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ムシバトル2021

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ムシバトル2021

リアクション


決勝、そして

○決勝戦○

「ムシバトルは誰のもの?」
 決勝。その文字がビジョンに大きく映し出されている。
「それはファンのもの、ブリーダーのもの、ムシのもの! だけど! だけどそれでも、真の意味でムシバトルの全てを手に入れたと言えるのは、年に一匹だけ!」
 セレンフィリティの熱い呼び込みが、さらに熱を帯びていく。
「それこそがムシバトル王! すなわち、この試合の勝者よ! パラミタ怪虫モフラ、百郎! そして、パラミタミヤマクワガタ、ステキ自然! 果たして、栄冠に輝くのはどちらか! 決勝戦です!」
 花火が上がり、会場じゅうを熱気と興奮が包んでいく。ついに最後の戦いの幕が開こうとしているのだ。
 観客達と同様、競技に参加していたムシたちも、ブリーダーと並んでリングを見つめている。誰もが、その決戦に注目していた。
「いきましょう、百郎。兄弟たちに見せることができなかった優勝を、今度こそ掴むのです」
「ワタシたちの夢はすぐそこだよ。一緒に夢を叶えよう、ステキ自然!」
 二匹の乗り手……赤羽 美央と、ノーン・クリスタニリアが共に相棒に話しかける。二匹は憎しみも、恨みも持っていない。だが、純粋な戦意が二匹の目に燃えている……より強いのは誰か、それを確かめるための戦いには、それだけが必要であり、それ以外に必要なものなどないのだ。
「いよいよ日が暮れ、星明かりがこのイルミンスールの森特設会場を照らしています。夜空に向かって、歓喜の声を上げることができるのは一体誰なのか……さあ、決勝戦の始まりです!」
 すっかり実況口調にも慣れた様子の勇刃が、カルミに視線で合図する。カルミは頷き返して、この日最後のゴングを打ち鳴らした。
 完成と共に飛び上がる百郎に、ステキ自然が生体レーザーを浴びせかける。今までと違って、これが最後の試合なのだ。全力を振り絞るように、連続で放たれるレーザーを、複雑な気道を描く百郎がかわす。
「あれじゃあ、近づけないよ!」
 セコンド席のエルム・チノミシルが、焦ったように言う。
「気合いをお入れなさい! ここまで来たら、植物食べてる蛾がどれだけ強いか、ちゃんと知らしめなければ許しませんわよ!」
 その隣の月来 香も、身を乗り出して食い入るように叫んでいる。
 初っぱなから、会場にはモフラの歌が流れている。モフラの戦いぶりに魅了された観客達が、声を揃えて歌っているのだ。タニア・レッドウィングも、ギターをかき鳴らして応援している。
「これは、負けるわけにはいきませんね……百郎!」
 鱗粉による小細工を止めさせ、百郎もまたステキ自然に向き直る。その触手から、冷凍光線アイスパルサーが放たれた。
 リングの中央でレーザーとパルサーがぶつかり、むちゃくちゃな方向にエネルギーが飛び散っていく。激しく火花や蒸気をまき散らしながら、二匹の間で光線どうしが押し合いをはじめる。
「互いの飛び道具でも一歩も引かぬ戦いなのです! まったく互角か!?」
「諦めないことなら、ステキ自然は負けないよ!」
 背に乗っているノーンの熱気が、ステキ自然を奮い立たせる。レーザーを放ちながらも、ステキ自然は素早くモフラへと接近していく!
「百郎にだって、負けられない理由があります!」
 遠距離からの戦いが一転、ステキ自然の周囲を百郎が飛び回る接近戦だ。アゴを振り回して迎撃しようとするステキ自然の攻撃を逃れ、百郎の触覚ムチ、モフラウィップがその外皮を叩く。
「その程度じゃ、ステキ自然を倒すことはできない! モフラストームを使ってこい!」
「……いいでしょう。なら、そちらも最大の技でかかってきてください」
 陽太と美央の間で、約束じみた挑発がかわされる。ふたりは互いに頷き合うと、距離を取った。
「おおっと、両者が距離を取って対峙する! これは……一体どういうことだ!?」
 実況の勇刃が叫ぶのに、解説の茨がマイクを奪う。
「小細工では共に相手を倒しきることはできない……互いにそう考えて、お互いの必殺技で勝負を決めようとしているのよ」
「ということは、モフラストーム対トルネード重力落とし! すごい、こんなに心震えるバトルが、いまだかつてあったでしょうか!?」
 カルミが大きく叫ぶ。実況のテンションも最高潮。だが、リング上には熱く滾るマグマのような緊張感がいっぱいに満ちている。
「……百郎、行きましょう」
 百郎の全身が光を放つ。超高速の捨て身技、モフラストームだ!
「受けろ、ステキ自然!」
 ステキ自然が大きくクワを開く。アゴで百郎の体を受け止め、そのまま投げ飛ばす、トルネード重力落としの構えだ!
 激突の瞬間……光を放つ百郎の体を、ステキ自然のアゴがしっかと掴んだ。そのまま、体当たりの勢いを利用して、空高く投げ飛ばす!
「技名の通り、カンペキに決まったトルネード重力落としは暴風に巻き込まれたように、地面にたたきつけられるまで逃れることは不可能! この勝負、ステキ自然の勝……」
「いや、アレを見ろ!」
 言いかけた香奈恵を遮り、勇刃が空中の百郎を指し示す!
 なんと、百郎は大きく羽を広げて、ジェットコースターさながらに急旋回していた。その落下地点は、リング外ではなく……再び、ステキ自然!
「そんな! カンペキに決まったトルネード重力落としを受けて、飛べるはずがないよ!」
「カンペキに決まっていれば……でしょう!」
 驚くノーンに、美央が答える。その言葉に、陽太がはっと下を見た。
「……鱗粉か!」
 そう。ステキ自然の足下にはうっすらと鱗粉が降り積もっていた。戦いながら百郎が撒いたものだ。
「トルネード重力落としのために必要な踏み込みを、鱗粉を撒くことによってわずかに弱らせていたんだわ。踏み込みが不完全なら、百郎にとって空中で姿勢を直すことは不可能じゃない!」
 解説の茨が叫ぶ。その間に、再び百郎の体が光を放った。
「……モフラストーム!」
 カッ!
 輝きと共に、圧倒的な衝撃がステキ自然の体を弾き飛ばす。ステキ自然は脚を踏ん張ってリングにとどまろうとするが……ついには衝撃に耐えきれず、リングから弾き飛ばされた。
「決着! 決着です! 優勝は、パラミタ怪虫モフラ、百郎! 並み居る強豪を押しのけて、百郎がムシバトル王に輝きました!」
 ワアアアアアッ!
 イルミンスールの森を震わせるほどの歓声と虫の鳴き声が、一斉に上がった。

