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リアクション
第1章
「みんなを守るのよ!」
叫ぶなり、雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は酒場を飛び出していく。
「……行かせてよかったのかい?」
酒場の片隅でカードに興じていた八神 誠一(やがみ・せいいち)が顔を上げて、周囲を見回す。
「そうは言っても、彼女が好きでやることでしょ? あたしたちには止める権利も理由もないよ」
酒場のウェイターであるジェニファー・リードが肩をすくめて答えた。
「おい、相手が見てねえからって何してんだよ!」
カードの立会人を決め込んでいたシャロン・クレイン(しゃろん・くれいん)が、誠一の向かいに座っていた男に向かって突然銃を抜いた。
タンッ!
銃声が酒場に響く。シャロンの弾丸は、一発で脚を撃ち抜いた。
酒場の中に一瞬、剣呑な雰囲気が広がる。が、すぐに皆、銃に伸ばしかけた手を引っ込めた。シャロンが撃ち抜いたのは、脚は脚でも男のそれではなく、彼が座っていた椅子の脚だからだ。
「なんだ、てめっ……ぐあっ!?」
言いかけた男の腕を、シャロンが素早くつかみ、ひねり上げる。その袖からばらばらとカードが落ちた。
「イカサマですか。勇気があるねぇ」
腰の刀に手を添えて、誠一が囁くように言う。男の顔に恐怖が浮かんだ。
「待った、待った。そうことを荒立てなくてもいいだろう」
武器を振るいかねない雰囲気を見かねた林田 樹(はやしだ・いつき)が、そう声をかける。
「あんまり危険な振る舞いばかりしやがりますと、調査隊からも外れてもらうことになりますよ」
スカートの裾を直しながら、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)。
「そこまで言うことはないだろ。こっちにはこっちのやり方があるんだ」
緒方 章(おがた・あきら)がジーナの口を塞ぐように手をかざしている。ジーナは不満げだが、それ以上に不満げなシャロンが舌打ちと共に銃を戻す。
「こっちの流儀にしたがって、話を聞こうと思ったんだけどなあ」
手元のスリーカードを山に戻しながら呟く誠一。
「こういうのは、直接聞いてしまったほうが楽なもんだぜ」
そう言ったのは、蔵部 食人(くらべ・はみと)。ただならぬ気配が目元からあふれ出ている。
「ほう。確か生き倒れていた阿呆だな」
「……忘れてくれ」
樹が真顔で言うのに、思わず食人は目を逸らした。
「……確か、この町ではもうすぐ、市長主催のガンマンの大会があるのだったな」
一方、樹は食人の方に目を向け、思い出そうとするように呟く。
「あ、あまりこっちを向くな。……いや、セーフ。男はどっちでもいい」
「……何言ってるの?」
「気にするな。いいから、話を進めてくれ」
食人の様子に首をかしげる誠一だが、あまり突っ込んでもいいことはなさそうなので、咳払いの後に話を再開する。
「大会には、サンダラーというコンビのガンマンが出場するらしいじゃないか」
「そいつに対抗するために、“有情の”ジャンゴって野郎が無法者と……ついでに契約者まで手駒にしようとしてるんだろ?」
と、シャロン。
「……君は、前の大会に参加してたのか?」
酒場の隅から、緋山 政敏(ひやま・まさとし)がジェニファーに声をかける。彼の席にミルクを運んでいたリーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)も、彼女に顔を向けた。
「そうだよ、ジェニーもガンマンなんでしょ? それなら、この町の大会に出てないの?」
そう聞かれて、ジェニファーはいくらか答えにくそうに腕を組んだ。
「……参加してないよ」
「参加してない?」
思わず、聞き返す政敏。
「そう。あたしは前回も、前々回も大会には参加してない。今回の大会に参加するためにこの町に来たんだ」
「なんだ、地元じゃなかったのか」
腕を組んでいる章は、どこかがっかりしたように見える。
「それじゃあ、その銃の腕はどこで身につけたのかな?」
と、話に入ってきたのは七瀬 歩(ななせ・あゆむ)。ジェニファーは質問攻めに、むっとした様子で眉をしかめた。
「あたしがあなたたちにそれを話さなきゃいけない理由がある?」
「ま、まあまあ、落ち着いて」
リーンがぱたぱたと手を振って、場の空気を和ませようとしている。
「私たちは、ほら、ここについて調べなきゃいけないわけだからさ。ちょっと、いろいろ調べるのに使命感感じちゃってて。プライベートなことまで聞くつもりはなかったし……」
「ジェニファーさん。あんた、サンダラーについて何か知ってるんじゃないのか?」
リーンの言葉を遮って、食人が問いかける。
「……っ」
唇を噛むジェニファー。その反応に間髪入れず、食人は首を振った。
「こっちを向くんじゃない。もし俺の方を向いたらここに血の雨が降るぜ?」
「……どういう意味?」
「説明したくはないね」
ぴりりとした空気が、再び酒場に広がる。
「……何か知ってるのだな?」
樹が問う。ジェニファーは答えない。
「やつらはいったい、どこから来たんだ? どれくらい強い?」
「もしかしたら、バックがいるんじゃないか? 話を聞くに、単なる腕っこきガンマンって雰囲気じゃないだろ?」
質問を続ける食人に、誠一が乗って問いを続ける。
「……知ってたとして、あんたたちに話す気なんか!」
ドンッ! ジェニファーがテーブルを叩いて、男達をにらみつける。
「あっ」
瞬間、食人が声を漏らした。彼の目に密かに装着されたコンタクトレンズ……邪鬼眼レフにかけられた魔力により、ジェニファーの着ている布が透かされたのだ!
それはもう、テーブルを叩いた衝撃で大きく跳ねるものもくっきりと。食人はつられて首を上下に弾ませてから、
「だから言ったのに!」
ぶしゅっ! その鼻から盛大に血を噴き上げてひっくり返った。
「……えぇ?」
「なんだかセクハラの雰囲気が漂ってやがります! 必殺の止血です!」
ぽかんとするジェニファーをよそに、大いなる矛盾を言葉にしながら、ジーナが魔力を解き放つ。がきん! と食人の鼻が凍り付き、止血するとともに脳天まで凍てつかせた。
「……反応に困る輩だな」
樹は想わず、ぼそりとこぼしていた。やっれやれと首を振って章が、ひとまず安全な場所に運んでおく。
「……話を続けて良いか?」
政敏が周囲を見回した。まあ、反論するものはいなかった。
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