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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~

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大廃都に残りし遺跡~魂の終始章~
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 第11章
 
 
 ヒラニィと合流して仮面の男と出くわして。それからは、誰ともはぐれる事無く欠ける事無く、ファーシー達は神殿内を進んでいた。マッピングされていくそれぞれの地図には、四角い大小の部屋と通路が確実に増えていっている。
「繰り返しますが、皆さん無理はなさらないでくださいね?」
 スヴェン・ミュラー(すう゛ぇん・みゅらー)が釘を刺すように皆に言う。本人も言っているがもう何度も聞いているだけに、皆は少々うんざりしているようだ。
「戦闘になったら混戦にならないよう。ファーシーさんも、くれぐれもお怪我をしないように。戻ってからの事をお忘れなきようお願いします」
「だーーーーっ! くどくどくどくどうっせーな。ファーシーは俺が守ってやるんだからお前ちょっと黙ってろよ! おかんか!」
「…………!」
 それを聞いて、隣のファーシーは顔を耳まで赤くした。直接言われるよりも、これはある意味効果がある。思い切り自覚可能なレベルに熱くなり、慌てて顔を俯ける。その様子に気付かないのかはたまた注意されて落ち込んでいると思ったのか、ダリルが彼女に話しかけた。
「彼がくどくどと言うのも分からんでもない。俺にも多少、出来れば工房で待ち万全の体制で施術を行ってほしいという気持ちがあるからな。勿論、傷が付くような事態にするつもりもないが」
「う、うん……、ありがとう……」
 下を向いたまま、あせあせとファーシーは先を急ぐ。ダリルに言われても何ともないのに、何でこんなに熱いんだろう。頬が冷めるまでバレないように、と髪で顔を隠すようにしていたのだが。
「ファーシーさんって、相変わらずフリッツさんにベタボレですよねぇ……」
 ラス達の傍を通りかかったところでそんな、しみじみとした声が聞こえた。「!?」と思わず止まって声の主を見ると、大地がこちらに笑顔を向けている。
「べ、ベタボレって、ち、ちがうわよ! そ、そんな……」
 聞いたことない単語なのにその意味はすぐに正しく理解出来て、冷めるどころか頬はどんどん熱くなる。その内にフリードリヒが追いついてきて隣に並んで。
「何だ〜? 何が違うんだ? ファーシー」
「え、だ、だから……」
 否定の後に続く言葉なんてどこにもない。だから何も言えなくて。飄々としている彼を見上げて口をぱくぱくさせる。そこで、大地の傍にいたティエリーティアが、心配そうな視線を向けてきた。
「ファーシーさん、だ、だいじょうぶですかー?」
「う、うん……」
「疲れたら遠慮なく言ってくださいねー? 休憩も大事ですよー?」
「そーゆーの、ガタがきたっていうんだろ?」
「ふ、フリッツーっ! そんなこと言っちゃダメですー!」
「それにしても……」
 きっちりとティエリーティアの隣を歩きながら、スヴェンは神殿に来る元々のきっかけとなったライナスについて考える。智恵の実については無いだろうと予想している彼だったが、ライナス達は実が見つからずに帰って来ないのか、それとも――
「ライナスさん達は大丈夫でしょうか。何かのトラブルに巻き込まれていなければいいのですが……」
「連絡を取ってみましょうか。僕はライナスさんと面識がありますし、無事ならばテレパシーで会話が出来るはずです」
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)はそう申し出て、早速意識を集中し始めた。

