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闇鍋しよーぜ!

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闇鍋しよーぜ!

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 山の中を歩く、佐野和輝(さの・かずき)アニス・パラス(あにす・ぱらす)
スノー・クライム(すのー・くらいむ)の3人。
 ざあざあっと揺れる木々の音を耳に、和輝は呟く。
「そういえば……、こうしてのんびりと歩くのは久しぶりだな」
「そうね。いつも武器を手に戦場を駆けているもの。でも気が休まっていいじゃない?」
 その呟きを傍らで聞いていたスノーが同意した。
 いつもなら手には血と硝煙を撒き散らす銃を握るか、様々な知識を保存している本を携えていた。
 けれど、今日は両の手には何も持っていない。
 ふうっと大きく息を吐く。嘘みたいに穏やかな日だと思う。
「アニス? どうかしたか?」
 前を少しだけ浮遊して先行していたアニスがじっと和輝の方を見ていた。
 手提げサイズの籠にはもう一杯になるくらい食材が入っている。
「ねえ、和輝、迷子になったら困るから手繋いで?」
 アニスが和輝の隣に降り立ち見上げながらそう言う。
「手を繋ぎたい? いや、それよりもアニスは迷子にならないから必要――」
 和輝の言葉を遮って、アニスは和輝にしがみつく。
「飛ばないで一緒に歩くから、手、繋ごうよー」
 その調子ゆさゆさと和輝を揺する。
「わかった、わかった、繋ぐから!」
 がっくんがっくんと揺すられた和輝は根負けして、アニスに手を差し出した。
 その差し出された和輝の手をアニスはおずおずと握る。
「えへへ……和輝の手、すごくあったかい」
 和輝には理由のよく分からないアニスのはにかんだ笑み。少しだけ頬が紅潮しているようにも見えた。
 そんなやり取りを横から見ていたスノーも負けていられないといった様子で、
「じゃあ、和輝、私とも繋いで見ましょうか?」
「え、スノーも?」
 驚き、和輝は聞き返した。
「あら、アニスはよくて私はダメなの? べつに……」
 スノーは最後の理由なんてなくてもいいじゃない、という言葉を口の中で転がした。
「いや、構わないよ」
 和輝はそういってスノーにも手を差し伸べた。
 両手に花、とはまさにこのことである。
 手をぎゅうっと握ったかと思えば、和輝を自分のものにしようと腕まで絡めるスノー。今日はいつもより積極的である。
 そんなスノーを見てアニスも、対抗心を出したかのように和輝と腕を絡めた。
 傍から見たらぎりぎりと歯軋りされ、爆弾でも投げつけられそうな光景だ。しかし和輝の心中は穏やかではない。
 ――自分だけ収穫無しで戻るのは、さすがに不味いよな……
 そう思ったとき、和輝の視界に入る、頭だけ覗いている物体。
 和輝の勘が告げている。アレは、大物に違いないと。
「ちょっと、向こうに行ってもいいか?」
 頭だけひょっこりと覗いている物体の方向を頭だけ向かせて和輝は言った。どちらかの腕を動かせば、また何かひと悶着がおきそうな気がしたのだ。
 アニスとスノーはお互い頷くと、和輝たちはそこへ向かう。
 見えていたのは、パラミタマツタケだった。
「やったじゃない」
「やったね、和輝!」
 2人が口々にそういう。
 しかし、
 ――マツタケに反応する、【トレジャーセンス】って、どうなんだ……
 がっくり肩を落として落ち込む和輝だった。

     †――†

「これは、香り付けに使えそうね」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、パラミタユズをセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に見せながら言った。
 パラミタ産の作物や生物は地球上に存在する作物や生物と外見が酷似している。そして、大まかなところの成分や生体は一緒だ。しかし、産出場所を明確にしようという試みの元、パラミタ原産の食材には、パラミタやシャンバラと言った接頭語がよく用いられる。
 勿論パラミタユズも例外ではなく、味や香りは地球上のユズとそう大差は無い。少しだけ香りが強く、皮が厚い程度のものだ。
「流石に去年みたいには暴れないのね。それとも、私の言うこと聞いてくれたのかしら、セレン?」
 セレアナが関心したように言った。
 去年参加した2人は、パラミタイノシシを捕まえる為に大暴れをしたのだった。主にセレンフィリティがだ。結局パラミタイノシシの肉はただの挽肉へとなってしまったが、食べれないことはなかったのでよかったらしい。
 毎年違う行動をしよう、という名目上今年は果物集めだ。
「リンゴとか、ブドウは流石に鍋には入れたくないわね……」
 味を想像してかセレンフィリティは渋い顔をした。
「ジュースにすればいいわ」
「そうね。きっと美味しいんだろうなー」
「鍋?」
 セレアナの問いに、セレンフィリティはふるふると首を振った。
「鍋は怖いわ……。ここの人たち毒キノコが入ってても平気で食べるし……」
 そう、去年参加したセレンフィリティたちは、前回の恐怖を知っている。取ってきた食材を片っ端から切り鍋に入れる。そして毒キノコを食べようが、毒草を食べようが平然としているのだった。
「確かに教導団が訓練に使うのも頷けたわね……。あら、ミカンもあるわ」
 ちょっとくらいのつまみ食いは許されるはずだとセレアナは思い、ミカンをもぎ皮をむいた。
「セレン、はい、あーん」
「へっ? んむ……おいしー!」
 言われるがままに口をあけてパラミタミカンの切れ端を口の中に放り込まれたセレンフィリティは、その味に素直な感想を漏らした。
「……あれ、何かいい匂い」
 そして、セレンフィリティは鼻を鳴らして辺りを探る。
 何か非常にいい匂いがするのだ。
「……ちょ! なんでこれがこんなところに……!」
 セレンフィリティの足元に、にょっきりと生えているパラミタマツタケに一気に挙動不審気味になった。
「セレン、どうしたの?」
 いきなり挙動不審になったセレンフィリティをセレアナは怪訝な様子で見る。
「どうしよう! マツタケ見つけちゃった……! これもって帰っちゃダメかな!?」
 嬉々としてパラミタマツタケを握り締めて、セレアナに見せ付けた。
「やばい、やばい。国軍のお給料じゃこんなの絶対買えないし持って帰りたい……。鍋に入れたら食べれないかもしれないし!」
「別にいいんじゃないかしら? 採取した食材を全部差し出せとは言われてないし」
 闇鍋に入れるのは少しもったいないなと同じように思っていた、セレアナもセレンフィリティに同意した。
「じゃあ、ばれないようにこっそり持って帰って、明日はマツタケ尽くしだね!」
 マツタケを握り締めてセレンフィリティは嬉しそうにそういったのだった。