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【金鷲党事件 二】 慰霊の島に潜む影 ~後篇~

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【金鷲党事件 二】 慰霊の島に潜む影 ~後篇~

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終章  再会


祥子、こっちだ!」
「急いで!あと3分よ!」

 煙の向こうから駆けてくる祥子たちに、刀真月夜が呼びかける。
 唯斗たちの活躍により敵の臼砲は全て沈黙し、中央門が埋められてしまうことだけは未然に防ぐことが出来た。
 しかし、こちらの必死の説得にもかかわらず、敵軍は最後まで自爆の話を信じようとはせず、戦いが続いていた。

 敵の銃撃の合間を縫って、祥子とイオテスが中央門を走り抜ける。

「よし、俺たちも脱出だ!」
「ええ!」

 刀真と月夜も中央門を出ると、急いで要塞から離れた。
 この先に、グラキエス唯斗たちが確保している塹壕がある筈だ。


「これで全員?」
「上層の連中は、全員脱出してる。ブリジットたちは、あゆみたちを連れて、中層の隠し扉から脱出したそうだ」

 祥子の問いに、グラキエスが答える。

「てコトは……」
エヴァルトさんが、まだです」

 心配そうな表情で言うイオテス。

「ナニ!?あいつ、まだなのか?」
「少なくとも、脱出したという報告は受けていません」
「自爆装置の話を連絡してきたのは、エヴァルトだ。普通なら、あいつが真っ先に脱出する筈だろ?」

 イオテスの言葉に、唯斗が反論するものの、それ以上言葉を続ける事が出来ない。
 その場に、重々しい空気が流れ始める。

「エヴァルト……お前、まだ中にいるのか……?」

 刀真は、要塞を見上げて、言った。



「クソ……。このまま、要塞と一緒に、お陀仏か……」

 エヴァルトは、ケータイを握り締めた姿勢のまま、一歩も動けずにいた。
 どうやら点火栓を一撃した際に、左腕にある動力源の機晶石を損傷したらしく、仲間に連絡とったのを最後に、身体が全く動かなくなってしまったのである。
 エヴァルトの身体は、首から下は全て機械である。動力が伝わらなくては、指一本動かすことができない。
 ケータイには、先程からひっきり無しに連絡が入っているが、通話ボタン一つ押すことができない。
 《テレパシー》もさっきから試しているのだが、やはりエネルギーが足りないのか、仲間からの返事は一切なかった。
 エヴァルトに出来るのは、留守電に吹きこまれる、仲間が自分を呼ぶ声を聞くことだけである。
 

「自爆装置が起動されました。本要塞は、あと1分後に崩壊を始めます。各員、至急要塞より撤退してください。繰り返します……」

「だぁぁぁぁ!誰でもいい、誰かなんとかしてくれ!オレは、こんな所で死にたくはない!オレには、まだやらなきゃならないコトがあるんだ!」

 エヴァルトは、声を限りに絶叫する。
 いつの間にか、両の目から涙が溢れて来た。
 止めどなく溢れる涙に、ロクに前も見ることが出来ないが、かといって涙を拭う事も出来ない。

「クソッ、動け!動けよ、オレの身体!オレは勇者だ!奇跡を必然に変える者なんだ!頼む、動いてくれぇぇぇぇ!」

 その時−−。

 涙で曇るエヴァルトの目が、何か白いモノを捉えた。
 必死に瞬きをして、ソレを見ようとするエヴァルトの前で、白いモノはゆっくりと宙を舞うと、左腕の機晶石へと吸い込まれていく。

 カチッ。

 カウントダウンタイマーが、全て0を表示して、止まる。

 要塞が、ゆっくりと揺れ始めた。 


 
 夜明けと共に、白姫岳は噴火を始めた。

 初め、地震から始まった要塞の崩壊は、やがて白姫岳の随所に亀裂を生じさせ、更にそこからドロリとした溶岩を溢れさせた。

 溶岩の粘度が比較的高く、流れがそれほど速くなかったため、外にいた者はなんとか逃げ出せたが、まだ要塞内にいた守備隊は、地下の発着場から飛空艇で脱出した者を除けば、その多くが逃げ出すことが出来ず、焼け死んだ。

