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リアクション
――同時刻。
――特別教室棟1F、理科室にて。
「さて、どれを持っていけばいいのやら……」
薬品棚の前で龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)が顎に手を当て、唸る。
「何かいい案は無いかね?」
「うーむ、私にはちょっと……」
陳宮 公台(ちんきゅう・こうだい)が苦笑いを浮かべる。
「これなんてどうかな、廉お姉ちゃん?」
「勝手に触るな。危ないぞ」
薬品棚に入り込み、キャロ・スウェット(きゃろ・すうぇっと)が瓶を叩くのを、宥めるように廉が言う。
「あ、これ貰ってっていい?」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が薬品棚から『液体窒素』と『濃硫酸』と書かれた瓶を手に取り、廉に見せる。
「ああ、俺には使いどころがよくわからんからな」
「じゃ貰っていくわね。セレアナ、持ってて」
セレンフィリティが手に取った瓶を、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に渡す。
「ふむ、私も何か欲しいのう……こうも種類があると悩むわい」
羽入 綾香(はにゅう・あやか)が、買い物をするかのように薬品を選んでいる。
「羽入、羽入」
ループ・ポイニクス(るーぷ・ぽいにくす)が綾香の袖を引っ張る。
「なんじゃ、ループ殿?」
「鷹野見てなくていいの?」
そう言って指差す先は標本が置いてある棚だった。
「……はぁ、素敵ですねぇこのフォルム……一つ持ち帰りたいくらいですよ……」
そこでうっとりとした表情で鷹野 栗(たかの・まろん)が標本を眺めている。
「どうですか、レテ。いいと思いませんか?」
「う、うん、そうだね……」
少し疲れた表情で頷くのはレテリア・エクスシアイ(れてりあ・えくすしあい)。色々と標本を眺める栗に、時折頷いたりしている。
「心配いらんじゃろ、レテリアが見ておるぞ……お、それよりこの薬品を見てくれ。一体何に使うんじゃろうかのぉ?」
「……似た物同士だ」
ループが綾香を見て呟いた。
「ちょっと失礼しますね」
その横を薬品を抱えた高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が通っていった。
「はい、持って来ましたよ兄さん」
「おおよくやった! 改造人間サクヤよ!」
咲耶が持ってきた薬品をハイテンションで受け取るドクター・ハデス(どくたー・はです)。
「あまり改造人間とか言わないでください……ところで、何を作るんですか?」
「くくく……良くぞ聞いてくれた。これらの薬品で爆薬を作るのだよ!」
「爆薬、ですか……」
嫌な予感に、咲耶があからさまに顔をしかめた。
「待っておるがいい、この天才科学者がこんな窓など破壊してくれるわ!」
「はぁ、そうですか」
「そうとも、俺の手にかかれば造作も無いことよ! ……とりあえずこれでいいか」
「ってちょっと待ってください! 何ですかその適当な選別は!」
「大丈夫だ、問題などない!」
「問題しかないの間違いでしょう!」
「……あー、うるせー」
その横でゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)が苛立たしく呟く。
「ゲドー、あまりイライラすると禿げるです」
その横で俺様の秘密ノート タンポポ(おれさまのひみつのーと・たんぽぽ)が言った言葉に、ゲドーのコメカミがピクリと動いた。
「ところでゲドー、さっきから何してやがるですか」
「何度言えばわかるんだタンポポちゃんは! 爆弾作ってるって言っただろう!」
「はっ、そんな爆弾で窓や壁が壊れるとは思えないのです。このタンポポちゃんが叩いて調べたから間違いないのです。そんなのも解らないとは救いようがない野郎なのです。いいからとっとと脱出する手段を考えやがれです」
