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学食作ろっ

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 ■■ 誕生・緑ヶ丘キャンパス新学食 ■■
 
 
 
 そして11月中旬。
 緑ヶ丘キャンパスに新しい学食が誕生した。
 厨房のある側を除いた三方はガラス張りで、明るい日差しが差し込んでくる。ガラス越しに見える木々は、今は少しくすんだ緑だけれど、その中にちらほらと紅や黄に色づいている葉が見られた。
 白とオレンジを基調とした食堂内は、ドアが入り口専用と出口専用に分かれている。床に描かれた模様に沿うように進んで行けば、自然とメニュー、食券販売機、料理の受け渡し口……のように、メニューを選んでから食器を片づけて学食を出るまで、スムーズな流れで進んでいける。
 今日は試食を兼ねたお披露目会ということもあり、うどんやラーメン、セットもの等はカウンターで提供されるが、料理の多くはビュッフェ形式で食堂中央に並べられていた。料理にはすべて、料理名、提案した生徒の名、使用食材と料理のポイントが記されている。
 試食に参加する生徒たちは、食堂に入る時に渡されるアンケート用紙に新学食を利用した感想、気に入った料理やその他に食べてみたい料理等を記入し、出口のところに設置してある回収箱に入れることになっていた。それを元に、今後の緑ヶ丘キャンパスの学食メニューや運営案を、より良きものとしてゆく為だ。
 オタケはメニュー開発に携わった生徒たちの手も借りて追加の料理を作り続けながら、お披露目会にやってきた生徒に声をかける。
「いらっしゃい。たくさん食べていっとくれよ」
 学食が新しくなっても、オタケの気さくな呼びかけと笑顔は変わらない。
「すみません。先に料理の写真を撮らせてもらえますか?」
 柚木 貴瀬(ゆのき・たかせ)は皆が手をつける前にと、お披露目会に並ぶ料理の写真を撮った。
 料理、施設、お披露目会に来た人々の様子をカメラに収めて、宣伝の助けとしよう……というのは名目で、実のところ、試食をかなり楽しみにしているのだが。
「おいしそうに撮っておくれよ」
 オタケは貴瀬に笑顔を向けた後、厨房内に視線を戻し、調理の補助をしている冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)に申し訳なさそうに言った。
「すまないね、手伝ってもらって」
「いいえ、私がしてるのはただの下ごしらえですから」
 エプロン姿に三角巾をかぶった小夜子は、野菜を洗って皮を剥いたり、肉類をそれぞれの大きさに切り揃えたりという下拵えを手伝っている。
 味付けや仕上げは、オタケを初めとする厨房のメンバーと、手伝いに来ているメニューを開発した生徒たちに任せ、小夜子は縁の下の力持ちとなる調理補助に徹していた。
 お披露目会には多くの生徒がやってくるから、材料の準備も大量だ。けれど手を抜くことは出来ない。
 料理は見た目も大きな要素だし、材料の大きさがばらばらになれば火の通りも均等ではなくなってしまう。それぞれの材料を料理にあわせてカットする、地味だけれど大切な作業だ。
「手つきがいいねぇ。お嬢様学校に通ってると聞いたからどうなることかと思ったけど、これなら安心だ」
 冗談めかして言うオタケに、小夜子は微笑む。
「料理は一通り出来るのですよ」
「あたしゃ、お嬢さんは手が荒れるから台所仕事なんてしないと思ってたよ」
「そんなことありません。百合園でも料理が好きな人はたくさんいますから」
 答えているところに、桐生円がばたばたとやってくる。
「天ぷら用の野菜が足りないよー」
「こちらに切ったものがありますよ」
「助かるー。じゃあこれもらってくね」
 小夜子が出した皿を抱え、円が戻ってゆく。
「そろそろジンギスカン用の野菜も切れかかる頃かねぇ。頼んでいいかい?」
「はい、この量の野菜がみんな誰かのお腹に入ってしまうのかと思うと不思議ですね」
 小夜子はジンギスカンに必要な野菜と切り方を確認すると、するするとニンジンの皮を剥いていった。
 
