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えすけーぷふろむすくーる!

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えすけーぷふろむすくーる!

リアクション

――特別教室棟1F、理科室にて。

 理科室は前半でほぼ壊滅状態に陥っていた。
 棚は倒れ、机は壊れ、残るはガレキや実験器具が散乱する光景。そんな中でも窓は割れず、この理科室を閉じ込めていた。

「……まだ懲りないんですか、兄さん」
「ああ、先ほどは邪魔が入ったからな! しかし今度こそ成功してみせよう! 天才科学者の名にかけて!」
 高らかに笑うドクター・ハデス(どくたー・はです)に、高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が呆れたようにため息を吐く。ハデスは壊れた中から無事な薬品を回収し、また調合を始めていた。
「……諦めましょうよ。てか、兄さんのせいでこんなになったんですからね?」
 そう言って咲耶が自分の服を見る。前半、猛攻を避けきれず捕まってしまったペナルティとして『パイ&カラーボール投げ』を食らい、服が汚れパイのクリームが着いていた。ちなみに同じようにペナルティを受けたハデスも、同様にべったりとパイと塗料がついていた。
「なんのそれしき! この天才科学者の手にかかればそのような汚れなどすぐに落としてくれるわ!」
 そう言って何かを混ぜた薬品ビーカーを突き出す。ゴポゴポと泡が浮かび、怪しげな煙が上っている。
「何か凄く胡散臭いんですが……」
「何を言うか! どれ、この効果を見せてやろう!」
「いいですって……って何ですかこれ!? 煙が触れただけで服が溶けていくじゃないですか!」
「おぉ……我が天才的頭脳が恐ろしい……根本から汚れを落とすだなんて……」
「落としてない……って下着! 下着まで溶け出してる! 早くそれどけてください!」

「んふ、賑やかな奴らじゃのぅ」
 ハデス達を眺め、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)が楽しそうに笑う。
「え、ええ……そうですね……」
 その横で、遠野 歌菜(とおの・かな)が苦笑しつつ答える。
「ところで、何でそんな変な格好しているんだ?」
「は、羽純くん! ストレートに言いすぎ!」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)の口を歌菜が慌てて塞ぐ。
「ん? わしの格好か? かまわんかまわん。先ほど捕まってこの様なだけよ」
 そう言ってファタがけらけらと笑う。ちなみに、今ファタはペナルティを食らい縄で縛られている。
「あの、解きましょうか?」
「いや、かまわん。折角可愛らしい幼女がわしを縛ってくれたのじゃ……これを解くだなんてとんでもなかろう」
「……さいですか」
「ところで歌菜、何か探し物があったんじゃなかったのか?」
「あ、そうだそうだ。すっかり忘れてたよ……ってあったあった!」
 歌菜が散乱する実験器具の中から取り出したのは、
「……ガスバーナー? そんなのどうするんだ?」
「うん、何かでやってたのを思い出したんだけどさ……丈夫なガラスって急激な温度変化に弱いんだって。例えば、高温で熱した後急に冷やすとかね」
 そう言ってバーナーに火をつける歌菜。噴出口から炎が出る。どうやらガスは十分残っているようだ。
「試してみる価値はあると思わない?」
「……そうだな、やるだけやってみよう」
 羽純が頷く。歌菜は窓ガラスに歩み寄り、一点に集中してバーナーの炎を当てる。
「……そろそろいいかな。羽純くん、お願い」
「わかった、離れてろ」
 歌菜が離れるのを確認してから、羽純が熱した部分にビーカーで汲んできた水をかける。
 窓ガラスから破裂するような音がすると、やがて粉々に砕けて落ちた。
「……やった! 出られるよ!」
「よし、そうと決まればさっさと――」
「なかなか面白いことをしているね!」
 クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)が笑みを浮かべ立っていた。
「何時の間に……!」
 歌菜の前を庇うように、羽純が立つ。
「僕も仲間に入れてよ!」
 そう言うとクラウンは一番近いハデス達の下へ駆け寄る。
「さ、させません!」
 クラウンの前を、咲耶が立ちふさがる。
「兄さん! 早く逃げて!」
「あわてるでない我が部下よ! この天才的頭脳を持ってすれば柔軟剤などいらんのだ!」
「って何でまだ洗剤作ってるんですか!」
「余所見していていいのかな!?」
 クラウンの言葉と同時に、何処からか薬品の瓶が飛んでくる。
「くっ!」
 咲耶が咄嗟に避ける。避けた瓶は、
「ぬぉぅ!?」
ハデスの頭に当たった。瓶が割れ、中身がハデスの体にかかる。
「ぬぐあああああああ!」
 ハデスが苦悶の悲鳴を上げる。
「よくやりました、クラウン」
「計画通りです」
 理科室入り口、イリス・クェイン(いりす・くぇいん)フェルト・ウェイドナー(ふぇると・うぇいどなー)が立っていた。
「ね、ねぇイリス! 今投げたのって何かな!?」
 引きつった笑みを浮かべ、クラウンが言う。
「に、兄さん!? 兄さん!?」
 咲耶が呼びかけるがハデスは何も返さない、というか返せない。彼は、苦悶の表情のまま凍っていたから。
「液体窒素ですよ、落ちてたので。まぁあなた【アイスプロテクト】持ってるし大丈夫ですよね?」
「いやいやいや! スキルあっても危ないと思うよ!?」
「……どうする、歌菜?」
 イリス達から目を離さず、羽純が歌菜に問いかける。
 歌菜はちらりと割れた窓を見た。すこしばかり距離があるが、走れば追いつかれないだろう。
「……私が【光精の指輪】で目をくらませる。そうしたら走って窓から出よう」
 羽純が頷いたその時、ファタがゆらりと前に出た。

