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奪われた妖刀!

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奪われた妖刀!

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★5章



 ボルドは空へ飛び立ち、ボルド空賊団の旗艦は大型飛空挺へ向けて舵を取り、攻撃を仕掛けるために動き出した。
 最後の戦いの始まりである。



「シズルさん、参りましょう」
「え?」
「ボルドの元へご案内致します」
 イルマ・レスト(いるま・れすと)は、シズルと彼女を護衛する者達の元へ行き、そう告げた。
 しかし、気乗りしない。
 シズルが空賊に憧れてると公言しているからだ。
 賊は賊、無法者の犯罪者であることに違い、というのがイルマの考えである。
「私のパートナーがボルドを誘導してきますわ。ですから……」
「わかったわ、お願い」
 だが、パートナーとの約束は守らねばならない。
 今回の役割はこれだと、自分を納得させながら、ワイルドペガサスを走らせた。



 出陣したボルドと真っ先に出くわしたのは、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)ラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)だった。
「ボルドだなッ!?」
「フン、契約者か……。だが、今はテメェのようなニイチャンに構ってる暇はねぇんだ、引きなァッ!」
 ボルドは妖刀那雫を抜き、構えた。
 佑也には刀が泣いているように思えた。
(俺のこの刀も、母親から受け継いだ物だ。もしこの刀が心無い他人の手に渡って、罪も無い人を斬る為の道具として扱われたら……。だから、加能さんの気持ち、痛いほど分かるよ)
「妖刀、取り戻させてもらう!」
「碌でもない空賊には、キツイお灸を……ッ!」
 ラグナの気持ちに応えるように、レッサーワイバーンが吠え、炎を吐いた。
 ボルドの取り巻きたちは直撃を避けようと大きく飛空挺を操るが、ボルドだけは違った。
 妖刀で炎を裂き、速度を緩めることなく突っ込んでくる。
「ラグナさん、回避を……ッ」
「はいッ」
 直線的に切れ込んでくるボルドのその速度に一旦距離をとる佑也とラグナ。
「フンッ……!」
 ボルドはそれを目だけで追うと、あろうことかそのまま佑也達に背を向けながら前線に突き進んだ。
「どういうことだ!?」
「ボルドは他に狙いでも?」
 それは他の空賊も同じで、すぐさま佑也達を置き去りにボルドを追走した。
「ラグナさん、追いかけよう!」
「……行きますわッ!」

「やっと来やがったか……待たせやがって……」
 ワイルドペガサスに乗る棗 絃弥(なつめ・げんや)は剣を抜き、その刃を月に照らし、確かめるように魅入った。
「棗が作った隙、利用させてもらうぜ」
 宮殿用飛行翼で空を飛ぶ氷室 カイ(ひむろ・かい)は、共にボルドを待ち続けた仲間に向かっていった。
「俺の得物は銃だからな。妖刀の間合いに入ったら敵わない」
 妖刀に魅入られた空賊。
 果たしてそれがどれほどのものであるかはわからないが、空賊は倒すべき存在なのだ。
「……おいおい……どういう状況だ?」
「俺達以外にもボルドを倒そうって奴がいるはずなのに……誰もここまで止められないのか?」
 ようやくボルドを視認できる距離になったのはいいが、ボルドの鬼気迫る表情と、全く速度を緩めない状況。
 加えて、必死に追走する佑也達を見て、絃弥はどういう状況か掴めずにいた。
 いくらワイルドペガサスの方が小型飛空挺よりも早いからと言って、この状況でボルドに向かったところで、その速度の優位性を生かせるとは到底思えなかった。
 ならば、一瞬のすれ違いざまに仕掛けるしかない。
「今度は馬にのったニイチャンかッ! 契約者ってのはどいつもこいつもぉぉぉ!」
「随分嫌な目にあったみてぇだな。トラウマもんか。ま、俺とも遊んでもらうぜ」
 ふーっと1つ呼吸を整えて、その時を待った。
 ……来るッ!
 先手はボルドの疾風突きだった。
 だが、絃弥はそれを上半身を捻り華麗に回避し、即座に無光剣を放った。
 ――ガキィィンッ!
「――ッ! あり得ないだろ……ッ!?」
「ウオオオオッ!」
 ヒロイックアサルト、封印解凍で自身を強化したカイが銃を構え、ボルドに向かって引き金を引く。
 だが、全て妖刀那雫に吸い込まれるように弾かれる。
「化け物がッ!」
「死にな、翼のニイチャンッ!」
 使う気はなかったとカイは刀を抜き、ボルドの疾風突きを受け止めた。
 が、それがボルドの力なのか、それとも妖刀の力なのかはわからないが、常人の疾風突きとは思えない連続攻撃に、飛行翼にダメージを負ってしまう。
 反撃の暇すらなかった。
 それほどまでに圧倒された。
「クッ……ボルドォォォ!!」
 苦し紛れに更に銃でボルドを撃つが、飛行能力が危うくなりふらふらの状態ではまともに捉え切れず、弾丸は全て漆黒の闇に消えていった。
「フンッ、ニイチャン達に構ってる暇はないんでな!」
 そう言って風と共にボルドが通り過ぎて行った。
 絃弥の攻撃のタイミングは完璧だった。
 回避と攻撃を流れるように行い、疾風突きで伸びた腕の隙をついて攻撃した。
 それが防がれたのだから、絶句するしかなかった。
「……クソッ!」
 ――ヒヒンッ!
「ウバァァァァッ!?」
 絃弥の怒りがワイルドペガサスに伝わり、ボルドの取り巻きの空賊がすれ違う様にペガサスが1機の空賊を足蹴に蹴り落としたのだった。