 
「緑ヶ丘キャンパスの学食のお披露目会、今日らしいぜ」
 岡部 彰人(おかべ・あきと)に言われ、多々良 恭司(たたら・きょうじ)は聞き返した。
「お披露目会って、何をどうお披露目するんだ?」
 状況の判っていない恭司に、彰人は緑ヶ丘キャンパスの新しく建て直された学食で、試食会を兼ねたお披露目会が開かれているのだと教えた。
「ってことだから、行ってみないか?」
「お披露目会かぁ……、どうしようかな」
「きっとうまいものが食えるぜ。学食のお披露目なんだから、大人数で食べるのがいいんだと思うんだよな。少なくとも、感想とか意見とかがたくさんあると、料理の方もいいものが作れるはずだ」
「うまいもんを食べて意見を言うだけでいいのか? だったら俺にも難なく出来そうだ」
 恭司の心も動く。
「そ、だから行こうぜ。と、その前に、っと」
 すぐに学食には行かず、彰人は目に付いたニーア・ストライク(にーあ・すとらいく)に寄っていった。
「知ってるか、今日緑ヶ丘キャンパスで学食のお披露目会をやってるらしい。無料で試食出来るらしいぜ」
「無料で試食? それいいな」
 普段はパートナーの、光条兵器よりも攻撃力が高いと言われている料理を食べているニーアに、好き嫌いは無い。たちまち乗り気になる。
「ちょっと俺、My箸取ってくる。教えてくれてありがとな!」
 何でも箸で食べるのが流儀のニーアは後で絶対に行くからと、箸を取りに行った。
 その後も彰人は目についた人に片っ端から声をかけ、お披露目会に誘いながら学食へと向かった。
 
 
 お披露目会は試食会を兼ねているから、アンケートを提出しなければならない代わりに、何をどれだけ食べても無料だ。
「と言われても、ただで食わせてもらうのもアレだよな」
 それでは気が引けるからと、高柳 陣(たかやなぎ・じん)は試食会の手伝いをすることを申し出た。
「配膳かなにか、やることはあるだろう? 手伝わせてもらうぜ」
「費用は学園から出てるから、遠慮することないんだよ」
 オタケはそう言ったけれど、それでは落ち着かないからと陣は重ねて頼む。
「だったら手伝ってくれるかい? 人手はあればあるほど助かるよ。今のところ厨房は回ってるから、ビュッフェテーブルを見てきてくれるかい? 空いた皿は下げて、取り皿を補充して……あとは少なくなっている料理があったら教えておくれ」
「ようするにウエイターか。分かった」
「僕もお兄ちゃんと一緒に、配膳のお手伝いするよ。ウエイトレスさん、なのかな」
 こういうのしたことないからドキドキする、とティエン・シア(てぃえん・しあ)は少し照れた様子で言い、陣の後をついてゆく。
「はいはい、そこちょっとどいてくれよ。皿を下げるからな」
 人でごった返しているテーブルを掻き分けて、陣は空いた皿を持つ。取り皿は使った人が自動食器洗浄機に入れていってくれるが、料理の皿はそうはいかない。料理が冷めにくいように厚い皿は案外重みがあるし、大きいために持ちにくい。これをティエンに持たせるのは可哀想かと、陣は周囲をざっと見渡す。
「箸とフォークが少なくなっているようだから、ティエンはそれを取ってきてくれるか? それが終わったら、入り口辺りで戸惑ってる客の案内をしてやってくれ」
「すごい……めんどくさがりのお兄ちゃんが、率先して働いてる……!」
「ただで食わせてもらうんだ、それなりの礼を返すのが筋ってもんだろ」
「うん、そうだよね。だったら僕、オタケさんにお料理のこと聞いてくる。ちゃんと説明できるようにしたら、食べに来る人にお料理のことちゃんと分かってもらえるでしょう?」
「そっちはよろしく。俺も手伝いしながら試食させてもらうから、料理のことしっかり聞いてきてくれよ」
「お兄ちゃん、つまみぐいしたら駄目なんだよ。ん? ハイランもお手伝いしてくれるの? 一緒にがんばろうね」
 DSペンギンに話しかけると、ティエンはウエイトレス用に借りたエプロンをひらひらさせて、まずはカトラリーを補充しにいった。
 
