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リアクション
―第二章―
炎上する琴音ロボは、さながらキャンプファイヤーの様に大きな火柱を上げ、装備した電飾が次々とショートしてまた眩い光を放つ。
そんな燃え上がる琴音ロボを見てテンションを上げたり、逃げようとしたりする観衆を、必死に抑えたり或いは避難誘導に従事しているのは、警備員の神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)、レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)、柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)達であった。
大半の観客は燃え上がる琴音ロボから避難をしようとしていたが、中には火を見て興奮したのか、パレードの道に近づくモヒカンの男達もいたのである。
黒のローブ、胸元に十字架のペンダントで神父姿に仮装したいるレイスが、他の警備員達に無線や携帯で連絡をとる翡翠と美鈴を庇いながら彼らを必死に抑えていた。
「危ないから近づくなって言ってるだろ!? おい、そこのモヒカン、火で溶かそうってマシュマロ持ってくるんじゃねえ! おまえが溶けるぞ!」
フードを被り、黒のミニ丈のワンピ−スの胸元に十字架というシスター姿の仮装をした美鈴が、レイスに微笑む。
「本当に、人が多くて賑やかですわね。レイス?」
「賑やかっていうレベルじゃねぇぞ!」
叫ぶレイスにやたら顔が赤い男が絡んでくる。
「兄ちゃん、綺麗な顔してるなぁ……」
「あ? おい、おまえ、酒臭いぞ?」
レイスが酔っぱらいと思われる男の対処にあたる姿を見ていた美鈴。ふと、ロープを持つ彼女を押す衝撃を感じる。
「貴方、これ以上前に出ると危険ですわよ!」
美鈴が忠告してモヒカン男を抑えるが、その代わりに胸とか腰を触られてしまう。
「あの……困りますわ」
美鈴が真っ赤になる。
「わかりました。パレードは一旦中止ですね。はい、ではよろしくお願いします……こちらは観客の皆さんを食い止めるので手一杯ですので……ん? ……あぁ、緊急事態がおきましたのでまた連絡します!」
白の手袋を着用し、軍服、軍帽と、軍人の仮装の翡翠が無線を切り、美鈴を助けに向かう。
「ヒャッハー!! 炎と女と聞いちゃ、黙ってられねぇぜ!!」
大柄なモヒカン男にセクハラ攻撃を受けつつ、警備員という立場上手が出せないでいた美鈴。
そのモヒカン男の手を翡翠が掴む。
「マスター!」
「あん? 何だてめぇは?」
「警備員ですよ。お客様? どさくさに紛れての破廉恥な行為はやめて頂けませんでしょうか?」
対応はソフトに、にっこりと笑う翡翠。
「うるぜぇぞ!! ……ぅぐ!?」
ギリギリギリ……。
翡翠が男の手首にを掴んだ腕に徐々に力を込めながら、持ち上げていく。
「……他人の迷惑になっている事に気付かないか? 怪我したくないだろう?」
先ほどと同じ笑顔なのに、どこか恐怖を覚える翡翠の微笑み。その全身からは殺気が溢れ出している。
「なっ……て、てめぇ!?」
「選んで下さい。パレードの楽しい思い出だけを持って帰るか、それとも暫しの病院通いの怪我を持って帰るか……」
翡翠の放つ殺気に、モヒカン男は唾を吐き、踵を返して去っていく。
「あの……マスター?」
「美鈴? 大丈夫ですか?」
「はい! すいません、ご迷惑をおかけして……」
翡翠がシスター姿の美鈴を見て微笑む。
「普段も勿論そうですが、今日はそういう姿ですから、きっと魅力的に見えてしまうんでしょうね?」
翡翠の言葉に、美鈴が頬を赤くする。
「そ、そうでしょうか? 私はいつもと違う姿ですので、恥ずかしいですわ」
「似あってますよ、とっても」
素直にそう言う翡翠の言葉がトドメになったのか、美鈴は真っ赤な顔で俯いてモジモジしてしまう。
「これで、目覚めただろう?飲み過ぎだ」と、絡んできた酔っぱらいに水をかけて鎮圧してきたレイスが戻ってくる。
「まったく、祭り好きだぜ、みんな……見ている暇なんてなさそうだ。忙しくて……あ?」
燃え上がる炎をバックに、翡翠と赤くなった美鈴が仲良く観客をロープで抑えている光景を見たレイス。何故か胸に奇妙な感情が沸き起こってくる。
「おい、翡翠、美鈴……と!?」
ーーーヒュンッ!!
