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【2020年】ハロウィン・パティシエコンテスト

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【2020年】ハロウィン・パティシエコンテスト

リアクション


第2章 大作は団結力がないと進まないのさ〜♪

-AM1:20-

「香ばしく焼けたクッキーの匂いがなんとも・・・。いやいやっ、ここで食べてしまっては間に合わなくなってしまう!」
 いつ暴走するか分からない食欲を抑えながら、マナはオーブンからクッキーを取り出す。
 冷蔵庫に冷やしていた生地を使い切り、スポンジケーキをナイフで四角く切り分ける。
「(焼きあがったやつを張りつけるのだが。―・・・目の前にお菓子があるのに、食べられないとはコンテスト恐るべしっ)」
 今すぐにでも頬張りたいのを我慢し、ペトッと表面にクッキーを張りつける。
「家というからには色もないとな。同じような色ばかりでは目を惹かないのだよ」
 水飴をパーツに合わせて色づけして窓と窓枠も作る。
「ドアがあるからには、ドアノブと蝶番もいるな」
 スプーンやハサミを使ってそれらしい形に整えていく。
「これをさらに張りつけるのだが、1日目は中のパーツ作りだけで終わりそうだ。こういうものは美的感覚も必要なのだけど、それぞれに合わなければ意味がない!実際の家を建てるまではいかないが、それと同じように建たねばただのパーツのままで終わってしまうのだよ」
 いつになく真剣にペトペトと張りつけ、家の中のパーツ制作をする。

-AM2:00-

「やっぱりやるからには、皆がビックリするようなおーきな作品を作らなきゃね!そこで、私たちはお菓子の家を作ることにしたのっ」
 芦原 郁乃(あはら・いくの)は設計図をテーブルの上に置きズバァアンッと宣言する。
「設計図を作っててちょっと出遅れたけど、4人で力を合わせれば出来ないことはないよね♪」
「お菓子なのに図だけで手間取ってしまうなんて、甘く見ていましたね」
 カバンに定規やペンをしまいながら蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)がため息をつく。
「今から急いで作らなきゃね。えーっと小麦粉はー・・・あった!」
 荷物から出した郁乃は粉をザーッとボウルに入れる。
「桃花は郁乃さまにふるってもらった粉に、砂糖と卵を入れますね。マビノギオンさまはオリーブ油とレーズンを加えてください」
 分担して流れ作業をしようと、秋月 桃花(あきづき・とうか)は材料を混ぜたボウルをマビノギオンに渡す。
「はい、まずは家の中から作った方がよさそうですね」
「中からですね、じゃあ私は窓枠と窓を作っておきましょうか」
 手軽に作れる部分を担当する荀 灌(じゅん・かん)は、鍋に水飴と砂糖を入れて煮詰める。
「ちょっとだけ塩を・・・。金型も用意しておかなきゃいけませんね」
「伸ばして空気を入れるようにようすれば白くなりますよ。窓の色と同じにならないようにすると見栄えが少しよくなるかもしれませんね。それと飴は熱いうちに流し込まないと、すぐ冷えて固まってしまうので気をつけてください。型から外す時は飴が冷えきらないうちにお願いしますね」
「あっ、はい。分かりました!」
 桃花からアドバイスをもらいながら、窓枠のお砂糖スティックを作る。
「窓枠はこれで大丈夫そうでけど、次は窓ですか・・・」
 砂糖と水を鍋の中に入れて中火にかける。
「灌さま、かき混ぜないでくださいね」
「え、そうなんですか?」
「混ぜてしまうと色にむらが出来てしまうんです。色がついてきますから、こうやって鍋を回してください」
「やってみますね」
 灌はぷくぷくと煮立った鍋の取っ手を掴み、均等になるように回す。
「もう止めてもよさそうですね。さっき作ったやつをそろそろ型から外さないと・・・」
 べっこう飴を熱々のうちに金型に流し込んだ後、お砂糖スティック用の金型をパカッと外す。
「あぁっ、こっちのも外さなきゃいけないんですか!飴ってすぐ固まってしまいますね」
 指でそっと押しながら慎重に外し、テーブルの上において置く。
「マジパンは粘土細工みたいで作りやすいですね。」
 アーモンド粉末に砂糖と卵黄を混ぜ、千切って花の形にする。
「うーん中の部品だけで、朝まで結構かかりそうだね。暖炉に使うレンガを原寸並の厚みにしちゃうと、生焼けの部分があるかもしれないからちょっとずつ作らなきゃ」
「頑張りましょう郁乃さん」
「うん、そうだね。わぁ凄い、それレンガっぽい!」
「ただ四角くしてしまったら見劣りしますからね。スプーンでへこみやちょっと欠けたような部分をそれらしく見えるかと思ったんです」
「そうなんだ〜。どんな暖炉が出来るか楽しみだねーっ」
 生地にくっつかないように小麦粉をスプーンにまぶし、レンガの形を作っている桃花の傍に寄り感心したように言い、青色の相貌を目を丸くする。
「作るの早いなぁ、もう生地がなくなっちゃいそう。よーし、頑張っていっぱい粉をふるうよ♪」
 パタパタと粉をふるい材料作りの手伝いをする。