 
 火村 加夜(ひむら・かや)はビュッフェテーブルに並んでいる料理を、少しずつ取り皿に載せていく。ここにある他にもカウンターで麺類等を出しているというから、たくさん取ってしまっては全種類を食べられなくなってしまう。
「そんなにたくさん取って大丈夫ですか?」
 隣でごは〜んと楽しそうに料理を皿に盛っているノア・サフィルス(のあ・さふぃるす)のことも心配になり、加夜は尋ねた。
「加夜ってば心配しすぎ、全部食べれるよ〜!」
 そう答えながらノアは、ダイナミックなハンバーガーをでんっと皿に取る。
「ミントも食べ過ぎないように気を付けるんですよ」
「分かってる。うーん、オムライスはないんだね。ソースとかで絵が描いてあると嬉しいのに」
 ミント・ノアール(みんと・のあーる)は料理を一渡り眺めて残念そうに言う。
「ではそれは意見として出してみましょう。もしかしたら採用されるかもしれませんよ」
 ノアとミントが料理を載せ終わるのを待って、加夜は席についた。
「ごはんを食べる時には、『いただきます』と『ご馳走様でした』はきちんと言うんですよ」
 3人揃っていただきますをしてから、料理を食べる。
「ピラフに焼き鳥を入れてもいいんですね。これは初めて食べました」
 加夜は1つずつ味わって、感想を丁寧にアンケート用紙に記入してゆく。
「ボクはお肉はジューシーなのがいいな。味付けは濃い方がすきっ」
 ノアはちょっと薄いかなと、料理に醤油をかけている。健康を考えてか、今日出されている料理はどちらかと言えば味付けが控えめなものが多い。
「凄くお腹が空いてるときは濃い味の料理が食べたくなりますし、旬の素材だと少し薄味で素材本来の甘味とか香りとか堪能したいですし。両方の味が選べるようなメニューの構成だと嬉しいですよね。あと、カロリーは気になるので、メニューに表示をお願いしたいです」
 料理の感想だけでなく、学食メニュー全体のことも加夜はきちんと記してゆく。
「あと、子供向けのメニューもあったらいいですね。このクリームシチューのように、子供が野菜を食べやすい工夫がしてあるとか、さっきミントが言っていたようにオムライスの上にケチャップで絵が描いてあるとか。ああそれから、パートナーと来ることもあるので、量が選べると助かります」
 さらさらと書いてゆく加夜の手元をみて、ミントが凄いと呟く。年下のパートナーの面倒を見ている加夜だからこその意見だ。
「ふふっ。それよりミント、食べ過ぎないように気を付けてますか?」
「え? き、気をつけてるよ」
 加夜に指摘され、ミントはデザートの山を隠そうとお皿を腕で慌てて囲った。ノアの前ではお兄さんぷっているミントだけれど、甘いものの誘惑には弱い。
 どうやってもデザートが隠せないのを知って、ミントは加夜を見上げる。
「今日だけは……いい?」
「……今日だけですよ?」
 ミントが甘いものに弱いように、加夜もミントの子犬のような目には弱いのだった。
 
「このスープ、甘くて美味しいね。ノアお兄ちゃんも飲んでみて」
 さつまいものポタージュをノアに薦められて飲んだミントも頷く。
「甘くて美味しいな。僕もあとで取ってくるよ」
「加夜も食べて〜」
「さつまいもの甘味が美味しいですね。ノアとミントが好きそうな味です」
 味見した加夜が言うと、ノアはにっこりと笑顔になった。
「同じもの食べて、一緒に美味しいって言えるのはいいね〜」
 それぞれ好きなものを食べるのもいいけれど、同じ味を共有して美味しいと言い合えるのはもっと素敵なこと。
「もっと貰ってくるね」
 追加を取りに行こうとするノアに、サラダもですよと釘を刺しておいてから、加夜も新しい料理を取りに立ち上がった。