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リアクション
《そろ、第一チェックポイント通過です》
《コチラ世、通過ポイント上にIED(路上爆弾)は見当たらねぇ》
白竜へと情報を羅儀が渡す。軍用バイクで先行して、先の道の安全を確認できたようだ。
《清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)両名からの報告。「《禁猟区》で敵影を察知出来ず」です》
連絡役のユイリからの通信からも、輸送部隊の近くに敵はいないとの事。これで、当面は安全に護送が出来るだろう。
そもそも、この第一チェックポイントは地形に多少の起伏があったため、万が一ここに罠が仕掛けられていたら、と念の為に警戒して目星を付けていた箇所の1つだ。罠や待ち伏せがないに越したことはない。
《ジーナ、ミスファーンの両名は後退し、ルカルカ、ダリル、淵と偵察部隊を交代》
《了解》
三人は【籠手型HC】に通信を受け、【鋼龍】レイにてコンボイの先頭上空へと飛び立つ。
偵察部隊は気の張る仕事だ。細目に入れ替わりさせなければならない。先行して罠を見落としては、それに続く部隊に痛手を負わせてしまう。
しかしながら、この日は夜になっても“砂漠の海賊”なる集団に出くわすことはなかった。作戦参謀は、夜間の走行を危険と判断して砂漠の真ん中でキャンプをする事を決定した。
夜間は円形状にコンボイを止めて、円の中央で火をくべた。砂漠の気候は、昼間は非常に高い気温だが、夜は急激に寒くなる。場合によっては零下になることだってある。
もちろん、キャンプを中央に持ってきたのも防衛のため。襲撃に備えて、イコン部隊がキャンプとトレーラーを守りやすくするためだ。夜間走行で襲われるより対処しやすいが、夜は気を抜けない時間帯であるには変りない。参加者は交代で見回りをする事となった。
「本当は来なければ来ないでいいんだがな――」
外周を見まわり愚痴るラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)。真っ暗な砂漠の先には何も見えない。済んだ空気のせいで星空だけが明るく見える。
ナイトビジョンを付けて見回っている生徒もいるが、今のところ当たりに変化は見られない。夜間の連絡役である葉月 可憐(はづき・かれん)アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)からの《テレパシー》でも各員からの異常発見の報告がない。
「スープをつくったので食べてください」
中央では真珠とミゼが炊き出しをしている。非戦闘要員として給仕に回っている。調理が得意なノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)もその手伝いをする。
「九品寺さんもどうですか?」
と、火村 加夜(ひむら・かや)が気を利かせて保温カップに注いだスープを差し出す。「ありがとうございます」
素直にカップを受け取る九品寺。
加夜の担当は九品寺の安全を確保する役目だが、睡蓮と鉄心に頼まれて監視役も兼ねている。加夜はそこまで彼のことを悪くは考えていないのだが、彼が事件に関して最も黒に近い人物なのは確かだ。
この護送隊の位置も九品寺が海賊へとリークしている可能性だって十分にある。もしくは、そうさせないためにも彼に監視の目をつけておく必要があった。
「九品寺さんは研究所で何をなさっていたんですか?」
遠まわしにだが、話を聞いていくことにする。直接的に質問しても重要な部分は聞けそうにないのは出発時の話から察している。
「俺の担当はコックピット周りの調整と、安全性の研究です」
「というと、インターフェイスとか、操作部品の開発ですから?」
「いえ、開発もしますが、主に人間工学に基づいた再設計と再調整です。イコンには未だに改変をする余地がありますので」
ロボットとは云わば、精密機械の総合体だ。足先から頭まで複雑難解な技術で組み立ててあり、その全てを管理操作するのがコックピットであり操縦者だ。そのため操縦者に掛かる精神的な負担をできるだけ取り除くことが重要になってくる。複雑な操縦を簡易化しつつ、細かい動作をより直感的に可能とさせる研究をしているのが彼だ。
「じゃあ、九品寺さんの作ったコクピットの試運転をしていたのって、もしかして彼女さんなのでは?」
ティーと隣で食事をしていたイコナが訊く。直感的にそんな気がしたのだ。
「そういう事もあった。でも調整に付き合ってくれるのはアレイシャの事が多かったかな」
アレイシャは九品寺の恋人の双子の姉だ。
「失礼ですが……もしかして、イレイシアさんが事故にあったのは……」
九品寺が作ったコクピットの耐久実験での失敗が原因ではないかと、加夜は予想してしまう。
「幸い俺のじゃなかったよ。俺はCHPシリーズの担当だったから、事故があったのは機体はVaranusCVで別の奴が開発を担当していた。調整を手伝ったのは確かだけど、その時は別の研究を進めていたし」
