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ひとひらの花に、『想い』を乗せて

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ひとひらの花に、『想い』を乗せて
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第4章 更なる『高み』を目指して

 2日目も、天気は快晴だった。日の昇る前に、ルート確立班が、キャンプを出発していく。

 メンバーは、源 鉄心、ティー・ティー(てぃー・てぃー)、イコナ・ユア・クックブック、五月葉 終夏、ニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)ルクリア・フィレンツァ(るくりあ・ふぃれんつぁ)セオドア・ファルメル(せおどあ・ふぁるめる)イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)の9人に、イーオンのバックパックに入れられた禁書写本 河馬吸虎の10名。
昨日吹雪で遭難したり、救助に行ったメンバーは休息のため、キャンプに残っていた。
 
彼等の主な任務は、昨日、赤嶺達がハルキノスから教えてもらった、『おすすめ』ルートの状態を確認し、一般生徒達が登りやすいように整備することである。

 ハルキノスが言うには、山肌にひさしのように張り出した岸壁の下を通るため、風や雪崩などの影響は少ないのだが、道が狭い(曰く、『片足分の幅しか無いところがほとんどです』)ので、大勢が通るのであれば、ザイルか何かを渡した方がいいと言うことだった。

 また、日の出に合わせて、レイナ・ライトフィード、神曲 プルガトーリオ、クァイトス・サンダーボルト達偵察班も活動を開始した。

 上空からルート確立班を監視し、昨日のような天候の急変や敵の襲撃に備えるためである。この他クァイトスは、泪のルート確立班の撮影を手伝うことになっている。足場が狭いので、空から撮影しようというのだ。

 彼らの作業は、まず、腰まである雪を除去して、人が通れる道を作ることから始まった。
 途中までは、昨日御上達が帰還の際ラッセルした道が使えるが、そこから先は新たに道を掘らなくてはならない。

「よし、それじゃ、みんなでタイミングを合わせていくぞ!せーの、1、2の3!」
セオドアの合図に合わせて、彼とルクリア、それにイーオンに抱えられた河馬吸虎が一斉に火術を放つ。火力を抑えられた火の玉が一列に並んで飛び、一瞬で雪の中に道を作っていく。本来ルート確立班ではない河馬吸虎がここにいるのは、火術が使える点を買われてのことだ。

「おーい、イコナ!何メートル掘れた!」
「ん〜、そうですね……。50メートルくらいでしょうか?」
 《空飛ぶ魔法》で浮き上がったイコナが、上空から道の出来具合を報告する。
「50メートルか……」
 うーん、と難しい顔をする鉄心。

「普通の魔力で、1人1発ずつ交代で打った方がいいんじゃないか?」
 イーオンが提案する。
「うーん、その方が効率的か……?」
 セオドアが、難しい顔をする。

「ごちゃごちゃ言ってても始まらん!とにかく、やってみるのみ!」
「あ、コラ!」

 河馬吸虎が、イキナリ火球を雪壁に打ち込む。上から下までキレイに溶かし切る、という訳には行かなかったが、大方1回目と同じように雪が溶けた。
 「ほれみろ!あれこれ悩むより、やってみた方が早いではないか!」

 河馬吸虎が得意げに胸を張った(?)その瞬間、イーオンが、パッ!と両手を離す。河馬吸虎は、勢い良く地面に叩き付けられた。

「イ、イテテテテッ!ナニをするか、キサマ!」
「いや、『言うことを聞かないときは、こうしろ』とリカインから言われていてな」
「な、なんだとぅ!」
「ちなみに、3回言うことを聞かなかったときは、登山の記念日替わりに岩肌に埋めてくるよう厳命されている」
「ぐ、ぐぬぬぬ……俺様が自由に動けないのを良い事に、好き勝手言いおって……」
「ふぅ……。やれやれ」
 億劫そうに河馬吸虎を拾い上げると、頭上高く差し上げるイーオン。

「ま、待て!分かった!分かったから落ち着け!!」
「分かってくれたか。俺もその方がラクでいい」
「お、おのれぇ……」
「文句は、後で直接本人に言ってくれ」

 結局、試行錯誤の結果、『イーオンのギャザリングヘクスで強化した火術を1発打ち込むのが一番効率がいい』と言うことになり、3人が交代で呪文を唱えることになった。
 火の珠で溶かしきれなかった所は、手空きのメンバーが手作業で雪を削っていく。

 さらに、ある程度掘り進んだ所で、イーオンがブリザードを唱え、溶け出した水によって雪崩が起きないよう、一気に凍らせることにした。こうすると、地面に薄い氷の膜が張るが、これも手作業で除去していく。

 4人のSPが尽きてくると、セルウィーが《SPリチャージ》で回復させた。
 この作業の繰り返しで、なんとかSPが尽きるまでには、ハルキノスの言っていた岩壁まで辿り着くことが出来た。この時点で、標高約2300メートルである。

 今度は、岩壁にザイルを固定するための、ハーケンを打ち込まなくてはならない。だいたい、自分の胸より少し低いくらいの高さの岩壁にハーケンを打ち、ハーケンのリングにザイルを通していく訳だが、足場の狭い、ふんばりの効かない場所で固い岩にハーケンを打ち込むのは、中々に難渋な仕事である。そこで――。

「いいですか、セルウィーさん」
「はい……。大丈夫です。お願いします」
「よし。じゃ、ちょっと重たいかも知れないけど、ヨロシクね、キミ」
 軽く脇腹を蹴ると、終夏とセルウィーを乗せたヒポグリフが、ゆっくりと舞い上がる。
 ヒポグリフは岩壁沿いに飛ぶと、空中の一点で静止した。

「この辺りで、いいかな」
「はい、大丈夫です。……では、行きます!ハァッ!!」

 気合の声と共に、騎乗で立て続けに【パイク】を振るうセルウィー。岩壁に、次々と小さな穴が開いた。《ライトニングランス》と《ランスバレスト》の合わせ技である。
 セルウィーの開けた穴に、ニコラとルクリアが、ハーケンを打ち込んでいく。例え小さな穴でも、あると無いとではハーケンの“入り”がまるで違う。一からハーケンを打ち込むのと比べ、遥かに少ない力で、打ち込むことが出来た。

 岩壁の反対側、第2キャンプの方からは、ティーの《ワールドペガサス》で先回りした鉄心とティー、それにイーオンが、同じようにしてハーケンを打ち込んでいく。
 足場的に難しい場所は、セオドアが翼で空を飛びながら打った。

 そうして、全てのハーケンが岩壁にしっかり固定された後、最後の仕上げとして河馬吸虎が《サイコキネシス》を使い、全長数キロにも及ぶザイルを、一気に全てのリングに通してみせた。
登山道の完成を祝い、一同から喝采が上がる。

 こうして、普通なら何日にもかかるはずの作業が、日没までのわずか数時間で完了。見事、たった1日で、1500メートルを登る登山ルートが開通したのであった。