決勝戦 勝者:百郎(パラミタ怪虫モフラ)
決まり手:デュアル・モフラストーム
解説員によるコメント「百郎の最大の強みは、試合の流れを作り出す素早さと勘の鋭さにあると思います。常に相手の技を読み、その一歩先を行く戦い方こそ、ムシバトル王にふさわしいものでしょう」


○授賞式○

「数々のムシちゃんたちの中で、もっとも強く、もっともすばらしい戦いをしたことを讃えて、百郎ちゃんとブリーダーの赤羽さんに、【ムシバトル王2021】の称号を与えますぅ」
 準優勝のステキ自然に続いて、百郎と美央に、エリザベートから賞状が手渡される。美しい花輪を被せられて、百郎の羽が嬉しげに動いた。
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
 観客から、そして共に戦ったライバル達から、賞賛が浴びせられる。セレンフィリティが進み出て、美央にマイクを向けた。
「この喜びを、誰に伝えたいですか?」
「天国にいる、百郎の兄弟たちに……そして、一緒に戦ってくれた会場の皆さんに」
 言葉少なだが、美央の答えは興奮に湧く会場をさらに熱くした。


 2021年の夏を締めくくるムシバトルは、こうして幕を閉じた。
 この戦いを僕たちは決して忘れないだろう。そしてまた、信じてもいる。
 来年の今頃、さらなるムシと、新たなるムシブリーダーたちが、百郎が手に入れたムシバトル王の栄光を目指し、さらに激しい戦いを繰り広げるであろうことを……!

担当マスターより

▼担当マスター

丹野佑

▼マスターコメント

 本シナリオのリアクション執筆を担当させて頂きました、丹野佑と申します。
 シナリオに参加していただき、あるいはリアクションを読んで頂き、まことにありがとうございます。

 一年に一度の大会シナリオを担当させて頂くことになり、緊張しながらの執筆でした。その結果、筆が走りすぎたと言いましょうか、止められなくなったと言いましょうか……
 なんと、終わってみると想定していた分量の1.5倍近くになっていました。

 完成が遅れてしまったのは、季節柄体調を崩してしまったせいもあるのですが、明らかに書きすぎたせいですね。
 お待たせしてしまって、申し訳ありません。

 さて、今回は前年度までのムシバトルから、大きくルールを変更しての判定をさせて頂きました。
 本年度のルールでは、ムシ同士の相性が大きく結果に影響を与えるものになっていました。そのため、予想外の展開なども生まれ、波乱の大会になったんじゃないかな、と思っています。

 今回は、大会と言うこともあり、上位の成績を獲得したムシ(イコン)と、そのパイロットに称号を贈らせて頂きました。

 最後になりましたが、重ねて、ご参加頂いた皆様、ありがとうございました。
 巨大昆虫たちの激しいバトル、楽しんで頂けたのなら幸いです。
 では、機会があれば、またマスターを務めさせて頂ければと思います。