 生き残った敵兵も、ほとんどが投降を潔しとはせず、最後まで戦って死ぬか、自害する道を選んだ。

 そして、人質こそ助けだすことが出来たものの、結局、エヴァルトは最後まで出てこなかった。
 あゆみとミディは、『全部自分たちのせいだ』と言って、泣き崩れた。


 一方、金冠岳の方も、惨憺たる結果となった。

 結局、景継とその一党は隠してあった飛空艇で島を脱出し、転げ落ちた後行方の分からなくなっていた掌玄も解理の鏡も、見つからなかった。

 宅美はすぐにハイナと連絡を取り、非常線を張るよう要請したが、恐らく間に合わないであろうことは、皆が知っていた。

 『墜落した翔洋丸と共に行方不明になった船長と閃崎 静麻(せんざき・しずま)は、捜索の結果、それぞれ翔洋丸から少し離れた船外で見つかり、いずれも本部の救護所に収容された』という明るいニュースもあったものの、皆、自分たち力が及ばなかったことに落胆していた。

 特に父の鏡を奪われた円華と、父の仇を前に何も出来なかった八重の落ち込みようは尋常でなく、皆の励ましもまるで効果がなかった。



 白姫岳から程近い所に設けられた臨時の救護所で、負傷者の治療に当たっていた九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は、その日の昼も過ぎた頃になって、ようやく一息つくことが出来た。

 『負傷者』と言っても、本当に手当した人間の数は、さほど多くない。
 その多くが溶岩に全身を焼かれたり、自害したりして、手の施しようのない傷を負った者だったからだ。
 ローズに出来たのは、それら重傷者の苦痛を少しでも和らげるために鎮痛剤を射ち、そして、その死を看取ることだけだった。

 そこだけ見れば、ローズにとって非常に不本意な結果に終わったと言えるだろう。
 しかしローズは、さほど落ち込んではいなかった。

 葦原島出身の作業員や、捕虜となった空賊たちまでもが、負傷者の捜索と収容を手伝ってくれたのである。
 昨日、『治療の手伝いをさせて欲しい』と頼んできた川瀬 和正(かわせ かずまさ)とその仲間たちが、多くの空賊や作業員を説得してくれたお陰だった。
 中には、自害しようとしていた敵兵を、説得して思いとどまらせた者もいたと聞いている。
 そうした葦原の人々の変化が、今日のローズを支えていた。


「ろ、ロゼはん!ちょっと、手伝って下さい。急患です、ロゼはん!」

 救護所の外から、座頭 桂(ざとう・かつら)の声がする。
 我に返ったローズは、急いで天幕の外に出た。

「え、エヴァルトさんじゃないですか!ど、どうしたんですか、一体!?」
「それが、そこの溶岩溜りの縁に、流れ着いてはったんですよ。と、とにかく、私一人じゃ重くてこれ以上は……」
「ちょ、ちょっと待ってください、すぐに人を呼んできます!」

 6人がかりで中に運ばれたエヴァルトは、目こそ覚まさないものの、とりあえず生命反応(瞳孔反射)はあり、まずは一同をホッとさせた。
 結局、外見上、人体の部分には大した怪我は無いことから『あとはしかるべき施設に持ち込んで精密検査と修理を行うほうがよい』ということになり、船の手配が済むまではとりあえずベッドに寝かせておくことになった。

「あれ?これ……何だろう……」

 昏々と眠り続けるエヴァルトを見守っていたローズは、エヴァルトの左腕の機晶石の中に白いモノが動いているのを見つけた。
 初めは光の反射か何かかと思ったが、よく見ると確かに、白い布が風に舞うような、そんな動きを繰り返している。
 その不思議な動きに吸い寄せられるようにして、ローズは、機晶石に手を触れた。

