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さまよう死霊の追跡者

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さまよう死霊の追跡者

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「……はぁぁああー。せっかく、上流階級の方々とお近づきになれると思ったのになぁ」
 館の廊下を走りながら、佐野 亮司(さの・りょうじ)は盛大なため息をつき、ブツブツと呟いていた。
 パラミタで商人をしている彼は、単純に仕事の枠を広げようと、上流階級の顧客を得るため、この会に参加していた。
 だが現実は、謎の怪物と遭遇し、襲撃を受けている。しかも、そんな亮司の横では、
「ねえ! ねえねえ、ルーツっ! 怪物だよ、怪物! すごいと思わない! うわ〜、こんなに面白いモデルもないよっ!」
「いや、アスカ……今はそんな場合じゃないだろう?」
 怪物を前にスケッチブックを握り締めて目を輝かせる少女、師王 アスカ(しおう・あすか)と、そんなアスカを落ち着かせている相棒のルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)が走っている。
「……ホント、面倒なことになってるなぁ」
 疲れきった表情で、亮司はため息をついた。コホンと咳払いし、並走する二人に視線を向ける。
「とりあえず、お二人さん。あの怪物の動きを止めたいんですが?」
「うん、そうね! 動いていられちゃ、スケッチもできないもの!」
「アスカ、だからそういう意味じゃないだろう」
 スケッチのことしか頭になくなっているアスカに、ルーツが苦笑いを浮かべる。だがルーツはすぐに真剣な表情を浮かべると、顔を背後へ向けた。
「まあ、我が何とかしよう」
 そう短く告げ、ルーツは背後の怪物へ向けて、スキル『ヒプノシス』を発動させた。ヒプノシスの催眠効果で、怪物の動きが鈍くなる。数秒後、怪物は完全に動きを止め、その場にゆっくりと崩れ落ちた。
「おお! やるじゃんか」
 倒れた怪物を見て、亮司が関心した声を上げる。さらに、廊下の窓側にかけてあったカーテンを器用に取り外すと、亮司はそれをロープのようにして怪物に巻いていった。
「とりあえず、これだけ頑丈に縛っとけば、大丈夫だろ」
「うん、うん! このアングル最高だよ!」
 ひとり、満足したようにアスカは、縛られた怪物を見つめて、筆を動かしている。
 それを亮司が呆れたように見つめ、不安げな表情でルーツが見つめていた。
「しかし、『ヒプノシス』の効果が、この不死の怪物相手に、どれだけ続くか」
「なに、今さら目覚めたって、身体を縛られてるんじゃ、何もできねえって」
 そう亮司が告げた次の瞬間だった。
 ――ブチブチブチッ!
「「「えっ?!」」」
 三人の声が重なる。そして、次の言葉を発するより先に、怪物は身体を縛っていたカーテンを力だけで引き千切った。
「う、うそだろ、おいっ!」
 慌てて、亮司が逃げ出す。
 その後を追うように、ルーツもアスカを脇に抱えて走り出した。「私のモデル〜!」と最後までアスカは、スケッチと筆を手に喚いていた。


 一方、その頃。
 氷室 カイ(ひむろ・かい)は百合園の生徒たちから話を聞いていた。
 彼には、気になっていることがあった。怪物が現れる前、とある女子が「こんな嵐がくると、あの人のことを思い出す」と口走っていたのが、どうしても気になったのだ。
 何かそのことについて知っている生徒がいるかもしれないと、彼は聞き込みを始めた。
「……え? 湖で死んだ男?」
 すると、避難していた百合園の女学生から、興味深い話を聞くことができた。
「え、ええ。その……半年ぐらい前なんですけど、夜にヴァイシャリーの湖を泳いで渡ろうとしていた男性の方がいたらしいです」
 怯えた様子で、百合園の生徒はカイに話を聞かせる。
「ですけど、その晩は今日みたいに激しい嵐で、男性の方は翌日、水死体で発見されたらしくて」
 そこまで聞くと、カイは自分の隣に立つサー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)のほうを向いた。
「どう思う、ベティ? あの怪物と関係があると思うか?」
「わかりません。ですが、無視できるような内容ではないかと」
 慎重にベティはそう答える。やはり、何かあの怪物と関係があると睨んでいるらしい。
「なあ、キミ。その死んだ男について、もう少し詳しく……」
 カイがさらに話を聞こうと女子生徒に視線を戻したその時だった。

「きゃあああああああああーーーーっ!」

 避難した生徒たちの集まった部屋に、女性の悲鳴が上がった。一斉に全員の視線が声のしたほうを向く。
 視線の先には、当然のように怪物が立っていた。
 そして、強靭な怪物の腕に引き摺られ、――手足がバラバラに切断されたアシェルタ・ビアジーニ(あしぇるた・びあじーに)の無惨な姿があった。
 怪物は掴んでいたアシェルタの身体を投げ捨て、百合園生に狙いを定めていた。
 誰もが惨殺されたアシェルタの姿を見て、息を呑んでいる。しかし、それをまったく意に介さず、フラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)がアシェルタに近づいていった。
「あらら、またずいぶんと派手にやられたねぇ、アシェルタ」
 平然とそう告げ、『ヒール』を唱える。すると、手足のない状態でアシェルタが意識を取り戻した。
「……隙をつかれましたわ」
 そう答えると、バラバラになったアシェルタの手足がひとりでに動き、身体のほうへ戻ってくる。そしてあっという間に、手足がくっつき、アシェルタは五体を復活させた。
「ふ、ふふっ……やってくれるじゃないですか、ちょっと不死身なだけのバケモノ風情が。いいですわ、今日はわたくしが遊んでさしあげますわ!」
 怪しい笑みを浮かべるアシェルタ。
 その視線の先では、
「アハハハハハハハハハハッ!」
 彼女たちの契約者であるミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)が、ご機嫌な様子で怪物相手に肉弾戦をしかけていた。
「不死身だなんて最高だよ! 丁度こんなサンドバッグが欲しかったんだっ!」
 物騒なことを叫びながら、ミリーは壁を蹴り、空中を舞いながら、怪物の後頭部に鋭い蹴りを放っていく。容赦ないミリーの攻撃に、怪物のたまらずその場に膝をついた。
「うふふ、ミリーったら楽しそうだねぇ。フラットたちも参加しようか?」
「当然ですわ!」
 そう言ってフラットとアシェルタも怪物に向かっていく。
「カイ。私たちも」
「放っておくわけにもいかないよな……仕方ねえ!」
 そう返事をして、箒を槍代わりにするベティと、調理用のナイフを握るカイは、ミリーたちに加勢した。