波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

【2020年】ハロウィン・パティシエコンテスト

リアクション公開中!

【2020年】ハロウィン・パティシエコンテスト

リアクション


第8章 味も思いもトリック・オア・トリート

-AM4:00-

「いろんな形のクッキーがあるね」
 北都は写真に撮り終夏とシシルが作ったクッキーを試食する。
「あれ?ラッピングにスタンプが押してあるよ。中吉だね」
「サイズ的に樹ちゃん食べられるね」
「カロリーも問題なさそうですわ」
 章とジーナもクッキーをもらう。
「牛乳と一緒にどーぞ」
 クッキーを食べた後に口の中がぱさぱさしそうだからと、終夏が温めた牛乳をカップに入れて渡す。
「ありがとう。ん、だ・・・大凶!?」
「フッ、あんころ餅にはお似合いですわ。ワタシは・・・大凶ですのー!?」
 2人揃って同じ不運なレアクジを引いてしまった。
「吉か」
「こたもきちー」
 林田とコタローは吉を引く。
「(ありゃー、まさか出るなんて思わなかったよ)」
 凄い引きに終夏は頬をぽりぽりと掻き苦笑する。
「クジです?私も引いてみますねぇ」
「きっと私は大吉じゃ!」
 エリザベートは吉、アーデルハイトは末吉だった。
「やったー!俺、大吉だぜ」
 嬉しそうに紫音はポケットにしまい込む。
「凶じゃなくてよかったどすなぁ〜」
「ふむ、吉か」
「ぬ?同じなのか」
 風花は末吉、アルスとアストレイアは吉を引いた。



「はぁ、やっと完成しました」
「うむ。いい出来栄えではないか」
 ぐったりとしているクロセルの傍ら、マナは満足そうにハロウィン的な洋館を眺める。
「わぁー、素敵な洋館ですぅ」
 完成した気配を察知したエリザベートはまた録画し始める。
「む。食べていいのかのう?」
「えぇ、そのために作ったんですから!」
 食べようとするアーデルハイトにどんどん食べるように言う。
「このコラーゲンボールなんかオススメですよ」
 洋館の周りに置いたジャック・オ・ランタンが美容にいいというふうに勧める。
「あら。翌日はお肌の調子がよくなるかしら?」
「たぶんそうですね」
「いただきたいですわ。お肉の味が濃厚なのにこってりとはしていませんわね、油的なものを感じさせないところが素敵ですわ」
 お肌にいいと聞いたラズィーヤは皿に盛り食べる。
「こりゃまた手が込んだのがあるな」
 紫音が珍しそうに周囲を観察する。
「健康を考えたものこそ、食べてもう人にたしての真の心遣いではないでしょうか!?」
 会場内にクロセルの声が響き渡り、いっせいに生徒が振り向き注目を浴びる。
「うん、美味いぞ」
「洋館が崩壊していくですぅ〜」
 エリザベートは録画しながら夢中で食べる。
「ルナ。つるぴちになれるかもよ」
 綾夜がルナティエールに食べるよう勧める。
「長い時間起きているわけだから食べておくか」
 審査の者や生徒たちに食べられ、あっとゆう間にコラーゲン類が全てなくなってしまった。
「洋館も美味しそう♪」
「む、ライバルかのう?そのドアは私のじゃ!」
 食いしん坊の雪白が現れ、アーデルハイトと競うように食べる。
「やだー、私のだもんっ。子供に譲ってよぉー。そのドア欲しい!私が食べるー、私が食べるのーっ!!」
「私の見た目は子供じゃぞ!?だから、このドアは私が食べるのじゃ、いやじゃっ。えぇい離すのじゃ!」
「むーっ!年は大人じゃないのっ」
「フッ、年など私にとっては些細なことじゃ。何せ心はいつまでも若者じゃからのうっ」
「それへりくつーっ」
「何とでも言うがいい、これは譲らぬ!」
 アーデルハイトは大人気なく雪白と奪い合いをし、とうとう洋館は跡形もなく倒壊した。
「待ちなさいっ。ちゃんと分けて食べれば争わなくて済みます!あぁあぁああ!?」
 クロセルが止める間もなく、完成したたばかりの洋館はほんの数分後に崩壊しきった。