「そもそも何でこんな状況になったと思ってるんだ!?」
「本当にゲドーは愚かで救いようがありゃしやがらねぇです。肝試しに参加したからなのです」
「俺様は参加した覚えはないっての! ってか駄々こねてたのはタンポポちゃんだろうが!」
「記憶を捏造してまで責任逃れとは……早いところくたばった方がいいのです」
「……騒がしいですねぇ」
薬品棚で薬品を漁る月詠 司(つくよみ・つかさ)が呟く。
「イライラしてるじゃないのツカサったら」
「そりゃそうなりますよ……こっちはいつ正気を失うかわからないんですよ? こんなところとっとと逃げないと」
からかうように言うシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)を司がじとっとした目で見る。現在吸血衝動に襲われる事がある彼にとって、衝動を抑える為のトマトジュースがないこの状況は厳しい。
「そ、そうだぞシオン! こんなところとっとと逃げないと! 大体肝試しなんか来るんじゃなかったんだよ!」
リル・ベリヴァル・アルゴ(りる・べりう゛ぁるあるご)が半分涙目になりながら言う。
「あら、リルったら怖いの?」
「ばばばばば馬鹿野郎! そんなわけないだろ!?」
「あ、お化け」
「ぎゃあああああ!」
「……酷いですわ」
リルに悲鳴を上げられた天寺 御守(あまでら・みもり)が傷ついたように声を上げる。
「お、脅かすなよ! そんな変な面つけてりゃ誰だって驚くだろ!?」
リルが指差す御守の顔には【二位尼の面】がつけられていた。夜、暗い中で見たら地味に怖かった。
「脅かしているわけじゃないですわ。これをつけて一番に脱出すれば景品が出るとシオン様が言っていたのですわ」
「あーはいはい、そうなのよー」
「ぜってぇ適当な事言ったな、おまえ」
「まぁまぁ……そうだわツカサ、血が欲しいならマダレイ……はアホだから止めておいて、リルのでも吸えばいいじゃない」
「うぇっ!? ちょ、ま……ひ、人前で恥ずかしいだろ! で、でもパパが良いって言うなら……」
「……何この乙女」
顔を赤らめ恥らうリルを見て、若干引き気味のシオン。
「それよりアホだからってどういう意味ですか……」
抗議するように御守が言うが、シオンは聞いちゃ居ない。
「え、リルの血ですか? それは流石に色々と、ねぇ」
司はというと、『ないない』と手を振って否定する。
「そ、そうだよな……ってそんなことよりとっとと集めるもん集めちゃおうぜ!」
「ふむ、暫くからかうネタができそうね」
赤くなった顔を誤魔化すようにリュックに薬品を入れるリルを見て、シオンがほくそ笑んだ。
「皆さん、賑やかですねぇ……」
そんな光景を見て、椿 椎名(つばき・しいな)が呟く。
「じゃあボク達も賑やかにやろうよ。というわけで、アー君ボケて」
「え!? い、いきなりなに言い出すんですか!? 後俺はアー君でなくアドラーですって!」
「まぁまぁ、ねぇマスター! アー君がボケるってさ!」
役に立ちそうな薬剤を調合していたソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)の無茶振りにアドラー・アウィス(あどらー・あうぃす)は抗議する。しかしソーマは聞いちゃ居ないどころか椎名まで連れ出す。
「それは楽しみですね」
期待する瞳に、アドラーが言葉を詰まらせる。
「ほらほら、アー君確か【ヘリウムガス】持ってたでしょ?」
「……わかりましたよ」
渋々、という様子で【ヘリウムガス】を取り出し、吸い込むと息を止める。
その様子を椎名とソーマが期待の眼差しで見る。
『……サイショハカレモヤサシカッタンデスケドー、ダンダンボウリョクトカフルウヨウニナッ「下手糞止めて帰れ」って止めるなよ!」
何処かの人生相談の物まねをソーマが途中で遮った。
「?」
椎名はというと、何をやっているかわからない様子で首をかしげた。
「そ、そんなことより薬剤調合はどうなったんですか!?」