「さっきから何を話してるんだろう。ファーシーちゃん、帰ってから何かするの?」
「ああ、子供を作るんだそうだ」
 ダリルやスヴェンの話を聞いて首を傾げるロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)に、エヴァルトが説明する。
「子供? へー、そうなんだ。ファーシーちゃん、子供出来るんだー」
 ……。
 …………。
 ………………。
「えええーーーーーーっ!?」
「驚くまでに時間が掛かったな」
「え……っと、子供、ですか……」
 簡潔に突っ込みを入れるエヴァルトの傍で、ミュリエルも何やら戸惑っているようだ。少し、顔が赤くなっている。
「い、一応アリスは夢魔の一種ですので、私も、表面的というか基本的な知識はありますが……」
「! ミュ、ミュリエル、普通とは違う方法だそうだ。もっと技術的な、だな」
 その発言に、エヴァルトは少々慌てる。まさか、彼女がその類の知識を持っていたとは……。
「違う? あ、そうなんですか……」
 ミュリエルは、ほっとしたようだ。その反応に、エヴァルトもほっとした。
「それにしても、機晶姫に子供かー」
 ちょっと信じられないかも、と思いながらロートラウトは言う。
「まぁ、ボクは完全メカだし、装甲の下は基礎フレームだけだし。……うーん、ボクの場合はどうなんだろ? 決められた手順でなら、子供持てるのかな?」
「ふむ……機晶姫の受胎か……。この時代でも、そう例が多いわけではないようだが……」
 イグナイター ドラーヴェ(いぐないたー・どらーべ)はロートラウトの疑問に答えるように、雑談がてら口を開いた。
「本来であれば、人間の個体数が激減した場合に備えてのものだったはずなのだが……ああ、私の周りでの話なのだが。パラミタと地球が分断された場合、契約者は死に至るという……それで人口が激減したならば、あらかじめ保存しておいた個々人の生体情報を基に、再生計画を行おうという意見もあった……」
「ドラーヴェくんの周り? ドラーヴェくんはどこに住んでたの?」
「…………」
 その問いには沈黙で返したかったらしくドラーヴェはしばらく黙った。そしてまた、話を続ける。
「ちなみに、ロートラウト。君には、受胎の機能は備わっていない。その代わり……と言ってはなんだが、種の保存のため、様々なパラミタ人の基本的な生体情報を記録している装置を搭載している。地球の言い伝えに言う、ノアの方舟というものか……」
「ノアの方舟……? ってドラーヴェくん、それなんていうダンクーg……おっとっと、危ない危ない」
 突っ込みを入れかけて版権という大事なものに気付き中断したロートラウトは、それから少しだけ肩を落とした。
「……やっぱりダメかー、ちょっぴり残念かも。あ、でも、安静にしてなくちゃならなくて、エヴァルトと一緒にいろんなとこ行けなくなる方が嫌かも……」
「…………」
 一方で、2人の会話を口を挟まずに聞いていたエヴァルトは、ドラーヴェの話に内心で眉を顰めていた。
(……しかし、ドラーヴェは随分と機晶姫について詳しいな……まるで、ずっと携わってきたかのようだ。ロートラウトについても、本人より知っているようだし……まさか、造った本人か? だとしたら、何故あんな姿に……?)
「ライナスさんと連絡が取れました」
 そこで、優斗の声が聞こえてエヴァルトの思考は中断された。
「ちょっと待ってください、今、詳しい話を聞いてみますから……」
「詳しい話? まだ、時間掛かるのね……あっ!」
 優斗がライナスとの会話を再開した直後、宙を飛んで先行し、角を曲がったファーシーが声を上げた。宝物を発見したかのような嬉しそうな声だ。
「? ……何だ?」
 何事かと顔を見合わせて足を速める。彼女の視界を共有出来る位置まで行くと、通路の先が部屋になっていて、壁際に機械の人形が並んでいた。人形達は古今東西の武器を携えている。それが殺傷力のないものなら、本当に何の異常も変哲もない人形である。部屋に至るまでの通路、入口も広く、後から来た皆にも室内の様子がよく分かった。
「武器を取らなければ動かないのよね?」
 ファーシーは博物館の展示物を眺めるようにそれぞれの機械人形を見てまわる。好奇心一杯の表情で、でも少し名残惜しそうで。
「内部はどうなってるのかな。やっぱり、お話は出来ないのかな?」
 中をいじれば話が出来るかもと思っているのかそんな事を言った、その時。
 彼女の背後に立っていた機械人形が、突然がしゃんという音を立てる。音に疑問を持った彼女が振り返る間も無い程の速さで、人形は斧を振り上げた。

              ◇◇◇◇◇◇

 彼女の姿を見つけるまで、どれだけ掛かったか。スタート地点の違う神殿で、時間も距離もトラップも何一つ気にせずに。だから、幾つの罠に引っ掛かったのか、もうそれすらもわからない。

「ヘスティア、ヘスティア、起きるんだ!」
 ――ぼんやりとした意識の中で名前を呼ぶ声が聞こえる。
 電撃の罠にかかり倒れたヘスティアは、神殿に駆けつけたドクター・ハデス(どくたー・はです)に再起動処理されて背を支えられていた。
「あ、あれ……私……? あっ、ご主人様!」
 うっすらと目を開けると、そこにはハデスの必死な顔があって。何があったのかその姿はボロボロで、ヘスティアは慌てに慌てた。
「ど、どうしたんですか!? 何が……」
 起き上がった彼女の両肩に手を乗せ、ハデスは正面から叱り付ける。
「我が部下、人造人間ヘスティアよ、1人で勝手な行動をするな! お前が居なくては、俺の護衛は誰がするのだ!」
「……ご主人様……」
 彼の剣幕と真剣な表情に驚いて、ヘスティアは二の句が継げなくなる。そんな顔を見るのは初めてで。謝らないといけない、そう思うのに――
 その時、ふ、とハデスの手から力が抜けた。
「もう二度と、そばを離れるなよ。……あと、ご主人様ではなく、ハデス博士と呼ぶように」
 優しい口調で、最後に少しだけ普段に戻って偉そうに。
 何かわからないけど、伝わってくるものがあって。
「……は、はい。ごしゅ……ハデス博士」
 こく、と頷く。呼び方は、すぐには直らないかもしれないけど。