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カノンを取り戻せ!

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カノンを取り戻せ!

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2


「今回は大規模な軍事作戦とS@MPの任務の両立ということなので特に気をつけて整備をしないといけませんね。
 なぜなら、カノンさん救出組とS@MP組ではその兵装は違う上、進軍スピードも変わってきます。なので、整備班としてその辺をきっちりしていきたいと思います。
 とりあえず、全機共通なのは対電波塗装です。これは全機に施します。やはり戦場での誤作動や同士討ちは未然に防げるなら防ぎたいからです」
 整備科の女神から整備のリーダーになった長谷川 真琴(はせがわ・まこと)が部下にそう訓示をたれながら朝野 未沙(あさの・みさ)に目配せする。
「各機へのステルス迷彩も任せて。迷彩塗装もきっちりやってあげるから。あとはミレリアの『歌』の洗脳効果の分析のために全部の機体にデータ収集用の機材を取り付けたいと思うから手伝ってねー」
 未沙がそう言うと男が多い整備員たちは俄然やる気になった。真琴は癒しだが美沙は本能を刺激するのであった。
「パイロットの連中は熱くなってやがるが、それじゃお姫様を助けるのもおぼつかない。野郎ども、整備の手を抜くんじゃないぜ!」
 姐御と慕われるクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)が整備員たちに発破をかける。
「おー!」
 

「コリマ校長、KAORIの再度使用許可をください」
 茅野 茉莉(ちの・まつり)がコリマ校長に何度目かのKAORIの使用許可を求めていた。
 KAORIはもともと超能力の強化に性欲を刺激するのが効果的だと判明したため、セックスシンボルとして開発されていたものだが、その後S@MPオーディションでのゲスト使用が認められたあとは萌えアイドル路線で売りだされているAIプログラムで、感情のようなものも萌芽しつつあるらしい。だがまだS@MPのライブに再度投入されえていこうアイドルらしい活動は行っていない。
(少女よ、KAORIはお前に継続しての使用権が与えられた。今後は基本的に持ち出して使って構わん。むしろプロジェクトのために継続しての使用をしてほしい。今回の作戦終了後で構わんので企画書を提出するように。アイドルとして売りだしていくための計画書だ)
「いえ……それが……」
 普段は乱暴な言葉づかいの茉莉も校長の前では大人しくなるものらしい。なにやら言いたそうに言葉を紡ぎかけた。
(どうした?)
「今回はKAORIをアイドルではなくAIとして軍事的な作戦にも運用できるようにプログラムしたいと思います。基本的に私は今回の作戦で山葉校長の護衛として動き、KAORIを現地で検出された誤動作を起こす電波やミレリア・ファウェイの洗脳する『歌』を解析し、同様の効果をもたらすプログラム……トロイの木馬搭載型のワームのようなウィルスを開発したいとお考えています。目的は、校長にのみ表向きの理由……山葉校長の護衛ではなく本来の理由をお話ししますが、設楽カノンの洗脳解除のためのシステムを構築しようと考えています。
 山葉校長が設楽カノンの洗脳解除を試みる限り、今後も天学と蒼学は共同で作戦を行うことになるでしょう。御神楽前校長が学院のスポンサーであることもその必然性を補強するでしょう。天学としてもカノンの奪取は、内通者がいた。内通者が鏖殺寺院に完全に寝返った。しかもイコンや特殊な強化人間の技術まで漏洩させて、という全シャンバラへ知れ渡ってしまった汚名を雪ぐのに必要な措置となります。強化人間たちがカノンを頂点としているということは、万が一山葉校長がカノン説得のためにパートナー契約をすることによってリンクしてしまった場合、鏖殺寺院側がカノンを殺害して山葉校長にパートナーロストの影響を与えようという作戦考えたとしてもを強化人間たちが防いでくれるものと期待しています。彼らの社会性の構築の仕方は完全にカノンを頂点としたものであり、女王アリと兵隊アリのような絶対性のある物と考えています。洗脳されている状態だとしてもカノンには最低限の意識は存在し、山葉校長との関係の構築という原理に基づいて行動するものと予測されます。
 したがって、契約をカノンが殺害されようという場合、こちらとしてもすべての責任は内通していた教官のみにあり、強化人間達は戦力の回復のためにも保護するという意思表示を行いその行動に出ないといけないでしょう。実際カノンも含め11名もの特殊強化人間とそれの操縦する11機のイーグリットの存在は非常に大きなものです。カノンを逆に利用することによって取り込むことが必要です」
(……少女よ、これはお前の考えたものか? それとも……)
「はい。私のパートナー、【万能の天才】レオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)の考案によるものです。かの英霊はいつでも私にアドバイスをくれます。彼は現在KAORI用のデータ解析プログラムと自動プログラミング用のプログラムを組んでいます。これによってその場で電波と歌を解析しそれをこちらのものとすることができます」
(……ふむ)
「さらに彼はこう進言しています。私のイーグリット内に小型のサーバーを設置し、KAORIのデータを一部移して作戦に望むべき、と」
(採用しよう。プロジェクトのものには連絡を入れておく)
「ありがとうございます。作戦の成功に全力を尽くします」
(うむ……)
「では、失礼します」
 茉莉は退室するとそのままKAORIのプロジェクトチームに向かった。