「そんなのとっくに終わってるよ。ほら、簡易スタングレネード」
「あの状況で何時の間にやったんですか!」
「本当に騒がしいな……」
「ええ……全く……」
周囲の状況に日比谷 皐月(ひびや・さつき)と非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が苦笑する。
「近遠、できましたわ」
ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が、先ほどまでいじっていた実験道具を見せる。
「それは?」
「ええ、爆薬ですよ。破壊力は強めですが」
「どうするんだ、それ?」
「先ほどの講堂……あの扉がボクは怪しいと睨んでいるんですよ……」
「爆破するってわけか」
近遠が頷く。
「近遠、これくらいでいいか?」
イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)とアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が理科室からそこそこ大きめの机を運んでくる。
「ええ、大丈夫だと思います」
「けど、これをどうするんです?」
「盾にするんですよ、爆破の時危ないですからね。後は向こうで指示するので、運んでください」
「うむ、わかった」
「わかりました」
イグナとアルティアが頷く。
「そっちはどうだ?」
「問題ない」
皐月の言葉にマルクス・アウレリウス(まるくす・あうれりうす)が出来上がったものを見せる。いくつかあるそれらは、様々な形をしているが全て爆弾だ。
「凄いな、それ全部か? よく作れたな」
「ああ、最悪塩と砂糖と水、それに鉛筆があれば爆弾は作れる。覚えておくといい」
「へいへい、それより出来上がったなら早いところ行こう。この騒ぎを聞きつけて誰か来るかもしれないからな」
「残念、もう居るんだなこれが」
その言葉と同時に、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が【如意棒】を振るった。
振り回された【如意棒】は机を、棚を、そして数名の探索者を襲った。
「あれ、避けた人もいるんだ」
咄嗟に隠れた者達を見てルカルカが言った。
「でも、それも何時までもつかな……ダリル!」
「ああ! 行くぞ!」
同時に、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が【空飛ぶ箒ファルケ】魔法を放つ。全方向に放たれる魔法が更に部屋を襲う。
「くっ……逃げるぞ!」
魔法を避けつつ、助かった者が出口を目指そうとする。だが、
「おっと、そうはいかないぜ!」
エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が火炎瓶を投げる。割れた瓶は人にこそ当たらなかったが、着地地点で激しく燃え上がった。
「エース、それ危なくない?」
「人に当たらなければどうということ無い。それよりクマラ、行くぞ!」
「はいよ!」
クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が【龍骨の剣】を構えた。
待ち伏せされ、急襲された探索者達は4人にあっさりと隅に追いやられる。
「さーて、どうする? 今なら素直に降参すれば……おっと!」
突如、襲い掛かった刃をルカルカは【如意棒】で防いだ。
「……歯向かう気?」
「そもそもこんなお遊び付き合う気なんて無いんだよ、こっちは」
【妖刀金色夜叉】を構えたゲドーが苛立たしく吐き捨てる。
「それじゃこっちも遠慮なんてしないからね! 後悔しないでよ!」
「それは俺様の台詞だ! 脱出方法吐かせてやるから覚悟しろよぉ!」
「一人で適うと思っているのか?」
ダリルが箒を向けた。が、
「む!?」
自身に向けられた敵意を察知し、ダリルが飛び退く。
「駄目じゃないですか……避けちゃ」
