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第4章 秘めた真意Story1

-PM16:00-

「16時になったの、入ってもいい?」
 斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)大石 鍬次郎(おおいし・くわじろう)に、トンネルへ入ってもいいか聞く。
「あぁ、行くぜ。他の生徒よりかなり出遅れた感じだが、さすがに館からゴーストタウンには入れねぇからな」
「逸れないように手をつなごう、・・・・・・お譲」
 暗闇で少女が迷子にならいように東郷 新兵衛(とうごう・しんべえ)は、ハツネと手をつないで入る。
 彼らがゴーストタウンにそろそろ入った頃だと、陣たちが警戒する。
「そろそろやつらが来る頃やね。魂は絶対に奪わせないぞ!」
 捕まえたドッペルゲンガーを連れて、7階に待機していようと階段を上る。
 その頃、グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)たちは秦天君を捕縛しようとマンション内を探し歩いている。
「オメガにかけられた術を解く方法って、今のところ分かってんのは十天君を倒せば館から出られるってことだよな?」
「―・・・たしかそうだったはすだ」
 暗い廊下を歩きながら李 ナタが、グレンに確認するように聞く。
「まさかと思うけど自分たちでかけたその術は、自分らが死なない限り解けねぇなんて言わねぇだろうな」
「(やっぱり気にしているんですね)」
 ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は彼が思い人が狙われることになってしまうかもという考えに気づき、それを思うとやりきれない気持ちでいっぱになった。
「(もしそうだったら・・・俺はどうすればいいんだよ・・・・・・董天君・・・。あぁー!嫌なこと考えんなバカッ俺!)」
 最悪な状況ばかり想定する自分に怒り、ぽかっと己の頭を殴る。
「考えていてもしかたがない・・・秦天君を探そう・・・」
「ん?あぁ、そうだな!」
「(説得出来ればいいんだが・・・)」
 ナタクの心中を察してか、探してオメガを館から開放させようとグレンが先に進む。



「ぼっくんねぇ、こっちにオメガの魂がいると思うんだぁ」
「本当に?さっきから全然見つからないんだけど!」
 発見出来る気配がまったくないことに苛立ち、秦天君は鎌鼬を訝しげに見下ろす。
 柱の陰から緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)が使役するレイスは彼女たちの会話を聞き、彼に伝えようと壁を抜けてマンションの外へ出る。
「はぁ・・・使い魔たちは何をやっているんでしょうね」
 マンションの中をアンデットにオメガの探させ、遙遠自身は外から探している。
「おや、1匹戻ってきましたね。何か見つけたんでしょうか。―・・・何々、オメガさんの魂は見つけられなかったけど、なんだか怪しい2人組みを見た・・・?それは秦天君と鎌鼬でしょうね。そこへ案内してください」
 ロビーに入り10階へ向かう。
「いないですよ?本当にいたんですか。―・・・見つけてここへヨウエンを連れてきて5分も経ったから分からない?はぁ、もうちょっと早く知らせてください。まったくそれじゃあ役に立たないですよ」
 ため息をつく彼にレイスはしょぼんとする。
「いるかどうかなんて分からないじゃないですよ・・・って、あれは誰でしょうか。傍に鎌鼬がいるということは秦天君・・・?」
 4号室から出てきた彼女たちを見つけ、背の高い細身の女を軽く睨む。
「邪魔者が入り込んでいるんだから、早く探してくれないとねぇ。帰ってリーダーと酒を飲みたいんだからさぁ」
 秦天君はヘビースモーカーなのかさっきからずっとプハーッと煙管を吹かせている。
「何ですかあれは、着物の着方だけじゃなくていろいろと最悪ですね」
 飲み屋に人々を誘ってそうな雰囲気の女の態度に不愉快そうに顔を顰める。