「我が世の春が来たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 そして叫んだ。
「おっとすまんのぅ、可愛らしい少女達を目にしてつい我を失ってしまったわ」
 そしてずい、とイリス達に歩み寄る。
「このようなむさい所で追われるなどろくなものではないと絶望しておったが、先ほどに続いてまたもや可愛らしいよう……少女に巡り合うとはのう。んふ、今ならわしも神を信じてやってもいいぞ!」
「な、何この縛られた人……」
「……怖い」
 一人うんうん頷きながらまくし立てるファタにイリスは軽く引き、フェルトはイリスの影に隠れてしまっていた。
「おお、そうそう。ペナルティじゃったのう。さぁ早くわしを捕まえるがいい! そして思う存分ペナルティを与えるがいい!」
「……自分から来るってどういうことよ」
 早く捕まえろと胸を張るファタにイリスはドン引きしていた。
「……えっと、とりあえず僕も捕まえるよ!」
「うぅ……兄さんがこんな状況じゃ逃げられませんし……」
 クラウンが咲耶の手を掴んだ。
「あとはそこの……って居ないよ!?」
 振り返ったクラウンの視線の先には、先ほど居たはずの歌菜と羽純の姿は無かった。

「……よかったのかな、私達だけ逃げちゃって」
 窓から出た歌菜が呟く。
「いや、俺達にどうこうできるとは思えないぞ、あれは」
 羽純が何とも言えない表情で呟いた。

「んふ、さておぬしのペナルティは何かのう?」
「……何でそんなわくわくした顔をしているのかしら……まぁいいわ、私のペナルティは『下着姿になる』事。というわけで、服を剥がさせてもらいます」
「少女に服を剥がされる……んふ……んふふ……い、いかんいかん、想像しただけで笑いが……」
「な、なんでそんな嬉しそうなの!?」
 身悶えし恍惚とした表情のファタに、クラウンが困ったような表情になる。
「……どうしたんです?」
 もじもじとしている咲耶に、フェルトが聞いた。
「あ、あの……下着姿になるって言いましたけど……」
「え、ええ言いましたよ?」
 イリスが頷くと、咲耶が泣きそうな表情になった。
「か、勘弁してください! さ、さっき兄さんのせいで下着少し溶けちゃったんですよぉ!」
「あら、ならあなたの場合は下着無し、とかどうかしら?」
 ちょっとSっ気の混じった笑顔でイリスが言う。
「そ、それも恥ずかしいですよぉ!」
 半べそをかきながら咲耶が言った。