 記録係の、のどかがふらりと現れた。
「触手の森……やっぱりあきらめきれません〜…」
 そう言いながら何かを求めるように辺りに目を走らせている。
 先程、あと一歩で犠牲者の仲間入りになろうとしていた時──偶然通りかかったラルク、剛太郎、藤右衛門に助けられてしまった。
 もとい、助けてもらった。
 剛太郎、藤右衛門は、助ける事に乗り気では無いように見えたが、ラルクは真剣だった。
(餌食にならずにすんだのは有難い事に違いないのですが……) 
「あ!」
 再び、のどかは見つけた。
 タネ子エキスの佃煮を食べた生徒達を。つかさの姿を。
「みなさん……あ、あの、一応記録用に証拠写真を撮っておかなくてはでございます」
 二、三枚ぱしゃぱしゃと写して吐息をもらす。
「──え?」
 待ってましたと言わんばかりに、のどかの足につかさの触手が絡みつく。
「ちょっ、いや、助けて!」
 ずりずりと引きずられていく。
 そして更にラムズと手記の触手も絡み付いてくる。
「〜〜〜〜〜!!!!」
(……中々楽しい趣向じゃな)
 手記が心の中で高らかに笑んでいる。悪魔の笑みだ。
(なぜ私までこんなことを……)
 複雑な思いで触手を動かすラムズ。
(皆様! 私の声が聞こえるでございますか? これから、のどか様を楽しませてあげましょう!)
(了解じゃ!)
 つかさの心の声に、手記が同意する。
(………)
 まるで自分の手が動いているかのように、艶かしくのどかを責め立てる。
「やぁ……あぁああん!」
(あれ? この気持ち…楽しい? 楽しい…かも……)
 乗り気でなかったラムズまで開花させる──恐るべき威力を持つ南国風味佃煮だった。
 いや。もともとの気質かもしれない……

(あっちも楽しんでいますね)
 満夜は心の中で小さく微笑んだ。
 目の前にいるのは留美。
 今、彼女を抱きしめるかのようにして触手を絡ませている。
 蠢かすごとに嬌声をあげる留美。
「い…やあ、だめぇえぇ……」
 逃げようとする身体を押さえつけ、更に触手を這わせる。
「うんっ……! んっ、ん」
(あぁ、こんな事したくないのになぜ……)
 離れようと思えば思うほど満夜の触手は何故か留美に吸い付いていく。
(まさか……願望? 私の心の奥底の??)
「もっ…助けてぇ……」
 ぐったりとしている留美に追い討ちをかけるかのように、制服の中へと触手を滑り込ませていく。
(あぁあぁ〜〜〜私じゃない〜〜〜!)
 心の中で絶叫する満夜だった。

「やっぱり凄いな……風呂も良かったが、やはり触手に勝るものはないな」
 大佐はカメラを片手に、触手に身悶える面々の様子を映していた。
「おぉ! ロザリンドが! 彼女も良い被写体なのだよ〜
「あ…あぁっ……!」
 悶えるロザリンドを見ながら、笑いが止まらない大佐。
「そいうえば我は触手に襲われないのだが。寧ろ避けられる。何故だ?」
「…っ、助…けて……」
 どろどろの服をかき抱きながら、アリアが助けを求めてきた。
「………」
 大佐は一瞥すると。
 よろけたふりをして触手を蠢かす生徒達の中へと押し戻した。
「あ。すまん、すまん。ちょっと転びそうになってしまったのだよ」
「え……きゃあ、あぁあぁああ、いやぁ……!」
 再び恰好の餌食となるアリア。
 その光景を決して逃すまいと、大佐はカメラをしっかりと構える。
「やはり素晴らしい……最高に美しいシーンなのだ!」
 大佐の興奮は、マックスに近かった。