「あんなのにオメガさんの魂を奪われるわけにはいきません。マンションから追い出してやりましょう」
 遙遠の存在に気づいていない女にブリザードの吹雪で奇襲をしかける。
「なんだいこの吹雪は!」
 とっさに壁際に逃れ着物の袖で防ぐ。
「おや残念ですね、凍らせて外へ放り投げてやろうかと思ったんですが」
「あんたが噂の氷のボウヤかい。焔のボウヤは一緒じゃないんだねぇ?」
「十天君の中で噂してるんですか、くだらないですね」
「噂っていうのは、あんたが焔のボウヤよりたいしたことじゃないっていうことさ」
 袂に入れたカルテのような資料を見せつけ、小ばかにしたように秦天君が笑う。
「それでヨウエンを怒らせて気を荒立たせようとしても無駄ですよ」
「事実を言ったまでさねぇ。仲間たちより今まで表立ってあんたが役にたったことがあるのかい?」
 アヤカシの女はクククッと笑い挑発する。
「戦ってみれば分かることでしょう。冷気の中で後悔させてあげますよ」
「あちきには認めるのが怖いように見えるけど?滑稽だねぇ!」
 軽業師のようにくるりと身体を回転して身軽にかわす。
「ほらほら、あちきは武器も術も使わんよ」
 廊下に両手をつき首筋を狙い蹴ろうとする。
「(本当に何も使わないなんて驚きですね・・・)」
 ぽっくりを則天去私で殴りガードする。
「いた、あんなところにっ!」
 争う声を聞き小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が参戦する。
「何も術を使わないのね」
「だからといって油断できませんよ美羽さん」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は拳を握り、廃校舎の保険室にいた医師の死を思い出し秦天君を殴る隙を窺う。
「たしかあんたはベアトリーチェだっけ?もしかしてまだあの野郎のことをひきずってるのかい?」
「―・・・っ!?」
 何で初対面のこの女が知っているのかと、彼女は目を丸くする。
「そんなにヘルドが死んだことがショックなのかねぇ。あの男もバカさ、恋人を蘇らせるなんて出来もしないエサに釣られるんだから」
 バカにしたようにケラケラと言う秦天君を睨み、悔しげに歯を噛み締める。
「よくも・・・ぬけぬけとそんなことを・・・!」
 怒りを爆発させたベアトリーチェが、光の気を纏わせ拳で殴りかかる。
「あんた、そんなにあいつが好きなのかい?」
「そ、そういうのでは・・・っ」
「じゃあいったい何だってそこまで悲しむ?あちきには理解出来ないねぇ」
 言葉に手を止めてしまう彼女の隙を狙い、懐へ飛び込もうとする。
「あなたのような腐った根性では、一生分からないでしょうね」
「しっかりしてください。あんな言葉に一々動揺しては命がいくつあってもたりませんよ」
 遙遠は槌の形状をした光条兵器を握り、罪と死の闇の刃を放ち防ぐ。
「そうよ、あいつは私たちを挑発して潰そうとしてるんだから!」
 気を乱さないよう美羽がベアトリーチェに鋭く言い放つ。
「死体があれば仲間にゴースト兵器の材料にしてもらいたいとこだねぇ。あんたたちがどんな顔をするか見てみたいからさぁ」
「ほんっとに最低ねっ!」
 美羽の怒りの拳が女の腕を掠める。
「あぁ〜きれいな着物とあちきの肌が傷ついちゃったねぇ。酷いことする子だよ」
「残念だけどあいつの死体が残ってないんだよねぇ、この世のどこにも」
「(死体は・・・見つかっていないの?)」
「まぁ死んだのは確実だけどっ。今一瞬、あちきたちが強化人間にして生きてるとでも思ったのだろう?笑えるねぇ、あっははは!」
 希望があるかもしれないと思うその隙をつき、美羽の脇腹を蹴り飛ばす。
「くぁっ!けほっけほっ・・・」
 苦しそうにむせ返り身をよじる。
「でも、そうしようにも作れる妖怪は私たちがすでに封神してしまいましたけどね」
「フッ。本当にそれで兵器作りを阻止出来たと思っているのかねぇ?」
「どういうことですか?」
「作り方のデータはあちきたちの手元に残っているということさ」
「そんなもの・・・作らせるわけにはいきませんっ!」
