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奪われた妖刀!

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奪われた妖刀!

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 玉座は1つしかない。
 だとすれば、それを争う結果になるのは至極当然のことであり、その椅子に一番近い存在というのもいるわけである。
 確かに、空の玉座に座っていた者は去った。
 しかし、勘違いしてはならない。
 空の玉座は王が1人で座るような小さな椅子ではない。
 それに関わる者達全てが座れる長椅子なのだ。
 勘違いしてはならない。
 ヨサーク空賊団は無くとも、ヨサーク空賊団であった者達はいるのだ。
「Hey,HEY,Ho!」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)佐伯 梓(さえき・あずさ)とパートナーのディ・スク(でぃ・すく)吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)の6人は、各々夜空に浮かびながら、横一列に成していた。
 今再び、その名を思い出さねばならない。
「Hey,HEY,Ho!」
 さあ、思い出せ、と腹の底から全員が声を上げた。
「ケイラ、オレに任せておけば大丈夫だぜェ」
 竜司はケイラに向かってウィンク交じりで言うと、ケイラはただ苦笑して頷いた。
「っと、その前にこのイケメン様が女に優しく、男にはしゃーねえから補助をかけてやらねぇとなッ」
 今度は梓にウィンクをして、荒ぶる力と祝福の歌でもって、竜司は味方を鼓舞し力を上昇させた。
「トロールさん、トロールさん、俺男だかんね!」
「主は男じゃったのか……ッ!?」
「爺ちゃん、ボケはじめた!?」
「惚れちまったからって照れるなよ、梓ッ! ところでトロールさんってオレ? いいじゃん、いい名前してんぜ!」
「ああ、俺頭が痛い。助けてよウェル、ケイラ、ラルクさん」
 梓は額を押さえながら、他の仲間に助けを求めた。
「ギャハハハ、いいじゃん、アズ。みんな、調子いいじゃん。あ、吉永は、スルー」
「え、ああ、うん。ヨサークさん何も言ってないけど、勝手にしちゃっていいのかな? でもだからって空で悪い空賊に暴れられるのも困るしね、うん、頑張ろう! で、佐伯さん、何か言ったかな?」
「うし、先陣切るぜ!」
 ラルクが先陣を切ると、もはや頭痛に悩んではいられない。
「……もう……いいか! 俺と爺ちゃんは遊撃に出てうまく皆をサポートする!」
「主よ、振り落とされるでないぞ」
「オレはケイラと2人っきりでドライブしてくるぜ」
「あ、はは……じ、自分は吉永さんのドライバー担当だよ。防寒もしっかりしたし大丈夫」
「じゃ、ヨサークがいないからとか、なんか調子こいてる奴らを、ぶっつぶしに、行きますか」
「Hey,HEY,Ho!」
 ボルド空賊団対ヨサーク空賊団の戦いが始まった。

「ヨサーク空賊団いくぜ! Hey,HEY,Ho!」
 空飛ぶ魔法↑↑で生身で浮かぶラルクは、更に神速と疾風の覇気を用いて、己が身体を光の弾丸に変えて、一直線に空賊の元へ向かった。
「返り討ちだよ、おらぁぁぁぁぁ!」
 空賊は威勢良く攻撃を仕掛けるが、その光の弾丸は行動予測を元に流線を夜空に描く。
「下っ端が吹くなッ! 遅ぇんだよ!」
 ラルクの突き出された拳が、そのまま小型飛空艇をブチ抜いた。
「次はどいつだぁぁぁっ!? ワイバァァン!」
 ラルクが叫ぶと、カタパルトデッキに待機させておいたレッサーワイバーンがやってきた。
 久々のヨサーク空賊団として張り切って飛ばしすぎてラルクは、レッサーワイバーンに跨って飛行とした。
「足だ、足! ワイバーンをとめりゃあ奴は真っ逆さまだぜ!」
 セオリー通りの攻めだが、まずは空賊は頭を冷やさねばならない。
 意志のある足に愚直に向かったところで、成功を収めることも、手痛い一撃を加えることもできない。
 ワイバーンの炎が弾幕となって視界を防ぎ、急停止で動きを停めたところに、ラルクから鳳凰の拳を喰らって撃破された。