そこには【黒薔薇の銃】を構えた司がいた。
「ふむ、お前もか?」
「はい、そういえば追ってくる人を襲っちゃいけないルールなんてありませんでしたしねぇ……」
司の目が怪しく光る。
「……上等! みんな纏めて相手するよ! 行くよダリル!」
ダリルが頷くと、ルカルカがゲドー、司に襲い掛かった。
「エース……これどうするの?」
ルカルカとダリル、ゲドー、司にシオン達が戦う様を見てクマラが言う。
「どうするって言ってもなぁ……ありゃ止められないぞ? とりあえず俺達は残りを……って誰もいねぇ!?」
エースが追いやられていた探索者を見ると、誰一人としていなかった。何時の間にやら逃げられてしまっていたようだ(ゲドーのパートナー、タンポポまで居なくなっていた)。
「やられたなー……ん?」
ふと、足元を見たエースの目にハデス、咲耶、近遠にユーリカ、イグナ、アルティシアが気を失って倒れていた。最初のルカルカの攻撃で、気を失ったようであった。
「……とりあえず、6人げっとー?」
「そういうことでいいんじゃね? とりあえず、外連れ出すか」
エース達は気を失った6人を外に連れ出した。激しさの増すルカルカ達の攻撃を避けながら。
――その頃、教室棟1Fにて。
「……よし、誰も居ませんね」
教室から顔を出し、辺りを探っていたレリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)が呟く。
「なら行こうぜ。目的の物は持ったしな」
背後からハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)が声をかけると、レリウスが頷く。
二人は廊下に出ると、辺りを警戒しながら歩き出す。
「……おい、何だアレ?」
ハイラルが指さす。その先には、
「……首……首だぁ……」
――首が無いのに、廊下をさまよう者が居た。
「……その首……首よこせぇ!」
レリウス達に気づいたのか、首無しが向かってくる。
「ど、どうするよ、レリウス!? これ、使うか!?」
ハイラルが手に持った布を見せる。それは先ほどの教室で見つけたチョークの粉を入れた、簡単な目くらましだ。
「ええ、使いましょうか」
ハイラルの手から、レリウスが煙幕を受け取る。
「だたし、使うのはこっちだ!」
そして、振り返るなり布を広げ、中の粉を舞わせる。
「……くっ!?」
何も無いはずのそこには不自然な霧があり、そこから呻き声が漏れる。
「今です!」
レリウスの声と同時に、霧の横を2人が駆け抜けた。
「……逃げられちまったなぁ」
頭に被せた【光学迷彩】の布を外し、佐野 亮司(さの・りょうじ)が呟く。これで首が無いように見せかけていたのだ。
「ええ、まさか煙幕なんて持っているだなんて予想外でしたよ」
ため息を吐きつつシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)が身に纏っていた【霧隠れの衣】を外す。これで霧となって2人を追いかけていた。
「駄目だった?」
ひょっこりと、空き教室の扉からミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)が顔を覗かせる。
「ええ……申し訳ありません」
「気にしないでいいよ、次頑張ろうよ」
「そうそう、また次気をつければいいんだよ」
申し訳なさそうに言うシェイドに、ミレイユと亮司が慰めるように言う。
「……お?」
ミレイユの【超感覚】で現れている獣耳がぴこぴこと動いた。
「ん? どうしたよ?」
「うん、誰か来るみたいだよ……すぐそこまで来てる」
ミレイユの言葉通り、ドタドタと走ってくる音が聞こえる。
「やべ……とりあえず教室に隠れるぞ」
亮司に続いて、ミレイユとシェイドも教室へ飛び込んだ。
「……ふぅ、ここまでくれば大丈夫ですかね」
息を整えつつ、栗が今駆けてきた廊下を振り返る。
「うむ、追っ手はおらぬようじゃ」
綾香が背後を確認しつつ言う。
「ねえ、レテが死にそうだよ?」