-AM5:30-

「なんとか朝方に間に合いそうだな」
 涼介は出来上がったタワーに、残りの飴をかけて強度をつける。
 マジパン細工で作ったハロウィンキャラと、「HappyHalloween」とチョコで書いた看板をデコレーションし、クロカンブッシュを完成させる。
「もう飾りつけをしてもよさそうだねぇ」
 冷蔵庫に閉まっておいた飾りを出したシアは、ケーキにデコレーションをする。
「なんとか時間通りに出来たね」
 パイで出来たジャック・オ・ランタンの頭を落とさないように抱え、ネージュは作品用にちょうどいい場所へ置く。
「素敵なお菓子ですねぇ、崩すのがもったいないですぅ」
「うむ、美味しそうじゃ!」
 エリザベートとアーデルハイトはそれぞれ別々のコメントを言う。
「大ババ様、食べるだけじゃなくってたまには美術鑑賞として見てください」
「む?お菓子じゃろう、それすなわち食べるためにあるものじゃ!」
「食べるんじゃっ」
「いけません、大ババ様!また生徒さんたちが見ていないですぅっ、あ!?」
 必死に止めようとするが、パイにかぶりつかれてしまった。
「あら、お顔が欠けちゃいました」
「ごめんなさいですぅ」
「いいですよ、食べ物ですから」
 謝る彼女にネージュは、ちゃんと食べる物として作ったんですからというふうに言う。
「写真撮らせてもらうね。あれ?なんかカボチャの顔が欠けているよ」
 北都が撮る前にアーデルハイトがかじってしまったのだ。
「看板も・・・」
 2枚目を撮ろうとすると、目を離した隙に看板までかじられている。
「試食用のはないのかな?」
「いや、タワーからとってもらっていい」
「カスタードクリームとカボチャクリームなんだね。シュー生地も美味しい」
 涼介にメンバーのお菓子を飾る舞台から少しとってもらい、シュークリームを食べる。
「ケーキ美味かったのじゃ!」
「え?あ、なくなっちゃってる!?まだ予備があるからいいけどね・・・」
 いつの間にかシアのケーキまでアーデルハイトに食べられていた。
「僕が作ったやつ食べる?」
 口寂しそうにする彼女にリアトリスが、カボチャの飾りがついた爪楊枝で刺して皿に盛ったカボチャのスイートキューブを差し出す。
「遠慮なくいただくとしよう」
 一口サイズにカットしたそれには、小豆ソースがかけられている。
「ひえひえで、つるつるしたような喉ごしがいいのう」
「ソースに合っているね」
 北都も爪楊枝を摘んで食べてみると、冷たいキューブとソースの甘さが口の中に広がる。
「僕たちにもくれるかな」
「いいよ」
「ありがとう。和菓子なのかな?でも洋菓子っぽい感じもするね」
「このキューブ美味しいですね」
 綺人とクリスももらって食べる。
「―・・・しかし、これだけたくさんお菓子を食べたら、太ってしまいます。後でダイエットしないといけないですね。アヤ、後で手合わせしてください。いつもの倍の時間手合わせをすれば、きっと今日食べた分消費すると思うのです」
「クリス・・・手合わせするのは良いけど、いつもの倍の時間はきついな。―・・・僕、途中でバテるかもしれない」
「休みながらやれば大丈夫です」
「えっ」
 手合わせの時間が未知数な危機から逃れようとするが、そうきたかというふうにため息をつく。
 その頃、デンジャラスゾーンでもお菓子作りを終えようとしていた。
 トマスたちは2日目にはカボチャの種を砕いたやつで石畳の道までを作り、細かい部分の仕上げをしている。
「スポンジ抜きは小さいナイフで削るか」
 細かい作業はテノーリオがやり、子敬は作った人形はトマスが並べているが、レイアウトの微調整は子敬がやっている。
「さすが魯先生だな」
 馬に乗って城内視察の領主一行をトマスが配置しながら出来栄えに息を呑む。
「そんな、私なんてまだまだですよ」
 子敬は反逆し無残に処刑され、晒されてる串刺しの人形、騎士や領民たちの場所を調節する。
 串刺にされている人形の口はぱっくりと開かれ、血を流している雰囲気を表現している。
 領主はそれを覗くように眺め、口元をニヤリと笑わせている感じだ。
「これくらいなら平気ですよね。私がいた国ではもっと過激な処刑法があったようですし」
「どこもあるんじゃないか?昔はな、今は知らないけどさ」
 テノーリオは彼らの話に混ざりながら作業する。
「んー、こんな感じか?」
 トマスたちはどこに屍が転がっていてもおかしくない殺伐とした雰囲気の城を完成させた。
「わ・・・なんかいろんな意味で凄いな」
 もう完成しているだろうとやってきた樹は、城を目にするなり一瞬凍てついた。
「城か!?結構作りこんでるけど、食べる感じはしないけどな」
 永夜はもっと近くで見ようと床にしゃがむ。
「ほぅ、なかなかだ」
「串刺しになっている人形とかもいるのか」
 彼らの声を聞きやってきた淵と維もナッツでごつごつとした城を眺める。
「淵さん・・・可愛いにゃ〜・・・っと!」
 夢中で城を見る彼に抱きつこうとするが、はっ我に返り周囲を見回す。
「これから寒くなるのでお身体など冷やされないように」
 プレゼントを渡すのが風習だと淵に聞いた白い腰巻を渡す。
「姜維殿、俺からはこれだ。懐に忍ばせておくが良かろう」
 腰巻をもらった淵は彼にコンバットナイフを贈る。
「ん?ここにあった人形は・・・」
「これ砂糖菓子でしょうか、甘いですねー。え、食べちゃいけないんですか?」
 気づくと人形を1体セーフェルに食べられてしまった。
「処刑された上に胴体をぽっきり折られたみたいに食べられてしまったのか」
 哀れな人形を見て淵は可笑しそうに苦笑する。
「口の中で召されたみたいだな」
 トマスもつられて笑ってしまう。
「召し上がれと、天に召される漢字って同じだな」
「上手い、フォルクス。座布団1枚あげようか」
「ここでもらっても、持って歩くのは大変だぞ樹」
「人形・・・食べてもいいんですよね」
 今度は騎士がセーフェルの口の中で召されてしまった。
「お人形食べていんだよね?」
 串刺しにされている人形を雪白はがじがじとかじり、別のところでもらってきたお化けゼリーやシュークリームなどを頬張る。
 その様子を遠くからアーデルハイトがデジカメに録画している。
「お人形美味しいねー」
 さらに領民がユーリの口に放り込まれ、くたっとなってしまう。
「そうですね、小さいから食べやすいですし」
 この人形たちの真の脅威はドラキュラ伯爵ではなく、お菓子として食べてしまう2人だろう。
「(早くオメガ殿が菓子を食べて笑えるようになると良いが)」
 楽しげに会話をする彼らを見て、館の魔女もいつか笑顔になれる日が来るだろうかと心の中で呟いた。



