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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

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太古の昔に埋没した魔列車…アゾート&環菜 前編

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「エネルギーとして見るシンプルな考え方もあるけど…。藻から抽出出来るなんて興味深いし、どうせなら楽しく研究したいじゃないか」
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はレポートにまとめて学校に提出しようと、それぞれのアイデアを聞きながらメモする。
「エース君、それを学校に出すのかい?」
「得た知識は共有した方がいいだろ?もちろん皆の成果としてな」
 傍らから覗き込むメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)に、ぺらりとレポート用紙を捲って項目ごとにまとめた内容を見せる。
「でも、後でちゃんと書き直さなきゃいけないけど」
「んー…そもそも藻ってどんな熱量に該当するのかな?」
「科学的に考えるならバイオ熱量じゃないのか、メシエ」
 ヴァイシャリー邸の書庫から本を借りた本を開き、首を傾げる彼に言う。
「あー、やっぱりそれなんだ。歴史をちょっと調べてみたんだけど。熱量っていうか、燃料よりのものしか出てこないんだよね。まぁ、エネルギーを抽出するヒントになるかもしれないし。調べてもらおうか?」
「根気よく藻の熱量を中心に調べるしかないな」
「まぁそうなるね、エース君。そうだ…ねぇ、フューラー氏。エネルギーに加工するヒントくらい残ってない?ヒパティアに頼んで資料を探してもらえないかな」
「―…今、ヒパティアには無理をさせられないので。演算を借りて探すことくらいしか出来ませんが。それでもいいですか?」
「そっか、頼むのはまだ無理なんだねぇ…。うん、それで頼むよ」
「えぇ…ではバイオ熱量を中心に検索をかけますね」
 フューラは単語を選び、藻を抽出する方法を探す。

 キーワード検索…。

 『ビリジアン・アルジー』
 『藻』
 『バイオ熱量』
 『エネルギー変換』
 『熱量抽出』

 ―……………………。

 ビリジアン・アルジー…該当なし。
 藻、バイオ熱量、エネルギー変換………スピルリナ、グリコーゲン。

「少し似たもので、スピルリナっていうのがありますね。0.3から0.5ミリサイズくらいで、高温や高アルカリ、高塩分の環境でも増えていくそうです」
「抽出方法は分かる?」
「藻体を蒸留水に懸濁するようです。70度から100度らしいのですけど。まず細胞壁を壊さないといけませんね。懸濁するならかなり高い温度じゃないと出来そうにありませんが…」
「科学的に考えて、まずは液体・気体・個体…のいずれかの形で抽出出来ればいいんだけどな…。あ、フューラーさん。他の材料で水増し出来ない?」
「さっき検索した時、ビリジアン・アルジーについてのことは、何も見つかりませんでしたよ」
「うーん…今ある分でなんとかしなきゃいけないのか」
「それは他の人が調べてるみたいだよ。だけど資源の無駄遣いをせず、大切に使わなきゃっていう勉強にもなっていいじゃない?」
「増やす方法が分かっても、量にばかり頼るのもよくないからな」
 フフフッと笑うメシエに採取した限られた量で、熱量を抽出しようとしている生徒たちを眺めて頷いた。