「おっと、あんたらとじゃれてる暇はないんだった。いったん退かせてもらうよ、おい鎌鼬!」
「うん・・・」
 しぶしぶ秦天君に従い、風となってあっとゆう間に彼女と消えてしまう。
「逃げられてしまいましたか。時間も稼げたことですし、潰すのはまたの機会にしましょう」
 追わずに遙遠は倒す機を待つことにした。

-PM16:35-

「まだ見つかってないみたいですね、オメガさんの魂。十天君が見つからなかったんで来てたんですけど」
 集合場所に来てみた朱宮 満夜(あけみや・まよ)だったかが、まだ誰も待機していない。
「乗り物が使えないとは不便だな。それは向こうも同じだが・・・」
 ミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)は階段を上ったり下りたりするのに疲れ、ぜぇぜぇと息を切らせる。
「そうですね。乗り物は使えませんけど、あっちは鎌鼬さんがいますから風で飛んで移動出来ると思いますが」
「な、何だと!?あいつらだけ楽をして我輩たちはこんなにも苦労しなければいけないというのかっ」
「だって鎌鼬さんは乗り物じゃないですからね」
「―・・・くっ、そういうことか!術なら飛べるのかっ」
「何を今更言っているんですか・・・。日早田村で地獄の天使や空飛ぶ魔法で飛んでいる生徒たちがいましたよ」
「そうだったな、しかし我輩たちに飛ぶ術はない・・・」
 敵や他の生徒たちは楽々移動していると知り、がっくりと肩を落とす。
「中庭に誰かいますね。ドアが開けられないですっ」
 ガチャガチャと窓を開けようとするが開けられなかった。
「ピッキングでも出来なければ開けられそうにないな」
「しかたありませんね、直接行って見てみましょう」
 部屋からでて満夜は内階段を駆け下りていく。
「何ぃい!?せっかく上ったのに、また下りるというのか!」
 苦労して7階まで来たのにも関わらず、あっさり下りなければいけない状況に、ミハエルが抗議の声を上げる。
「いやだったらエレベーターを使ったらいいじゃないですか」
「それは無理だ。あの中で霊に襲われたら洒落にならん」
「じゃあ戻る時は潔く上りましょうね」
「(くっ・・・これではどっちが鬼コーチからからんぞっ!?)」
 問答無用といわんばかりに言い放つ彼女に対して心の中で叫ぶ。
 中庭に出ると見知らぬの女と鎌鼬を、グレンたちが追いかけている。
「止まれ・・・俺たちはお前たちに危害をくわえない・・・」
「フンッ、信じられるものか!」
 グレンの言葉をまったく信じず、これ以上余計な体力を消耗してたまるかと秦天君は中庭を走り逃げる。
「敵のあんたらの考えていることは1つだけさねぇ。あちきたちを封神してオメガを館から開放しようっていうんだろ?」
「(捕まえてなければまともに会話をしてくれそうにないか・・・。十天君を殺さずに和解できればいいと考えている俺は・・・甘いんだろうな・・・)」
 命がけの戦いにおいてそれは甘いのかもしれない、そんなことを心の中で呟きため息をつく。
「あの村と違って完全に実現化したゴーストタウンの中で死んじゃったら封神されるからねぇ。捕まる分けにはいかないのさ」
 銃を避けながら秦天君は建物内に逃げ込む隙を窺う。
「動く的はさすがに狙いづらいですね」
 ソニアは彼女の動きを止めようと、ターゲットの足を魔導弓で狙うがなかなか射ることが出来ない。
「おい、小さいのもいるんだろう?どこに隠れているのか分からないけどねぇ」
「(ち、小さい!?)」
 いきなり秦天君にチビ呼ばわりされたナタクは、カチンッと顔に青筋を立てる。
「董天君のことが好きなんだってねぇ。孤島の施設の盗聴器で聞こえていたと、封神された子が言っていたよ」
「(そ・・・それがどうしたっ)」
 柱の陰に隠れているナタクは彼女の言葉に赤面してしまう。
「ガサツで怒りっぽいあの董天君が、こんなおチビちゃんに好かれるなんてさぁ。ねぇ、あの子のタイプ・・・教えてあげようか?」
「えっ・・・?」
 思いがけないことを言う相手に惑わされ、うっかり小さく声を上げてしまった。
