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奪われた妖刀!

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奪われた妖刀!

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★4章



 ボルド空賊団とヨサーク空賊団。
 契約者と契約者。
 それぞれの戦いが行われている最中、最も恐れていた事態が襲った。
「ヨォォォ、ボォォォルゥゥドォォォ! 苦戦してんだってなぁぁぁぁ!」
 名も無き新たな空賊団が、挟撃する形で現れたのである。
 情報戦は完璧に制していた。
 しかし、空賊達が直接獲物にアプローチするとは限らない。
 長いものに巻かれるために、そして、貸しを作るために機を窺う空賊の存在にまで手が回らなかったのが、今に至るのだ。
「頭ぁ!? ボルド空賊団ですら苦戦する契約者相手ですぜ!? オレ達にゃ荷が重いってもんでぇ!」
「馬鹿野郎、だから今出たんだろうが! その小せぇオツムでよく考えやがれ。今はボルドに加担した契約者もそろそろ戦に加わって、敵さんもそこそこ苦戦してる頃合いだ。ボルドの旗艦も艦対戦に移行し始める準備に入ってるはずだ。そこでオレ達はよ、うまく挟撃の形をとって、敵さんの旗艦に傷の1つでもつけたら、ズラかればいい。なんだったら、オレ達の旗艦をぶつけたっていい」
「頭ぁ、それじゃあ大赤字だ!」
「馬鹿野郎、もっと先を見やがれ。どうせボルドは何もせず負けるに違いねぇ。だが、オレ達はどうだ。負け戦のボルドにあえて加担して、しかも敵の旗艦をどうあれ潰したとなれば、日の目を見ねぇオレ達空賊団の名が売れるってもんよ。そうすりゃ金も仕事もたんまりだ」
「か、頭ぁぁぁ!」
「ヨォォシ、進路を敵旗艦に向けろォ! 特攻だ、野郎ども! 全速前進で沈めちまえってんだ!」
 名も無き空賊団の旗艦が、大型飛空挺に向き、速度を上げ始めた。



 ボルド空賊団の駆逐のために、遠くカナンからも聞きつけ駆けつける者がいた。
「挟撃されてる……? でも……間に合うわよね……」
 リネン・エルフト(りねん・えるふと)は増援が来た戦場を見ながら、一瞬過ぎった不安を一蹴するように言った。
「タシガンに睨みを利かせる顔役がいないからって……はぁ……」
「で、シズルってのはどこ? 美人なんだろ、オレもらっていい?」
「……エロ鴉……」
 パートナーであるヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は各々反応を見せ、戦場を見渡した。
 だが、やることは変わらない。
「これは……身軽な私達の仕事。フリューネがいない今、私達が……その代わりよ」
「空賊相手に空戦実践指導と行くわ」
 リネンとヘイリーは見合い頷き、戦線に加速した。
「それよりシズルって娘をだな……ま、いいか。戦場で別の可愛い娘を探せばいい!」
 フェイミィも全速でリネン達を追い、そして追い抜いて最初の空賊とのコンタクトに向かった。
 そのフェイミィを見て、空賊が一瞬たじろいだ。
「お、おい……、あいつはフリューネじゃないのか!?」
「てめぇの目は節穴か、それともビビって幻覚か!? 違う、あいつはフリューネじゃ、な、ない!」
 そう言う空賊だが、味方の言葉に勇気が侵食されていく。
 ペガサスを駆る有翼種のヴァルキリーという特徴だけ言えば、そうなのかもしれない。
 だが、違うのは明らかなのに、それすらも見えなくなりかけていた。
 名も無き空賊団が契約者を相手にするということは、それほどのもの。
「シャーウッドの森空賊団、参上!」
 大剣で薙ぎ、小型飛空挺を爆破させた。
「エロ鴉にも空戦を教えなければならないわけ!?」
 どうだ、参ったかと偉く機嫌よく宙に静止して誇っていたフェイミィに迫ってきた空賊にヘイリーが距離を詰めた。
「空戦の基本は高さ、加えて速度、そして……集中力ッ!」
 ヘイリーの一撃に小型飛空挺が大きくバランスを崩し、攻撃手がなんとかバランスを立て直すまでに追撃を喰らうわけにはと攻撃を受けた方向に構えるが、そこに既にヘイリーはいない。
 逆方向から声が聞こえる。
「素早く接近し! 強烈なパンチを食らわせ! 即逃げる! これが空戦よ」
 完全に飛空挺の制御が利かなくなり、空を無様に泳ぐ。
「……その隙、逃さない……」
 トドメはリネンが飛び込み、則天去私で薙ぎ払った。