「んっ……?」
 一筋の光が、夜空を過ぎった気がして、操舵の空賊は少し腰を浮かして前屈みになった。
 互いの旗艦と戦闘での爆発がもっとも大きな灯となる夜の戦闘に置いて、視界は良好とは言えなかった。
 だから、音も立てず、ましてや人1人が高速で移動されるのは、明かりのない草むらで何かが駆けるようなものだ。
「……ッ! 上だあ、馬鹿野郎ッ!」
 後席の空賊が思わず操舵手を押しのけ、舵をきろうとするが、時既に遅し。
「ギャハハ、こいちゃってるのは、ボルド空賊団のやろうですかぁ?」
 物質化・非物質化で空飛ぶ箒を消し、そのまま真上から降ってきたナガンは、そのまま靴底で操舵手を蹴り落とし、後席の攻撃手と向かい合った。
「ヒィッ!? こ、このや――ッ!」
「ギャハ、ヨサークなめてんじゃねェぞ、てめぇ」
 僥倖のフラワシで空賊が垂れる前に殴り落とすと、ナガンは夜風を目一杯身体で感じて伸びた。
「ちかれたけど、もっかいだな」
 再び箒を物体化して、ナガンは夜空に消えた。

「ほーこりゃええのう」
「爺ちゃん、無駄撃ちはよして! というか敵! 真後ろだよ!」
 小型飛空挺ヴォルケーノのボタンを弄りまわってミサイルを撃ったディはご満悦だが、それどころではない。
 できる限り敵を引きつけようと前に出たのだが、あえなく背後に空賊につかれることとなった。
 梓はサンダーブラストで近づけさせないようにするが、身体を捻り後ろを向くことの限界と、それを見越して左右に小型飛空挺を操る空賊に翻弄されつつあった。
 追う側が今は有利なのだ。
「右上、右上ッ! 爺ちゃん振り切って!」
 なんとか攻守逆転を狙おうと、梓は右上方の灰色の雲を指差し指示した。
 ――ボフッ!
「主、今じゃ」
 雲の中に突入するや、梓は濃度の濃いアシッドミストを後方に展開した。
 ――ボフッ!
「な、なんだぁぁぁ!?」
 雲の中から再び出てきた時、空賊の小型飛空挺は錆びつき、ゆっくりとその機能を失い降下していった。
「やった……って、爺ちゃん風向きとかちゃんと考えた!?」
 だがしかし、梓達の小型飛空挺も後部が若干錆びており、不安げなエンジン音も聞こえる。
 仕方ない、と積んでいた光る箒に切り替え、今度は梓が操舵を、ディが攻撃を受け持った。
「ほーれ、二回戦じゃ!」
「いくよ!」
 再び、梓達は遊撃に向かった。

「ケイラ、オレを信じて動けばいいからな!」
「自分は吉永さんを信じてるよ」
「ヨォシ、なら目の前の奴等からだ!」
 竜司はトミーガンを構えて、狙いを定めた。
「よ、吉永さん、相手も突っ込んでくるけど!?」
「構わねェ、チキンレースだ、ケイラ!」
「え、ええええっ!?」
 ケイラは口を真一文字に結んで、ハンドルを固く握りしめた。
 こんな状況でも愉しそうに笑う空賊の顔が、ドンドン確認できていく。
「んんっ! 限界だよッ!」
 先にハンドルを切ったのはケイラで、竜司の狙いも逸れて、操舵者ではなく攻撃手の右腕を撃ってしまった。
「大丈夫かァ、ケイラッ!?」
「自分は大丈夫だよ。ごめん、先にハンドルきっちゃって」
「いいってことよ。攻撃担当のヤツは潰したからヨ」
 だが、それで怯み終わる空賊ではない。
 すかさずUターンを決めて、ケイラが操る小型飛空挺の横につける。
「く、おおお……ッ! コンチクショーがっ!」
 顔面を苦痛に歪めながらも、気合で傷付いた右腕を武器を構える攻撃手は、見事な精神力だった。
 だが、それはとても気に食わないことだ。
「ク・ソ・ガ……テメェェ! 傷付いても気合で頑張っちまうのは、イケメンじゃなくても女が惚れる要素だろうがァッ!」
「エエエエッ!? そこぉぉぉぉぉ!?」
 ケイラ、空賊側の操舵手、攻撃手、3人は素っ頓狂な声を上げた。
「と、とりあえず、右腕の借りは返させてもらうぜぇぇぇぇぇ!」
「ケイラ、ブレーキだ!」
 攻撃手が竜司と同じくトミーガンを連射したと同時に、ケイラはブレーキをかけて小型飛空挺を停めた。
 弾丸は誰もいない空へと吸い込まれ、自然とケイラ達は後ろをとる形となった。
 勝負あり、である。
 後ろから執拗なまでにトミーガンを連射された竜司は銃口を息で吹き、武器をしまった。
「あれ、吉永さん、怪我を?」
 ケイラは吉永の利き腕を見て、少し赤く滲んでいるのがわかった。
「腕を」
 そう言ってヒールをかけて、治癒する。
「フ……ケイラ、惚れちまうなよ」
「あ、はは、自分、いろいろと間に合ってます」
 ケイラは竜司はわざと怪我をしたのではないかと勘繰って、苦笑いするしかなかった。