「う、そろそろ本当に簡便してくれないか」
 パートナーたちと試食をしていた樹だったが、またもやウェストを気にし始めてしまった。
「まだ大丈夫ですわよ、樹様」
「しかしだな・・・」
「でしたら、ワタシと半分こいたしましょう♪」
「あぁ、ずるいカラクリ娘っ。樹ちゃんは僕と半分こするんだよ」
「いえ、ワタシとですわ。あんころ餅は引っ込んでなさいっ」
「んーや、僕とだよ!」
 ジーナと章は互いに譲るまいと、バチチッと火花を散らす。
「おねーたん、こたとはんぶんこー」
「そ、そうだなそうしよう」
「(えー、そんなぁ)」
「(コタ君じゃ主張出来ないじゃないかぁ)」
 こんなに近くダークフォース的存在がいたのかと、まさかの事態に2人はしょんぼりとする。
「(タルト・タタンは確かに樹ちゃんは半分にしておいたほうがいいかも)」
 砂糖だけじゃなくて、クッキーよりもバターを使っていそうだと章が心の中で呟く。
「タルト・タタンをちょうだい」
「何じゃ、わらわが欲しいのかの?」
「あ、悪い。気にしないでくれ」
 名前を呼ばれたと思ったタルトを、ホロケゥは調理場の置くへ安置する。
「お菓子のタルト・タタンも欲しいですけど、可愛らしいタルトさんが欲しいです」
 どさくさに紛れてエッツェルがタルトの傍へ寄る。
「悪魔のタルトの方はあげられないんだ、ごめんな」
 ホロケゥはそれは無理だと思わず苦笑する。
「こっちの方ならあげられるが?」
「はい、いただきますね。バターが結構きいている感じですね」
「それでいて・・・、リンゴの甘みもでていて・・・美味しいです」
 ネームレスが彼の感想につなげるように言う。
「タルトさんはいただけないなんて残念ですね。おや、こんなところに美しい女性が2人も。気づかないなんて私としたことがっ」
「カラクリ娘はどうでもいいけど、樹ちゃんはやめてね」
「んまっ!?何ですのそれ!―・・・酸味がなんともいえませんわ・・・、じゃなくてワタシはどうでいいってどういうことですの!あぁ、・・・バターの香ばしい香りが・・・」
 もらったタルト・タタンを食べながら、ジーナは百面相のように表情をころころと変える。
「何じゃこんなところで夫婦コントでもやっているのかのう?」
「こ、こんなカラクリ娘と夫婦だなんてまっぴらごめんだね!」
「こ、こんなあんころ餅と夫婦だなんてまっぴらごめんですわ!」
「息がピッタリじゃのう」
 同時に噛み付きそうな勢いで怒る2人に対して、アーデルハイトは表情を崩さずタルト・タタンを食べながら様子を見る。
「とっても美味しがったのじゃ」
 試食したアーデルハイトは何事も無かったかのように去っていった。
 人前で言い合いする2人に、林田はめまいがするというふうに頭を抱える。



