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第二章 奥深いビーチボール


海辺でバレーボールをすることにした小谷愛美(こたに・まなみ)マリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)
「マナミンとビーチバレーしたい人、この指、止ーまれっ!」
「はーい!」
愛美が掲げた指に、一斉に人が群がった。
小鳥遊美羽(たかなし・みわ)朝野未沙(あさの・みさ)レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)厳島春華(いつくしま・はるか)水引立夏(みずひき・りっか)白丸桐子(しろまる・とうこ)、計六名。
「そんなにみんな、マナミンと遊びたいのね。よしっ! 早速チーム分けよ!」
その結果、美羽とマリエル、未沙と愛美、レキと桐子、春華と立夏、といった四組のペアに分かれることとなった。
「審判は俺がやるよ」
そう名乗り出たのは、木本和輝(きもと・ともき)
少し離れた場所にはビーチバレー観戦組の、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)ミア・マハ(みあ・まは)呂蒙子明(りょもう・しめい)アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)ルル・ローゼンベルガー(るる・ろーぜんべるがー)が砂浜に座っていた。
「ボールのように撥ねるあの胸は何じゃ。嫌がらせかっ! 第一、ビーチバレーをするには邪魔であろう。あの二つの果実は。別に悔しい訳ではないぞ。……ないのじゃぞ」
「ミアさん、元気出して。これが終わったら、みんなでカキ氷でも食べようよ」
しきりにビーチバレー組の女性陣の胸を見ていたミアにコハクがそう提案すると、
「ふん。まあ、わざわざ断る理由もないのう」
まんざらでもない顔をして見せるのだった。
ピーッ
ポイッスルが鳴り、ビーチバレーが始まった。みんなが動き回るのを見ながら審判の和輝は人知れず、ぐっとガッツポーズをとった。
(やった、俺……役・得☆)
いたって外見上は真面目に審判をしながら、心の内は
(ボールを目で追うという名目の元、女の子が水着姿でボールを追う姿を堪能できるすばらしいポジション……それが審判! 誰もそのことに気づかないとはな)
と、いったことを考えてたりしたのだった。
もっともこの数分後、普段から行動を共にしている春華と立夏に勘付かれるのであるが……。
その上、ビーチバレーの映像を家に帰ってからソートグラフィーとデジタル一眼POSSIBLEで現像して、大事に保管しようと目論んでいたものの、立夏の荒ぶる力で強化された春華のサイコキネシスで操ったボールを顔面に食らうことになってしまうのだった。
「マナ、ああいう人を運命の相手に選んじゃダメだよ?」
未沙に悪い人の例としてあげられてしまう運命を、彼はまだ知らない……。



