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リアクション
第三章 戦慄の決勝ラウンド 1
そして。
「天下一料理武闘会、いよいよ決勝ラウンド開始です!!
ファンファーレとともに、勝ち残った四チームを映し出す。
一チーム目は、小谷友美チーム。
途中でミナギという犠牲者を出したものの、むしろミナギがダウンしたおかげで慎重な戦術がとりやすくなり、強豪の合間をすり抜けての決勝進出である。
二チーム目は、セイル・ウィルテンバーグチーム。
さっきから負けたシーンばかりが映っていたような気もするが、いずれも「ややマズ」程度の料理で、結局リタイヤには至っていなかったのがミソである。
ちなみに決勝進出チームの中では唯一の撃破数ゼロ。よって彼女の料理の味と破壊力は未だ謎に包まれたままである。
三チーム目は、鳴神 裁チーム。
暴走した恭也のせいもあるのだが、撃墜数では決勝進出チーム中最多である……あのチョコケーキの乱を除けばの話だが。
そして最後の四チーム目は、マリアベル・ティオラ・ベアトリーセチーム。
単なるマズさとは完全に一線を画すその破壊力で、一気に優勝候補まで上り詰めた伏兵である。
「ここから先は料理のみでの勝負! はたして優勝の栄冠はどのチームの頭上に輝くのでしょうか!」
「ど、どうしよう……なんだか緊張してきたわ」
少し前までは自信満々だった友美も、実際に決勝の審査が近づいてくると、さすがにそうとう緊張するようである。
「大丈夫だよ、トモミン先生ならきっと大丈夫!」
美羽たちの励ましを受けて、友美は自分を安心させるように一度大きく頷いた。
「まずは一品目、小谷友美選手の『握りスシのタルト』です!」
アナウンスとともに、審査員たちの前に料理が並べられていく。
「……うわぁ」
げんなりとした様子なのは、謎の魔法少女「ろざりぃぬ」こと九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)。
実は隣にいる母、九条 スカーレット(くじょう・すかーれっと)に招待状が届いていたのだが、うっかりただの武闘会と早合点してついてきたのが運の尽き。
真相を知った後では後戻りもできず、かといって選手参加なんてもってのほかということで、とっさに審査員参加にしてくれるようにスカーレットに頼み込み……結果として、非常に不本意ながら、ここにこうして座っているのであった。
「そのまんま、タルトの上に握り寿司乗ってるし……」
とはいえ、ここまで来てしまった以上は食べないわけにはいかない。
意を決して、ろざりぃぬはタルトを口に入れた。
さっくりとしたタルトの食感に続いて、瑞々しいフルーツと濃厚な寿司ネタ、そしてシャリの酢飯の酸っぱさが口の中に広がり……わさびの辛さがツーンと鼻に抜ける。
握り寿司を乗せるなら乗せるでいっそ握り寿司だけをタルトの上に敷き詰めればいいものを、なまじフルーツが乗ってるのがかえってタチが悪い。
「これ……明らかにフルーツが余計よね」
ぼそりとそう呟いたのは、自称「辛口審査員」のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)。
「握り寿司をメインにしたいなら、それで押し通した方がよかったんじゃないかな。フルーツとちょっと喧嘩しちゃってる感じ」
「だが、寿司ネタはかなり厳選して使ってるようだな。生で食べるものだし、鮮度がいいのはポイント高いぜ」
好意的な意見を出すのは、「喰えるものなら何でも喰らう」カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)。
「そうですよね。その辺りに友美さんのこだわりというか、愛を感じます……」
友美の恋人でもあるささらがそれに乗っかり、にこやかに笑った……つもりだったのだろうが、どうにも顔色は冴えないし、笑みも弱々しい。
「何にしても、新しい感覚ですよね。私はこれはこれで美味しいと思います」
これを「美味しい」と言い切ってしまうのは、「食欲の化身」玲。
こうしてわりと好意的な意見が続く……かと思ったが、そこに立ちふさがったのは「最終兵器」ルカルカ・ルー(るかるか・るー)であった。
「一生懸命考えて、一生懸命作ったことは認めたいと思うの。でも……普通の人が『おいしい』って思う方向とは、ちょっと違っちゃってる気がするな。その自覚はある?」
「それは……言われてみれば……」
友美の返事に、ルカルカは一度頷いた。
「それなら大丈夫だよ。もっと周りの人の意見や感想に耳を傾けて。大丈夫、上達したいっていう意思があれば。必ず何とかなるから。ルカルカも昔は料理がヘタだったしね」
そんな会話を、ろざりぃぬは聞くともなしに聞いていた。
彼女にとって目下の課題は、目の前のタルトなのだから。
「し、試食だし……これくらいでいいよね?」
そっと食べるのをやめようとするが、隣のスカーレットがそれを許さない。
「あらダーリン、残すなんてお行儀が悪いわよ?」
「いや……お願いだから、外でダーリンはやめて……」
いろんな意味でぐったりしつつも、ろざりぃぬは再びタルトを食べ始めた。
その時、満を持して川添シェフが口を開く。
「他の皆さんも言っていたことだけど、この寿司ネタといい、お米といい、フルーツといい、素材選びはすごくうまいと思うし、タルトの絶妙な焼き上がりを考えても、調理技術も高い水準にあると思います」
掛け値なしのプロである彼の口からすら好意的な意見が出たことに、ろざりぃぬは驚きを隠せなかった。
「あとは料理の内容だね。基本のレシピをアレンジしていくのは楽しいし大事なことだけど、まずはほんの少しづつ変えていくのがいいと思う。そうすれば、きっと周りの人を驚かせられるくらいおいしい料理が作れるようになると思いますよ」
それにしても、とろざりぃぬは思う。
ここには審査員が自分含めて八人もいるのに、今の料理でダメージを受けたのが自分とささらくらいしかいないというのは一体どういうことだろうか?
「はい。次の料理の前に、お口直しのお茶をどうぞ」
イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)に渡されたお茶を飲みながら、ろざりぃぬはそんなことを考えた。