「次は何を試食させてもらいましょうかね」
「―・・・エッツェル、プリンがあります・・・」
「ちゃんと僕が味付けしたから安全だよ、容器も食べられるからね」
 ライゼが“トリックかぼちゃプリン”を勧める。
「カボチャのプリンなんですか?」
 つんとスプーンでつっつき、エッツェルはカボチャが使われているのか聞く。
「どうかなぁ、審査後に分かるかもね」
「それまでヒミツということですね。色はたしかにカボチャじゃないみたいですけど、秋に食べるようなものの感じがします」
「カボチャスープもあるよ」
「いただきますね。―・・・ふぅ、あまり甘くないみたいですけど、砂糖は使われてないんですか?」
「うん、自然の甘さがあるからいらないかなって思ってね」
「そうなんですね、やたら砂糖使うよりこっちのほうが美味しいですね。ごちそうさまでした」
 スープを飲み終り、空っぽになった皿をテーブルに置く。
「プリンとスープ・・・自然の味が生きている・・・と思います」
 ネームレスがぽそっと感想を言う。
「垂さんは料理の味付けしないんですか?」
「え、あぁ。その辺はまだな」
「今度ぜひ、垂さんの味付けで食べてみたいですね」
 それを聞いたライゼはピシッと凍てつく。
「無謀だよ、チャレンジャーにもほどがあるよ!」
「どうしてですか?」
 垂の味付けの破壊力を知らないエッツェルは、全力で止めようとするライゼに首を傾げる。
「プリンがあるー!器も食べられるんだね」
「料理というのは器や食べるために使うもの以外は食べられるものだが。これは器も食べられるんだな。スープの自然の甘さだけというのもいいな」
 甘い香りを嗅ぎつけたユーリと淵は、プリンをスプーンですくい口へ運ぶ。
「よく考えて作られている感じがするな。しつこい甘さがなくていい」
 維は感心したように言い、器も食べきる。
「(向こうにも可愛らしい人たちがいますね)」
 エッツェルは他のテーブルへ視線を移し試食兼、口説きに行こうと椿たちのところへ行く。
「吸血鬼の仮装なんですか?椿さんになら血を吸われてみたいですね」
「えぇっ!?」
 口説かれた椿は思わず皿を落としそうになる。
「そ、そんな。いきなり言われても・・・照れるじゃんかよ」
「またそこが可愛いですね」
「うぅ、なんだよーもう!」
 突然言われて恥ずかしさと驚きで、椿は会場内を走り去っていく。
「おや、行ってしまいましたか。残念ですね。ん、あんなところに可愛らしい方がいますね」
 ミナの姿を見つけて声をかけに行く。
「試食しに来たんですの?」
「はい、いただけませんか」
「アーデルハイトちゃんがいつの間にか来て、全部食べて行ってしまったんですの。ですからこれは焼き立てのやつですわ」
 カボチャのオバケ型のケーキをエッツェルの取り皿に乗せてやる。
「なんだかケーキが輝いていますね?」
「フフッ、カボチャとチーズの黄金色パウンドケーキですのよ」
「この味はチーズなんですか、バターといい相性ですね。ミナさんとケーキをセットで持ち帰ってはいけませんか?」
「ごめんなさいね、コンテストが終わったら椿と一緒に帰るんですの」
「シナモンの香りで・・・爽やかな感じがします・・・」
 暴走しないように彼を追ってきたネームレスが感想を伝える。
「見た目の派手さと違って、チーズを使っているのにくどくなくって爽やかな感じがするな」
 試食用のケーキをナイフで切って永夜も食べる。
「ゴージャスな雰囲気が素晴らしいですわ♪」
 ラズィーヤはホークで食べて見た目も楽しむ。
「(そうでしょう、フフッこれは高評価が期待出来そうですわ)」
 試食している者たちの様子を見てミナは、勝利は目前といわんばかりに笑顔になる。



「次は何を食べようかな。あ、シュークリームがある!淵ちゃんだっけ、ユーリと一緒に食べに行かない?」
 1人で食べるのも味気ないなというふうに、ユーリは淵に声をかける。
「うん?あぁ構わないが姜維殿、姜維殿と一緒なんだがいいか?」
「皆で食べた方が美味しいよー」
「そうか、じゃあ行ってみるか」
 淵はユーリたちと悠希の作ったシュークリーム食べに行く。
「いくついります?」
「うーん9個もらうか」
「9個ですか、分かりました」
 取り皿に乗せたシュークリームを悠希が淵に渡す。
「ありがとう、さぁ食べよう」
 椅子に座って3人で食べる。
「皮がぱりっとしているな」
「うん、生クリームも美味しいーっ」
 ユーリは顔についたクリームを指で取り、はむっと舐める。
「しっかり皮が膨らんでいるな」
 維はそこまで考えてちゃんと作っているのかと言い、ちまちまと食べる淵を横目でちらりと見る。
「悠希さん、こんばんは」
「し、静香さま!あの、これ・・・。ボクが作ったんですけど、ご試食しませんか?」
「うん食べたい」
「(本当に悪魔の格好で来たんですね)」
 ラズィーヤの陰謀で悪魔の衣装を着てきた彼女をまじまじと見つめる。
 生地は黒光りする皮製で、カラーはブラック一色のようだ。
 胸元は見えそうで見えず、太ももが見えるギリギリな感じのスカートには、悪魔の尻尾の飾りをつけている。
 両手には薄手の手袋をはめ、足はかかとの高いハイヒールを履いている。
 頭には悪魔の羽の飾りつけ、唇にはブラックの口紅を塗り目の端にも同じカラーのメイクをほどこしているようだ。
「えーっと・・・試食の方の中にボクの心を捕らえて離さないイケナイ悪魔さんがいます!でもその方のことを考えると、幸せで仕方ないんですっ・・・。なので・・・今日はこのシュー爆弾の味で、幸せの仕返しをしちゃいますっ!」
 悠希は心を込めてチョコペンでシューの1つに1文字ずつ、SIZUKA LOVEと書いたやつをテーブルに乗せる。
 淵たち3人にはすぐに誰のことなのか分かったが、静香だけは分からないような顔をする。
「(気づいてもらえないんでしょうか)」
 せっかく作ったのにと、しょんぼりとした顔をする。
「悠希さん、これ誰のことかな?」
「え、あのっその・・・」
「ボクに分かるように教えて欲しいな、可愛い魔女さん」
「―・・・え!?」
 もう分かっているのにちょっと小悪魔な雰囲気で言う彼女に、悠希は思わずドキッとしてしまう。
「ごめんね、こんなこと言うのはボクに合わなかったね。ありがとう、嬉しいよ」
 静香はいつもの笑顔でにっこりと微笑んだ。
 普段の彼女と違う一面を見た悠希の心は、さらに彼女の虜となってしまった。