「熱っ!」

 突然、機晶石が火がついたかのように熱くなり、眩い朱い光が幾筋もあがった。
 思わず引っ込めた指の先が、熱さで赤くなっている。

「な、ナニ……?」

 見ると、さっきまで白かった機晶石の中のモノが、いつの間にか朱くなっている。
 その姿は布というよりは、揺らめく炎のようでもある。

「ん……」

 不意にエヴァルトの口から、声が上がった。
 見ると、わずかに頭が動いている。

「エヴァルトさん、エヴァルトさん!」

 エヴァルトの肩を掴み、何度も声をかけるローズ。
 やがてエヴァルトは、ゆっくりと目を開けた。

「ここは……?」
「救護所の中です。私がわかりますか?」
「ああ……。九条さん、だよな……」
「良かった!すぐに、皆を呼びますね、あぁ、まだ、じっとしてて下さい!動いちゃダメですからね!」

 慌ててケータイを手に取るローズ。
『エヴァルトが意識を取り戻した』という報告は、瞬く間に関係者全員に行き渡った。

「エヴァルト〜。生きててよかったニャ〜!」
「ナニよ、もう!散々心配させて!あゆみ、アナタがもし死んじゃったら、髪を下ろして尼になろうかと思ってたんだからね!」

 エヴァルトに取り付いて、ワンワン泣くミディとあゆみ。

 その場にいた椿や推理研の面々は、『さすがにそれは嘘だろう』と思ったが、敢えて口にしないことにした。

「す、済まない。心配をかけて……」

 当のエヴァルトはと言えば、未だローズから絶対安静と言われているし、身体の上で2人が泣き続けるしで、すっかり困惑しきった顔をしている。


「もうそれくらいで許してあげましょうよ、あゆみちゃん。とにかく、エヴァルトさんも無事だったんですから」
「そうそう、折角のハッピーエンドなんだから、アレしようよ〜、アレ!」
「そうですよ、まだしてないですよ、アレ」

 そう春美ディオに振られたモノの、あゆみには何のことか、今一つピンとこない。

「そうですわ、すっかり忘れてましたわね!」
「ま、どうしてもって訳じゃないけど、やるからには、私も参加しないとね」
「確かに、やっておくのが筋というものだわ」
「も〜、そんなコト言って〜。ブリジットだって、やりたいんでしょ〜」
千歳も、やせ我慢することはないんですのよ」
「わ、私は別に……」
「やせ我慢なんて……」
「お!アレか!やるんなら、アタシも混ぜろよ!」
「モチロンですわ、椿さん!」

 訳のわからないあゆみそっちのけで、娘子イルマたちは盛り上がる。

「あゆみ、本当にわからないのにゃ?」 

 ついにはミディまでが、非難するような目で自分を見つめている。

「な、何よ……って、あぁ!分かった!!」
「なに〜、やっと分かったの!全く、ドン臭いんだから〜」
「まあまあブリジット」

「よ〜し、それじゃやろうぜ!」

 真っ先に手を差し出す椿。その手の上に皆が次々と手を重ねていき、最後に、ミディとあゆみが手を載せた。

「行くよ〜。せーの!」

「「「「「「「「クリア・エーテル!!」」」」」」」」

「キャー!」という歓声と、拍手、そして喜びの声が、狭いテント一杯に響き渡った。



「しかし、どうやって助かったんだ?」
「それが……俺もよく分からないんだ。最後に覚えてるのは、要塞の地下で……」

 敬一の問いに、エヴァルトは、要塞の地下であったことを(自分が大泣きしたコトを除いて)一通り話した。

「あ、その白いの!俺も見たんだ、要塞の地下で!」

 今度はグラキエスが、隠し階段の下であったことを話す。

「たぶん、君がその黒い石を壊したことで、『何か』の封印を解いたんじゃないかと思うけど……」

 グラキエスの話を、陽太が分析する。

「その何かが、この機晶石の中に入ったって、そういうことよね」

 明子が機晶石をマジマジと覗き込む。
 一時期真っ赤な炎のように揺らめいていたモノは、今はまた宙を舞うシーツかクリオネのように真っ白になっている。

「後は、その何かの正体ですが……」
「心当たりがあるのか?」
「いえ、実はさっぱり……」

 鉄心の問いに、肩を竦める陽太。

「そういう事は、御上先生か円華さんに聞いた方が早いと思うぜ」

 全身ホータイでぐるぐる巻きにされ、ギプスで首も回せない静麻が、天井を見つめたまま言った。

「そう言えば、ドコ言ったんだ、2人共?」
「ああ、御上君たちなら−−」

 宅美が、気遣わしげな顔で言った。



「……そろそろ戻りませんか、円華さん。みんな、心配していますよ」

 御上と円華は、金冠岳の中心部にいた。かつて円華が景信と親子の名乗りをし、そして、埋もれていく父の姿を見た場所である。
 円華は、御上の言葉にも答えず、ジッと足元を見つめている。

