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ミッドナイトシャンバラ5

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ミッドナイトシャンバラ5

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「とにかく、一番前の席でかぶりつきだよ!」
 広いホールの最前列の席に駆け寄って、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が叫びました。こういうイベントはあまり参加したことがないのか、すでにテンション上がりまくりです。
「そんなにはしゃいだら、シャレさんに迷惑であろう。ここは、常連らしく、どっしりと観覧するのだよ」
 ちょっと余裕を見せながら、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が貫禄たっぷりに言いました。今日はリスナーがたくさん集まるのですから、ある種有名人である常連リスナーはどっしりと構えていなければなりません。
 
「へえ、公開録音と言うからもっとこじんまりしたスタジオでするのかと思ったけど、ずいぶんと大がかりなんだ。まだ、始まるまでは、時間があるかな」
 後ろの方の席で全体を見回しながら、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が言いました。姿形は佐々木弥十郎ですけれど、実際には伊勢 敦(いせ・あつし)が憑依しています。差し入れのお菓子を、佐々木弥十郎が徹夜で作ったまではよかったのですが、うっかり眠りこけてしまったために、ここがチャンスと伊勢敦に憑依されてしまったようです。
 
「よっし、ここがど真ん中だ」
 会場の中央の席にどっしりと腰をおろして、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)が落ち着きました。
「結構人が入ってるね。どれ、どこかにかわいこちゃんはと……」
 座席に膝乗りになると、コルフィス・アースフィールド(こるふぃす・あーすふぃーるど)が美女を求めてあたりを物色し始めました。
「コルフィスお兄ちゃん、恥ずかしいよー」
 目立ちすぎて恥ずかしいと、冠 誼美(かんむり・よしみ)がコルフィス・アースフィールドを引っぱり下ろしました。
「ふふ。相変わらずね。今のうちに、楽しんでおくといいわよ」
 細々とメモをとりながら、枸橘 茨(からたち・いばら)がつぶやきました。
 
「騒いでる人たちがいるなあ。こういうときはね、前から四列目がいいんだもん。近からず遠からず、ベストポジションなんだから」
 コルフィス・アースフィールドを横目に見ながら、松本 恵(まつもと・めぐむ)が自分としてはベストの席に着きました。
 
「さあ、中に入る者は、このチラシを持っていくがいい」
 紙の束をかかえてホールに入ってきたドクター・ハデス(どくたー・はです)が、扉横に陣どってチラシを配り始めました。
「フハハハ! 秘密結社オリュンポスのメンバー募集中だ! 悪の秘密結社の経験者は優遇しよう! 今なら、無料で改造手術も行おう!」
 そう言いながら、手に持ったチラシを入ってくる人々に押しつけていきます。
「なんだか、チラシの多いイベントですねえ」
 チラシをもらった非不未予異無亡病近遠が首をかしげます。
「アー、ただいまマイクのテスト中デース。インドカレー、スープカレー、地祇カレー。はーい、そこ、会場内で、カレー以外の勧誘は行ってはいけまセーン。ただちにやめてくだサーイ」
 ステージ上でマイクのテストをしていたアーサー・レイスが、ドクター・ハデスにむかって注意しました。
「ハッハッハッ! 悪の秘密結社が、おとなしく他人の言うことを聞くはずがなかろう!」
 アーサー・レイスの注意を無視して、ドクター・ハデスが、ちょうど入ってきた雪国ベアにチラシを押しつけました。素早く、雪国ベアが悠久ノカナタにチラシを押しつけます。すぐさま、チラシは緋桜ケイに回され、最後にソア・ウェンボリスの所で行き場をなくしました。
「な、なんで、私の所にぃ……」
 あわてて誰かを探すソア・ウェンボリスでしたが、すでに三人は適当な席に座ろうとしていました。
「あの客、注意を聞きまセーン」
「やっちゃっていいですか?」
 アーサー・レイスの言葉に、舞台袖にいた日堂真宵がシャレード・ムーンに確認を取ります。さりげなく、わずかにシャレード・ムーンがうなずいたように見えました。
「土方さん、お願いいたします」
「うむ」
 日堂真宵に言われて、土方歳三が重力に逆らったように身体を捻ったポーズをとり、その指先でドクター・ハデスを指しました。
「うお、なんだなんだ!?」
 突然、ドクター・ハデスの身体がふわりと持ちあがりました。フラワシ、天国への扉のなせる技です。そのまま、ホールの外へと運ばれていきます。
「ちょっと兄さん、どこへ飛んでっちゃうんですか!?」
 高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が、また変な発明をしてと、あわててドクター・ハデスの後を追いかけていきました。
「じきに始めますが、みんな、あまりフリーダムなことをしないでくださいね。私の母校で、もうホール貸してもらえなくなっちゃいますから。特に、爆発系のスキルとか、雷撃系のスキルは、見えないお仕置きの手がのびますから注意してくださいねー。後、携帯の電源も切っておいてください。では、そろそろ始めましょうか」
 マイクを手にとって、シャレード・ムーンが諸注意をします。
「へえ、あんなふうにリスナーをいじるんだね。うんうん、美人はこのくらいしても当然」
 オペラグラスでシャレード・ムーンを見つめながら佐々木弥十郎(伊勢敦)が言いました。
 
「いいわよ、オープニングテーマ流して」
 シャレード・ムーンが、カフを下げたまま、小声でアーサー・レイスに指示しました。
 
『誼美、行きます!』
 
 いきなり、冠誼美の元気のいい声がホール中に響き渡りました。予想外のことに、ちょっと会場がどよめきます。
「ちょっと、なんで私の送ったジングルが流れるんだもん!?」
 ふいをつかれた冠誼美が、顔を赤らめて下をむきました。
 
「あはははは、やっちゃいましたね。よくあるんですよ。でも、今回は録音なんでやり直せます。よかったね、バイトのアーサーくん。こういうジングルやCMは、PAの人がタイミングを見計らってボタンを押すと流れるんですよ」
 すかさず、シャレード・ムーンがフォローしました。公開録音ではよくあることです。
「では、気をとりなおして。ミッドナイトシャンバラ公開録音、始めましょう」
 シャレード・ムーンが仕切り直すと、小さな拍手が起こりました。少しだけ待ってから、日堂真宵が「お静かに」看板を持って走り回ります。
 今度は、ちゃんとした音楽が流れ始めました。