「ふわふわですが、とってもなめらかな口当たりで美味しいんですよ」
 真言は試食に来たラズィーヤに食べてみてほしいと勧める。
「ではいただいてみますわ♪ムースがとても上品な舌触りですわね」
 ラズィーヤは口元を拭い、小さなサイズのカボチャ型スポンジケーキを気に入ったように言う。
「こういうのも好きかな」
 ホークで食べ、静香は小さな口の中に入れる。
「淵ちゃん、マコトちゃんとこでケーキ食べていってよ」
「ケーキ類が多いが、変わった雰囲気なのか?」
「うーん。どうかな?」
「そんなに量もないから食べやすい感じはするな」
 ユーリに誘われて淵も味わってみる。
「見た目は素朴な感じだが、見た目以上に美味いな」
 小さなサイズなため維はすぐに食べきった。
「うーんまぁい!甘いのが苦手なやつでも食べられそうだぜ」
 派手さはないがこれもいけそうだと、椿も試食させてもらう。
「隣もなんか凄いな」
 瑠樹のところでお菓子の絵「ハロウィンの風景」の焼き菓子を食べさせてもらう。
「食べるのもったいないぜ。でも食べちゃえ!」
「クッキー美味しいっ」
 子供達クッキーが容赦なくユーリに食べられる。
「フルーツがいっぱい入ってる!」
 ジャック・オー・ランタンケーキを4分の1カットにして4人で食べる。
「生クリームを2種類使ってるのか?」
「なんだか腹の中で成仏させている感じだな」
「はははっ、確かにそうだ」
 淵と維はジャック・オー・ランタンをどれだけ成仏させたのかと可笑しそうに話す。
「まずまずな感じかな?」
「そうですね、もうすぐ作ったやつが全部なくなっちゃいますし」
 試食をしてもらっている光景を見ながら、瑠樹とマティエは不眠で作っていたけど美味しく食べてもらえてよかったと呟く。
「あっちのケーキ、食べに行ってみようよ!」
 ユーリは淵たちとミルディアのところへ走る。
「あたしも行ってみようっと」
 美味しいお菓子をもっと食べようと、椿は3人について行く。
「フフッ、来たね。あまり派手さはないと思うけど、味はばっちりだよ」
「んー、うめぇ」
「甘いの大好きー♪」
「これもカボチャを使っているのか?お菓子なのに、健康によさそうだ」
「表面の焼け具合がいいな」
 食べられていく“小さな角”が、丸くなったりほじられて変形したりしながら、どんどん小さくなっていきなくなってしまう。
「(食べられたら角じゃなくなっちゃうんだよね)」
 なくなっていくまでの様子をミルディアがじっと眺める。