「そこだねぇ♪―・・・また邪魔が入ったねぇっ」
 秦天君の拳がナタクの顔面に届く寸前、満夜とミハエルのサンダーブラストで阻まれてしまう。
「そっちのいけすかない吸血鬼の方から畳んでやろうか」
 プハーッと一服して煙管を咥え、ギロリと獲物を見るような目つきでミハエルを睨む。
「族か何かを思わせるようなずいぶんと汚い言葉使いで喋るのだな」
 落雷の雨を降らせ、魂探しをさせないよう秦天君を妨害する。
「えぇいっ、みっともない。肌くらいちゃんとしまえ!」
 だらしなく着崩れないように、ちゃんと着物を着ろけしからんというふうに怒鳴る。
「なんだい?あちきの肌を見たくらいで顔が赤くなんて、ウブだねぇ」
「何デレデレしてるんですかミハエル、まともに戦ってくださいっ」
 プチンときた満夜がミハエルを叱る。
「こっ、これがデレデレしているように見えるのか!?」
「見えます」
「―・・・!?(このままでは我輩という存在が、ヘンタイのように見られてしまう!)」
 満夜にじっと目で見られて即答され、彼は雷に打たれたようにショックを受ける。
「違うっ違うんだ・・・誤解だ満夜っ。我輩は・・・我輩は・・・・・・っ!」
 なおも疑いの眼差しを向けられたミハエルは戦意を喪失してしまう。
「おやぁ?痴話喧嘩かい」
 煙管を吹かし2人を見物する。
 余所見をしている隙にとソニアが董天君に矢を放つ。
「おっと、そう簡単に邪魔させるわけにはいかねぇな」
 ベルフラマントで身を隠してやってきた鍬次郎が雅刀で矢を弾く。
「(やれ、ハツネ)」
 隠れているハツネに生徒へ不意打ちをくらわすよう視線を送る。
「うん・・・」
 彼に褒められたいがために消えている照明にぶら下がり、飛び下りて背後から満夜に不意打ちをくらわそうとする。
「きゃぁああ!?」
 両腕を刃で斬られ、あまりの激痛にまともに術が使えなくなってしまう。
「まさか他の生徒が十天君に協力するなんて、迂闊でした・・・」
 痛む傷口を手で抑えてハツネから離れる。
「ま、満夜!?くっ、敵はあの女たちだけではなかったか!」
 彼女の叫び声にミハエルは潜んでいるハツネを探す。
「(ククッ。殺気看破だとかない限り、ブラインドナイブスからそう簡単に逃げられないぜ)」
 ニヤリと笑い鍬次郎は隠れたまま秦天君の傍へ寄る。
「悪人商会の1人として協力してやろうか?」
「あちきたちの側ということかねぇ」
「そうだぜ。っと、その前に・・・言っておかなきゃいけねぇことがあるんだ」
「何だい。何か条件でもつけようっていうのかい」
「条件か・・・フンッ、強いて言えば裏切らないことだ。裏切りといえば・・・鎌鼬はもう十天君に協力する気はないぜ。こいつは他のやつらにいいこちゃんにされたんだ」
「ほぉお〜。そいえば、魂から遠ざけるようにマンション内を無駄に歩かされたっけねぇ。しかも・・・氷のボウヤたちが襲撃した時、あちきを助けてくれなかったし」
 彼の話を聞いた董天君は、殺意に満ちた冷たい眼差しを鎌鼬に向ける。
「そこでだ。ここはなんとしてでもいったん、逃げなきゃいけねぇ。捕まったら話になられねぇかならな。あんたもだいぶ体力を消耗させられいるようだから、鎌鼬を生徒たちの人質に差し出すんだ」
「人質になるのかねぇ?」
「よく思ってねぇやつもいるしな、あいつが煮るなり焼くなりどうなろうと構わねぇだろう?」
「ふぅん。ひとまずあんたを信じるとするかねぇ」
「決まりだな」
 鍬次郎は新兵衛に視線を送り、作戦を実行するように伝える。
 ブラックコートを羽織った彼は鎌鼬の足を撃ち抜き、もう片方の足をハツネが斬りつけロープで簀巻きにする。
「逃がすなナタク!」
「分かってるぜっ。―・・・イッてぇえ!」
 グレンの声に痺れ粉を董天君に投げつけようとするが、ハツネに片足を刺されてしまい手元が狂い、後もう少しというところで粉が届かず逃げられてしまう。
「ほらよ、人質をくれてやるっ」
 簀巻きにした少女を鍬次郎がグレンに投げ飛ばす。
「くっ、不味いことになったな・・・」
「えぇ・・・説得は難しいでしょうね」
 ソニアは悪人商会の連中に阻まれたことにがっくりと肩を落とした。