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リアクション
第10章
柊真司は、総合管理室の隅にゼレンを見つけると声をかけた。
「相席よろしいですか?」
「あぁ、かまいませんよ」
答えを受けてから、真司と、一緒にいた天貴彩羽、『ブラックボックス』アンノーンが「失礼します」「お邪魔する」等と言いながら同じテーブルの椅子に座った。
打ち合わせ用のテーブルが、一気に狭くなった。
(……質素な食事だな)
それが、ゼレンの食事を見ての全員の感想だった。彼がすすっていたのはカップラーメン。
「……えーと」
「? 何でしょう?」
話のとっかかりを求めた彩羽の質問は、次のようなものとなった。
「カレー味がお好きなのですか?」
口に出してから、彩羽は少し自己嫌悪に陥った。
「食べられるものは何でも好きですよ。一番好きなものは宇宙、ですけどね」
「魔法や超能力で宇宙に飛ぶスペースシャトル。物凄い発想ですね」
いち早くとっかかりをみつけたアンノーンが、近くの売店で買ってきた包みを広げて本題に入った。
「『OvAz』というのはイコンの一種なのですか?」
「全然違いますよ。あんな大それたものじゃありません」
答えながら、ゼレンはカップラーメンをすすった。
「内部には魔力を貯めたり伝えたり増幅させる為の仕組みがあるが、内実は自転車と変わりませんよ。
増幅魔力の最大出力にもある程度の上限があるし、発揮される力も搭乗者の魔力や超能力に依っているので、『隠された神秘の力』の類もありません。
何より、イコンと違って実物はまだ存在しない」
ゼレンは苦笑した。アンノーンは重ねて訊ねた。
「武装をつける構想はないんですか?」
「必要ですか? 搭乗者が攻撃系スキル使うだけで十二分でしょう」
アンノーンは第1フライト時のテストを思い出した――なるほど、確かに必要なさそうだ。
「ラビットホールの構造や原理について教えていただけませんか」
真司がサンドイッチの袋を破りながら訊ねる。
「建築物としての構造についてはノーコメントです」
ゼレンは答えた。
「用いられている魔法機械の一部については機密事項になっている所もあります。
天御柱学院さんにしても、『イコン・シミュレータの設計図と開発用資料を見せてくれ』と言われたらいい気はしないでしょう?
もっとも、仮想現実表現の原理については、ある程度は話せますが」
「うがえる範囲で、是非」
「では、お話しできる範囲で――
仮想空間の形成は、魔力で亜空間や疑似空間を生成して、その中に様々な事物事象を設定するというプロセスを取ります。
実験参加者はその中に飛び込んで自由自在に動き回るので、その中での体験は限りなく現実に近い仮想現実と言って良いでしょう」
「リアリティが高い反面、仮想ミッション参加者への危険度も高いですね」
「有事の際に備えて、亜空間から脱出する為のセーフティーはもちろんあります。総合管理室の操作盤を見ればそういうスイッチはありますし、シミュレーションルームの操縦室にも非常用のボタンはあります。
確かさっきも、蒼学から来られたシルフィスティさんがそのスイッチを押していましたね」
真司は、先刻の2回のフライトを思い出した。
「今回は、舞台が宇宙ですからね。確かに、その辺りの見極めは早め早めにしないと」
「まぁ、今回の『宇宙飛行ミッション』ではその辺りのセーフティーをもう一段階増やしています。
仮想宇宙に仮想のシャトルを飛ばして、さらにその仮想シャトルが受け取った情報を、シミュレーションルームに設置した操縦室に伝える、という形を取っています。
無重量状態になったり、外部からの刺激があれば揺れたりぐらいはする。けれど、仮想宇宙内のシャトルが破壊されたら、その段階で仮想シャトルと操縦席のリンクは切れます。コックピット周りにヒビでも入れば、その段階でシミュレーションは強制終了。
参加者の安全には注意してるつもりですよ」
「『OvAz』もラビットホールも、大変興味深いものだと思います」
彩羽が切り出した。
「情報を持ち帰って色々研究したいのですが、許可をいただけませんでしょうか?」
――正直な所、ミッション中に銃型HCと操作盤の端子を繋いで、少しばかり情報を掠め取ってはいるのだけど。
「柊さんにも言いましたが、それはご遠慮下さい」
ゼレンは首を振った。
「悪意のない好奇心とは分かるけれど、同じような事を他校の人間が『イコン・シミュレータ』やイーグリットの整備室にやったら、あなたはどう思われますか?
それに、取り出した情報の中に天御柱のネットワークやサーバーをグッチャグチャにするウィルスの類がないとも言えませんし」
「ゼレン氏がそういう事をする人とは思いません」
「私ももちろんやってはいません。
けど、『ラビットホール』立ち上げには私以外の人間もたくさん関わっています。外部に対して警戒している人もいるでしょう。
例えば持ち帰ったデータの解析を始めようとした途端、『超帝校長』の情報が解凍されて、お使いのコンピュータの容量を食いつぶしに掛かるかも知れません。お持ちのハンドヘルドコンピュータだけならともかく、迂闊に接続していた天御柱さんのネットワークやサーバーを『超帝校長』が大暴れ、なんて事になったら大変でしょう?
もし、持ち帰ろうとした情報があるならば、今すぐ消して下さい。いいですね?」
彩羽は銃型HCを取り出し、入手した情報を復元不可能な形で全て消した。
身長10万キロをゆうに超えるエリザベートが天御柱学院を食いつぶす――そのイメージが、鮮烈に頭に浮かび上がっていた。
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