ループが言うとおり、レテリアが青い顔で荒い呼吸を繰り返していた。
「あ……あんな走るとは……思わな……ぜぇ……」
「……だらしないのぉ。もっと運動すべきじゃぞ、レテリア」
「レテだらしなーい」
「そ、そんなこと……い、今言って……も……」
「まあまあ、追っ手も居ないことですし。少しレテも休憩させましょう」
そう言って栗が近くの教室の扉を開けた。
「「あ」」
そこで、ミレイユ達と鉢合わせる。
栗の目が、ミレイユに注がれる。
「……耳……しっぽ……」
そう言うと、ふらふらとミレイユに歩み寄る。
「え? 何? 何?」
そして、いきなり耳を触りだした。
「ああ……いい……これ何の耳ですかね……」
うっとりしたような口調で、ミレイユに生えている獣耳を撫で回す栗。
「羽入、いいの?」
「……あーなったらとまらんのぉ」
「そうなんですか……」
呆れたように呟く綾香。
「で、俺達があんたら捕獲するんだけど構わないな?」
そんな綾香たちの後ろを、亮司とシェイドが立ちふさがる。
「……まぁ、仕方あるまい」
綾香がため息を吐いた。
「「「「んぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」」」」
ミレイユのペナルティである【リュウノツメ】を口に放り込まれ、栗達が悶絶する。
「大丈夫?」
ミレイユの言葉に、栗達が涙目で首を横に振る。ブンブンと音がするくらい、勢いよく。
「んー、俺のペナルティはどうするかなぁ……まぁいいか、出しておくだけ出そう」
「何をするつもりなんですか?」
シェイドに聞かれると、亮司がにやりと笑った。
「とりあえず、語尾を『にゃ』で過ごして貰おうかね」
――同時刻。
――特別教室棟1F、用務員室にて。
室内は半分が事務用の机や棚がいくつか並び、半分が畳敷きになっており、布団が敷かれていた。恐らく宿直室も兼ねていたのだろう。
そんな室内を漁る者達が居た。彼らは机の中身を漁り、棚を片っ端から調べている。
南部 豊和(なんぶ・とよかず)とレミリア・スウェッソン(れみりあ・すうぇっそん)、クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)は棚を。島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)と三田 麗子(みた・れいこ)、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が机の引き出しを手分けして探していた。
「……うーん、駄目ですね」
「こっちも何も無いな」
棚を探していた豊和とレミリアが首を横に振りながらため息を吐く。
「用務員室ならばマスターキーでもあると思ったんですが……そっちは何かありましたか?」
「いいや、こっちもハズレだ……そっちはどうだ?」
棚を探していたクレーメックが、机を漁っているヴァルナと麗子に言うが、二人は首を横に振るだけだった。
「わたくしの方はさっぱり……」
「私もですわね。これといって役立ちそうなものは……」
「そうか……なぁ、そっちに何か無いか?」
クレーメックが先ほどから校内を修繕するための用具箱を漁っている久世 沙幸(くぜ・さゆき)に話しかける。
「ん? 工具関係ならここにあるよ」
そう言って沙幸が鋸を手に取る。
「工具か……俺達は使わないな」
「そう、なら私はこれ持って行くけどいいかな?」
皆に問いかけると、室内の者達全員が頷く。
「あ、後枕持って行くね」
そう言って沙雪が畳の上に置いてあった枕を手に取った。
「そんなの、どうするんだ?」
氷室 カイ(ひむろ・かい)が沙幸に問いかける。
「うん、いざというときの身代わりにするから……そろそろ私他の場所調べるね」
そういうと、沙雪が用務員室を出て行った。
「身代わりねぇ……お?」
クローゼットにあった用務員の服を漁っていたカイが、声をあげる。
「どうしたの?」
「どうやら当たりのようだな」