「2時間くらいたったみたいですね」
 テーブルに置いている携帯で時間を見たネージュは、冷蔵庫から出したプリンを焼き目を上にしてパイに入れる。
「粉砂糖を少しふって・・・そしてお菓子といえばこれですよね」
 ガスバーナーの火が表面を炙り焦げ目をつける。
「間に少しだけ生クリームを入れておきましょう。カボチャの種をつけて、蓋を被せるんです」
 プリンとパイの隙間にニュッと絞り隠し、種をつけた後に蓋を被せる。
 上の部分だけ粉砂糖をパラパラとふり、卵白と砂糖で作ったメレンゲにまだ使ってない小筆で顔を描く。
「私の作業は朝方には終わりそうですから、後は形をチェックして整えるだけですね」
 器にちょんちょんと筆をつけ、メレンゲが垂れないように気をつけながら黙々と作業をする。
「あしたもケーキクーラーに入れちゃったから、あまりやることがないんだよねぇ」
「デコレーションは終わったんですか?」
「うーん、今やると色が悪くなって鮮度が落ちちゃいそうだもの、当日の明け方近くにやろうかな」
 素材が痛まないようにと、見た目もよくしたいシアは飾りつけ作業を当日に回すことにした。

-AM3:00-

「ケーキは焼けましたけど、量的にこっちが難作業でしたね」
 マティエは泡立てた生クリームを2に分け、片方を橙色に染める。
「ふぅ、次はフルーツを切らなきゃ」
 包丁で林檎の皮をしゅるしゅると剥き、苺はヘタとぷちぷちと取ってから蜜柑の皮を剥く。
「大きいと食べづらいでしょうからね、一口で食べられるようにしておきましょう」
 試食する人たちのことを考えて、フルーツたちを小さなサイズにする。
 痛まないように冷蔵庫へしまい、林檎は変色しないように塩水につけておく。
「えっとその後はチョコを溶かすんでしたっけ」
 板チョコをざくざくと刻み湯煎でドロドロに溶かす。
 溶けたチョコに小筆の先をちょんとつけて、ランタンの両目と口の形をつるつるした板の上に描く。
 少し固まってきたら丁寧にいたから剥がし、トレイに並べて冷蔵庫の中に入れて冷やす。
「まだまだ作らなきゃいけないんですよねこれ」
 チョコの部分を沢山作らなきゃと、眠たい目を擦りながらも作り続ける。
 瑠樹の方はというと人数分のクッキーが焼き終わらず、悪戦苦闘しているようだ。

