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シャンバラ鑑定団

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シャンバラ鑑定団

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    ★    ★    ★
 
「さて、エントリーナンバー16番、もふもふはゆる族の義務だと言うイルミンスールからお越しの雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)さんです」
忍び寄るゆる族の恐〜怖
 シャレード・ムーンに呼ばれた雪国ベアが、ステージ中央で突然光学迷彩を解いて現れた。
「ええと、心臓に悪い登場の仕方ですが、今日は何をお持ちいただいたのでしょうか」
 ハンカチで冷や汗を拭きながら、シャレード・ムーンが訊ねた。
「もちろん、俺様たちゆる族に伝わる国宝よ」
「国宝ですか。それでは、見てみましょう。オープン!」
 シャレード・ムーンが、日堂真宵が運んできたワゴンの上の縦に長い物に被せられた布を取り払った。そこには、何やら怪しげな像があった。
緩世音菩薩像だ!」
 自慢げに、雪国ベアが言う。
「それでは、再現VTRを御覧ください」
 シャレード・ムーンの言葉で、キネコ・マネー(きねこ・まねー)主演の再現ドラマがプロジェクタに上映された。
「なんであいつが……」
 不満そうに、雪国ベアがつぶやく。
 
 緩世音菩薩像は、一時期ゴアドー島の土産として出回ったこともある木彫りの像で、大怪獣ゴアドーの姿を模した物だと言われている。
 代々ゆる族の間ではこの像に対する信仰が根強く伝わってきた。光学迷彩を使うゆる族は、祭りの際には姿を消したままこの像を持って踊ったと言われている。それがどこをどう間違えたのか、現在では姿を消して使う鈍器として伝わっている。すなわち、姿を消していれば、これで殴っていいと言われているのだ。
 これは、危ない。いったい、誰がそんな言い伝えを作りだしたのであろうか。
 ともあれ、木像としては貴重なものである。ただし、本物であれば。土産物もたくさん出回っているので、安心はできない。さあ、鑑定結果はいかに!
 
ぐっ……調子に乗りやがって!
 調子よく踊るキネコ・マネーの姿に、雪国ベアが陰で吐き捨てるように言った。
「では、鑑定士の先生たちに見ていただきましょう」
 シャレード・ムーンに呼ばれて、イグテシア・ミュドリャゼンカ、織田信長、紫月睡蓮たちが現れる。
「これですか。ふむふむ、うーん……」
 像の周りをグルグルと回りながら、イグテシア・ミュドリャゼンカがしきりにつぶやいた。
「よく使い込まれているじゃないか」
 織田信長は、像の表面をしきりに調べている。
「うん、もういいですよ」
 一緒にあちこち調べていた紫月睡蓮が言い切った。
「では、希望価格を聞いてみましょう。さあ、いくらをつけますか?」
「もちろん、1万……7万だ、7万!!」
 普通に言おうとした雪国ベアであったが、突然、悠久ノカナタの金額を思い出して、希望金額を変更してきた。
「えー、いいんですか?」
「いいんだよ!」
 そんな金額で大丈夫かと訊ねるシャレード・ムーンに、雪国ベアが大丈夫だ、問題ないと答えた。
「では、オープン・ザ・プライス!」
 5000!!
「おお、結構言い値段がつきました」
 7万はなかったことにして、シャレード・ムーンが言った。
「間違いなく、本物の緩世音菩薩像です。一刀彫りではありませんし、底に変なサインもありません」
 紫月睡蓮が、保証した。
「でも、残念なことに保存状態が最悪ですわ。もう少し綺麗でしたら1億はいきましたものを……」
 軽く溜め息をつきながら、イグテシア・ミュドリャゼンカが言った。
「1億!!」
 思わず、雪国ベアが目眩でふらつく。
「だが、よく使い込まれていて、この像も本望であろう。このあたりの血の跡など、実に生々しい」
 織田信長が、変な関心の仕方をする。どうやら、彼が少し評価を引き上げたらしい。
なあーんだ、こんなものか
「ええ。ふっ……、あんなまだらな血の跡では、鈍器の使い方がなってないですぅ」
 頭の後ろに両手を回して拍子抜けるセシリア・ライトに、メイベル・ポーターが小声で言った。
 