 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は怒りに震えていた。
 それは惚れた女であり、セイニィとその友人兼ライバルのフリューネ達が駆け抜けた誇りある空を汚すボルドに向けてである。
 だが、成すべきことを忘れてなどいない。
「行くぞ、灯!」
「牙竜、行きます! カード・インストール!」
「変身! ケンリュウガー!」
 龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)が魔鎧となって淡い光を放ちながら牙竜と一心同体になる。
(派手に行きましょう、牙竜!)
 灯から力――軽身功、先の先を借りて、牙竜は大きく跳躍した。
「な、なんだぁ!?」
 手近な空賊の小型飛空艇に飛び移り、先制攻撃で先手を取る。
「震えろ、恐怖しろ。碌に空中戦も出来ずに落ちていけ!」
 無光剣で小型飛空艇のエンジンを破壊し、直ぐに次の小型飛空艇を目標に定め、腰をぐっと落とし膝を折り、大きく飛び移った。
「クソが、撃ち落とせ!」
 空賊も反撃に出るが、魔鎧となって牙竜を守る灯を砕くことはできない。
「思い出させてやるぜ、空賊共! オマエたちを震え上がらせたセイニィご自慢の空中戦法、八艘飛びをな!」
 牙竜なりのセイニィの誇りを守るやり方であった。
 2機目を無光剣で仕留めるが、空賊は数だけは多い。
 何せボルドに取り入り、機あらばボルドを越えようと目論見、一世一代の大博打をうってきたくらいだ。
「数が多いな、八艘飛びで始末しきれないな。……灯、アレをやるぞ!」
(アレをやりますか……ッ!)
「アーマー・パージ!」
 魔鎧を解除して、牙竜はバーストダッシュで飛び、灯は小型飛空艇ヘリファルテに乗って戦場を駆けた。
「くそが、敵は2人もいたのか!」
 1つの塊の最奥を目指して、灯が飛空挺で翻弄し、牙竜のために道を作った。
 空賊と言えど、指揮官並の実力と権力を持った者がいるはずだ。
 ならば、それを狙い打てば戦況は更に優位になる。
「ヒィィッ!? こ、こっちにきやがる!」
 狙いを定められた空賊は、飛空挺を返し、背中を向けた。
「必殺、アカシック・ブレイカー!」
 牙竜の正義の鉄槌が、炸裂した。



「セイニィに酔ってるのは俺だけじゃないね」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は先に繰り出した牙竜達を見て、そう思った。
 ならばこちらも、負けてはいられないと、仲間相手に闘志を燃やす。
「よし、プラチナム来てくれ」
「畏まりました。あなたを守ります」
 プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)は唯斗の意図を汲んで、魔鎧化した。
 こちらは白銀の忍者ヒーローだ。
「それではわららは、向かってくる蠅を落とそう」
「私も同乗して空賊を落とします」
 パートナーのエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は小型飛空挺オイレに乗り、空に出た。
(では、私達も参りましょう)
「俺なりの八艘跳びを見せにいこう……ッ!」
 唯斗は口笛を吹きレッサーワイバーンを呼ぶと、その背に乗った。
「ヒャッハー! 旗艦だ、旗艦を狙ええぇぇぇぇ!」
「無様じゃのお。われわがいておぬし共に落とせるとでも思っておるのか?」
「無様なのはてめぇらだ! 時代は銃なんだよ、ああ!? 弓如きでオレ達をやれるかってんだ!」
 それはエクスの後ろに座る睡蓮に向けての言葉だった。
 弓を引き絞り、矢を放った。
「馬鹿が、余裕で避けられる……ッ」
「ズドン、です」
 睡蓮はポツリとつぶやくと、放たれた矢が加速し、軌道が空賊に向かって修正されていく。
「ウガアアアッ!?」
「物は使いようです。残念ながら、馬鹿は使えませんが……」
 肩に刺さった矢を力づくで抜き、空賊は血走った目で銃口を向けた。
「つくづく救いようがないのお。わらわ達を見くびるとは……」
「ガッ、ハッ……!」
 空賊がもし勝つならば、それは気を緩まず、確実に機をものにしなければならない。
 エクスが光条兵器の光刃を飛ばし空賊にとどめをささずとも、既に勝負はついていたのだ。
「乱れ撃ちます」
 睡蓮は荒ぶる力とサイコキネシスで強化した矢を、いくつも空に放って一斉射撃した。

 影が降りた。
 と思うと時には既に自分の身体は宙に投げ出されていた。
(見事です)
「次に行く……ッ!」
 忍者の体術を駆使し軽やかにレッサーワイバーンから飛び降り、陰形の術で敵に気付かれず小型飛空挺に取りついた唯斗は、ブラインドナイブスで静かに空賊を落として見せた。
 あとはセイニィの如く、そして、唯斗の力を空に示せばいい。
 アサシンソードを抜き、唯斗が飛んだ。
(空賊、マスターの力をとくと味わいなさい!)
 飛行挺に飛び移ると同時にアサシンソードを突き射し、刀を媒体に雷術を叩き込む。
 落雷のような一瞬の出来事。
「フッ……!」
 そして即座に別の飛行挺に飛び、また同じ攻撃を繰り返す。
 さながら自分が雷になったように動き、最後は自らのレッサーワイバーンが迎えに舞い降り、その背に降り立った。
「雷身瞬動、見えたかな?」
 落雷の音は、何重もの爆音であった。