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リアクション
【講堂】
研究所に講堂があるのは違和感があるかもしれないが、ある種大きなプレゼンテーションルームや視聴覚室と思えばいいだろう。なだらかな傾斜に固定された椅子と机。座るどの席からも見える教壇と2枚スライドの黒板にはプロジェクターのスクリーンが垂れかかっている。
「特に変わったことはないかな」
十七夜 リオ(かなき・りお)の言うとおり、何の変哲もない。放置されたプロジェクターとPCに違和感がある程度だ。
「ここで、研究の発表でもしてたのかな? リオ」
フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)の問いに「たぶんね」とリオが答える。
「なんにしたって、ここには何も無いんだよね! 何もなさそうなら帰ろうよぉ……!」
【最古の銃】を抱え小刻みに震える村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)。講堂に何も無いなら早く帰ろうと、皆に提案する。
「蛇々まだ着いたばかりだぞ。俺達は“キケンブツ”を回収しないと天御柱には帰れない。もしかしてお化けが怖いのか?」
しかし、アール・エンディミオン(あーる・えんでぃみおん)に冷静に却下される。おまけにからかわれた。
「アール、変なこと言わないで! 私は学園の依頼だから仕方なく来ただけなのに……」
「なんで夜に探すんだよ……」と愚痴る蛇々。
「わたしも手伝うから一緒に“キケンブツ”探そ」
身を縮める蛇々をリュナ・ヴェクター(りゅな・う゛ぇくたー)が諭す。リュナは蛇々より見た目幼いがこの研究所をあまり怖いとは思っていないようだ。ただ鈍感なだけかもしれないが。
「まっ、何も無いならいいけど。一応は机の中とか調べておきましょう。“キケンブツ”に関する書類の回収も任務の内だし」
几帳面なリオが講堂の捜索を開始する。蛇々も「早く帰りたい」と愚痴りながら渋々捜索をする。
蛇々にとって幸いな事といえば、この椅子と机がポスターガイストで飛んきそうにないことだ。床に固定されているだけでなんと頼もしいことか。飛んでくるものも置き忘れのペンや消しゴムならどうって事ない。
もし何か起こっても、リュナの《ディテクトエビル》で危険を察知できる。
危険性の無さを考えて講堂を選んだのは正解だったと蛇々は心の底で安堵していた。実験室や手術室を選んだらと思うとゾッとする。
「なにかプリントが残っているみたいだよ」
リュナがホッチキス綴じのプリント数枚を見つける。
普通はパートナーの蛇々に渡すべきなのだろうが、蛇々はカビたパンを見つけただけでも怖がり調子なので、冷静で《博識》なアールへとプリントを渡した。
「『α計画』概要と最終報告について――。とあるな」
「なにその『α計画』て?」
リオがそう尋ねるとアールは「読み進めばわかるだろう」と答え、プリントを読み上げて言った。
『αネット計画:通称『α計画』では被験体αのつよい《精神感応》能力を利用し、《精神感応》をもつ別のサイオニックなどとの精神ネットワークの構築を図るものであり、それが実現可能かを実証するものである。
被験体α及び、他の被験者のリストは後ろのプリントを参照――』
と、プリントを読み上げている途中で誰かがプロジェクターを動かしたようだ。スクリーンに被験体となった人たちの写真と詳細が写る。
そして、問題の人物。被験体αの写真。
《被験体NO.00031》 アリサ レンスキー 16歳 女性
通常の強化人間に比べて、《精神感応》に秀でている。これにより彼女は面識のない相手とも《精神感応》で一方的な会話が可能との事。
また、《精神感応》した無意識の相手を操る事が出るともある。
その能力を本計画の主軸とし、被験体αと呼ぶことにする。
追加報告。
第8次強化人間実験において、精神異常を起こし暴走。本所および天御柱の研究員を含めた5人を殺害。複数名に重軽傷を負わせる。
以後危険性を鑑みて、彼女の精神が安定するまで一時計画を凍結するとともに、被験体αの精神が安定するまで身柄をコールドスリープさせることを決定。
「つまり、ワタシたちの探している“キケンブツ”ってのは、このコールドスリープしている、アリス アレンスキーって女性なの?」
フェルクレールトの問いにリオが答える。
「恐らくね。蒼空の調べていることも、この娘が原因でしょうね……。実験には天学も関わっていたみたいだし、学院のメンツを保つためにもこの娘を回収しないとね」
「で、どこにこの娘どこに居るの? この娘が見つかれば帰れるんだよね?」
蛇々としても原因がわかったのだからもう帰りたい。
「地下室とかじゃないかな? 意外と建物の外に隠し部屋がありそうだけど。この講堂から中庭に出られるし、出て探してみよう」
リオの意見に蛇々以外賛同する。ここを探していてもこれ以上の情報はないだろうと判断したからだ。
先頭を切ってアールが中庭への扉を開ける。
アールの顔つきがより厳しいものと成る。
夜ということで、中庭の様子が今までわからなかったが、そこには幾つもの死体が散乱していた。
タイルに張り付いた血溜まり、白衣に袖を通した白骨、腐った肉に群がる虫。
異様な光景そこにあった。
「だからイヤだっていったのにぃー!」
蛇々が扉の前でへたり込んでリュナにしがみついた。
「もしかして、もう“キケンブツ”は目覚めているの……」
フェルクレールトが呟きにアールが答える。
「わからない。ただ、実験中の暴走といい、何かがあったのは確かだろう。もしかするとコールドスリープに失敗したのか――」
突如、リュナの《ディテクトエビル》に反応がある。
「来るよ!」
リュナが進言すると同時に、さっきまで寝ていた死体がリオへと飛び掛ってきた。《殺気看破》を持っていても、殺気を纏わない死体の奇襲に反応が送れた。
「危ない!」
フェルクレールトが《パイロキネシス》で襲いかかる死体を焼き落とす。
「大丈夫リオ!」
「ありがとう。フェル、助かったよ」
だが、安心してはいられない。他の死体も起き上がって迫ってくる。
迫り来る研究者たちの死体に蛇々が【最古の銃】乱射する。恐怖のあまりエイミングがブレ、うまく当てられていない。
「これも“キケンブツ”の仕業なの?!」
リュナにフェルクレールトが答える。
「わからない。でも、リオを傷つける相手は許さないっ!」
襲い来る死体の群れと5人は戯れる。
講堂ではプロジェクターが今尚スクリーンを照らしている。
――、コンセントが刺さっていないのに、カリカリと。
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