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【2021ハロウィン】スウィートハロウィン

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【2021ハロウィン】スウィートハロウィン
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リアクション

 橘カオル(たちばな・かおる)李梅琳(り・めいりん)とのんびり歩いていた。仮装はしていないが、カジュアルな中にさりげなくお洒落をしている。
 様々な店の並ぶ通りをウィンドウショッピングする。さりげなくつながれた手から、お互いに伝え合う温もり。
「お、ハロウィンパフェだって。食べるか?」
 ふいに目に入った看板に、カオルは彼女の顔を見た。
「そうね、休憩ついでに良いんじゃないかしら」
 と、梅琳が言ったのを確認して、カオルは喫茶店へ足を向ける。
 ハロウィンに乗じてデートを楽しむカップルは多い。その内の一組であるカオルと梅琳は、窓際のカウンター席へ座った。道行く人たちがよく見える。
 注文したハロウィンパフェは想像よりも大きかった。オレンジ色のクリームにカボチャを模した飴細工が乗っていて可愛らしい。一つだけ注文して正解だった。
「ちょっともったいないわね」
 と、スプーンを手にした梅琳が呟く。カオルも銀色のスプーンを握った。
「期間限定のメニューだしな。ほら、食べようぜ」
 と、先にクリームをすくうカオル。口へ運ぶと、ほんのりカボチャの味がした。
 それを見て梅琳もスプーンを動かし始める。
 頂点に立ったカボチャが傾き、二段目が顔をのぞかせる。
「和風パフェって感じだな」
「ええ、そうね。嫌いじゃないわ」
 どうやら梅琳のお気に召した様子だ。
 ふとカオルは彼女の顔を見てはっとした。頬にちょこっとクリームが付いている。
「メイリン、こっち向いて」
 と、カオルに言われて顔をあげる梅琳。するとカオルの顔が近づいてきて、ぺろりと頬を舐められそうになる。慌てて身を引いた梅琳は、すぐにハンカチでクリームを拭った。
「何だ、残念」
 と、カオルは真っ赤になっている梅琳を見つめた。
「だ、誰かが見てるかもしれないでしょ……」
 そう言って窓外を気にする。確かにここでは目撃される可能性も高いだろう。それが知り合いでもそうでなくても、見られるのは嫌だった。
「じゃあ、これは?」
 と、カオルがパフェをすくったスプーンを向けてくる。
「……」
 梅琳は自分も同じようにパフェをすくうと、カオルへ差し出した。
「あーん」
 ぱくりと口に入れるカオル。梅琳は食べてくれなかったが、食べさせてもらえた。
「うん、美味い」
 にっこり笑う彼を見て、梅琳も少しだけ口元を緩めた。