    ★    ★    ★
 
「エントリーナンバー17番、地元空京大学からお越しのジーザス・クライスト(じーざす・くらいすと)さんです」
「光あれ」
 謎BGMに乗って、ジーザス・クライストがステージ中央に進み出た。なぜか、ステージが明るくなる。
「なんだか後光がさしているような気がしますが……」
「ああ、すまぬ、眩しかったよあだな。今、光量落とすぞ……。南鮪に無理矢理出演させられた……、出たくなかったのに、出たくなかったのに……」
 なんだかぶつぶつとネガティブなことをつぶやきだしたかと思うと、ステージの明るさが普通に戻った。
「今、いったい何が……。ええと、パラミタじゃ、細かいことは気にしちゃいけないですよね。それでは、お宝をお願いいたします」
「はい、これです」
 そう言うと、ジーザス・クライストが懐から取りだしたワイン瓶をワゴンの上においた。
「これは何でしょう。空京大学生協のラベルがついていますが?」
「さっき買ったのだが、何か出品する物はないかなと探しているうちに、うっかり聖遺物になってしまって……」
「はっ? ええと、よく分かりませんが、判断は鑑定士の皆様にお任せいたしましょう」
 シャレード・ムーンに丸投げされて、佐々木弥十郎、アーサー・レイス、紫月唯斗、紫月睡蓮たちがワインの瓶を取り囲んだ。
「これは、飲んでもいいのデスカー?」
「それは勘弁してくれ。帰ってから私が友達と一緒に飲みたいのでな」
 今にも蓋を開けようとするアーサー・レイスを、ジーザス・クライストがあわててとめた。
「うーん、それではカレー味かどうか確かめられないデース。そして、カレー以外の物に価値はありまセーン」
 つまらなそうに言うアーサー・レイスに、カレー味のワインなんて存在するわけないでしょと日堂真宵がステージの陰で突っ込んだ。
「うん、この金属のスクリューキャップは、どう見ても安物のワインだねえ。もしかして、調理用のワインじゃな……、なんだぁ、この異様な神々しさは!?」
 ボトルを手に取った佐々木弥十郎が、ワインの持つ強力な気にあてられてふらついた。
 ――うおっ、やばい、こいつやばい、やばい!
 佐々木弥十郎の中で、伊勢敦が軽いパニックになる。
「おっと、大事な依頼品が危ない……、なんだこのワインは!?」
 あわてて手を貸した紫月唯斗までもが、驚きで目を丸くする。
「お祓いしましょう。今すぐ!」
 兄に手を貸した紫月睡蓮が、すかさず言った。
「ねえ、なんで、みんなあんな普通のワインに大騒ぎしているのですかあ?」
 いまいち展開についていけなかったアンネリーゼ・イェーガーが、観客席で隣にいる笹野朔夜(笹野桜)に訊ねた。
「きっと、あのワインには何かが憑依しているのですよ。例えば、奈落ワインみたいな……」
 ――無茶な設定勝手に作るんじゃないです!
 そんな話は聞いたことがないと、笹野朔夜が突っ込んだ。
「ええと、もうよろしいでしょうか」
 収拾がつかなくなってきたので、シャレード・ムーンが進行を優先させた。
「さあ、いったいいくらを希望なされますか?」
「人の子らよ。むやみに金銭的な価値を求めるのは愚かしいことだ」
 ばっさりとジーザス・クライストが答えた。
「ええと、とにかく鑑定結果を聞きましょう。オープン・ザ・プライス!」
 700000!!
「なんと、本日の最高額が出ました! さあ、理由を聞いてみましょう」
「ええと、とにかくそれぐらいだと思いました。ですが、一つだけ確かに言えることがあります。あれは、聖餐の契約の血です」
 シャレード・ムーンの問いに、鑑定士たちが口を揃えて答えた。
「ええと、よく分かりませんでしたが、おめでとうございました」
 ジーザス・クライストにおめでとうを述べると、シャレード・ムーンは聖餐の契約の血をジーザス・クライストに返した。