 藻の熱量変換の実験をしている皆の研究を眺め、レポートにまとめたコピーをそれぞれに配る。
「大学に提出するものだけど。一応見てもらってそれを元に、エネルギー抽出出来ないかな?」
「ありがとう、エース。ふむふむ…これを見るとまずは成分分析からね」
 エースからもらったレポートを眺め、別室に移ったルカルカはシリンダーの底にある計測機とアゾートが用意したパソコンをUSBケーブルにつなぐ。
「もったいないから、ちょこっとだけね。ちょっとだけよ♪なんてね、フフフッ」
 彼女の言葉に“お笑い芸人か”とダリルが心の中で呟いた。
「ボク的にはアルジーって、あの土地からの熱エネルギーをエサに育ってるのかもね。でも、その土地と同じ分の熱を与えようとしても、抽出することは出来ないよ」
「増やすよりもまず先に、熱量にしなきゃ研究は進まないね。アダマンタイトを溶かせないと、列車も修復出来ないし。詩穂のフラワシを貸してあげるね」
 詩穂は丸型な底のフラスコのような道具の中に、炎のフラワシをスタンバイさせ、チューブつきの蓋を閉めて藻を入れたシリンダーにつなげる。
「密閉じゃ燃えにくいと思うから、酸素を供給してやらないとね」
 準備しておいた供給システムのパイプラインを、フラワシがいる道具にリカインがセットした。
「シリンダーは倒れないように固定してあるわよね」
 スタンドにつけた両開クランプから、シリンダーが落ちないかチェックする。
「術で藻を凍らせたんだけど…。えっと、この部分ね。虹色っぽいところの成分を解析してみて」
「変化した部分のデータを元に、何かわかるかもな」
 和輝はアニスが凍らせた藻をフューラーに渡した。
「このマウスポイントでクリックした部分だけですが…。丸い部分が熱量にあたるものだと思います。これだけ取り出せればいいんですけどね。アダマンタイトを溶かす分を集めるには、かなりの時間がかかりそうなんで。別の方法を考えてみました」
 顕微鏡で拡大した画面をパソコンのモニターに映し、変化した部分をクリックして調べる。
 さすがに抽出作業として理想的じゃない、と別のプランを考えた。
「私の方はどうしたらいい…?」
 藻を容器に詰めたサンドラが、無駄になったかしら…?と不安そうに小さな声音で言う。
「そうですね…じゃあその分だけ、分離機で抽出作業してもらいます!大変な作業になってしまうと思いますが、よろしくお願いしますね」
「じゃあ、成分データくれるかしら。不純物を取り除ききるまでやらなきゃいけないから」
「あっ、分かりました。そっちのパソコンに転送します」
「―…届いたわ。じゃあ始めるわね」
 サンドラは藻を分離機にかけて、顕微鏡で拡大した部分をパソコンの画面へ移し、エネルギーとなる成分以外のものが含まれていないかチェックする。
 その一方、フューラたちは…。
「えっと…こっちはエネルギーが燃えきる前に気体化した熱量を、水蒸気と混ぜてみるわけですが…」
「それを水蒸気の発生と、送風装置の流れを調節して、別の容器へ移すんですね?」
 遙遠は話を聞きながらチューブをつなげ、コンピュータのパネルを操作して動作テストをする。
「えぇ、そうです」
「水蒸気と混ぜ、移した容器の中で冷やすわけですか…。こちら準備オッケーですよ」
「ありがとうございます。余計な成分は、さっき保存した熱量成分らしきデータを元に省けばいいだけですから」
「ということは、液体状になるわけですか?」
「まだ抽出していないので、なんともいませんが。おそらくそうだと思いますよ」
「お水のセットおっけーだよ!」
 ヴァイシャリー邸の水を使い、蒼はタンクの中にたっぷりに入れる。
「はぁー…疲れた。もう運びきれないぞ」
 わんこはまだまだ元気だが諒は水を運び疲れ、石畳の上でへばっている。
「すいじょーきのりょう見ててあげるねー。あまり多いーと、もが気体にならなくなっちゃいそう」
「炎のフラワシの熱を調節するのって大変かも…。でも火術じゃ燃えないっていうし、それ以上の炎を加えるとボーンッて爆発しちゃいそうね」
「おねーちゃん、いっしょにがんばろー!」
 しっぽをフリフリと振り詩穂の裾を引っ張る。
「へばっちゃうと、アゾートちゃんがしょんぼりしちゃうから頑張るね」
「精油もほとんどないんだよね?」
「使わずにサラマンダーの炎を超える火力で熱しないと、フラワシだけじゃちょっとツライよ」
「でもあまり余計な成分が入ると、藻の分だけ取り出すのが大変になるし…。それにすり潰したりしても、必要な分を抽出するのは出来なかったみたいだからさ」
 2人の傍からひょこっと顔を覗かせたメシエが横から口を挟む。
「あ、もしかしてこういうことかも」
「こういうことって…?」
 ハテナと首を傾げて考え込むエースの方に視線を移す。
「水が気化して、冷えるとまた液体に戻るだろ?同じようなことをしようっていうんじゃないのか」
「説明ありがとう、エースさん」
「フューラさん…かなり難しい方法だけど大丈夫?あくまでも水とかの場合だし。熱として全て燃焼しきると、容器に貯められない気がするよ」
「だからこそ、炎の量にも気をつけて作業しなきゃいけないんですけどね。電気と違って貯蓄出来るかもしれませんよ」
「電気自動車は電気を車の中に貯めて、走れるみたいだけどさ。その原理を使えればいいけど、そっちは難しい?」
「こっちは熱を加えるものだから、たぶん理想的じゃないと思います」
「まぁ、成分は読み込んだデータで理解出来そうだから。後は試してみて、ちょうどいい熱加減を見つけなきゃだな」
 というわけで……。