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第二章 地獄のクッキングファイト 2

「見つけたぞ、健闘とその他一名!」
「なっ!?」
 いきなり呼び止められ……というより怒鳴りつけられたのは、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)である。
 当然彼らは怒りを感じながら声の主の方を振り向いたのだが、その声の主――兵聞の外見が輪をかけてあんまりだったため、文句を言う前に思わず固まってしまった。
「強者を気取って他者を嬲り、敗北の恥を晒すと見るやおめおめと地球へ逃げ帰る貴様らの腐った性根、我輩の究極御奉仕術で叩き直してくれる!」
 その一瞬の隙に、言いたいことを言い切ってびしぃっと二人を指差す2mオーバーの筋骨隆々なメイド服の男、兵聞。
「……貴様に俺の何がわかる!」
 とっさにそう言い返した勇刃だが、基本的にこういった相手の話を聞かない手合いにいちいち反論してもムダである。
「わからん! むしろわかりたくもないわっ!!」
 とりあえず自分が言いたいことだけ最初に言って、以後の相手の話は一切聞かない。これでは議論になるはずがない。
「何にしても、俺とセレアを悪く言ったことは許せないな。さっきの言葉、取り消す気がないなら……」
「なら何だ? 何であれ取り消す気など毛頭ないわ!」
 この兵聞のどこまでも不遜な態度に、ついに勇刃の堪忍袋の緒が切れた。
「だったらぶちのめすまでだ! 行くぞ、セレア!」
「はいっ!」
 一瞬のアイコンタクトの後、正反対の側へと回り込む勇刃とセレア。
「ぬう!」
 こうされると、兵聞は必ずどちらかに背を向けざるを得ない。
 そうなれば、むろん兵聞が追うのは勇刃の側である。
「我輩渾身の冥土院流御奉仕、受けるが良い!!」
 はたきを手に迫り来るメイド服姿のアフロの巨漢。料理以前に悪夢である。

 ……が。
 勇刃の目前に迫った瞬間、兵聞の背にセレアが放った爆炎波が直撃した。
「ぬおっ!?」
 その衝撃でバランスを崩したところに、勇刃がカメハメハのハンドキャノンを押しつけ……。
「俺に喧嘩を売るなんて、まだ百千億年早いぜ!」
 その言葉とともに放たれた二発目の爆炎波で、兵聞はアフロの頭をさらにちりちりにしつつその場に崩れ落ち……たが、結界の効果でふらふらと立ち上がった。
「俺の勝ちだな?」
「うむ。潔く我輩の負けを認めよう」
「だったら」
 さっきの言葉を取り消せ、と続けようとした勇刃だったが、負けを認めようと何だろうとやっぱり兵聞は兵聞であった。
「だから潔く貴様の料理を食そう!」
 その言葉に、勇刃とセレアは顔を見合わせ……。
「そういや、そういう大会だったな」
「そうでしたわね。とりあえず連れて行きましょう」
 ということで、すっかり毒気を抜かれた様子で、兵聞を伴ってキッチンへと戻ったのだった。

「咲夜、瑠奈姉。料理の方は?」
 勇刃の呼びかけに、天鐘 咲夜(あまがね・さきや)文栄 瑠奈(ふみえ・るな)はにこりと笑って頷いた。
「はい、ちゃんとレシピ通りに作っておきましたよ」
「ええ、ちょうど完成したところよ。食べてくれるのはその人?」
「うむ」
 負けた割に妙に態度がでかい兵聞にきょとんとしつつも、とりあえず中華鍋からできたての麻婆豆腐をよそう。
「ほう、麻婆豆腐か」
「ああ。名付けて『激辛☆ウルトラ麻婆豆腐』だ」
 一応招待状を受け取ったのは勇刃なのだが、今回のメニューは出場に際して四人みんなで考えたものである。
 さらに、実際の料理は 勇刃よりも(普通の意味で)料理のうまい二人が担当したため、「ただ一点を除いては」普通にできのいい、本格的な麻婆豆腐なのであった。
「では、いただくとしよう」
 兵聞は相変わらず鷹揚な様子で一口食べ……「ふむ」とだけ言って、何事もなかったかのように二口目、三口目と食べ進めていった。
 けれども、いかに口は閉じられても、言葉は飲み込めても、明らかに顔の色が赤くなってきているのと、全身から汗が噴き出しているのだけはごまかしようがない。
 ……そう、この麻婆豆腐、名前の通りに異様に辛いのである。
 しかもただ単純に辛いのではなく、豆板醤やラー油などの唐辛子に由来するシンプルな辛みと、最後に隠し味……というにはだいぶ多めに加えた花椒によるしびれるような辛みが同居する複雑な辛みである。
「よほどの辛党じゃないと、これに耐えられるはずないんだが……」
 様子を見るに、全く応えていないはずはないのだが、それでも兵聞は食べるスピードを落とさずに完食し。
 そして、笑った。

「…………!?」
 驚く勇刃に、兵聞はこう語った。
『うまい飯はもちろん、マズい飯とて人を害する為の物に非ず。
 彼岸を超え、作り手の愛にこたえる慈の心、これぞ川添スマイルの極意なり!』
「……はあ?」
 ……いや、本人はそう言っているつもりだったのだが、麻婆豆腐の辛みと、花椒で舌がしびれていたせいとでろくにろれつが回らず、聞いている側には何を言ってるのかさっぱりわからなかったのであった。

 ただ一人、モニタ越しにこの様子を見ていた川添シェフ本人を除いては。

(そうかもしれない……例えどんなにマズい料理でも、最初からマズく作ろうと思ってマズく作る人はいないはずだ。常識で考えて)

 ……いや、この場にはそういう手合いも少なからずいるし、そもそもこんな番組を企画したお前が言うな、ではあるのだが。