「使うものは魅入られる刀……妖刀か。きっと作った人は最高の一品を作りたかったのよね。ただ誰よりも優れたものを作りたいという気持ちだけで打ったから、こういう妖刀が生まれたんだと思うの。でもそれなら名刀も同じ事だと思うのよね。名のある武芸者が扱っていたから、妖刀と云われず名刀と云われたと思う。今回は魅入られているボルドさんから何としても刀を取り返さないとね! だから麻羅お願い! 私には無理だから代わりに刀を取り返して!」

 出立の直前、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が言った言葉を天津 麻羅(あまつ・まら)は思い返していた。
 鍛冶師として熱く語る緋雨の姿が、師匠としての麻羅の心を強くうった。
 だからこそ、今自分は、緋雨が推測したボルドの進行ルート上に、緋雨から借りた小型飛空挺を駆って空にいるのだ。
「ふ……緋雨もゆうようになったのう」
 下品な音を響かせながら、ボルドがやってくるのが見えた。
「弟子のゆうた事は師匠であるこのわしが実行しようぞッ!」
 麻羅は拳を強く握りしめ、龍鱗化で自らを強化した。
 そして、ボルドに一撃を加えるその時まで、ひたすらチャージブレイク。
 例え肉を斬らせても、一撃で仕留めてみせようと意気込み、構えた。
「邪魔だァ、ネェチャン! オレぁ行かなくちゃいけないんだ!」
「もうどこにも行けん。貴様はここで終わりじゃ……ッ! わしの最高の一撃を受けてみよッ!」
「ナマ言ってんじゃネェェェ!」
 ボルドは妖刀那雫を振り下ろした。
 その刃と麻羅の正義の鉄槌がぶつかる。
 折ってでもいいとさえ思った。
 それでも何とかできると思っていた。
 だが、
「こんな妖刀……まだこの世にあるんじゃな……ッ!」
 鍛冶師だからわかる、その妖刀の強さに思わず感嘆の声をあげてしまった。
「せめて、悪あがきをッ!」
 麻羅は再び力を込めて、ボルドを押し込もうとした。
 だが、妖刀那雫によって弾かれた。
 その時だった。

「ウオオオオッ!」
 レビテートとサイコキネシスを自らにかけ、佑也はラグナの操るレッサーワイバーンから飛び降りた。
 先手必勝。
 佑也は疾風突きを繰り出すが、ボルドの妖刀那雫に受け止められる。
 その反射速度は、まるで妖刀が意思をもっているかの如く、早かった。
「奪った得物でしか登りつめられないお前に、サムライを名乗る資格はねぇよ!」
「その得物さえ奪えぬニイチャンも、どうだかなぁぁぁっ!」
 隙あらば氷像のフラワシで氷結させようと試みた佑也だったが、今度はボルドの疾風突きを受け止めるので精一杯で、そのまま降下し、ラグナのレッサーワイバーンに拾われた。
「中々の腕ではありますわね」
「チクショウ、あの妖刀は……ッ」