波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

シャンバラ鑑定団

リアクション公開中!

シャンバラ鑑定団

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「それでは、エントリーナンバー14番、ダークサイズ西カナン支部からお越しのイオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)さんです」
 シャレード・ムーンに呼ばれて、イオテス・サイフォードがしずしずとステージに現れる。
 日堂真宵が、大きなワゴンを押してその後から現れた。何やら縦に長い物のようだ。
「では、お宝を拝見させていただきましょう」
 シャレード・ムーンが布を取り去ると、ワゴンの上におかれた台に、幾張りもの弓がならべて立てかけられていた。
 蒼弓ヴェイパートレイル梓弓対イコン用爆弾弓ドラゴニュートの骨弓セフィロトボウと、そうそうたる逸品がならべられている。
「これは壮観ですねえ」
「はい、わたくしの大切な弓たちです。カナンで手に入れたり、修行中に見つけた物なのですが……」
 ちょっと感心するシャレード・ムーンに、イオテス・サイフォードが答えた。
「何よあれ、レアな匂いがプンプンするじゃない。一本ほしいわよ」
 ならんだみごとな弓を客席から垂涎のまなざしで見つめて、リカイン・フェルマータが言った。
「確かに、売れば相当な金額に。今なら……」
 ちょっと危ない考えにとりつかれて、ヴィゼント・ショートホーンがあわてて言葉を句切った。
「では、鑑定士の先生方に鑑定していただきましょう。外から、リーヴェンディ先生、ガイザック先生も戻ってこられたようです」
 シャレード・ムーンが言った通りに、ジュレール・リーヴェンディとダリル・ガイザックが、織田信長と一緒に現れた。
「うむ、これはすばらしい。みごとな弓のコレクションだな」
 弓弦の張りを実際に確かめて、織田信長が言った。
「対イコン爆弾弓は使えそうだが、他の弓は我のレールガンと比べると威力が落ちるのではないのか?」
「単純に、弓矢としての使い方以外にもあるのだよ」
 そうジュレール・リーヴェンディに言うと、織田信長が梓弓の弓弦を弾いて音を鳴らした。
 とたんに、周囲から、何か目に見えない者がわきゃわきゃと逃げだしていく気配が感じられた。
「弓弦打ち鳴らす、それすなわち破邪の法なり……というところであるな」
 そう説明して、織田信長が梓弓を元の位置に戻した。
「状態もいいようだ。だが、本来なら、試射をしてちゃんとした性能を確かめるところなのだが……」
ゲブラーの矢ならありますけれど……」
 ダリル・ガイザックの言葉に、イオテス・サイフォードが一本の矢を差し出した。
「はいはーい、試射のアシスタントなら、ルカがやりまーす」
 待ってましたとばかりに、客席最前列にいたルカルカ・ルーが、諸手を挙げて名乗りをあげた。
「残念だが、この矢は、イアンナの加護を受けた者しか使えない。だいたい、依頼者であるあんたにも使えない弓が混じっているのではないか?」
「ドラゴニュートの骨弓はコレクションですわ」
 ダリル・ガイザックに訊ねられて、イオテス・サイフォードが答えた。
 実際、ルカルカ・ルーが使えるのは対イコン用爆弾弓ぐらいしかない。だが、そんな物をここで試し撃ちされたら大変なことになる。
「さて、そろそろいいでしょうか。では、サイフォードさん、希望価格をお願いします」
「はい。20000ゴルダでお願いいたしますわ」
「それでは、オープン・ザ・プライス!」
 35100!!
「おおっと、高額が出ました。では、ガイザック先生、総評をお願いいたします」
「これは、単品でもかなり高価な物が混じっている。中でも、蒼弓ヴェイパートレイルとセフィロトボウは価値が高いだろう。全体的に見ても、コレクションとして大変質の高いものだ」
「ありがとうございました。これからも大事に扱ってくださいね」
 そう言って、シャレード・ムーンがイオテス・サイフォードを弓と共に送り返した。
 
