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桜井静香の奇妙(?)な1日 後編

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桜井静香の奇妙(?)な1日 後編

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第17章 それはきっと、永遠の別れではないから……

「ありゃ、制服が無い。ICカードも無いし、寄せ書きも無い。うわ、ヨーヨーまで……」
 ナラカに落ちた弓子は、自分が先ほどまで身につけていたものが全て無くなっていることに愕然とした。
 どうやらあの成仏の際に落としてきてしまったらしい。持ち込みは不可能だった、というわけか。
「参ったなぁ、せめてヨーヨーは欲しかったけど……」
 これからナラカで生きていくのだから、気休め程度に何かしらの武器があればと思ったが、持っていないものは仕方がない。その場は諦め、弓子は今後のことを考えることにした。
 ナラカは複数の奈落人によって支配され、ナラカに落ちた魂は、支配しているいずれかの奈落人の元へ行き、そこで生活を始めることとなる。それはもちろん弓子も例外ではない。
「相手が話のわかるのであればいいんだけど……」
 1度死んで幽霊になっている間は「もう1度死ぬことは無いだろう」と思っていたが、その死者が集まる世界にいるとなれば話は別である。下手をすれば2度目の死を迎えることになるかもしれない。
「ま、さすがに私も命は惜しいからね。それなりにうまくやっていければいいさ」
 過酷な生活になるだろうことは割と容易に想像ついたが、今の弓子には恐怖心というものが無かった。
 愛してくれていた両親と友人たち、そして、パラミタで出会った数々の人たち。それら全てと別れたというのに、今の彼女は全くと言っていいほど孤独というものを感じていなかったのである。
「……つくづく、言わなくてよかったよ。『さよなら』なんて……」
 弓子は最初、集まった全員に「さよなら」と言うつもりでいた。だが彼女は寸前でそれをためらった。誰も彼もが、弓子に「さよなら」を言わなかったこともあるし、何より「行ってらっしゃい」と言われてしまったからである。
「『さよなら』じゃなくて、『またね』か……。我ながらうまく言ったもんだ」
 さよならではなく、またね。同じ別れの言葉だが、彼女にとっては全然違う意味を持つ。
 さよならと言ってしまえば、その人とは2度と会えなくなることになってしまう。だがまたねと言えば、いつか再び、あの心優しい人たちと会えるような気がしてくる。
 しかも話によれば、生者でも条件が揃いさえすれば死者の世界であるナラカを自由に歩きまわれるという。それはつまり、死んだ人と再会することができるということを意味していた。
「ふふ、死んでも会いにいけるなんて……。世の中ちょっとおかしいんじゃないの? それだと、『死が2人を分かつまで』なんて言葉、意味が無くなっちゃうじゃないか」
 地球では結婚式の際に「死が2人を分かつまで、生涯愛することを誓いますか」などといった言葉が出てくる。それは要するに、死んでしまったらそれ以降は何もできなくなる――誰かと話すこともできないし、何かを伝えることもできなくなるということだ。だから夫婦は死ぬまで愛し合うのが義務とされている。
 それなのにこの状況は一体何だ。死んだらナラカに行くところまではいいとしても、そのナラカに生きている人間が当たり前のように行き来でき、またナラカの死者は条件次第で地上に出ることもできる。
 パラミタ、ナラカの存在のせいで、「死が2人を分かつまで」とは意味を成さなくなった。永遠の別れなど、あり得なくなってしまった。

 そう、これは決して、永遠の別れなどではないのだ。

「永遠の別れ、か……。さすがに転生しちゃえば、そうなるんだろうけど……」
 だが奈落人として生きていくのなら話は違う。そうでなくとも、都合150年はこのままでいられる可能性がある。
 心優しい友人たちも、きっといつかは死ぬだろう。だがそれは、別れではなく再会を意味する。
 弓子はたくさんの人たちに愛されていたことを知った。友が死のうとも、その心だけは変わりはしない。
「大事な人たちが、私を見てくれていた。だからもう、寂しくなんかない」
 手元にそれを証明するものは無いが、彼女は確かにつながりを持っていた。
 そう考えた時、彼女はふと思い出した。そういえば誰かが何かを「残しているかも」とか言ってたはずである。
「……確か、ニコニコ労働センター前駅、とか言ってたっけ。動画サイトみたいな名前だなぁ」
 ちょうどいい。支配者の奈落人の所に行ったら、その後で寄ってみよう。何も無いかもしれないが、もしかしたら何かがあるかもしれない。

「大丈夫。今は『1人』だけど、私はもう『独り』じゃない」

 大切な人たちとのつながりを胸に、彼女は1歩を踏み出した……。


吉村 弓子――百合園女学院の生徒をはじめ、様々な学生に見送られ、成仏。享年17歳。ナラカにて新しい生活が始まる。

桜井 静香(さくらい・しずか)――弓子が離れ、いつも通りの校長業に戻った。

ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)――弓子が静香から離れたことで安心を得る。また静香いぢりに精を出すだろう。

弓子の百合園制服――「吉村弓子」の名札をつけられ、静香の自室クローゼットに思い出の品として保管される。そのポケットにはプレゼントされた「Naraca」も入れられた。