「美味そうな大福があるな」
 会場にあるお菓子の作り方を学ぼうと紫音がオルフェリアたちがいるテーブルへやってきた。
 あおさカップケーキはバイキング形式でテーブルに並べられている。
「オルフェリアが作ったのか?」
 大福にかぶりつき2種類のお菓子はオルフェリアの自作なのか聞く。
「いいえ、オルフェはランタンを作っただけです。アンノーンが作ったんです」
「皮がなんか甘酸っぱいな?」
「そうどすなぁ〜、何が入ってはるんどす?」
 風花はぺろりと舐めて不思議そうに見つめる。
「餡はカボチャのようじゃが」
 アルスも食べてみて何が使われているのか考えてみる。
「むー、柑橘類っぽい感じがするのう。それしか分からぬ」
 食べきったアストレイアにも皮の隠し味のような風味が何なのか分からなかった。
「ミカンの果汁を入れたんだ」
「へぇーっ、そうなのか!カップケーキにも何か使っているのか?」
「あおさを使っている。海藻で食感があまり良くないが粉末にすればそれも感じない」
「なるほどな、勉強になるなー!」
 頷きながら紫音はカップケーキを食べ、意外なものが使われていることに驚く。
「ん、来ないな」
 そろそろ来てもいいはずだと、アンノーンは誰かを探すように周囲を見回す。
「何がですか?」
 その様子にオルフェリアは首を傾げる。
「エリザベートが来ない・・・」
「これだけの量がありますから、まだどこかにいるのでは?」
「そうか、ちょっと探してくる。ここを頼んだぞ」
「はいー」
 彼が探しているその本人は、明日香のところでお菓子をもらおうとしている。
「明日香、お菓子ください♪」
「待っていましたよ、エリザベートちゃん」
 ひょっこりとテーブルから顔を覗かせる彼女に、明日香がロールケーキをあげる。
「私がいっぱい描かれていますねぇ?」
「このケーキの作品タイトルは、“エリザベートちゃんへ捧げるハロウィンロール”なんですよ♪」
「嬉しいですぅ、私がもらったんですから大ババ様にはあげないですぅ〜」
 エリザベートは記念にデジカメで録画する。
「録画しているんですか?」
「はい、後で私たち4人で録画したやつを編集して動画サイトに乗せるんですよぉ。明日香もせっかく可愛い魔女さんになっているんですから、一緒に映りましょう」
 一緒に映ろうとテーブルにデジカメを置く。
「今からエリザベートちゃんがケーキを食べます♪」
 明日香は食べさせるところを録画しようとレンズに向かって言う。
「はむっ。ふわふわしていて美味しいですぅ。ココアスポンジのほろ苦い味と、カボチャのクリームがとっても合っているですよぉ」
「ここにいたのか、なかなか来ないから持って来たぞ」
 カボチャ大福とあおさカップケーキを皿に乗せてテーブルへ持ってきた。
「あおさは海藻で食感があまり良くないが、粉末にすればそれも感じない。磯臭さもクローブとバニラエッセンスで消したので問題ないようにしてある。パティシエコンテストだからお菓子ばかりなのは当然だが、不足しがちなカルシウムをミカンのクエン酸と白玉粉の蛋白質で吸収しやすいようにした」
 食べさせる前にアンノーンは作品の説明をする。
「・・・あぁ、言い忘れていた。トリック・オア・トリート」
 そう言いながらかエリザベートの前に、大福でもカップケーキでもなく、先に手作りのパンプキンクッキーを渡す。
「トリック・オア・トリートですねぇ♪」
 もらったクッキーは後で食べることにして、審査用のお菓子を食べ始める。
「大福はみかんの爽やかな香りと、ほのかな味がいいですぅ〜。カップケーキも可愛いですけど食べちゃいますよぉ。・・・大福とは違ういい香りがするですぅ、磯の匂いもしませんねぇ」
 アーデルハイトに食べられる前に、持ってきてもらったお菓子を全部食べてしまった。
「(録画されているのか?)」
 テーブルに置いてあるデジカメの存在に気づき、こっそりサプライズされているのかと目を丸くする。
「健康にいいんだね?美味しくって栄養も補給出来るなんて凄いね」
 北都は他の洋菓子とは違う雰囲気の彼が作ったお菓子をもらい、写真を撮ってから食べる。
「ふむ、美味しいがもうちょっと甘さが欲しいな」
 超甘党のセディは、明日香のケーキがもっと甘かったらよかったのにと言う。



「棺がありますねぇ」
 明日香からもらったケーキを食べながら、エリザベートはぽつんと置いてある棺の傍に寄る。
 そこはトマスたちやラムズが作品を出品しているデンジャラスゾーン化している場所だ。
「何かやるのか?」
 試食して回っていた椿も気づき、いつの間にか棺の周りに人だかりが出来てしまう。
「人が集まって来ましたね始めますか、危ないですから少し下がっていてください」
 遙遠は棺を囲むようにいる人々に、少しだけ離れるように言う。
「今日は、この棺の中にいる者に巣食う悪魔を祓います」
 悪魔祓いの姿の彼は棺に手の平を向け火術を放つ。
 中から苦しむようなギェエエーーッと金きり声が響く。
 その中のお菓子となる部分が失敗しないように火力が下がらないよう術を放ち続ける。
「おぉー、なんか悲鳴が聞こえるぞ。大丈夫なのか?」
「えぇ、大丈夫です。憑いている者が苦しんでいるだけですから」
 余熱で焼けるように術を止めてしばらく待つ。
「吹雪の寒さならたまらず出て行くでしょう」
 蓋を開けてブリザードで冷やし、まるで清めるかのごとく純白の生クリームを塗りフルーツを盛る。
「食べられるのか?」
「どうぞ、そのためにトッピングをつけたんですから」
「食べたいですぅ」
「生クリームたっぷりとな?」
 甘い香りに引っ張られるようにセディがやってきた。
「叫び声が聞こえたって、食べ物でしょ。ここにあるもんはお菓子なんだから食べれるはずだからねぇ、いっただきまーす♪」
 雪白はナイフをフォークを手に、ケーキに刺そうとする。
「(起きなさい)」
 食べようとする人が寄ってきた頃合を見計らい、遙遠は棺をコンッと蹴り中の者を起こす。
「うわぁあっ、お菓子が動いたぞ!?」
「な、なんだぁあ!」
 驚いたセディと椿はぺたんっと尻餅をつく。
「動くなんて面白いですぅ」
 エリザベートは拍手してきゃっきゃと喜び、動き回るケーキをはむっとかぶりついた。
「私も負けないぞ」
 食べてやるとセディも追いかけ回す。
 動くのは中にスケルトンが入っているからだが、そのことは遙遠以外知らない。
 ケーキを追いかける2人の姿は、はたから見れば飢えている獣が獲物を追いかけているようにも見える。
「2人が食べようとしてるってことは食べられるんだよな?あたしは他んとこ行くか」
 追いかけるように逃げないものを食べようと、椿は他の生徒のところへ行く。
「動くケーキ?面白いねーっ!ユーリ、甘いの好きだから食べるっ」
「俺たちも捕まえて食べるか?」
「そうだな、動く獲物みたいだし面白い!」
 洋菓子を追いかけえていくユーリを見て、淵と維も追いかける。
「待て待てぇーケーキ、逃げないでよー食べてあげるからさぁ」
 逃げるスケルトンケーキの足元を狙い、フォークを投げつけて雪白が獲物を転ばせようとする。
「(まさか全て食べるわけじゃないですよね?食べてもカルシウム的な感じがしますが)」
 遙遠は追われている者を遠くから見守る。
 中の者、スケルトンの運命やいかに・・・。

