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リアクション
第二章 地獄のクッキングファイト 4
機関銃。
大型のそれは、本来地面に設置して使用すべき物である。
……が、それを人並み外れた筋力で、しかも三つも同時に振り回す強者がいる。
制帽をかぶり、「軍人モード」に切り替わった悠である。
三丁の機関銃を自在に操って弾幕を形成する様はまさに一人弾幕ごっこ。
安地どこだよ、と言いたくなるところだが、それらしき場所は見当たらない。
どう考えても危険人物であり、避けた方がいい相手なのだが、世の中にはそういう相手にわざわざ突っ込む人もいるから恐ろしいのである。
「ターゲット捕捉! セレアナ、仕掛けるわよ!」
「わかってるわよ!」
軽快なステップで悠に近づくセレンフィリティ。
機関銃の弾幕をかいくぐることは容易ではないが、いかな機関銃とはいえ銃口の向いている方向以外に銃弾を発射することはできない。
そう考えれば、ある程度の間合いと機動力さえあれば、回避し続けること自体は不可能ではないのである。
そうして間合いを維持したまま、わずかな弾幕の切れ目を狙って機晶爆弾を投げつけ、あるいは擲弾銃を撃ち込む。
もちろんそれらも弾幕に阻まれて直撃こそしないが、うまく悠の近くで爆発させれば、さすがの彼女とて無傷とはいかない。
「……やるな……!」
セレンフィリティを容易ならざる敵と認識してか、徐々に弾幕の範囲を狭め、彼女を追い込みにかかる悠。
その視界が、突如まばゆい光によって遮られた。
「!?」
不意の攻撃に対応できず、それでもとっさに火力を前方に集中させる悠。
しかし、今回のセレンフィリティはあくまで囮。
「スキだらけよっ!!」
渾身の力と、そしてセレンフィリティの謎料理を見せられたおかげでたまったストレスのすべてを込めたセレアナのシーリングランスの一撃をまともに受けて、悠は吹っ飛ばされ……ダウンしたついでに制帽がぽとりと落ちて、「元の」悠に戻ってしまったのだった。
「さあ、あたしの勝ちね!」
ご機嫌な様子でぐっと拳を握ると、さっそくキッチンへ戻って支度をするセレンフィリティ。
少し遅れて、セレアナと、彼女に確保された悠がたどり着いた時には……お皿にたっぷりと盛りつけられた「シチュー」が待っていた。
シチューのはずなのになぜか黒っぽいおかしな色をしたスープから覗くのは、皮ごと丸ごと放り込まれたニンニクと、これまた丸ごと放り込まれたサザエ、そしてその他得体の知れない具材の数々。
「さ、遠慮しないで食べてちょうだい!」
「な、なんなんですか、これ……!?」
助けを求めるような視線を向ける悠に、セレアナはため息をひとつついて首を横に振る。
「大丈夫大丈夫、見た目よりもおいしい(はずだ)から!」
ニコニコ笑顔のセレンフィリティが迫り、そして……。
ざんねん! ゆうの りょうりぶとうかいは ここで おわってしまった!
「体が軽い、こんな切羽詰った気持ちで戦うなんて初めて……もうどうにでもなれ」
戦闘開始早々、いきなり死亡フラグを立てまくっている樹。
「大丈夫だよ……僕も、戦闘は苦手だけど、頑張るから」
ミシェルがそう言ってくれるが、むしろそのミシェルがこの切羽詰まった気持ちの最大の元凶だなんてことはもちろん決して言えやしない。
そして切羽詰まっているのは、相手方も同じであった。
「冗談じゃないわよ……あんなの食べるなんて、それこそ死んでもごめんだわ」
引きつった笑みを浮かべるのはイリス・クェイン(いりす・くぇいん)。
彼女のパートナーであるクラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)が出場するというのでよくわからないままついてきてはみたのだが、まさかこんなとんでもない「料理』を食べさせられることになるかもしれないとは夢にも思わなかったのである。
「絶対に負けるわけにはいかない……全力で行くわよ!」
戦闘開始早々、いきなりイリスは全力でファイアストームを放つ。
「な、なんて火力だ!」
もちろんこの攻撃が避けられるはずもなく、魔法の対処が苦手なこともあって少なからぬダメージを受けてしまう二人であったが、そのことに今度はミシェルがキレる。
「樹に傷を……絶対に赦さない!」
怒りの力が上乗せされた、全力を超えたアシッドミスと。
「でかしたミシェルっ!」
アシッドミストに何の効果を期待しているのか、樹がカッと目を見開くが、残念ながら魔鎧はその程度で容易に溶けたりしない。
「……と、ともあれチャンス!!」
ちょっとばかり邪な期待は裏切られたが、せめてこの好機を生かそうと全力で飛び込み、剣を振るう樹。
一太刀目は杖で弾かれたが、すかさず返す刃で再度斬りつける。
「くっ……ま、まだよ!」
鎧を切り裂くにはもちろん至らないが、それでも強烈な衝撃はあったはず。
しかしイリスは立ち上がった。彼女にも負けられない理由があり……そして、すでに勝ちは見えていた。
イリスの切り札は、【その身を蝕む妄執】。
ここまでのやりとりで、樹とミシェルの「付け込む隙」……すなわち、見せるべき幻覚の内容はすでに見えていた。
「うわあああああああっ! 樹、樹いぃっ!!」
「ま、待てミシェル、は、話せば、話せばわかる……っ!!」
お互いに関する悪夢に半狂乱になり、やがてぐったりとなった二人の様子を心底楽しそうに見つめるいじめっ子のイリスであった。
何にしても、バトルが決着したらいよいよお食事タイムである。
「こういうのは、やっぱりわざと辛いものとか臭いものとかを入れるのは邪道だよね!」
すみませんクラウンさん、わりとやっちゃってる人ばっかりです。
ともあれ、そのクラウンが用意してきたのは、可愛らしい茶碗蒸し……のような何かであった。
「さ、食べて食べて〜!」
クラウンに促されるまま、樹たちはうつろな目で「それ」を一口口に運び。
「……う゛ぇ」
クラウンの用意したこの料理、実は決して茶碗蒸しなどではない。
本体は甘くておいしいプリンであり、その上にトッピングされたのは三つ葉に似せたミント。
そして、隠し味として入っているのは……生うになのだ。
プリンの甘さと生うにの塩辛さのミスマッチ、そして見た目と全然違う尖った味、という二重のインパクトが強烈な一品である。
「いかに見た目がおいしそうなのにすごいまずいものを作れるのかが腕の見せ所……でしょ?」
彼女なりのこだわりに満ちたその料理は、しかし、やはり「わざとマズく作った料理」の限界を超えるものではなく、「狙ってないのになぜかこうなる」といったいわゆる「天然地獄シェフ」の粋には遠く及ばないが、それでもすでに精神ダメージでダウン寸前だった樹たちにトドメを刺すには十分であった。
「あはっ、喜んでもらえたかな?」
今度こそ本当に倒れた二人に、クラウンは楽しそうに微笑みかけたのであった。
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