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第五章 凍結との競争

 先行して部屋を覗きに行った十田島 つぐむ(とだじま・つぐむ)竹野夜 真珠(たけのや・しんじゅ)が、皆の所に戻ってくる。しかしどちらも浮かない顔をしている。
「とりたてて変わりばえのしないへやだったな。通路から見た限りでは、誰もいないようだ」
「変と言えば変なんだよね。燭台しかなかったしー」
 2人の説明によれば、壁に無数の燭台がかかっているだけだと言う。
氷結♭なんだろ、部屋の温度はどうだった?」
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)の疑問に、真珠が「見た感じでは普通かな」と答えた。
「徐々に下がるって可能性もあるし、いつまでもこうしていても仕方ないよ、行こう!」
 霧雨 透乃(きりさめ・とうの)の言葉に、皆が同意した。
「しかしキミ、それで大丈夫か?」
 橘恭司がチューブトップにミニスカートの霧雨透乃を見る。
「私なんて、良い方だと思うよ。ホラ」
 透乃の指差す先には、十田島つぐむのパートナー、ミゼ・モセダロァ(みぜ・もせだろぁ)がいる。なんとビキニの水着にニーハイブーツのいでたちだ。
「あそこまで行くと、趣味だろうとしか言いようがないんだが……」
「それに心配しないで、私にはこれがあるから」
 透乃は日本酒を取り出すと、ラッパ飲みする。
「どう? 温まるぜ」
「…………いただくか」
 
 全員が部屋に入ったものの、何も起こらなかった。  
 十田島つぐむと竹野夜真珠の言葉通り、ただただ燭台がたくさんあるだけの部屋。
「とりあえず全員で手分けして調べてみましょう。何かありましたら報告し合いましょう」
 東雲 いちる(しののめ・いちる)がそう言うと、それぞれに分かれて調べ始める。

 師王 アスカ(しおう・あすか)ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)と連れ立って燭台を見て回る。
「壁には無数の燭台か……、♭(フラット)は‘平坦な’という意味を持ってるから、そこまで難しい訳じゃないのかもねぇ」
「この燭台を使って何かを問われるのかもな」
 燭台に触れようとしたルーツを、アスカが制する。
「触って調べるのは最後にしようよぉ。何か起こったらコトだからねぇ」
 ルーツは手を引っ込める。
「恐らく、ここで問われる訓練は力じゃないわねぇ、知恵かスピードって所なのかもぉ」

 東雲 いちる(しののめ・いちる)もパートナーの3人、クー・フーリン(くー・ふーりん)ソプラノ・レコーダー(そぷらの・れこーだー)メアリー・グレイ(めありー・ぐれい)を連れて回っている。ただし調査に専念しているのは、いちるのみ。パートナーの3人は調査しつつも、いちるに危険が及ばないよう、油断なく警戒していた。
「燭台がこれだけあるってことは、やっぱり炎が鍵なのかな? どう思う?」
 聞かれたソプラノも首をかしげる。
「音符のことならお役にたてるかと思ったんですが、氷結の部屋ということで簡単に考えるならば温度が下がる、なのかと思いますが……」

 部屋を調べる十田島つぐむには、ミゼ・モセダロァがぴったりくっついている。
「調べにくいだろ、離れてろよ」
「だってぇ、つぐむ様ぁ、この部屋氷結♭でしょ、寒いんですもの」
「温度は常温だ。まだ何にも起きちゃいないよ」
 そんな2人を横目で睨みつつも、竹野夜真珠はガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)と真面目に部屋を調べていた。
「何もないですし、何も起きませんね」
「温度が下がっていくのであれば、極限状態での生存方法の訓練と推測していたのだが」
「単なる我慢比べなら訓練施設とは言えないよ。やっぱり燭台に何かありそうなんだけど……」

「ここへ酒盛りに来たのか?」
 橘恭司は透乃を呆れて見下ろした。あぐらをかいた透乃は既に一本、空にしている。
「だって何も起きないんじゃつまんないでしょ、ま、景気づけってことで」
 またしても勧める透乃だが、恭司は「いや、やめとくよ」と断った。 

 全員が集まるが、結局何の成果も得られなかった。
「やっぱりこれが鍵なのかな」
 十田島 つぐむ(とだじま・つぐむ)が、手近な燭台を持ってくる。全員の視線が集中する。もしかすると骨董的価値はあるかもしれないが、そうでなければ、単なる古いごくありきたりの燭台だった。  
「じゃあ、消してみようかぁ」
 全員が周囲を警戒する中で、師王 アスカ(しおう・あすか)が息を吹きかけると、あっけなく炎が消えた。
「何も起きないねぇ」
 それならもう一度付けてみようと言うことになり、アスカのパートナー、ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)が火術を使う。
「おや?」
「ルーツ、どうしたのぉ」
「火がつきにくかった感じがしたんだ。気のせいかもしれないが」
「ふぅん」