-PM12:00-

「このカボチャ、カボチャめ!」
 ほこほこに茹で上がったやつをテノーリオがマッシャーでドスドスと潰す。
「もうすぐ終わるからそんなに苛立たなくてもいいじゃないか。潰したらそれこっちにちょうだい」
 大量のカボチャと格闘する彼に、もうちょっとだからとトマスが言う。
「いや、なんかこうすると悪魔っぽい感じがすると思ってさ」
「あー確かに。作ってる光景もそれっぽくしたらいいかも。よし、やっとカボチャのペーストが出来上がったよ。それじゃあジオラマのレイアウト作成を始めるか」
 トマスはA1サイズの紙をテーブルの上に広げて、図面をシャーペンで描き始める。
「史実のヴラド・・・なんとかいうドラキュラ伯爵のモデルが守ったお城の形ジオラマなんだけど。土台はスポンジやさっき作ったペーストとかを使って作ろう」
「壁はどうするんだ?」
「ごつごつした感じにしたいよな、城塞としての城だから砕いたナッツ類を使うか」
「人形の感じが殺伐としてるんですけど、本当にこんな感じにするんですか・・・」
「あぁ夢のお城じゃなくて、血なまぐさいお城だったらしいからさ」
 眉を潜めて串刺しの異教徒の絵柄を指差す子敬に、物語に出てくる美しい城じゃなく鉄分の香りが充満しているようなところなんだと説明する。
「そ、そうなんですか。(いいんでしょうか、お子様も試食しにくるというのに)」
 彼らが設計図を作っている頃、北郷 鬱姫(きたごう・うつき)たちがお菓子作りを始めた。
「食べにくる人の分も考えて、今日から少しずつ作りませんとね」
 仮装しなければいけないとサイトで見た彼女は、おでこが半分くらい隠れるくらいのカボチャ帽子を被り、ボロボロの布を羽織っている。
「そうじゃなぁ。試食しに来るのは校長たちだけでないからのぅ。して、何を作るのじゃ?」
 身体に包帯を巻きミイラの格好をしたタルト・タタン(たると・たたん)が、薄力粉の入った袋をつんとつっつき鬱姫に聞く。
「タルト・タタンです」
「何じゃ?」
「だから、タルト・タタンですよ」
「うむ、なぜわらわの名を呼ぶのじゃ?」
 何度も自分の名を呼ぶ彼女を見上げて不思議そうに首を傾げる。
「あっいえ、お菓子の名前ですよ」
「おー、そういえばそうじゃな。タルト・タタンか、食べたいのぅ」
 タルト・タタンは“美味しそうに食べていたから”とタルトの主である鬱姫が彼女につけた名だ。
 それ故に彼女にとってはとても思い入れのある菓子なのだ。
「(タタンじゃなくてパンプキンタルトの方がよさそうなんだが、逆らうと後が怖いからな)」
 ホロケゥ・エエンレラ(ほろけぅ・ええんれら)は何か言いたげだと察知されたタルトの視線から逃れるように、サッと材料の方へ顔を向けてごまかす。
「そういえばこれも仮装に入る・・・のか?入る・・・よな。たぶん・・・」
 獣人の彼は自前の狼耳と狼尻尾を生やし、狼男な仮装らしき格好をしている
「それなりの数を用意しなきゃいけませんからね、始めましょうか」
 ボウルに砂糖と塩を入れた鬱姫は、水をトポポッ・・・と流し入れ、泡立て器でシャカシャカと混ぜる。
「冷蔵庫がありますからそれで冷やしましょう」
「おーい、扉を開けてくれ。両手が塞がっているんだ」
「あ、はい!待っててください、今開けますね」
「零さないように持って来るのが大変だな」
 床に足を滑らさないように、抱えたボウルをホロケゥはゆっくりと運んで入れる。
「3人でやれば沢山出来そうじゃのぅ」
 零れないように、冷蔵庫の中へ慎重に置いたタルトがにんまりと笑う。
「カボチャを使ったお菓子が多くなりそうだから、タタンの方がいいかもしれないな」
 ホロケゥは強力粉と薄力粉をまとめてふるいながらぽつりと言う。
「駄狼、わらわの名を呼んだかのぅ?」
「いや。カボチャにしないでタタンにしてよかったかもな、っていうふうに言っただけだが?」
「ふむ・・・そうか」
 名を呼ばれたかとタルトはまた勘違いしてしまった。
「早く作りたいからって乱暴にこし器をふるうなよ。手で軽く叩いていればちゃんとこせる。で、粉が固まっているところはスプーンの丸いとこで、撫でたり軽く叩けば粉が落ちるからな」
「そうですね、粉がテーブルに飛び散ってしまいますし」
 鬱姫は彼の言葉にこくこくと頷きながらふるう。
「何・・・ボウルから出てしまうとな!?作る量が減ってしまうのじゃっ」
 テーブルへ飛んでしまった粉を使っても衛生面的に問題ないのだが、出た分を集めているのも時間がかかってしまう。
「次は常温に戻したバターを少し混ぜるんだ」
「やわらかくしておいた方が混ぜやすいんですね」
 ホロケゥの指示通りに作業しながら、鬱姫はなるほどというふうに言い、ゴムベラでさっくりと混ぜる。
「そこまでちゃんと出来たみただな。さっき冷やしたやつをそれに混ぜてくれ」
 2人の作業の進み具合を見て、冷蔵庫に冷やしているボウルの中にやつと混ぜるように言う。
 鬱姫とタタンは教えてもらった通りに、ザッと流し込み混ぜ込む。
「そうそう、下からすくいあげるようにな」
 自分の分がひと段落し、混ざってないところがないかボウルの中を見てチェックする。
「また冷蔵庫に入れて冷やすんだが、手を傷めないように休んでおけ」
「そうしましょうか」
 長時間の作業に耐えるために生地を冷やしている間、鬱姫たちはしばらく手を休める。