-PM15:00-

「エリザベート、こんなところにいたのね。お菓子を集めてきたわよーっ!」
 審査用のお菓子を集めたルカルカが手を振る。
「んう?」
 動くケーキにかみつきながら、彼女の方へ振り返る。
「ありがとうございますぅ」
 テーブルに並べてもらったお菓子をさっそく食べ始める。
「ヴァーナーさんのお化けゼリーはぷるぷるしてて可愛いですねぇ。真さんと蒼さんのびっくりおもちゃ箱はイラストも素敵ですけど、ワッフルやアイスとかがあっていろんな食べ方が出来ていいですねぇ」
「菊たちのパイは使われなかったものを再利用する発想がいいのう、自然の甘さ重視な感じがするのじゃ」
 アーデルハイトもお菓子の審査を始める。
「由宇さんが作ってくれたアイシングクッキーは、さくさくしてて美味しかったですねぇ、イラストも可愛いですぅ」
「ラムズのアップサイドダウンケーキは、作り手の格好がアレじゃがリンゴの甘さが出てよかったぞ。カボチャとチーズの黄金色パウンドケーキはミナが作ったんじゃな?ゴージャスな雰囲気じゃから、濃厚な味かと思ったが素材の味がとっても生きていたぞ」
「瑠樹さんが描いてくれたハロウィンの風景は、見た目も楽しいですねぇ♪マティエさんのジャック・オー・ランタンケーキは可愛いんですけど、美味しそうだったんですぐ食べちゃいましたぁ♪グロリアーナさんたちの三色プディングは英国の味なんですねぇ?作り方が簡単なところもいいですぅ。開閉式のプディング収納スペースがあるのも素敵ですよぉ」
「パンプキンムースケーキの口当たりがいいのぅ、作ったのは真言か。見た目は華やかではなくても、これはこれで素晴らしい味じゃ!」
「このシュークリーム、悠希さんが作ってくれたんですねぇ。シュー生地がちゃんと膨らんでいて歯ごたえもいいですぅ。透乃さんと陽子さんの和菓子は、見た目がとても美しいですぅ。丁寧に仕上げられた餡が絶妙ですよぉ」
「ミルディアのこのケーキは、表面がカリカリじゃのう?ふわふわのケーキもいいが、こういうのもいいのう。そして砂糖菓子、ファンシーでとっても可愛いのじゃ!」
 直接食べに行ったお菓子以外、まだ食べていないものを席に座り2人で審査する。
「審査を始めているのか。俺とライゼでトリックかぼちゃプリンを作ったんだが食べてみてくれ」
「スープも飲んで!」
 垂とライゼが作品をテーブルに提出する。
「どことなく秋の味がしますねぇ」
「うむ、器はカボチャの皮のようじゃな」
「えぇ、でもなんかプリンはカボチャではない気がしますぅ」
「フフッ分からないか?実はサツマイモと栗なんだ」
「そうなんですかぁ!?」
 プリンに使われている材料を聞き、エリザベートは驚いたように目を丸くする。
「マロンな味がとっても含まれていて美味しいですぅ♪」
「ねぇ、私たちのも食べてみて!」
 ジャック・オ・ランタンのパンプキンパイを美羽とパラミタペンギン3匹が審査員席に運ぶ。
 彼女たちが食べる直前に、クーベルチュールチョコレートで作ったチョコソースを使い、パイの表面にジャック・オ・ランタンの顔を描く。
「チョコペンでイラストが描いてありますねぇ。ジャック・オ・ランタンが笑っているんですかぁ?可愛いですぅ」
 オーブンで焼かれた出来立てのパイをエリザベートは嬉しそうに眺める。
「パンプキンクリームに食感が残っていてとっても美味しいですよぉ〜♪」
「うむ。食感は大事じゃ」
「やっぱりそうなのね!」
「やりましたね美羽さんっ」
 いい評価がもらえるかと思い、美羽はベアトリーチェと喜び合う。