「別の?」
ティーが首を傾げる。
「『単独搭乗システム』て言って、2人乗りのイコンを1人乗りする研究」
「それ、あたし気になる。それって今回の輸送しているイコンのこと?」
会話に朝野 未沙(あさの・みさ)首を突っ込む。イコン蒐集家として、彼が開発したらしい改良イコンには興味がある。
「ああ、1機だけシステムを搭載している。けど、あれは試作機として天御柱で保管、再研究してもらう手筈だよ」
「あたしの学校に来るのか〜。それは良いとして。この護送が成功したら、お礼として『改良型イコン』を全部貰えないかな? 売ってくれるだけでもいいんだけど!」
未沙そう言われると、九品寺は困った顔をした。
「うーん。俺の権利ではムリだね。俺らがやっているのは開発であって、製造はしていないからね。今回の改良型だって、元は学園のなんだ」
シャンバラ・カナン共同イコン研究所は、研究と開発はしているが、イコンを製造するプラントは持っていない。故に、各学校からの実験機の提供が必要となる。
「それに、装備や出力は従来のと変わっていない」
安全性、製造効率、コストダウンが見直されただけで、外見、機能性を含め何ら変わっていないのだ。いうなればバージョンが1.00から1.00.1に更新された程度のことでしか無い。
「じゃあ、新型ってわけじゃないんだ……」
それを聞いて未沙は少しがっかりする。《財産管理》からすれば、無駄遣いをしなくて済んだとも思える。
「じゃあ、学校に届く『単独搭乗システム』搭載のイコンでも触らせてもらおう……と」
未沙が後ろを振り返と、
「クセェェ……」
不機嫌そうにジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)が九品寺を見下げていた。
彼は徐に、九品寺を掴み上げ間近で睨みつける。いや、臭いを嗅ぐ
「てめえ、何か隠してんだろぉ……」
「ちょっと! なにしてるのよ!」
未沙と加夜が止めに入る。小さいティーとイコナはジガンを怖がって退避してしまった。
かく言う、ジガンの連れであるエメト・アキシオン(えめと・あきしおん)は彼の狂犬ぷりに酔心して「やっちゃえ、ひったおせぇ!」と止める気はさらさら無い。
ジガンが気に入らなくても、九品寺は部隊にとっての依頼主だ。依頼主に何かあったでは各学校の信頼に傷が付く。喧嘩沙汰、流血沙汰は止めなければならない。
「おい」
と、誰かが後ろからジガンの肩を叩く。
「見張り、交代だぞ」
無限 大吾(むげん・だいご)がジガンの肩を掴んで、動きを制した。
ジガンは舌打ちして、九品寺を手から離す。
「ちっ……行くぞエメトォ」
「あはっ、マスターまってぇえええ」
去りゆく嵐にその場のものは胸を撫で下ろした。
「大丈夫です?」
西表 アリカ(いりおもて・ありか)が九品寺を心配する。
「ほんとなんなのかしらね、アイツ!」
憤慨する未沙。
「大吾さん、助かりました」
「いやなに、見てられなかっただけだよ」
加夜に礼を言われて、照れる大吾。彼のヒーロー気質が功を奏した。
すっかり、気分を害された彼女たちだが、それを気遣ってか、薪の近くから歌声が聞こえてきた。
リョージュ・ムテン(りょーじゅ・むてん)が、トレーラーの荷台に有った木箱をパーカッション代わりにリズムをとって歌う。
「リョージュくん……あまり騒がないほうが。周りの皆さんに迷惑がかかりますし」
8ビートを刻むリョージに白石 忍(しろいし・しのぶ)が注意する。
「何? ミンストレルのオレに歌うなと? それは無理だぜ! ここで歌えるの《驚きの歌》しか無いけどよ」
忍の意見を無視して、ロックな《驚きの歌》を奏でるリョージュ。それでも皆のSPを回復させる効果はある。
「わたしも歌っていいかな?」
ディーヴァであるノーンも、真珠の手伝いを終えて演奏するリョージュへと寄ってきた。
「影野 陽太(かげの・ようた)んとこのじゃねえか? あいつはどうした?」
「おにーちゃんは環菜おねーちゃんにかまけて、別の所行っちゃったんだよ」
陽太は別の大任を受けて、このミッションには来られなかった。彼の代わりに来たのがノーンと言うわけだ。
「そうだ、てめえディーヴァだろう? 一曲歌わねぇか?」
吟遊詩人が歌姫にセッションを申し込むのは、ナンパの1つではないかと考えるリョージュ。ここで断られたらフラれたの一緒だ。
「わたしも歌ってイイの?」
首を傾げるノーンに忍が頷く。
「お願いします。リョージュくん、今歌える持ち歌がないですから」
彼が今歌えるのは後、《悲しみの歌》《恐れの歌》と場に合わない。ノーンなら《幸せの歌》が歌える。
歌うのはノーンもお菓子を食べるのに次いで好きだ。もちろん演奏も。
「じゃあ、【眠りの竪琴】弾いて、一曲歌うよ!」
「そ、その楽器は勘弁してくれ……」
【眠りの竪琴】で演奏されては部隊の全員が寝てしまいかねない。仕方ないので、リョージュが木箱を叩いてローテンポのリズムをとり、それに合わせてノーンが歌うこととなった。
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