校長室
【空京万博】海の家ライフ
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「海岸のゴミは危険ですわ。ガラスの欠片なんて落ちていようものなら、下手すればざっくり行きますから。海水浴客の皆さんが安心して過ごせる海岸の為に、汗水流して働きましょう!」 背後で起こっているエリュシオン人陵辱プレイに目もくれず、ゴミ拾いに精を出すリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が、爽やかにかいた額の汗を拭う。 「リリィ……それでいいのかよ?」 リリィと共に海岸清掃作業を行っていたカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)が呟く。二人とも、れっきとした掃除屋のアルバイトである。 「何を言うんです? 僧侶といえば、清掃作業と人々への無償奉仕、後は神への祈りで一日を終えるものと昔から決まっていますわ」 「そうなのか?」 「ええ……別に怖いわけではありませんわ。クラゲは……浜に打ち上げられたものを拾うくらいなら致しましょう」 「つまり、巨大クラゲと戦ったりはしないんだな? 俺は良いことだと思うぜ?」 カセイノの言葉にリリィが手足をバタつかせ、 「だから! 怖いわけではありませんってば!」 「いや、別に怖いのかどうかなんて訊いてねーから」 「あ……あなたさえ泳げれば、一緒に海の危険生物狩りに繰り出すところですもの!」 やや声が上ずっているリリィにカセイノが笑みを浮かべる。 「わかってるって。俺が泳げないから、かばってくれてるだけだよな」 カセイノはリリィのトラウマの原因を知っていた、だから話題に出さないでおいてやったのだ。目つきが悪く、一見すると荒っぽく見えるカセイノの内心の優しさが伺える。 「さあさあ、無駄口叩いてないでもうひと頑張りだ。危険なゴミを片付けつくすんだろ?」 カセイノのハッパに気をとり直したリリィが浜に打ち上げられた、木製の船の残骸と思われる巨大な瓦礫を見つめる。これは他の掃除屋達も気付いてはいたが、皆巨大クラゲの撃退に向かったため、処理が遅れているものである。 「海のゴミといえば異国からの漂流物。こんな船の残骸や積荷の破片とか、ロマンはあってもゴミには変わりありませんわ。ササクレや尖っている部分が非常に危ないですわね」 見上げたリリィが手袋した手でしっかり掴み、 「よいしょーっと!」 必死で引きずろうとするリリィだが、ビクともしない。 「これは大物だぜ……俺でも無理だな」 カセイノがリリィの傍に来る。 「少しでも動いたら、あとは勢いでいけますわ……よいしょーっと!」 先ほどから、リリィ一人で運べないような大きな物を運ぶときに協力してきたカセイノであるが、これには困惑の顔を見せる。 「リリィ……これはイコンでもないと無理だぜ?」 ビクリとリリィの顔が強張る。 「あ……わ、ワリィ……」 俯いたリリィが浜辺に置いてあったヘキサハンマーを手に取る。 「何する気だ?」 「大きすぎて運べないなら、ハンマーで殴り壊しましょう!」 ニコリと笑うリリィ。 「ああ。分解して運ぶってわけか」 「はい! 大きなもの、巨大なものは皆小さくしてしまえばいいんです!」 「……」 カセイノと見つめ合うリリィの頭上を突然影が覆う。 「何だ?」 カセイノが見上げると、イコン{ICN0003133#NT−1}が巨大クラゲ退治のため轟音を立てて二人の頭上を飛び越えていく。 「ここも、早々安全じゃなくなりそうだな……リリィ、俺は疲れた。一旦休もうぜ? 昼飯も食べてないんだし……」 踵を返し、「行こうぜ?」と手で合図するカセイノ。 「駄目ですわ」 「休みたくないのか? ったく、頑張りすぎじゃねーか?」 と、立ち止まる。 「違います……何故か、足が動かないんです」 リリィは先程と同じ笑みを湛えたまま、そう言う。 「おかしいですわ……わたくし、どうしてしまったんでしょう?」 カセイノはリリィが、自分が怖がっている事をよく解かっていないのだ、と気付いた。だが、リリィにそれを打ち明けるのは彼には酷な事である。 ぼさぼさの薄茶色の髪を掻き上げたカセイノが、溜息をつき、リリィに近づく。 「仕方ねぇ……よっ!!」 「え?」 リリィをお姫様抱っこで抱えるカセイノ。 「ちょ……ちょっと……!?」 流石のリリィも、これには顔を赤らめる。 「ゴミ拾いしてる時から言ってただろう? てめえが運べないものは俺が運んでやるって」 そう言いつつ、プイとリリィから顔を逸らすカセイノ。 「え……? で、でも、ゴミ拾いと、そ、それにわたくしのハンマーが……」 「後で取りに来りゃいーだろうが! 何より、俺は腹が減ったんだ!! つべこべ言わず行くぞ!!」 カセイノはそう言うと、リリィを抱えて浜辺を後に、海の家に向かって歩き出す。 リリィはカセイノに抱えられながら、夏の暑さとは違う、熱さを体に感じるのであった。