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盗まれた機晶爆弾

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盗まれた機晶爆弾

リアクション

   15

「さて問題は、どうやって上に行くかだが」
 生憎、空を飛べるスキルは誰も持っていない。小型飛空艇はあるが、講堂の中で使うには相応しくないだろう。
「長い梯子!」
 真珠がすかさず言った。
「どこにあるんだ、そんなもん」
「照明を下ろすことができるのではないでしょうか?」
と、ミゼ。
「そうかもしれないが、操作方法が分からないからなあ」
「オレがぶん投げてやろう」
「……え?」
 ガランの提案に、つぐむは思わず訊き返した。
「届いたら天井の鉄骨に捕まって確認。爆弾があれば、そのまま解体。なければ飛び降りろ。オレが受け止めてやる」
「そんなの危険だよ!」
「だが、それが一番早いぞ」
「つぐむちゃん、他の方法考えようよ」
「……いや。それで頼む」
「つぐむちゃん!」
「ガランの言うとおりだ。それが一番早い。とっとと解体して帰るぞ」
「つぐむちゃん……」
「うむ。それでこそ男だ」
 つぐむはパワードスーツで全身を覆った。ただし手先だけは、作業の関係上、素手だ。
 ガランは【金剛力】を発動。怪力でつぐむを持ち上げ、思い切り天井へ投げた。勢い余って、つぐむは頭を鉄骨にぶつけてしまった。
「!!」
「おお、すまん」
 目から星が飛び出るかと思ったが、何とか我慢して、その照明を覗き込んだ。何もなかった。つぐむが飛び降りると、ガランが受け止めてくれた。
 ミゼも同じようにして爆弾を探した。
 かれこれ十五分も過ぎた頃、
「ありました!」
 ミゼが目的の物を見つけた。
 別の照明を見ていたつぐむは、ぱっと飛び降りた。ガランが受け止めるや否や、すぐぶん投げた。
 その照明は、中身が空だった。そこに別のものが押し込んである。五十キロはあろうかという、ナパーム弾だ。支えている照明本体が、時折ミシッと音を立て、つぐむは覗くために伸ばしていた首をすぐ引っ込めた。
「これは下ろせませんね……」
と、ミゼが言った。
 ナパーム弾は元々不発弾で、西門 基樹が信管を抜いていたという。だが、ここにこうして仕掛けてあるからには、使えるように直してあるはずだ。
 つぐむは逡巡し、パワードスーツを全て外した。ガランッ、ドスンッ、とパーツが一つ一つ落ちていく。
「何してるの、つぐむちゃん!?」
 真珠は左手をメガホン代わりにして声を張り上げた。
「こいつが燃えたら、どうせ助からない。スーツなんて無意味だ。動きやすさを優先する」
 それからカラビナで身体を支えた。
「まったく、どうやってここに設置したのか訊きたいよ」
 ミゼが防球ガードを外し、これも落とす。
「つぐむ、床が非常に傷ついている。後で弁償させられるぞ」
「今はそんなこと気にしていられないんだ。計算しておいてくれ!」
 うむ、とガランは頷いた。
 ナパーム弾の外側に、小さな箱がついていた。そこから線が何本も飛び出している。その箱を開けると、液晶画面とデジタルタイマーが見えた。
「時限式……? いや、これは……」
 つぐむは、息を飲んだ。
「二人とも、講堂の周囲を見てきてくれ!」
「どうしたの、つぐむちゃん?」
「こいつは携帯電話を使っている。遠隔操作が可能なんだ。だから、大学の構内で電話をしている奴がいたら、片っ端から切ってくれ!」
「つぐむちゃんたちはどうするの!?」
「何とか止めてみせる!」
「でもっ……」
 更に何か言いかける真珠の肩に、ガランの手が置かれた。
 表情がないに等しいガランであるが、何を言わんとしているか真珠には分かった。真珠は左手をぎゅっと握り締めた。
「分かった! つぐむちゃん、頑張ってね! 大丈夫、つぐむちゃんなら出来るよ! 真珠はつぐむちゃんのことを信じてるよ!」
「そうだな。お前ならできる。自信を持て」
 ガランの言葉は、静かで力強い。
 つぐむは二人を見下ろし、任せておけと言うように親指を立てた。
「……お二人を逃がしましたね」
 ミゼがつぐむの汗を拭いながら言った。
「お前も逃げていいんだぞ」
「ワタシは、つぐむ様に全てを捧げた奴隷です。その奴隷が御主人様を置いて逃げ出すなんてあり得ません」
 つぐむは苦笑した。だが、すぐさま集中する。
 仕組みは大体こうだ。
 着信があると、電話の呼び出し音を鳴らす装置か振動装置に電流が流れる。それが点火薬を激発、起爆薬に伝わる。つまり電話がかかってくれば、その瞬間作動して、ドカンといく。電源を切ることも考えたが、トラップの可能性もある。まずは爆弾と繋がっている線を切らないよう、貼り付けてある携帯電話そのものを外した。
 ミゼが携帯電話を持ち、つぐむは次にプラスチックのカバーを取った。白い板にいくつもの突起が見える。ボタンだ。裏返すと、それが基盤である。
「まいったな……」
 中身は非常に精密だ。どれが正しい部品でどれが余計な部品であるか、区別がつかなかった。配線も然り。
「こうなりゃ賭けだ。悪いが今更逃げる時間はないぞ?」
「二度も言わせないで下さい。ワタシはつぐむ様の奴隷です。お傍におります」
 つぐむは頷いた。携帯電話を裏返し、「いくぞ」と言うなり電池パックを外した。
 その瞬間、基盤の仕掛けが作動した。空京にいる何者かへ信号が送られ、折り返し、こちらに電話がかかってくる――ことになっていた。しかしつぐむは、間髪入れずにSIMカードも抜いていた。コンマ何秒かの差で電波は届かず、携帯電話は沈黙した。
「……作業終了。念のためだ。周囲を凍らせておいてくれ」
「承知いたしました」
 ミゼが【アルティマ・トゥーレ】でナパーム弾と照明器具を凍らせる。衝撃を与えないよう、少しずつ少しずつ。
 つぐむはカラビナを外して飛び降りると、分解した携帯電話をポケットに突っ込んで講堂の外に出た。中の熱気とは違い、カラリとした空気が爽やかだった。
 うーんと伸びをする。真珠とガランが戻ってくるのが見えた。犯人が捕まった、と言っている。ちなみに道行く人々の携帯電話を奪い取り、一部はへし折り、つぐむはこれも弁償する羽目になった。
 籠手型HCを使って、ナパーム弾の解除に成功したことを報告する。運び出すのに手間がかかるので、人手を頼んだ。どうやら他の爆弾も地雷以外は無事、解体されたらしい。
 ホッとして座り込んだ。――と、目の前が暗くなった。ミゼが上から覗き込んでいる。そして口に生暖かいものが触れた。
「あああー!!!」
 真珠が叫んだ。ミゼの顔が離れる。
「こう言ったモノは、最後は男女の熱い口づけで終わるのもお約束ですのよ」
「ミゼ! あんた!!」
 真珠の手の平に光が集まる。
「【我は射す――】」
 逸早く察したミゼが、「ではまた後ほど」と走り出す。真珠が追いかける。
 濡れた唇を親指で拭い、つぐむはぼんやりその光景を眺めていた。
「平和だな〜」
 ガランは、ミゼと真珠の後ろ姿に、
「せっかく解体した爆弾にうっかり当てるんじゃないぞ」
と呼びかけた。