そう言ってカイがポケットから取り出した物は、鍵だった。
「こっちも見つけたー!」
机を漁っていた美羽も、声を上げる。その手には鍵が一つ握られていた。
「全部で二つか……何処の鍵だかわかるか?」
「俺の鍵は【屋上】らしい」
「僕たちのは【非常口】みたいだね」
カイ、コハクがそれぞれ鍵についているプレートの文字を読み上げる。
「とりあえず、俺は屋上へ向かってみるとする。誰か行く奴はいるか?」
「なら俺も行こう」
カイの言葉に、クレーメックが頷く。
「僕達は講堂へ向かいます、気になることもあるので」
豊和が言うと、レミリアが頷いた。
「私も別の場所に行くよ」
「非常口がどこか解らないし、探してみようと思うんだ」
美羽とコハクが言うと、皆が頷いた。
「よし、それじゃそろそろ行くとしようぜ。誰か来ないとも限らないしな」
そう言って、カイが戸を開け、廊下に出ると足を止めた。
「どうしたの?」
美羽の言葉に、カイはゆっくりと指差す。
――その先には、講堂に現れた影がいた。
「逃げろ!」
誰かの言葉をきっかけに、弾かれたように皆駆け出す。
影はすぐに追わず、一歩遅れて後を追いかける。
「みんな置いて行かないでよ〜〜〜!」
影の背後、ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が半べそをかきながら現れた。
今まで誰も居なかったはずの場所に現れたライゼに、影は足を止めた。そして振り返り、ライゼを見る。瞬間、
「引っかかったね!」
ライゼが【光術】を、影の顔へと向けた。影が思わず顔を背ける。
「今だよ!」
その言葉を待っていたかのように、夜霧 朔(よぎり・さく)、朝霧 栞(あさぎり・しおり)が用務員室から飛び出した。
「はっ!」
朔が影に向かって【ワイヤークロー】を放つ。
「どうだ、朔!?」
「逆光で確認できませんが……手ごたえはありました!」
「にゃはははは! よっしゃ上出来上出来! さて、それじゃあたしに後は……ん?」
栞が【ワイヤークロー】の先を見る。よく見ると、捕獲した影は小さい物であった。
「あう〜……僕だよ〜……」
そこに、捕獲されたライゼがいた。
「ちぃっ! 奴は何処……がっ!」
そう言った瞬間、栞は倒れ意識を失った。
「栞……ぐっ!」
そして続いて、朔が倒れる。
その背後に、影が立っていた。
「あ……あ……」
あっという間に仲間を失い、身動きも取れないライゼは体をガクガクと震わせる。
「…………」
「ひぃっ!?」
ゆっくりと歩み寄る影に、ライゼが小さく悲鳴を上げる。
「……中々やるようだね、おまえ」
朝霧 垂(あさぎり・しづり)が、用務員室から姿を現す。
「し、しづり〜!」
「ちょっと待ってな、ライゼ。こいつを片付けて……ってうぉっ!?」
突如、目の前まで距離をつめてきた影に、垂は転がりつつ距離を取る。が、影は勢いそのままに垂との距離をつめてくる。
「い、いきなり襲い掛かってくるんじゃねーっての!」
バックステップで距離を保ちつつ、垂は【エステ用ローション】を影の足元を狙って撒いた。
影の軌道上、狙いは成功。このまま影はローションを避けきれず、足を滑らす……はずだった。
「え?」
影はローションの一歩手前、地面を蹴り飛び上がる。
「……嘘だろ?」
完全に虚を突いたはずだと思っていた垂は、逆に虚を突かれ足を止めてしまっていた。
そのまま、影は垂に体重をかけ押し倒す。
「ぐぇっ!?」
衝撃で、一瞬垂の息が止まる。起き上がろうとしたが、膝を体の上に置かれ体重をかけられている。
『……あそこで足止めをしたのはまあ悪くは無いが、単発で終わったのは褒められたものではないな』
「……え? ちょ、ちょっと待って……そ、その声……」
垂が声を震わせる。
影は頭のマスクに手を取ると、一気にそれを引っ張る。
「……なんで居るんですか、団長」
そこには、ニヤリと笑みを浮かべた金 鋭峰(じん・るいふぉん)の顔があった。
「……というわけだ」
「はぁ、つまり一種の訓練というわけで」