ツカツカと歩み寄ろうとしたレイスの傍を何かが飛んでいく。
「イタッ!?」
声をあげたのは、それが頭に当たった翡翠である。
「誰だ!?」
レイスが怒気を含んだ声を出して振り返ると、長ズボンを履き、血がついた包帯で顔を覆った長身の不審な人物がパチンコを持っていた。
「……ミイラ男か」
レイスがクルリと回れ右して、パチンコに次の弾を込めようとしているミイラ男の元へ歩み寄り、
「おい?」
「はい? あ、レイ……」
ミイラ男が言うより早くレイスの拳骨が彼の頭をはたく。
「おまえ、翡翠に何してくれるんだ!?」
怒りで目が釣り上がるレイスが、倒れたミイラ男の傍にしゃがんで罵声を浴びせる。
傍から見れば、ちょっとワルな神父がミイラ男を退治している絵に見える。
「レイス!? 何しているんです? やめてくださいよ」
翡翠が慌てて走ってくる。
「いや、こいつは翡翠の頭に何か飛ばしやがった! ……え、翡翠大丈夫なのか?」
「はい。何ともありません」
「飛ばしてものって……これ、飴ですわね」
後を他の警備員に任せ、翡翠に付いてきた美鈴が手に持った飴玉を見せる。
「……」
「……」
「……」
沈黙の中、美鈴の持った飴を見つめる翡翠とレイス。
「よ……妖怪変化はぶっ飛ばすもんだって昔から決まってるんだ!」
「摩訶不思議アドベンチャーですわね……懐かしい」
二人をよそに、翡翠が倒れたまま目を回しているミイラ男に話しかける。
「えーと……大丈夫でしょうか、ミイラ男さん?」
そこに、警備員の応援にやってきた三鬼が現れる。
「あーあ……火事が起こったって無線で来てみたら、やっぱりモモの琴音ロボかよ。……て、おまえら、仲間同士で何やってるんだ?」
「仲間? 三鬼さん、仲間って?」
翡翠が三鬼に聞くより早くミイラ男が身を起こす。
「自分ですよ、翡翠さん。さっきはすいません。照準がズレたんです」
そう言って、自分の頭の包帯を取るミイラ男。
中から、かなりグロテスクなゾンビの顔が現れ、美鈴が一歩後退する。
「あーーーッ!!」
レイスが大声をあげる。
「そう言えば、警備員ミーティングの時、いたぞ! このゾンビ!!」
そこに、「佑一ー! 終わったよーー!」と二人の少女のハモる声が聞こえる。
翡翠が見やると、先程まで暴れていた観客たちが、火事の現場からやや離れた場所で倒れて寝息を立てている。
その場に立つのは、トリックスタッフを持った魔法少年のような仮装のミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)と革のトランクとほうじ茶の入った水筒を持ったロングスカートな魔女の衣装のプリムラ・モデスタ(ぷりむら・もですた)である。
「と……いうことは、貴方は……」
「はい。矢野佑一です。翡翠さん」
ゾンビのコスプレのままじゃ、危険かなと敢えて包帯を巻きミイラ男として働いていた警備員の矢野 佑一(やの・ゆういち)が、ニコリと笑う。が、やはりゾンビのままの姿なので、不気味さはある……。
佑一に謝るレイスを見て、翡翠が微笑む。
「レイスもあわてんぼうですね……そんなに怒る事ないでしょうに……」
のんびりとした翡翠の言葉に、美鈴がハァ〜と溜息をつく。
「どうしました?」
「いいえ。私はマスターのそういう所が良いと思いますので、敢えて言いませんわ」
「はい?」
翡翠の無線に連絡が入る。
「はい……えぇ、こちらは観客の避難は終わりました。え? 移動ですか? わかりました、すぐに向かいます」
無線を切った翡翠がレイスに呼びかける。
「レイス、ここはもういいそうですので、移動しますよ? 迷子の世話と怪我人の治療が待ってるそうですので」
翡翠の言葉に、レイスがやって来る。
「悪かったな……」
「いいえ、自分は別に。佑一さんにはちゃんと謝りましたか?」
「ああ。ヒールをかけたら笑って許してくれたよ……」
荒野を歩いて行く翡翠、レイス、美鈴の三人。
美鈴が翡翠の持つ小さな紙袋に目をやる。
「マスター? それは?」
「あぁ、そうでした……先程は二人共、お疲れ様でした。これは貰いものですが、二人にあげますよ」
そう言って翡翠が紙袋から、かぼちゃのプリンを二つ取り出す。
「この次の仕事もありますし、体力補給を兼ねて甘いものを、て事だそうです」
「私達にですか?有難うございます」
美鈴がプリンを受け取る。
「ほら、レイスも?」
「俺は……翡翠が食べろよ」
レイスの言葉に翡翠が苦笑する。
「自分は、ほら、甘いの苦手ですから」
「……いいのか? サンキュ」
レイスもプリンと簡易スプーンを受け取る。
「少しお行儀は悪いのですが、仕事中なので食べながら向かいましょうか? 何だかパレード終了時までゆっくりできなさそうですしね」
そう微笑んで翡翠が二人の先を歩いて行く。
お菓子を見た美鈴がレイスに、翡翠に聞こえないよう程度の声で話しかける。
「これ、手作りだと思いますわ。私達、特別かもしれませんわよ?」
「特別ねえ……そうだと嬉しいんだが、本人、鈍感だからな」
そう呟き、プリンを一口食べるレイス。
「……美鈴?」
「何、レイス?」
「これは本当に特別かもしれないぜ?」
何やら嬉しそうなレイスの顔を見て首を傾げた美鈴も、プリンを一口食べて、小さく「あ!」と声をあげる。
「(このカラメルソースの味……マスターがよく作ってくれる味ですわ)」
「な?」
レイスに言われ、美鈴が微笑んで頷く。
「マスターに、美味しかったと言わないといけませんわね? あ、でもそれじゃ私達が気付いた事がバレてしまいますわね……うーん……」
「ったく……翡翠も回りくどい事するぜ。本人はバレてないって思ってるところが尚更面倒だ。あいつは、お菓子を貰ったら悪戯は出来ない今日という日に感謝するんだな」
「フフフ……トリック・オア・トリートですか?」
小さく笑いあった二人が、翡翠の後を早足で追い始める。
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