    ★    ★    ★
 
「続いては、エントリーナンバー15、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)さんの登場です」
 シャレード・ムーンに呼ばれて、牛皮消アルコリアがステージに現れた。
「では、さっそく、依頼品を出していただきましょう」
はい、まいりましょう。私の依頼品はこれです」
 そう答えると、牛皮消アルコリアが腰のレーザーブレード【S・T・K】を抜いて高々と掲げた。十字の柄からのびた赤黒い光の刀身が微かな雷光を放つ。
「SchwarzTotenKreuzという銘がついています。イコン殺しの剣です。ゴーストイコンを斬り、寺院のイコンを破壊したことがあります」
「それは凄いですね」
 ちょっと半信半疑で、シャレード・ムーンが聞き返した。地上専用のイコンならまだ接近も可能だろうが、シュバルツ・フリーゲのような飛行タイプのイコンでは、本気でドッグファイトをした場合、仮に高速の飛空艇やバーストダッシュを使ったとしても速度差は200対1だ。こちらが1メートル進む間に、敵は100から200メートル進んでいるのである。これでは勝負にならない。
 その速度差と質量差から来る衝撃力もまた計り知れない物がある。接触しただけで、普通の人間ならバラバラだろう。契約者でも、無傷というわけにはいかない。第一、ソニックブームをまともに受けたら、接近さえ不可能である。
 それゆえ、生身の人間とイコンの戦いでは、相手がほとんど静止状態という状況で、さらに射撃武器を使用するという条件が基本となる。まあ、たいてい基本は無視されるのがパラミタの実情ではあるが。
 さらに、高速移動するイコンから、クラスター弾でも発射されれば、生身の中隊規模は一瞬で殲滅されてしまう。単純な銃撃でも、巨大な弾丸の起こすソニックウェーブは、拳銃弾の比ではなく、至近距離を通りすぎただけでもごっそりと肉を持っていかれかねない。契約者の身体がいかに強靱であるとはいえ、限度はある。そのような攻撃を受ける前に撃破しなければならないため、基本は光学迷彩などによる隠密行動での最接近と稼働前の撃破となるわけだ。
 だが、撃破すると言っても、大きさの差は歴然としてある。内部で炸裂するような武器でない限り、いや、たとえそのような武器であったとしても、ジェネレータかコックピットを狙わない限りはダメージは与えられても、反撃の機会を与えてしまうことになる。厚い装甲とバリアなどを突破し、中枢回路を破壊するだけの威力がなければ意味がないわけだ。十メートル近くある大剣を振り回したり、数メートルの範囲を消滅させる武器や魔法を内部で発動させられるのならいざ知らず、通常の剣や魔法で外部から攻撃しても、よくて腕の一本を落とせるかどうかと言うのが実情である。
 実際、徒の人間による白兵武器での攻撃範囲では、イコンの膝までしか攻撃は届かないことになる。数少ない例外は、小型イコンや、四足歩行の全高の低いイコンである。
 つまりは、相当な作戦とピンポイント攻撃の技能、そして、数々のスキルを組み合わせてトリッキーな攻撃をしなければ、イコンには生身では勝てないことになる。あるいは、よほど相手が未熟だったり迂闊だったりする場合だ。だが、すべてのイコンが、同じであるはずがないのだ。
 それゆえに、牛皮消アルコリアが生身でイコンを撃破したというのは賞賛に値するが、敵が学習しないことはありえない。生身でイコンに立ちむかってくる者たちがおり、そして実際に撃破報告があるのであれば、誰かがそれなりの対策は立ててくる。だから、明日も勝てるとは限らないと言える。
 もし、音速によるヒットアンドアウエイ戦法や、遠距離射撃による面に対しての帯域殲滅攻撃を仕掛けられたら、生身の人間には万に一つも勝ち目はないであろう。接近する前にやられてしまっている。敵の攻撃が点や線であると考えるのは、白兵戦を得意とする者が陥りやすい罠でもある。また事実、ほとんどの場合拳や剣はその点や線の攻撃しかできないのだ。
「かつて、ゴーストイコンでさえ生身で戦う者は少なかったですが、今はゴーストイコンを生身で撃破する人が増えてきています。いずれ、生身で第一世代のイコン小隊を殲滅することも、多くの人に可能になるのではないでしょうか。私とパートナーが特別で強いのではなく、ただ単に少しだけ皆の前を歩いているだけなんですから」
 懇々と牛皮消アルコリアが語った。はたしてその言葉通りになるのかどうかは、敵味方のどちらがより高度な作戦を立てられるかによるだろう。力押しは生き残れない。
「なかなかに、小型化と最適化が綺麗にバランスを取っているんだもん。機械として、綺麗だよ」
 ステージ上では、ワゴンの上におかれたレーザーブレード【S・T・K】が鑑定士たちによって鑑定されていた。
 朝野未沙が、機械としての鑑定品の評価を述べる。元々の機構が、イコン用のレーザーブレードを小型化した物であるので、技術的にはかなり高評価の物であるのだ。
「普通、レーザーブレードの類は味気ないデザインの物が多いのだが、これはデザインにも特徴があって、その点でも他のレーザーブレードとは一線を画しているな」
「よっ! 言ってることだけはまともだぞ!」
 真面目に鑑定しているイーオン・アルカヌムに、客席からフィーネ・クラヴィスのヤジが飛んだ。
「光剣ということでは、原理は違うが、わらわたちの光条兵器に繋がるものがあるな」
 剣の花嫁であるエクス・シュペルティアが、刀身部分を子細に観察しながら言った。
「こういった剣はバランスが無視されることが多いのですが、これは比較的その点も考慮されていて使いやすそうですわ」
 伊吹藤乃が軽く鑑定品を振ってみて言った。
「ほらほら、キャロ、キャロが見たいって言っていた剣が出ているのだよ」
 龍滅鬼廉が、隣で眠りこけていたキャロ・スウェットをゆさぶって起こした。
「ううーん、ほんと?」
 なんとか、キャロ・スウェットが目を覚ます。さすがに、三歳のゆる族には、自分の大好きな剣が出てこない状況に興味を維持できなかったらしい。
「えーっ、あれが剣なの。こんなのつまんないよ。もっと、ピカピカしてて、綺麗で、色がついてて……、廉の妖刀紅桜の方がいいよお」
 そう言うと、キャロ・スウェットは、再び観客席でうとうとしてしまった。
「さあ、そろそろいいでしょうか。では、牛皮消さん、希望価格をお願いします」
「もちろん、30000ゴルダ! それくらいは、ほしいです」
「はい、それでは、オープン・ザ・プライス!」
 60000!!
「おおっと、またもや高額品が出ました。ナート先生、いかがでしたか?」
「そうですわね。やはり剣である以上、その切れ味や、実際に武器として使ったときの美しさなどが群を抜いていたと思いますわ。いかがですかあ
 シャレード・ムーンに聞かれて、伊吹藤乃が答えた。
「そうですか。では、ありがとうございました」
なかなか楽しめましたよ。うふふ……
 シャレード・ムーンにうながされて、牛皮消アルコリアが帰っていった。