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クリスマス…雪景色の町で過ごすひととき…

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第5章 初めてパラミタで過ごすイブ

「あれが氷と雪の遊園地なんだね。どれもキレイ〜」
 天心 芹菜(てんしん・せりな)はお伽の国に来たかのように目を丸くする。
「どれから行こうか?」
 傍から最近パラミタへやってきた恋人の伊坂 紅蓮(いさか・ぐれん)がマップを覗き込む。
「ミラーハウスに行ってみたい!」
「じゃあ現在地がここだから、あっちの方か。人がいっぱいだから逸れないようにしないとな。だからっ、先に行かないでよ」
 自分を誘ったはずの彼女がぱたぱたと走り出し、逸れないように慌てて追いかける。
「はぁ〜まったく」
「あ、もしかして置いていっちゃったかな?」
「もしかしなくてもそうだからっ」
「ごめんね、早く並びたかったんだよ」
「そんなに早く走っても、アトラクションは逃げないって」
「でもほら・・・」
 芹菜が指差す列を見ると、余裕で2時間待ちしそうな行列が出来ていた。
「クリスマスイブだか混んでるのは分かるけど、これは・・・っ」
「並びたい、並ばせてっ。入ってみたいんだよ!」
「あぁもう分かったよ」
 ぐすんと涙目になる彼女のいうことを仕方なくきいてやることにした。
 少しずつ動く列を進んだ1時間後、やっと入り口までたどりついた。
「これも氷なんだね」
 氷雪の建物の傍には氷の鏡で作られた魔法使いのモニュメントがあり、芹菜がじっと見つめる。
 2時間半後、ようやく2人が入る順番が回ってきた。
「わぁ〜、なんだか洋館みたい」
 中に入ると人々を香で惑わしそうな花の形をした氷の中に、ライトブルーのアッパーライトがセットされている。
 街灯のようなライトが壁際に並べられ、鏡の枠は雪の結晶で飾り付けられている。
 それはまるで異世界に迷い込んだような雰囲気だ。
 メルヘンチックな様子はまさに女の子が好きそうな光景だった。
「見てっ。ちょっと体をひねってみると、くるくるーってひねられた感じに見えるよ!」
「へぇー、やっぱり普通のミラーハウスと違うんだな。鏡の前でこうすると、俺の腕がぐねぐねして見えるのか」
 紅蓮も腕をふらふらさせて遊んでみる。
「あっはは、何だかシュールだな。あれ、芹菜?」
「こっちだよ紅蓮〜。ばぁ〜♪」
 からかってみようと芹菜が変顔をする。
「まったく何やってるんだ。あっ、イッて!鏡か!?」
 彼女の傍に寄ろうとした瞬間、鏡におでこをぶつけてしまう。
 それはどこからか映し出された姿なのだ。
「捕まえてごらーん」
「あまり離れると迷子になるって」
「ふっふーん♪そんなこと言っちゃって。捕まえられる自信がないんでしょ?」
「このっ。待てぇええ。あぁあっ、イッたぁあ〜」
 ムキになって彼女を追いかけようとするとまたもや鏡に激突してしまった。
「こんなことなら乗り物で進む方を選べばよかったか」
 別ルートでなかなか出られない人のために、小さな車の乗り物が用意されているのだ。
「早く捕まえてよっ!」
「そんなこと言ってもなぁ。2時間以上追いかけるのは大変なんだからさ〜っ」
 元気にはしゃぐ彼女に対して、彼の方はだんだんと疲れてきていた。
「あまりここで時間をとると、他のところへ行けなくなるからな」
「えぇ〜、それは困るよ。紅蓮が降参したっていうことにして出ようか。こっちが出口だよ」
 芹菜は紅蓮を外に出さない程度に出口付近で遊んでいたのだ。
「あ、こっちかな。むっ、違った・・・。あれぇえ、どっちだっけ!?」
 遊ぶのに夢中で出口の方向を忘れてしまい、結局2人は迷子になってしまった。
「この近くのはずなんだけど」
「そういわれてもな」
「置いていかないでねっ。1人で迷子になるのはやだよ〜」
 ぎゅっと紅蓮の服を掴み、彼について行く。
「うぅ、やっと出られたよ。ゴンドラに乗って休もう」
 歩き回って疲れた2人はゴンドラに乗って足を休める頃には、とっぷりと日が沈んでいた。
「(何だかこう静かだと緊張しちゃうな。それに2人きりだし・・・。そうだ!まずは夜景を楽しまなきゃ)」
 氷が艶やかなライトブルーで彩れたかのようにライトアップされた光景を眺める。
「屋根にプロペラがついているショップはオレンジ色に輝くんだね。あぁっ、おっきぃ観覧車はクリーム色だ!ほぁ〜、なんだか凄いな〜・・・」
 うっとりとした表情でゴンドラから見上げる。
「あれがシュヴール橋かな?思ってたのと何か違う気がするけど・・・」
 ぽつりと呟く彼女の姿に紅蓮は“縁結びって女の子が好きそうな言い伝えだよな”というふうに心の中で言う。
 橋の下を通る時、彼の頭に真っ先に思い浮かんだのは、幼馴染であり恋人の芹菜のことだ。
「(一生君を守る。“エス イスト シュヴール イン リューゲ ニヒト”)」
「(一生傍にいるって誓うよ!“エス イスト シュヴール イン リューゲ ニヒト”)」
 彼女の方は祈るように手を組んで心の中で呟き、通り過ぎるまでの間ずっと紅蓮のことだけど想っている。
「(恋人なんだし、手くらい・・・)」
 通り過ぎた後、芹菜が緊張してるのか、何かそわそわしてるように見えた彼がそっと手を握ってみる。
「わぁあっ、紅蓮!?」
 恋人といっても手が握るのがやっとの関係なのにも関わらず、不意に握られた彼女はびくっとし、思わず声を上げてしまう。
「暗闇の中で逸れないように、握っておこうとかと思ってさ」
「でも・・・、まだゴンドラの上だから逸れたりしないよ」
「手を離すと俺を残してパラミタへ行ってしまった時みたいに、またどこかへ行ってしまうんじゃないかとな」
「―・・・行かない、行かないよっ。もう紅蓮から離れたりしないから・・・」
 離そうとしない彼の顔を直視出来ず、芹菜は顔を真っ赤にして俯かせる。