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リアクション
第三章
ヒラニプラに起こる、仮面による傷害事件。
「今日聞いた噂だと、この辺に出没しているらしいな。この辺に張っていれば、ロアは出るだろう」
その内のひとつをロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)が引き起こしていた。
ロアのパートナーであるレヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)は、囮としての協力者、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)を先導して歩く。
ちなみに、グラキエスのパートナーであるゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)は上空から小型飛空挺「ヘリファルテ」に乗って後を追っていた。
「まったく、あの大馬鹿者め。どうせ興味本位で付けたのだろう。あの仮面がどんなものか聞いていたはずだろうに」
「まあ、それも今夜で止められれば大丈夫じゃないか。幸い、まだ重傷者は出ていないんだろう?」
「今のところ、ロアの口に合う人間がいないお陰でな」
レヴィシュタールとグラキエスの二人はそんな会話を交わしながら、裏路地のひとつで待ち続ける。
すると、間もなくして異変が起こった。
グラキエスの装備していたダークビジョンに人影が映る。
「お、グラキエスじゃないか。ようやく、美味そうなのに廻りあえたぜ……」
路地の向こうから現れたのはロアだった。
視線はグラキエスにピタリと向けられていた。
「やはり来たか。その仮面、とっとと叩き割らせてもらうぞ。サンダーブラスト!」
単刀直入、レヴィシュタールは躊躇なく技を放つ。
しかし、瞬時に殺気を感じ取っていたロアはすばやく身を引いた。
「おっと、危ないな。服が少し焦げたぜ」
「くっ、外したか」
攻撃を避けられ、レヴィシュタールの表情がわずかに歪む。
しかし、せめて動きでもを奪おうと続けて氷術を投げた。
「っと、レヴィシュタール。さっきから危ないじゃないか。当たったらどうするんだ」
「当てようとしているのだから当然だろう。ロア、そこを動くな」
「そう言われて素直に聞くわけないだろ。ああ……それにしても腹が減ったな」
グラキエスに遭遇して以来、さらに空腹を増したロアは、再び彼に焦点を戻した。
「なあ、グラキエス。お前のこと、食わせてくれよ」
「レヴィシュタール、ロアのことを任せてくれないか?」
グラキエスはロアから視線を逸らす事はせず、レヴィシュタールに問う。
「だが、ロアのパートナーは私だ。その不始末を何とかするのもパートナーの役割ではなかろうか?」
「でも、どちらかというと俺の方がロアに近づきやすいと思うがな。ロアの狙いは俺なのだし」
レヴィシュタールはグラキエスの言にしばし黙考する。
「分かった。だが、いざとなったら手を出させてもらう」
「それでいい。でも、そう簡単に危なくならないさ」
グラキエスはレヴィシュタールの前へと出た。
「なんだ、俺に食わせてくれる気になったのか? グラキエス」
「そうだ。……とでも言う訳がないだろう!」
グラキエスはロアに向かって走る。
ロアも獲物が向かってくることで逃げることはせず、飛び込んでくるグラキエスに手を伸ばした。
「グラキエス!」
光術で辺り一帯が閃く。
ロアは眩しそうに目を覆い、それはグラキエスも同じだった。
「異変を感じて降りてきてみれば……。一人で相手をするなど無謀すぎる。まだ体が万全ではなかろう!」
術の主はゴルガイスだった。
「そんなに心配しなくても……どうせゴルガイスたちが援助してくれるって知ってるしな、っと」
グラキエスがゴルガイスに気を取られた隙に、ロアの鋭く尖った爪が襲い来る。
グラキエスは咄嗟にそれをかわした。
「そう簡単には食わせないよ」
グラキエスとロアは再び距離を取る。
今度はグラキエスが先に「歴戦の魔術」で攻撃を仕掛ける。
けれどロアがすばやく壁を駆けながら避け、気がつけばグラキエスは左腕を取られていた。
「グラキエス!」
「なっ……」
慌てたように声を張り上げるゴルガイス。
レヴィシュタールは瞬時に二人を引き離す術を使おうとしたが、逆にグラキエスに当たる可能性を考えて動けなくなる。
「ははっ、もらったな」
歓喜の声を上げてロアはグラキエスの腕に噛み付いた。
「……は、言ったそばから噛まれるとは情けないな。だが、ロア。それは俺の台詞でもあるぞ」
右手に力を込め、グラキエスは「則天去私」をロアの顔面に叩き込んだ。
途端、仮面は粉々になって崩れ落ちた。
「……な、あれ……?」
我に返るロア。
グラキエスの手に噛み付いていた顔をゆっくりと離す。
「俺、今……。というか、なんだか急に空腹が収まったような……」
不思議そうに言うロアを、背後からレヴィシュタールが叩く。
「この、馬鹿者が。ようやく正気に戻ったか。あんな仮面なんぞ被りおって……自分が何をしたのか解っておるのか?」
「あ……。グラキエス、悪い。俺が噛んだせいだな。左手、血が出てる」
「大丈夫だよ。これくらい……っと」
座り込んでいた体勢から立ち上がろうとして、グラキエスはふらつく。
それをゴルガイスが支えた。
「ああ、心配するなグラキエス。自分で立てるから手を離してくれないか」
「何が心配するなだ! 確かに囮になることは認めたが、ここまで危険に身を曝せとは言っていないぞ!」
ゴルガイスは離そうとしない。
そのまま、ヒールを使い、グラキエスの噛まれた左腕を癒した。
「お前はまだ体調が万全じゃないんだ。それなのに自分でロアを止めに行くなんぞ言って……。我がどれだけ心配したと――」
「あー……。グラキエス、本当に悪い。俺のせいで迷惑をかけた」
自分以上に説教され始めたグラキエスを見て心苦しくなったのか、ロアはより一層申し訳なさそうに謝罪する。
「いや、ロアが元通りになって良かった。一番に謝るべきだろう人もレヴィシュタールじゃないか? ロアのパートナーでもあるからな」
「な、にを言う。グラキエス」
レヴィシュタールは驚きに目を見開く。
「ああ、そっか。悪意の仮面の所為とはいえ、俺の不始末を何とかしようとしてくれてありがとな」
「……当然のことをしただけだ」
レヴィシュタールは静かにそれだけを返した。
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