   *  *  *  *  *

「やっぱりヴァイシャリーって、いいところだよね」
 ジャック・オ・ランタンに扮した小鳥遊美羽(たかなし・みわ)が明るい声でそう言った。同意を求めるように、少し後ろを歩いていた可愛らしい魔女姿の高原瀬蓮(たかはら・せれん)と凛々しい吸血鬼を装ったアイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)へ振り返る。
「街は綺麗だし、歩いてる人たちも楽しそう」
「うん、ハロウィンじゃなくてもいいところだよね」
 と、返す瀬蓮。
 シャンバラとエリュシオン間で行われていた戦争が終わり、久しぶりにヴァイシャリーの街を三人で歩いていた。
「瀬蓮ちゃん、この道、覚えてる?」
「え? 何かあったっけ?」
 首をかしげてアイリスに助けを求める瀬蓮。アイリスは美羽の言わんとしていることに気づいてか、視線を逸らした。
「子ギツネだよ。ほら、百合園でも一匹だけ飼ってるあの子の」
「ああ! そういえばそんなこともあったね」
 と、ひらめいた瀬蓮がにこっと笑う。
「近づくと風がぶわーって吹いて、大変だったよね」
「うん、でも楽しかったなぁ。アイリスもそう思うでしょ?」
「あ、ああ……そうだね」
 頷きながらもアイリスの頭には、あの時に見た瀬蓮のパンツが思い出されて消えなかった。そのつもりはなかったのに目の前で見てしまい、今もきっちり記憶に残っている。忌々しいが、戦争のことを思うといい思い出でもあった。
 ふと気づくと、前方では美羽と瀬蓮が並んで思い出話に花を咲かせていた。微笑ましく彼女たちを眺めるアイリス。
 また、いつかのように気楽な一日を過ごしたい。そしてまた、くだらないことで笑えれば、それだけでいい。
「あ、りんご飴だ!」
「本当だー!」
 屋台の前で立ち止まった美羽が瀬蓮に何か耳打ちをする。瀬蓮は頷くと、アイリスを見上げた。
「アイリス、りんご飴食べたいな」
「え?」
「お菓子買ってくれなかったら、悪戯しちゃうぞ!」
 と、美羽がアイリスの背後へ周り、前からは瀬蓮がくすぐり攻撃をかけてくる。
「ちょ、二人ともっ……や、やめ……っ」
 耐え切れず笑い声を上げるアイリス。久しぶりに見る笑顔だ。
「わ、分かった、分かったから」
 と、降参したアイリスは呼吸を整えると、すぐにりんご飴を二つ買ってよこした。
「わーい!」
「やったね、美羽ちゃん」
 にこにこと満足げに飴へかぶりつく少女たち。
 再び歩き始めると、同じようにハロウィンを楽しんでいた白雪魔姫(しらゆき・まき)たちに遭遇した。
「魔姫ちゃん!」
「あら、瀬蓮じゃない。あなたたちも来てたのね」
 と、オレンジカラーのドレスを着た魔姫が振り返る。
 彼女たちの前で立ち止まった美羽たちに、フローラ・ホワイトスノー(ふろーら・ほわいとすのー)が決まり文句を言った。
「トリックオアトリート!」
 はっとした瀬蓮はアイリスを振り返ろうとして考え直した。
「りんご飴でよければどうぞ。でも、一口だけね?」
「じゃあ、遠慮なくいただくわね」
 と、差し出されたりんご飴を一口かじるフローラ。ゴスロリ服に悪魔の翼と角を生やした彼女は、満足したようににこっと笑った。
「まったく、フローラ様ってば……」
 オレンジと黒のメイド服を着たエリスフィア・ホワイトスノウ(えりすふぃあ・ほわいとすのう)は呆れたように息をつくと、美羽と瀬蓮へお菓子を渡した。
「どうぞ、カボチャのマフィンです」
「わ、ありがとう」
「美味しそうだね」
 素直に喜ぶ彼女たち。エリスフィアはアイリスにも同じものを差し出した。
「アイリス様もどうぞ、もらってください」
「ああ、ありがとう」
 にこっと笑みを返すアイリス。
 魔姫は視線を逸らして彼女たちの声を聞いていた。みんなが楽しそうにしてくれて嬉しいが、そんなこと口に出せるわけもない。しかし、彼女が心から安堵していることは周囲にばればれだった。
 すると、大通りの方から楽しげな音楽が聞こえてきた。
「あ、パレードが始まったみたいです」
「行こう、瀬蓮ちゃん!」
「うん!」
 たたたっと走り出す二人に、魔姫は思わず声をかけてしまった。
「走るのはよしなさい、他の人の迷惑になるでしょ!」
 エリスフィアとフローラが顔を見合わせる。
 はっとした魔姫が顔を赤くするのを見て、アイリスも声をかけた。
「二人とも、はぐれないようにね!」
「はーい、分かってまーす!」
「っていうか、みんなも早く行こうよー!」
 と、道の先で少女たちが手を振る。
 仕方ないといった素振りで歩き出す魔姫。その後に続きながら、華やかなパレードの方へ向かう。
 ハロウィンを思わせるちょっとホラーなリズム、楽しげにお化けたちが踊るメロディ。心躍る行進を、瀬蓮たちは目に焼き付けておこうと思った。

   *  *  *  *  *

 ゴシックロリィタ風の魔女の仮装をした桐生円(きりゅう・まどか)は、隣に座ったパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)へもたれかかった。
「疲れたー」
 白猫に扮したパッフェルは円の方へ顔を向ける。目が合うと、円は彼女へ抱きついた。
 賑わう町の中心から外れた公園には、二人以外に誰もいない。
「ねぇ、眼帯外していい?」
「……うん」
 パッフェルから離れた円が、そっとパッフェルの右目を隠していた眼帯へと手を伸ばす。眼帯が外されると、ルビーのように赤く輝く魔眼が現れた。
「大好き」
 と、右頬にやさしくキスをする円。
「やっぱり、魔眼を人に見られるの、まだ怖い?」
「……でも、円に見られるなら……怖くない」
 と、少し視線を逸らすパッフェル。円はにこっと笑みを浮かべた。
「無理はしないでね? 眼帯がないほうが楽なんじゃないかって、そう思っただけだから」
「……」
「楽な方でいて。ボクもその方が嬉しいよ」
 と、再びパッフェルへ抱きつく円。パッフェルは手にした眼帯をじっと見下ろしていた。今は、円と二人きりだ。外されたものを再びつける必要を感じなかった。
「戦争終わって、気が抜けちゃったねー」
 呟く円に再び視線を戻す。
「ねぇ、パッフェルはやりたいお仕事とかあるの?」
「お仕事……?」
「パッフェルのやりたいこと、探してもいいんじゃないかなーって。たとえば、白百合団に入ったりさ」
 パッフェルは納得した様子を見せると、考えた。やりたいこと、自分がやりたいと思えること。
「うん。考えて、みる……」
「じゃあ、見つかったらボクに教えてね。手伝うよ、パッフェルのやりたいこと」
「うん」
 円の笑みにつられるように微笑んで、パッフェルは頷いた。
 すっかり深まった秋の風に、さわさわと木々が揺れる。美しく色づいた紅葉の先にハロウィンの喧騒が聞こえた。
「ねぇ、パッフェル」
 円は少しドキドキしながら口を開いた。
「恋人になってほしいって件、考えてくれた?」
「うん……大好きな円、なら、私は……良い。私のこと……もっと、好きになってほしい……から」
「……っ、ありがとう!」
 勢いよく抱きついてきた円に少々驚きながらも、パッフェルは彼女を抱きしめ返した。
「そういえばボク、お菓子作ってきたんだ。食べてー」
 と、今日一番の笑顔でお菓子を取り出す円。そんな円を見ているだけで、パッフェルは心地良い気分だった。