『なぁ2人共、なんでこんな覗きみたいなコトしとるんや?』
『シッ……!静かに!』
『見つかっちゃうでしょ!』

 そんな2人を、未来、それに秋日子キルティスが岩の陰からそっと見つめている。

『素直に、出ていったらいいやないか。別に、知らん中でもないんやし』
『そういうマスターこそ、どうして隠れてるのよ?』
『お、俺は……ホラ、先生からお嬢を頼まれた身であるからしてだなあ……』
『黙って!聞こえない!』

 キルティスに一喝され、口をつぐむ一同。 



「御上先生」
「はい?」
「私……どうして、こんなに無力なんでしょうか」
「無力……」
「はい。目の前にあの人がいて、お父様の鏡もあったのに、結局、なんにも出来なかった……」

『お父様?あの鏡って、遊佐堂円の鏡なんとちゃうんか?』
『静かに!!』

「それを言ったら、僕も一緒ですよ。武器を取って戦う真似事をしてみたところで、まるで役に立ちませんでした」

 御上が、空を仰いで言う。

「それに、円華さんは無力なんかじゃないですよ。今こうして僕たちがここにいるのも、円華さんの代わりに戦ったのも、みんな、円華さんがいたからです」

 円華は俯いて、自分の手を見つめたまま、何も答えない。

「僕たちみんなを繋ぐ『絆』。僕たちを駆り立てる『想い』。それが、円華さんの力です」

 御上は、諭すように円華に告げる。

「わかってます……。それが、私の役目だって事。私に出来ることは、それしか無いって事。でも……ダメなんです。分かっていても、辛いんです。皆さんが、私のために戦ってくれることが。そして、自分が一緒に戦えないことが。私……どうしたらいいんでしょう……」

 俯いたまま、涙を流す円華。両膝についた手で、必死に身体を支えているが、今にも泣き崩れてしまいそうだ。


「それには、円華。お前が強くなることだ」

 突然の声に、顔を上げる円華。
 御上が、驚いた顔で自分の後ろを見つめている。
 円華が振り返ると、そこには、柔らかな光を放つ、朧(おぼろ)な人影が浮かんでいた。

「お……とう……さま……?」
「円華。久し振りだな」
「景信さん……」
「御上君も。娘が色々と迷惑をかけているようだね」
「いえ。自分の好きでやっているコトですから」

 景信の言葉に、はにかむような笑顔で答える御上。

「お父様……どうして……」
「お前が、私を呼んだような気がしてね……」
「それに、最後にお前に伝えたい事がある」
「伝えたいコト……?」

「いいか円華。人は皆、神ではない。いや、例え神であっても、全てが自分の思い通りになる訳ではない。何でもやりたいと思うのは、それは子供の我儘というものだ」
「そ、そんな……私は……!」

「円華。お前には、お前にしかない力がある。お前にしか出来ないことがある。それは、御上君も言った通りだ。後は、お前が強くなることだ」
「強く……」

「そうだ。人は全て、自分のした事の『責任』を取らねばならない。お前が今『辛い』と言っていることは、人に『絆』をもらたし、人に『想い』を伝えたお前自身が引き受け、耐え、乗り越えねばならないことだ」
「これが、私の『責任』……」

「それが嫌なら、『地球とシャンバラの絆となる』というお前の夢を捨て、今すぐ家に帰ることだ。お前の夢というのは、それほどに大きく、重い物だ」
「それは……出来ません。それをしたら、私は、みんなの『想い』を裏切ることになる。一生、自分を許せなくなります」

「なら、強くなりなさい、円華。お前になら、それが出来る。お前は、一人ではないのだから」
「お父様……」
「お前には、大きな夢も、語るべき情熱も、それに応えてくれる友もいる。どれも、私には持ち得なかったものだ。あとはお前が強くなりさえすればいい。……私は、お前ならば、きっと出来ると信じている」
「……わかりました。お父様。私……、強くなります!」