縛られ、鋭鋒の前に正座させられた垂が言うと鋭鋒が頷く。
「……一つ、言いたいことが」
「許可する」
朔は息を吸い込むと、
「訓練なら訓練と初めから言えば良いのに、今回の様な騙し撃ちは流石に納得いきません!! と言いますか、休みの時くらいリラックスしても良いじゃないですか、教導団員にも、歴戦の勇者にも体を休めて精神的にリラックスする時は必要な筈ですし、その権利はあるはずです!」
「言いたいことは終わったか?」
「……はい」
朔ががっくりと頷いた。
「この団長、全く聞く耳持ってねぇ……」
栞が聞こえないように呟いた。
「他に何か言いたいことがある者がいたら聞いてやる」
「「「いえ、ありません」」」
「よろしい……さて、それじゃ楽しいペナルティタイムだ」
そう言って鋭鋒が取り出した物は、身の丈ほどあろうかという巨大なハリセンだった。それをブンブンと、空を切らせ素振りをする。その度に強烈な風圧が4人を襲う。
「素材は紙だから死ぬことは無いだろう。さて、我は奴らを追わねばならぬから手っ取り早く済ませてやる。さぁ、行くぞ!」
「「「「お、鬼ぃぃぃぃぃぃ!」」」」
4人の悲鳴と、叩く音が4回程、廊下に響いた。
――その頃、用務員室から逃げたクレーメックとヴァルナ、麗子は廊下を走っていた。
「どうです、追ってきています!?」
「姿は見えませんが、解りません……!」
後ろを振り返りつつヴァルナが麗子に言う。
「よし、この先は確か理科室のはずだ! そこに逃げ込むぞ!」
「けど逃げ込んでどうするんですの!?」
「私に考えがある! まず逃げ込んだら2人とも服を脱げ!」
「ふっ服をですか!?」
ヴァルナが顔を真っ赤にする。
「あら、服を脱ぐ、というだけで何考えてるの?」
「だだだだだだって脱げと! クレーメックさまが脱げと!」
「何考えてるんだ……そうじゃなくて理科室なんだから人体模型のふりをするんだよ!」
「人体模型……ああ、成るほどねぇ」
麗子が感心したように言った。
「……あの、クレーメックさま?」
「なんだヴァルナ?」
「ということはクレーメックさまも脱ぐので?」
「そりゃそうだろう」
そう言うと、再度、ヴァルナの顔が真っ赤になる。
(ということは理科室の中でわたくしとクレーメックさまが一糸纏わぬ姿で!? 追跡を逃れるためとはいえいけませんわ! ああでもクレーメックさまのは、裸……考えただけで頭が沸騰してしまいますわぁッ!)
「ヴァルナったら……エッチねぇ?」
耳元で麗子に囁かれ、正気を取り戻すヴァルナ。
「はぅあッ!? わ、わたくしそんなこと考えてなど……」
「何やってんだ! もうすぐ理科室に着くぞ!」
理科室の扉を、クレーメックは勢いよく開けた。
「ほいよっと!」
「むぐっ!」
理科室では、クマラがハデスの顔面にパイをぶつけている所であった。エース達のペナルティである『パイ&ペイントボール投げ』が現在執行されているところであった。
「次、エースね」
「ほいほい、そりゃ!」
クマラに続いて、エースがペイントボールを投げつける。ハデスの白衣をボールの塗料がべったりと汚す。
「……これ、落ちるんですかねぇ」
「落ちてもらわないと困りますわ」
「これ、結構気に入ってたんですが……」
その横で既にペナルティを受けていた近遠達がため息を吐いていた。
「さて、次はルカ達のペナルティね。とりあえず、終わったらこの建物50周。簡単でしょ?」
「50周……!?」
近遠が絶句する。
「本当は歯向かってきた2人にもやらせたかったんだけど逃げられちゃったしなー……ああそうそう」
ルカルカはそう言うと、クレーメック達の方を向いた。
「そこの3人もね」
そう言って【如意棒】を構えた。それを見たクレーメック達は踵を返す。
「よし、2人とも逃げる――」
「あ、逃げようとしたって無駄だよん♪」
が、既に背後にはクマラとダリルが居た。
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