リアクション
トレルはマシュアをじっと見つめている園井へ歩み寄った。
「園井も来てたんですね」
と、手の平を出す。はっと園井は鞄からお嬢様の携帯電話を取りだし、さっと手渡した。
「遅くなってしまい、申し訳ありませんっ」
怒られる前に頭を下げる園井だが、トレルは期待を裏切った。
「いえ……どうせ園井のことですから、お人好しを発揮してたんでしょう?」
「……お嬢様」
顔を上げ、マシュアへもう一度視線をやる。妹と再会して、楽しそうに笑っている彼を。
トレルは彼の方へ行き、にこっと笑った。
「良かったですね、チェリッシュちゃん」
「ああ、すみません。迷惑、かけましたよね?」
苦笑いするマシュアだが、チェリッシュはにこにことしていた。だからトレルも言う。
「いえ、日頃の運動不足が解消されたのでいいんですよ。……あ、私は薬学部に通う目賀トレルと言います」
「俺は矢上マシュアです」
満足げに頷いて、トレルは受け取ったばかりの携帯電話を開いた。
「これも何かの縁ですし、連絡先交換しませんか? 私たちは空京市内に住んでますし、何かあったら頼って下さって構いません」
「本当ですか? ありがとうございます、ちょっと待って下さい」
と、携帯電話を取り出すマシュア。
その様子を情けない顔で眺めていた園井にマヤーが追い打ちをかけた。
「前にトレルから聞いたんだけど、園井は気になる相手の連絡先を聞き忘れるくらい真っ直ぐなんだってにゃ?」
そんな執事のために、お嬢様は行動してくれたのだった。
普段彼女に振り回されている分、その優しさが嬉しかった。ふと園井を振り返ったトレルにつられて、マシュアも彼を見た。
「園井さんも、ありがとうございました」
にこっと笑うその姿だけで、園井の心はさらに救われた。
音楽のする方というヒントを頼りに、ルアークたちは和葉たちを見つけ出すことが出来た。
「もう、ルアーク。迷子になっちゃダメだよ?」
と、偉そうにした和葉へルアークはびしっとデコピンを放った。
「迷子はそっちでしょ」
「えー、何でデコピンするのさ? 納得できない」
「当然でしょ。むしろそれくらいで許してやってるんだから納得してほしいな」
「まあ、何事もなかったようで良かったな。ずいぶん迷惑はかけたようだが……」
と、真司は疲れ切っている奏戯を見た。
「はは、本当に……ね」
何はともあれ、もう一つの迷子騒動もこれにて終幕である。
「あれ、やっくんも来てたんですか」
コンサートホールを出たところで、トレルはようやく八雲の存在に気がついた。
「あ、ああ……ちょっと用があってな」
と、誤魔化すように笑う八雲。見かけてからずっとトレルが心配で付いてきていたのだが、さすがにそれは言えなかった。
トレルが園井へ先に帰るよう言おうとすると、マヤーが自分のものだと言わんばかりにトレルへ抱きついてくる。
「ちょ、マヤー、重いからやめてくださいってば。ああ、あと園井は先に帰っていいですよ! 夕飯までには帰りますから」
八雲はじっとマヤーと睨み合っていたが、トレルが再びこちらへ顔を向けたのではっとする。
「少し疲れちゃいました。時間が許すようなら、ちょっと中庭に出ませんか?」
幸いなことに、トレルは八雲の格好について何とも思っていない様子だった。八雲としてはもう少しかっこつけた姿で彼女に会いたいのだが、相手が気にしていないならわざわざ言うこともないだろう。
「あ、ああ。……っと、そうだ、よければこれ」
と、弥十郎から受け取ったデザートの箱を差し出す八雲。
「その、さっき人からもらったんだが、この暑さだし、持ち帰るのもどうかと――」
弥十郎に『氷術』で冷やすといいと言われていたため、それは適度な温度を保っている。首を傾げるトレルにも構わず、無意味な言い訳を並べる八雲。
詳しいことは分からないが、トレルは何となく察して笑った。
「ありがとうございます。じゃあ予定を変更して、食堂でゆっくりいただきましょう」
参加して下さった皆さま、ありがとうございました!
お疲れ様でした。
楽しんでいただければ光栄です。
今回はGAが多かったような気がします。
その方が書きやすいし、想像もしやすくていいんですけどね。むしろこちらが楽しませていただいちゃったりもするんで、基本的に大歓迎です。
それでは、またの機会にお会いしましょう。
ありがとうございました。