 円華は、頬を伝う涙を振り払って言った。

「そうだ、円華。それでいい」
「ハイ!」

 円華には、光の中の父が、一瞬笑ったように見えた。

「御上君」
「……はい」
「本来ならば、父親である私の仕事なのだが……。私には、もう時間がない。円華の事を、見守ってやって欲しい。この子にはまだ、支えてくれる人が必要なのだ」
「答えは、前と変わりません。任せて下さい」
「……済まない。そこにいる君たちも、円華の事をよろしく頼むよ」

 突然話しかけられ、岩陰から転がり出る4人。

「頼まれてくれるね?」

「任せたってや!」
「円華ちゃんの『音』、もっとステキにしてみせますわ」
「分かりました、景信さん!」
「それが、円華さんの『想い』に応えた、僕の『責任』ですからね」

「有難う。なずな、討魔、それに海棠。君たちにも世話をかけるが、今後も、円華を支えてやってくれ」
「モチロンですよ、景信様♪」
「我が身命に賭して」
「景信様の代わり……とは行きませんが、お嬢様はもう、私にとっては娘のようなモノです」

「頼む」

 景信は、短く言った。その輪郭が歪み、光も、徐々にではあるが弱くなって来ている。

「お、お父様……?」
「そろそろ、お別れだ、円華。もう、逝かねばならない」
「そんな、まだ会えたばかりなのに……!」
「そもそも、こうしてまた会えた事自体が、奇跡なのだよ。……円華。どうか、笑って見送ってくれないか。このままでは、私は『怨霊』になってしまう」
「そんな、そんなコト言われたって……折角、折角会えたのに……」

 景信に取りすがろうとする円華の手を、御上が掴む。
 そして、静かに頭(かぶり)を振った。

「分かりました……御上先生、私、強くなります!」

 御上の手をギュッと握り、俯く円華。
 次に顔を上げた時、円華は、泣きながら笑っていた。

「円華……。やっと、私の前で笑ってくれたな。」
「ヤダ……。私、お父様の前で笑ったコト、なかったっけ……?」

 思わず、クスリと笑う円華。

「有難う……円華……」

 景信は、最後に満足気に頷く。
 その姿は、天に昇りながらゆっくりと薄れていくと、陽の光を浴びて、掻き消すように消えた。

「さようなら……お父様……」

 円華は、御上の胸で、泣いた。 



「……これを、あなた一人でまとめられたのですか?」

 円華は、手元の小冊子に一通り目を通すと、夜月 鴉(やづき・からす)に話しかけた。

「はい。個人的に、ちょっと興味があったもので。色々な人に話を聞いて、まとめてみました」
「よく、まとめられていますね」

 鴉は、今回の慰霊碑建設にまつわる騒動には一切関わっていない。
 ただ、ニュースやネットなどで流れていた情報から興味を持って、関係者に取材して回ったのである。
 全ての人が取材に協力してくれた訳ではないし、そもそも金鷲党残党やその協力者、ましてや景継側との接触は一切出来ていない。
 そういう意味では、報告書というよりは証言記録に近いものだったが、円華が感心した通り、完成度は中々に高い。
 もちろん、円華と由比景信、そして解理の鏡との関係など、確信に迫る情報は一切記されていないが、特定の証言のみを取り上げた、偏向した内容ではなく、複数の意見を参考に多角的な視点から結論を導き出している。

「あの事件の時、二子島にはいらっしゃらなかったんでしょう?」
「はい。この間、行ってきましたが、今は平和そのものです」
「慰霊碑が完成したら、是非また足を運んでくださいね」

 今では、慰霊碑の建設も順調に進んでいる他、噴火した白姫岳では温泉が発見され、リゾート開発をするという話も持ち上がっている。
 島自体も立ち入り禁止と言うわけではなく、定期便などは無いものの、船の手配さえ出来れば、個人でも自由に出入りすることができる。
 空賊が出没することも、無くなった。