 そしてKAORIのデータを受け取り退室する。
 それからレオナルドとダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)のまつ端末ルームへと戻る。
「ただいま!」
「おお、茉莉殿、どうであった?」
 レオナルドが茉莉に気づいて顔を上げる。
「僕(しもべ)、どうであった?」
 幼い悪魔がもっとも親しい二人称である僕(しもべ)、で茉莉を迎える。
「うまくいったわよ。はい、KAORIのデータ。サーバー方式も認められたから、最大限KAORIを有効活用できるわよ」
「おお、そうか。ではさっそくKAORIのデータをいただこう。彼女に、プログラムをインストールする」
「了解。はい、これよ」
「では……」
 そうして、対電波・洗脳用プログラムの開発が行われたのだった。
 他にも、カノンの洗脳を解除するためにプログラムをつくろうとする動きはあった。
 たとえば、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)、であったり御剣 紫音(みつるぎ・しおん)綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)だったりする。だが、元となるカノンを洗脳したプログラムの正体がわからないだけに開発は難航し、結局作戦には間に合わなかった。

「山葉校長、これなーんだ?」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は白いUSBメモリを山葉 涼司(やまは・りょうじ)に見せるとそれを地面に叩きつけ、さらに脚で踏みつぶした。
 「これは米軍の無差別攻撃のシーンを収録した、戦闘記録よ。報道機関に届く直前に回収させて貰ったわ。いつまで経っても公開されないからおかしいと思ったでしょう?」
「ああ、そんなこともあったな。疑問には思っていた」
「鏖殺寺院は世界各国に根を張っている。アメリカも例外ではないわ。あの攻撃が、米軍内の米軍シンパによる無差別攻撃を装った寺院側の粛清という可能性を、疑ったことはないのかしら?」
「それは……考えても見なかったな。そんな末端にまで信者を送り込めるほど鏖殺寺院は強いのか?」
「そうよ。私は、アメリカ人として無差別攻撃は私が独自に調査するわ。あの戦いで血を流したのは私達だけじゃない。一番多く、故郷の土を踏めなかったのは、私達アメリカ人よ。命を賭して戦った彼らを貶める事は一切、私が許さない」
 そう言うとローザマリアは涼司を睨んだ。
「校長であれロイヤルガードであれ、アメリカを貶める者は、私の敵よ」
「ちょっと待った。さすがに俺もそこまでのことは考えてねー。すまなかった。俺の思慮が足りないばかりにローザマリアには辛い思いをさせたようだ」
「そう思うなら口ではなく行動で示して。カノンさんを助けなさい……」
「もとよりそのつもりよ」
 それは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の声だった。
「美羽……」
「涼司の親友としてあんたのさっきの発言は見逃せないわね。愛国心も大事だけど、なにかあるごとに街中に繰り出してビールジョッキ片手に歌を歌いながらUSA! USA! って叫ぶのが愛国心だとしたらはっきり言ってキモいわよ。まあ、あんたは違うんだろうけど涼司はアメリカの敵になるつもりはない。それは保証できるわ」
「……そうですか」
「すみません! 美羽さんがご迷惑をおかけしてしまって……」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が慌てて飛び出す。
「いいのよ、気にしないで。言いたいことは言ってせいせいしたから」
 そう言うとローザマリアは足音を響かせながらその場を後にした。
「大変でしたね……」
 火村 加夜(ひむら・かや)がやってきて涼司のそばに立つ。
「やあ、加夜」
「涼司君……」
「……」
「この戦闘が終わったら……もう少し次の段階に進めるといいね」
「ああ、カノンが無事戻ってきたらな」
「……あまり長い間おあずけされてると、飛び出しちゃいそうだよ」
「ああ。わかった」
「ボクもカノンに戻ってきてほしいな。ボクも鏖殺寺院に洗脳されかかった経験があるし」
 ノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)がそう言って場をしめる。
「涼司様……全イコン、発進準備整いました」
 花音・アームルート(かのん・あーむるーと)が涼司に告げる。
「おう。それじゃあ戦闘開始と行こうか!」