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リアクション
第11章
日が明けた――
「最終チェック開始」
騎沙良詩穂の宣言の後、操縦室内の各所から声がした。
「志方より1番動力席、異常なし」
「赤羽より2番3番、異常なし」
「オルフェより4番から6番、異常なし」
「神代より7番異常なし」
「全席全系統異常なし」
「念動推力充填開始――充填完了」
「〈素子〉活性化確認」
「『OvAz』2号機・騎沙良、発進準備完了。管制、離陸許可を」
「こちら管制、ルカルカ・ルー。離陸を許可します」
スピーカーの声を聞いてから、詩穂は操縦桿を倒した。
第3フライトが始まったのだ。
まずは、2号機が宇宙へ向かう。
最初に離陸するのが「2号機」と呼称されるのは、ひとりを除いて第2フライトのメンバーが搭乗しているからだ。
管制室。
「OvAz」2号機がパラミタ大陸を西に抜け、東南アジア近辺まで及んだ時、ダリルがマイクに顔を寄せた。
「こちら管制、ダリル。事前の打ち合わせどおり、これより管制は情報戦に入る。
以後、『OvAz』への支援はできない」
「『OvAz』2号機・騎沙良。
問題ないよ。乗員の中には『財産管理』使えるメンバーもいるし、『超感覚』や『殺気看破』で索敵もできるから、スタンドアローンで航行が可能よ。
地球の場所さえ分かっていれば、迷子になる事も無いわ」
「管制、ダリル。危険と思ったらすぐ帰還してくれ。宇宙を飛ぶ『OvAz』はもうそちらだけじゃないんだからな」
「『OvAz』2号機・騎沙良。でも今宇宙に向かってるのはこっちだけでしょう? 私達こそが『OvAz』ってもんよ」
「管制、ダリル。何にしても、無理はしないでくれ。グッドラック」
正面メルカトル地図で、「OvAz」2号機を示す光点が、進路を変える。
野武がダリルの方を見た。頷くダリル。
野武の指がキーボードを走り、.exeファイルを起動する。
「『OvAz』無限増殖開始」
直後。
東方へと進路を変えたメルカトル地図の光点が膨らみ出した。光点ではなく「光球」と化した「OvAz」2号機から、小さな光点がひとつ、またひとつと離れて──
いや、離れていく光点の割合は秒を追うごとに次第に高くなっていき、いくらも立たないうちに南シナ海は光点に覆われた。
光点の群れはその領域を広げながら東進し、上昇フェイズに入る頃にはパラミタ大陸西シャンバラ上空を埋め尽くすほどの成長を遂げる。
しかも、まだ広がる。
「『OvAz』群、大気圏突破」
野武が宣言する頃には、太平洋上空高度100キロ一帯に光の点が広がっていた。
「最初は蛍みたいだと思ったけどさ……」
メルカトル地図を見ながら、エースは呆然とした。
「……イナゴの群れだな、こりゃあ」
エースの評する「イナゴの群れ」は、太平洋上空から地球規模での拡散を開始し、文字通り地球上空を覆いつくした。
「第2段階に移行。今度はこっちから情報を攫うぞ」
ダリルの指示を受け、天貴彩羽がキーボードを操作した。
「……追跡経路上に、迎撃衛星群のコントロール発見。コピーします」
「全天の迎撃衛星群、姿勢制御並びに狙撃行動開始を確認」
翠門静玖がキーボードを操作。メルカトル地図のシベリア辺りにウィンドウが開き、地球とそれを取り囲む分厚い迎撃衛星群の模式図が浮かぶ。迎撃衛星の層のあちこちから線が伸びるが、その向きはデタラメで、第2フライト時の「傘地蔵」にはほど遠い。
「……射線はバラバラだな。増殖策は成功だ」
「迎撃衛星コントロールの対応能力の程度か分からん内は油断は出来ん。引き続き、衛星群の情報の監視を続けてくれ」
「了解。何かあれば報告する」
ダリルの指示を受け、静玖は手元のパネルの液晶に目を戻した。
(二度と『OvAz』は墜とさせねぇ)
「……迎撃衛星群のコントロール、コピー完了!」
彩羽の宣言を受け、ダリルがキーボードに指を走らせ始めた。
「俺は解析に集中する。何かあったら、ルカルカ、頼む」
「了解。なるべく早めに終わらせてね」
「力は尽くす」
セルフィーナの「庇護者」、赤羽美央の「フォーティテュード」「ファランクス」「オートガード」「オートバリア」「ファイアプロテクト」、ミリオンは「フォースフィールド」「ミラージュ」。
防御力を十重二十重に高めた2号機は、防御力に任せて個々の迎撃衛星に吶喊しては、騎沙良詩穂の「シューティングスター☆彡」、清風青白磁の「バニッシュ」、アンノーンの「サンダーブラスト」、ジョセフ・テイラーの「奈落の鉄鎖」等で片っ端から衛星を破壊していく。
時折、どこかの衛星からの攻撃が着弾するが、底上げされた防御力は熱や衝撃を完全に吸収し、2号機本体にダメージを通さない。
(増殖作戦は成功したようですわね)
セルフィーナは思った。「殺気看破」の反応は、まさしく蜂の巣にされた昨日のフライトとは大違いだ。密度からして全然違う。
今なら2号機だけで〈迷子ちゃん〉を回収できそうな気もする。が、
「『シューティングスター☆彡』ッ! 宇宙で使ってるんだから、コレがホントの流れ星だよねぇ? あはははははっ!」
と、嬉々としている詩穂に提案しても聞く耳を持つまい。
(まぁ、実際わたくし達は、囮なんですけれどもね)
本機・「OvAz」2号機の大気圏内上昇フェイズと同時に管制が起動させたプログラムは、地球上各地に設置された観測基地にダミーの情報をバラまいた。内容は「OvAz」の偽の位置・航行ルートだ。
今頃通信回線内では、1万にもなる膨大な数の「OvAz」が地球上空を飛び回っているはずだ。星の数ほどの迎撃衛星も、星の数ほどの「OvAz」相手ではその攻撃密度も大幅に希釈せざるを得ない。
その間に2号機は大気圏内を突破、迎撃衛星群のただ中に突入し、これらの殲滅に当たる、というのが任務なのだが――
(宇宙というのは、何と広いのでしょうね?)
迎撃衛星の個体間は数千キロ単位。敵全体への攻撃を可とする「サンダーブラスト」や「バニッシュ」も、個体単位への攻撃しか出来ずにいる。
消費されたSPはタブレットでいくらでも補充が効く、とはいうものの、手間を考えると気が遠くなってきそうだった。
天文学的数字――とりわけ理系分野の学問では、桁違いの数が定数なり概念として扱われるものではある。
が、それが形となった時、こんな途方もないものになるとは思わなかった。
いや。多分その途方のなさの万分の一も、自分はまだ味わってないのかも知れない。
第1フライトで「超帝」を目の当たりにした搭乗者達は、何という心の強さを持っていた事だろう?
(あれは、宇宙がエリザベート校長になって襲いかかって来たようなものですものね)
宇宙がエリザベート・ワルプルギスになって襲いかかってくるという状況なんて、並みの人間が遭遇したら間違いなく心が壊れるに違いない。
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