弓子への寄せ書き、及び弓子のヨーヨー――暫定という形ではあるが七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が記念として預かることとなった。寄せ書きの色紙は数枚あるため、いくらかは他の誰かが預かってもいいかもしれない。

アントニオ・ロダト――学生たちによって「夕日の涙」が守られ大満足。戦闘の影響で屋敷のガラスなどに被害が出たが、宝石が盗まれることに比べれば大した問題ではない。

怪盗3姉妹「狐の目」――学生たちに叩きのめされ、3人揃って逮捕。これまでに盗んだ宝石や貴金属類も押収される。再起不能(リタイア)。

ジルダ・ファイローニ――学生たちのおかげで猫を回収でき、食事会を滞りなく進行させられて満足した。

桐生 円(きりゅう・まどか)――弓子に関する様々な憶測が的外れであったと知り、愕然。ショックのあまり学生寮に引きこもり、数日間は出られなかった。一応、再起可能?

ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)――「乙女のたしなみ」であるパワードスーツ姿を弓子に否定されショックを受けたが再起可能。

影野 陽太(かげの・ようた)エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)――何とか「死人の谷」駅に到着できた。回収した携帯を届け物として車掌に渡すことができたかどうかはわからない。

久多 隆光(くた・たかみつ)――「狐の目」のレミが持っていたトンファーをこっそり手に入れ、帰還。だが撥の代わりにならないとわかると、すぐさま捨てた。事件解決の報酬としてアントニオから撥を貰えばよかったと後悔する。

葛葉 杏(くずのは・あん)――どうしても弓子がただの幽霊であると信じられず、いまだ化けの皮を剥ぐことを諦めていない。

毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)――静香にアルバムを渡せて満足。杏にやられた負傷はしばらくの後に治った。

橘 美咲(たちばな・みさき)――その後、弓子の両親と共に、墓参りに行った。

如月 日奈々(きさらぎ・ひなな)冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)――大量の猫に囲まれて、日奈々は死ぬほど満足し、そんな日奈々を愛で続けた千百合もまた死ぬほど満足した。

横倉 右天(よこくら・うてん)――敦賀 紫焔(つるが・しえん)秋月 葵(あきづき・あおい)テスラ・マグメル(てすら・まぐめる)に計画を邪魔され、前編に引き続き再起不能(リタイア)。しかも2度にわたり静香に手を出したことでグレゴール・カフカ(ぐれごーる・かふか)共々、百合園女学院から敵視されるようになる。

真口 悠希(まぐち・ゆき)――心優しい友人たちに囲まれ、時々は力を抜いている、かもしれない。


TO BE CONTINUED…?

担当マスターより

▼担当マスター

名も無き詩人

▼マスターコメント

 参加者の皆様、お疲れ様でした。
「桜井静香の奇妙(?)な1日 後編」のリアクション、いかがでしたでしょうか。
 この度は公開が遅れて申し訳ございません。できるだけこうならないように精進させていただきます。

 今回は2つの依頼を舞台として、静香&弓子とドタバタ劇を繰り広げてもらおう、と思っていたのですが、蓋を開けてビックリ、最後はやたらしんみりしちゃいましたね(笑)
 本当なら成仏のシーンも割とあっさりめに終わる予定だったのですが、数々のアクションの結果、まさかの弓子大号泣(ついでに詩人も泣くという精神的ダメージがッ!)。つくづくアクションって偉大なんだなと実感させられました。

 さてその弓子ですが、結果的にちゃんとナラカに落ちました。これからはナラカに住む死者の一員として今後を生きていくことになるでしょう。
 静香に取り憑いて騒動を引き起こした張本人とも言える彼女ですが、まさかこれほどまでに皆様に愛されるようなキャラになるとは思ってもみませんでした。NPCを考えたマスター冥利に尽きるというものです。
 そして非常に心苦しい限りではございますが、弓子というキャラクターは元々このシナリオのためだけの「1発屋」的なキャラであったため、ほぼ100%の確率で再登場はありません。少なくとも「名も無き詩人」が彼女を操作することはほぼ無いものとお思いください。
 もちろんゲーム内の情勢次第では、「もしかしたら」彼女が再び皆様の前にお目見えするかもしれません。ただしあくまでも「もしかしたら・万が一」程度のものでしかありませんので、あまり期待はなさらぬようお願いいたします。ひとまず今は、彼女とのお別れという「余韻」に浸っていただければと思います。

 今後の予定としましては、次は天御柱学院かパラ実辺りでコメディシナリオでも出させていただこうかなと思っております。あくまでも「予定」「思う」程度のものですので、もしかしたら全然違うのを出しちゃうかもしれませんが(笑)
 それからギャグ関係の立ち位置の指定については、しっかりとメモを取らせていただいております。今後はそれで対応させていただきます。

 それから1つお願いがございます。
 これまで個別コメントにて「口調等の修正を希望される場合、掲示板かサポートメールにてその旨お知らせください」といったことを書かせていただいておりましたが、恐れながら、今後その類のクレームや修正希望については「サポートメールのみ」でお願いいたします。
 誠に勝手ながら、ご協力をお願いいたします。


 それではまた縁がございましたら、別のシナリオにてお会いいたしましょう。
 お相手は「名も無き詩人」が担当させていただきました。