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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

リアクション

 オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす)夕夜 御影(ゆうや・みかげ)もまた【御神楽環菜鉄道記】の作成メンバーである。
 彼女らは今のところ、ヴァイシャリーの施設の撮影をメインにしている。できればビリジアン・アルジーの実験を絡めて、その様子を映し出しながらやるつもりなのだ。
 運び込まれる機材や藻、動き回る人々を見回しながらビデオにおさめる、機材は借り物だから、つまづかないようにしなければ…
「ふぎゃ!」
 その矢先に御影がつまづいた、機材は上にとっさに持ち上げて無事だったが、足をひっかけたものはなんなのだ。
 おそるおそる振り返る御影の足元に、月詠司がぐったりと倒れていた。
「にゃーっ!」
「だ、大丈夫です?」
 オルフェリアが彼を介抱するが、御影はすかさずマイクを突きつけた。一言一句もらさず彼の遺言を聞き届けるのだ。
「いやまだ死にませんけど。助手というか…パシリのパシリらしいですけど、アゾートくんのお手伝いをがんばりますよ…」
 司はそれだけを言うと、再びぐったりと首を落とし…くかー、といびきをかき始めた。
「とりあえず、オルフェたちはカンナさんにインタビューに行きましょうか」
「にゃーは環菜ちゃんのサインもほしいなあ」
 施設の廊下を進み、執務室のドアをたたく。名乗りを上げるとすぐに許可が出た。
 部屋に飛び込むなり、御影はサイン色紙とサインペンを取り出してカンナに差し出した。
「サインください! …それと、今の心境と鉄道を作る意気込みをどーぞ♪」
 色紙が受け取られて手が空くと、すかさずマイクが取り出される。さらさらと筆記しながらカンナはつぶやいた。
「そうね、心境的には、まだまだ最初の段階もクリアしていないくせに、けっこうわくわくしてるわ、自分でもびっくりよ」
「びっくりって、どういうことです?」
「わくわくしてるってことによ。そんなことを考える余裕があったのねって気持ちね」
 カンナは部屋の端で書類を作成していた陽太のほうをちらりと見た。ひそやかな愛コンタクトに、オルフェはひそかに悲鳴をあげる。
「鉄道の意気込みとしては、そうね。『私の魂が走りたがっているから』…かっこよすぎるかしら?」
 オルフェたちは首を振った、インタビューとしては100点満点の500点をあげたいくらいに思っている。
「ではここで一枚撮影させてくださいね!」
 陽太をカンナのとなりに放り込んで、素早くシャッターを切る。
 モニターをのぞきこみ、満足のいくショットがとれた。執務室を辞して今度は研究室へと足を向けた。

 ヴァイシャリーの郊外の施設では、人がなおも続々と集まってきている。人だけでなく資源や機械類も送られてきている。
 インキュベーター、遠心分離機、吸光光度計、定性定量分析装置などが続々と届いて施設はどんどんとにぎやかになっていった。
 既に稼働を待っているものとしては走査型電子顕微鏡やNMRといったものまであるのだ。
 藻を格納するシリンダーも大量に届き、アゾートは軽く検品して採取された藻とケースを一所に運ぶ手配をした。
「おおお…これが…」
 最後にようやく届いたひときわ大きな機材の梱包を解き、フューラーは感動に打ち震えた。
 アゾートがその機材のスペック表を読み上げる。
「なによりも最大の特徴は、魔力が計測できることだね」
「すごー…」
 ただでさえ高性能なマシンは魅力的だというのに、魔力まで計測できるというのである。そちらの素養のないフューラーにとってはものすごくポイントが高いのだった。誰しも覚えがあるだろう、すごいテクノロジーというものはすごいものなのだ。理屈の固まりに対して、理屈も何もないものを抱いてしまうほど。
「魔力についてはぼくは門外漢です、そちらのほうでよろしくお願いしますね」
 ヴァイシャリーから、かの機材を届けるトラックに相乗りしてやってきた月詠 司(つくよみ・つかさ)だが、搬入の手伝いをしているものの、向こうで既に体力を使い果たしていて今はぐったりと片隅で休んでいた。不意にその足元がボコリと盛り上がる。
 (「よっ♪」)
 タルタロス・ソフィアーネ(たるたろす・そふぃあーね)が地中から顔を出していた。言葉がうまく聞き取れないが、なぜか大体のコミュニケーションがとれる。
「さっきまでヴァイシャリーにいたはずなのに、その素早さは一体どこから来るんでしょうねえ」
 (「暇になったからな。暇人のパワーをなめるなよ」)
「そういうものですか…。さてそろそろ私も作業に戻りますか…」
 (「じゃあオレもいっちょホンキ出すぜ♪」)
 司はタルタロスのやろうとしていることを悟って青ざめた、彼女の趣味である薬の調合と臨床実験にはやばい記憶しかない。しかもここには薬の材料になりそうなものが確実に存在する。
「た、タルタロスくん! さすがにビリジアン・アルジーでなんかしたりするんじゃありませんよ!」
 それはいくらなんでもどつかれるだろう。

「じゃあ、フィリップ君後は頼むね。ボクは他の準備をしてこなくちゃ」
 アゾートに『フィリップ・テオ・オレオール』と名乗っているパラケルスス・ボムバストゥス(ぱらけるすす・ぼむばすとぅす)は、片っ端から運び込まれた藻を水を張った水槽に突っ込んでかき回していた。土や小石などの不純物を沈殿させて分離しているのだ。
 コンタミや実験の精度が下がるのを避けるための単純で面倒な重労働だが、こればかりはおこがましくも錬金術の神秘のヴェールに触れたる者として、決して揺るがせにはできぬ作業でもあった。
「この袋のラベルはっと…」
 暗号のような藻の分類も真面目にやっている、アイリス・ラピス・フィロシアン(あいりす・らぴすふぃろしあん)は預かったリストを手渡した。
「おとうさん…ここ」
「おっ、あんがとよ。にしてもアイツ、後で来るとか言っといて遅ぇなあ」
「ツカサ…見て来る…」
「おう。…アゾートちゃんもどっか行っちまったし、あー…」
 まもなく再び疲労でくたばっていた司をひきずってアイリスが戻る、シリンダーに藻を詰めたりなどの、さらに面倒な作業をおしつけて、一刻も早くアゾートの元へ行きたいパラケルススである。
「ああっツカサ、藻混ざんないようにしろよ!?」
「うわあっ!」
「……大丈夫…阻止…」