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エリザベート的(仮想)宇宙の旅

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エリザベート的(仮想)宇宙の旅

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第19章


「わお。待ちに待ってた同型機対決――!?」
 がん! という衝撃と共に、操縦室全体が大きく揺さぶられた。同時に、大きく振り回される感覚。
 2号機が吹き飛ばされたのだ。
「……くっ!」
 詩穂が、何とか態勢を立て直す。
 殺気。避ける。
 また殺気。また避ける。
 殺気。殺気。殺気。避ける、避ける――避けきれない!
 衝撃――!
「詩穂さん!」
 動力席から美央が呼びかけて来た。
「両手両足を屈めて、前に向けるようにして下さい!」
 また衝撃。ただ、今度はもう少し弱い気もする。
 ルーツが動力席の方に振り向いた。
「ダメージ緩和を確認……! 〈素子〉の面を一方向に集中したから、防御系スキル効果の密度が高くなったようですね! さすがは美央さん!」
「『武術』の応用です。徒手空拳の戦い方には、いささか心得がありましたから」
「〈素子〉コーティング面のフレキシブルな運用……人型変形に、こんな活用があったなんて!」
「亀みたいに固まったままなんて詩穂のキャラじゃないね! この態勢でも、アイツ――『BSK』って言ったっけ――に接近する事はできるでしょ!? 近づいて、攻撃系スキルで……!」
「そいつはできん相談じゃのう?
 〈素子〉面を一方向に集中させておるから、飛行機の時程に推力を自在に働かせる、って事ができんわ」
「……『BSK』、〈迷子ちゃん〉に到着……!」
 スピーカーから彩羽の声がした。

 1号機のスピーカーからは、2号の置かれている状況が伝わっていた。
 「BSK」は探査船〈迷子ちゃん〉に到着し、最後の守り手となった。
 人型の2号機は、「BSK」への肉迫を図るが、〈素子〉コーティング面を防御に用いている為に、動きに融通が利かない。
「……現状のまま推移すれば、いずれ3号機は4号機に発見されるわねぇ……」
 焦燥を抑えながら、唯乃がぽつりと呟いた。
「見つかったら即撃墜、だろうな」
 アストライトが嘆息し、手を挙げた。
「……尻尾まいて逃げ帰る事を提案する。こりゃ勝てない」
「討って出る事を提案するわ。力を合わせれば、あるいは――」
「そいつは却下だ」
 唯乃の意見を正悟は切り捨てた。
「反対、じゃなくて却下?」
「俺達の任務は、〈探査船〉の回収だ。戦う事じゃない」
「このままだと、それ所じゃなくなるのよ? 話聞いてた?」
「このまま、ならね」
 正悟はニヤリと笑った。
「多分、状況は変わる」

「〈素子〉コーティング面、5%剥離」
 セルフィーナが操作盤を睨みながら言った。
「……これ以上無策で突っ込むのは危険ですね。コーティング面の損傷は、そのままこちらの戦闘能力の目減りを意味します」
「周辺のデブリをかき集めて盾なり砲弾にするってのはどうですか? 〈サイコキネシス〉は推力にしか使えないわけじゃないでしょう?」
 志方綾乃の提案に、セルフィーナが首を横に振った。
「デブリを集めた盾が、こちらの防御を撃ち抜くほどの『遠当て』に耐えきれるとも思えません。砲弾にしても、こちらは相手ほどの狙撃精度もありませんし……」
「……船外活動が出来れば、修理とかも出来たんでしょうけど。せめて手足の一本でも、推力制御に回せれば……」
「推力だったら任せておけ」
 スピーカーから声がした。
「こちら『OvAz』1号機、蒼灯鴉。これより2号機に合流する!」
「『OvAz』1号機、神野永太。こちらが『BSK』まで肉迫する推力を担当します。2号機は防御力を担当して下さい」
「2号機志方。役割分担は結構ですけど、どうやるっていうんですか?」
「……なるほど、やってくれるわねぇ?」
 操縦席で詩穂がニヤリと笑った。
「つまりさぁ、1号機と2号機が合体してグレート『OvAz』とかになるって、そういう事だよね!? やるねぇ、エヴァルト! 変形だけでもステキだってのに、まさか『合体』までサポートしてたなんて、大したもんだわ! 何をどう操作すればいいのかな?」
「……こちら総合管理、エヴァルト……悪い、合体までは気が回らなかった」
 スピーカーから、エヴァルトの気まずそうな台詞が聞こえた。
「えーう゛ぁーるーとー? しっかりしてよー? 合体・分離・変形は男の子のロマンじゃないのー?」
「いや、宇宙と飛行機とバトルって事で、変形があれば十分かと思ってさ」
「詩穂さん。こちらは人型です」
 美央が呼びかけた。
「1号機に騎乗するだけで、合体と同様の効果が見込めるはずです。私達は力を合わせ、仲間を守るために力を尽くす『宇宙の聖騎士』になりましょう!」

 1号機と2号機の通信は、3号機にも聞こえていた。
「正悟さん。あなた、こうなる事を読んでたの?」
「もちろん」
 唯乃の問いに、正悟は頷いた。
「美央の『宇宙の聖騎士』も?」
「……ごめん、それは読めなかった」