-PM16:30-

「あれ、淵がいないわ。―・・・。(渡すなら今しかないわね)」
 いつの間にか真一郎と2人きりになったルカルカは渡すなら今かもと、抱えている箱をぎゅっと抱きしめる。
「なんとか一通り終わりましたから、ちょっとそこで休憩しませんか?」
「そうね」
「結構歩いたから疲れたでしょう?」
「でも楽しかったわよ、真一郎さんこそ重たい袋を引きずって疲れたじゃないの」
 2人がけのソファーに座り、互いに“お疲れ様”というふうに言う。
「これからだんだんと冷えてくるでしょう?このダウンジャケットを着て、風邪をひかないように暖かくしてください」
 彼女にプレゼントとしてダウンジャケットを渡す。
 デザインは彼の好みでシンプルに、それでいて機能的な作りになっている。
「ありがとう真一郎さん。これ私から・・・」
 抱えている箱を思い切って彼に渡す。
「何が入っているんですか?」
「開けてみて」
「はい。―・・・これは、俺のためにわざわざ作ってきたんですか?」
 箱を開けるとルカルカの手作りの、鶏肉とキノコのキッシュが入っている。
「ルカが作ったの・・・」
 形は崩れてコゲ気味、ルカファミリーのシェフに厳しく指導され何個も作ってやっと出来たのがそれだ。
 “幸運なら入院せずにすむかもしれない程の危険物”なのだ。
「―・・・やっぱり、見なかったことにしてっ。こんなの渡せないわ」
 彼の手から奪うように箱を取り上げる。
「ルカ・・・。―・・・っ」
 ぐすんっと涙目になる彼女に優しく声をかけ、箱の中のキッシュを掴み取って食べる。
「そんなの食べちゃいや!真一郎さんにもしものことがあったらルカはっ」
「美味しいです、とっても」
「え・・・」
 毒以外の物は食べられるとして生きていた彼にとって、彼女の手料理は食べても平気なものなのだ。
 ルカルカの手料理は、彼には毒でなく自分を思って作ってくれたという愛が溢れている。
 それが毒なはずがない。
 愛は心を華やかに豊かにする栄養。
「真一郎さん!?」
「少しだけこのままでいいですか?」
 彼はそれだけ言い、涙目の彼女をぎゅっと抱きしめる。
「(もっと抱き締めて、痺れちゃいそうなほどに・・・)」
 お菓子をくれなきゃ罰ならず、愛をくれなきゃ罰という雰囲気に溺れる。

-PM17:50-

 他の生徒たちがすでにお菓子を完成させている中、郁乃たちはまだアイシングを塗って壁を組み立てている。
「人が入れるのを作るがこんなに大変だなんて・・・」
「屋根に使う部分のチョコが固まりましたよ」
「ありがとう、桃花。端っこもって乗せよう!」
 4人で持ち上げて家に屋根を乗せる。
「家の傍にもおいていきましょうか」
「こっちの窓、完成しました。(しばらくお菓子はいりませんね、というかお菓子の顔はしばらくみたくないです)」
 灌はマジパンで作った花が咲いている植木鉢チョコを庭に並べ、マビノギオンの方は窓をつけている。
「はぁ〜やっと出来たね」
 3日間いた彼女たちからの身体中には、甘い香りが染みついている。
「休んでいるひまはないよ。皆をお菓子の家に案内しなきゃ!」
 グレーテルの格好をしている郁乃は、ヘンゼルの灌とお化けの形のマジパンを持って会場内を歩く。
「エリザベート先生だ!お菓子の家を作ったの、入れるんだよ」
「お菓子の家ですかぁ?」
 マジバンを渡してエリザベートの手を引っ張って連れて行く。
「誰か声をかけられないそうな人は・・・あ、お菓子の家に来てみませんか」
 灌は会場内にいる樹を見つけて声をかける。
「他の人も作っていたのをみたけど」
「まぁまぁ、いらっしゃってくれれば分かりますよ!マジパンどうぞ」
 完成させた家を見たい彼女は樹たちを案内する。
 そこに行くとすでにアイドルコスチュームを着た桃花がエリザベートに作品説明をし、魔女役のマビノギオンがお茶をテーブルに置いている。
「美味しいですぅ」
 エリザベートは茶葉と蜂蜜、スパイスや牛乳で作ったチャイを飲み干す。
 ハロウィンかぼちゃのろうそく立てが壁にかかり、部屋の中を明るく照らしている。
「その椅子やテーブルも、実はクッキーなんですよ」
「えぇ、そうなんですかぁ!?硬いですぅ」
 食べてみようとテーブルにはむっと噛みつく。
「壊れないように硬めにしましたからね」
「え、あれっ。入れるのは校長と俺だけか?」
 身長が高いフォルクスとセーフェルはお菓子の家の中には入れないようだ。
「我らは外で待っているとしよう。(それでヘンゼルとグレーテルというわけなのだな?)」
 外で待機することになったフォルクスは灌と郁乃の格好を見比べる。
「庭を見ていますね」
 セーフェルは残念そうに、つんっとマジパンの花をつっつく。
「窓は飴で出来ています」
「へぇー、セーフェルがちゃんと見えるな」
 薄い水色の窓の向こうに、庭でしゃがみ込んでいる彼の姿が見えた。
「食べちゃうのがもったいないですねぇ」
 エリザベートはテーブルをかじった者の言葉と思えないセリフを言う。
「暖炉もクッキーなんですぅ?」
 記念に撮っておこうとまたデジカメで録画し始める。
「校長、俺も撮ってくれないかな?」
「いいですよぉ」
「(うぅ、羨ましいですマスター。私も今だけ小さくなりたいです)」
 しくしくと涙目になるセーフェルは植木鉢の花を摘んでしまう。
「(私も中に入りたいです!!)」
 悔し紛れにその花を食べてしまった。