別の場所では、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)の四人がビーチバレーをしていた。
「オイラはメシエと一緒。足元のボールはオイラで、高いとこのはメシエがんばれ。オイラが買ったら、ガリガリ君梨味を奢るんだよっ、エース!」
気合十分のクマラに同調し、
「当然、我々が勝つことは目に見えているがね」
メシエが自信満々に、敵チームのエースとエオリアに言い放った。
「くっ……、あいつら実年齢四千歳のくせに……!」
「まあまあ。身長差がありますからね。二人とも、羽目をはずしすぎないといいですけど……」
エースをなだめながら、エオリアはビーチパラソル、日焼け止め、水筒と準備に余念がない。
「っし! 行くぞ!」
エースの掛け声とともに、ビーチバレーが始まる。
時には高低差で敵をかく乱してアタックを決めるクマラ・メシエチームに対し、エース・エオリアチームは確実に相手の弱点を突いてアタックを決めていった。
そして……。
「よし! 勝った!」
「ううう〜」
アタックを決めたエースがガッツポーズをしてエオリアとハイタッチをする中、クマラは砂浜に座りこんだ。
「大丈夫かい、クマラ」
「ごめんねぇ、メシエ〜。オイラ、暑さでクラクラ〜」
「気にすることはない。子ども相手に左右に走らせて体力を奪うなど、小ざかしいことをしたエースに全責任がある」
「俺かよ!」
「うーん、足場が安定してないですし、メシエさんには辛かったかもですね」
「わかった! わかったよ。ガリガリ君は俺が買ってきてやるから」
エースがしぶしぶ言い出すと、クマラは即座に手を挙げた。
「ソーダじゃないよ、梨味ね!」
「お前……!」
「エース、僕も一緒に行きましょうか?」
「いや、エオリアはこいつらの面倒見ててくれ。……行ってくる」
とぼとぼアイスを買いに歩き出したエースだったが、ほどなく足元にころころとボールが転がってくる。
「……ん?」
「すみませーん! ボールとって下さーい」
ボールを拾い上げて顔を上げると、白のセパレート型水着を着たレキがポニーテールを揺らしながら、エースに走りよって来たのである。
「つい本気で打ち込んだら、遠くまでボールが飛んじゃって。ありがとう」
「こっちでもビーチバレーしてるんだ?」
「うん。あっちでしてるよ」
「そっか。ガリガリ君買ったら見に行こうかな」
「ガリガリ君? 海の家で売ってるの? だったらボクもボールを返したら買いに行こうかな。僕と一緒に来てる子、甘いものに目がないんだ。ちょうどボクのサーブミスで勝敗ついたし」
「そうなのか? 俺と一緒に来てるやつもお菓子に目がない奴でさぁ。あ、これお近付のしるしにどうぞ」
エースが差し出した薔薇をレキが受け取り、一緒にガリガリ君を買いに行って戻るまで、クマラ、メシエ、エオリア、ミアの四人はお預け状態になったのだった。



愛美とマリエルが主催したビーチバレーで審判をしていた和輝が強制退場させられ、その後はみんなで審判を変わりばんこにすることになり……、平和が訪れたかと思いきや。
(……愛美の運命の人探しを間近で見たいと思って、審判を引き受けたけど……これは)
桐子は目の前で繰り広げられるビーチバレーを超越した『何か』を呆然と見ていた。
コートには美羽・マリエルチームと、未沙・愛美チームが相対していた。
「そーれっ!」
サーブを元気よく打った美羽。そのボールを目で追い、手を伸ばした愛美だったが。
むにゅり
「きゃあっ!」
悲鳴とともに、愛美の手は空を切った。
「……えっと」
困惑したように、桐子が愛美の胸を触っている未沙へ目を向けた。
「あ、ごめんね! サーブ受けるの私かと思って、手を伸ばしたらマナの胸に当たっちゃった!」
「……そう」
これで何度目かわからないアクシデントに、観戦組のコハクと子明は手で目を覆い、ミアは
「けしからんっ! あとでわらわも背後からもみもみしてくれようぞっ!」
と、拳を握った。
「もうこれ、ビーチバレーっていうか、無礼講ってカンジ」
「しいっ! ルル、そんなこと言っちゃダメですわ」
アルスは咎めたものの、誰もがルルと同意見だった。かれこれ愛美のお尻、胸、足に、未沙が接触するケースが相次いでいるのである。
しかしなぜか負けそうなところでは怒涛の追い上げを見せ、未だ勝敗は五分五分で決していない。
(……察するに、勝負を長引かせた方が触れる……から)
桐子の中では結論が出てるものの、それを公に口に出そうとせず、ただ黙々と審判を続けていた。
「もう! 行動予測で見切ってるのに、集中できないよ〜!」
「美羽、落ち着いて! 向こうはあたしたちの集中力をそごうとしてるんだよ!」
かく言うマリエルも、どこを見たものか、先ほどから視線をさまよわせている。
「ふっふっふっ。作戦通り!」
「本当に作戦なの、これ〜!」
赤面する愛美の叫びが、天に轟いてからしばらくの後。
「やったねマリエル! 私たちの勝ちだよ!」
「美羽のアシストがあったからだよ! ありがとう!」
喜び合う二人に、
「はい、二人ともお疲れさま。かき氷買ってきたよ。えっと……美羽とマリエルはどの味がいいかな?」
コハクがカキ氷を差し出しねぎらった。
「負けちゃったね、マナ〜!」
「ううっ、疲れた……」
ぐったりするマナにこれでもかと抱きつく未沙の姿が、人々の胸に刻まれたそうな。