「それで……。これを私に見せて、何をお聞きになりたいんですか?」
「今回の事件を通して、円華さんが感じたことを。それを、この報告書の締めくくりに載せたいんです」
「私が感じたこと……ですか」
「ダメ?」
「いえ、そんな事は無いですよ。ただ、少し急だったものですから。そうですね……」

 少しの間、逡巡するように自分の手元を見つめる円華。
 やがて、言葉を選びながら、話し始めた。

「私は今まで、『地球とシャンバラの絆を結ぶコト』。これを第一に考えて様々な活動を行って来ました」
「でも今回の事件で、私は、もっと足元の事。葦原藩の人々の事を、まず第一に考えるべきだと気付かされました。貧困、不平等といった問題の原因を、地球と葦原藩の結びつきに求める人々が多いことを、知ったのです。この問題を解決するためには、単に融和を訴えるだけではなく、それらの問題を、直接解決する必要があるがあると、私は感じました」
「それで、具体的にどうするつもりか、決まった?」
「それは……まだ決まっていません。今、色々な方々からお話を聞いて、勉強しているところです」
「そうか……。もしどうするか決まったら、また、聞きに来てもいいかな?」
「ええ。構いませんよ。その時には、お声掛けしますから、また、いらして下さい」
「あぁ。必ず来るよ」

 円華と鴉は、最後に握手をして別れた。
 鴉の手は、円華の情熱が伝わったかのように、熱かった。

担当マスターより

▼担当マスター

神明寺一総

▼マスターコメント

 みなさん、こん〇〇わ。神明寺です。
 今回も、少し遅れてしまいました。申し訳ありません。
 別に今回は、指切ったりなんだりの影響はございませんので、どうかご心配なく(気にかけてくださった方、有難うございました♪)。

 という訳で、後編、完結編です。
 中継ぎを入れた割りには……というか、むしろ中継ぎを入れたせいというか……気がつくと中編よりモリモリになっているよーな気もしますが(笑)そこはそれ、『いつもと同じお値段なのに、まぁなんておトクなのかしら♪』ぐらいなポジティブシンキングで受け取って頂けると幸いでございます。

 まあでも、真面目な話。

 皆さん色々と思う所はあるでしょうが、自分としては、毎回単行本一冊上げてるくらいなつもりで書いております(ムムッ、微妙に薄っぺらいような……)。
 自分で校正していても読むのが大変な位なんで、皆さんの苦労と言ったらそれは並大抵ではないとは思いますが!
 自分のキャラが出てくる所以外も、頭から尻尾まで完食してくれると嬉しいです。

 ……ホラ、自分の作ったご飯残されると、悲しいでしょ?(笑) 

 食べた後は、いつものように掲示板でご感想をお聞かせ頂けると、シェフが喜びます♪


 しかし、改めて校正かねがね読み返してみると、

「せっかく色々苦労して(ヒドイ目にも遭って)、散々ヤキモキしたのに、ハッピーエンドを見ないのは勿体無いですよ?イヤ、マジで(笑)」

 とか中編の後書に書いてやがるクセに、ハッピーエンドだかそうじゃないんだか、だいぶ微妙なオチですね!(オイ)
 でもそこいらへんは、次回以降にお話を続けるための大人の事情……(笑)と思って、寛大なお裁きをお願い致します(汗)


 因みに、今回書こうとして話の流れから微妙に端折られてしまった所(主に景継と鏡、それに機晶石と白いモノ)については、マスターページにつらつら書く予定なので、是非御覧下さいませ……といいつつ、今回はシナリオガイドが控えているので、ちょっと時間かかるかも知れません。ゴメンナサイ。

 で、次回シナリオガイドですが、マスターページ等で告知している通り、空京万博モノです。
 などと聞くとと『閑話休題的なシナリオかな〜』などと思われかもしれませんが、一応次回連作モノの前振り的なお話になります。
 気になる方は、是非ゼヒ奮ってご参加下さい。

 という訳で、一週間くらいでまた皆さんにお会い出来るコトを(笑)、楽しみにしております。
 



 平成辛卯 夏葉月


 神明寺 一総



 追伸

 最後の進撃前のコンサート、皆さんはどんな曲を思い浮かべたでしょうか。今度、教えて下さいね〜♪